さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

コショウノキ

2013-02-08 09:47:50 | 花草木


そろそろ春めいて来たといっても未だ底冷えのする林の中で、純白の清楚そのものといった花が咲いていた。ジンチョウゲの仲間のコショウノキだ。園芸のジンチョウゲにも白花種があるが、それと区別が付かないくらいによく似ている。ただ花数は少なめで、あのすばらしい香りもだいぶ弱い。そして咲く時期がひと月以上早い。何でわざわざと思うくらい、まだまだ真冬の寒さの続く山中で咲き出すのだった。



花びらは4枚あるように見えるが、これは萼で筒状になっていてその先が4裂しているのだった。肉厚で丈夫でかなり長く咲き続ける。裂片が大きめのものと小さめのもの、また外側と内側と交互になっているのは構造的な偶然なのか、それとも少しでも目立たせるための工夫だろうか。ともかくそれらに囲まれた花粉のオレンジ色がとても鮮やかだ。



よく見ると雄しべは長いものと短いものがそれぞれ4個ずつある。緑色の針のようなものは雌しべだろう。図鑑には雌雄別株と記述されているがどう見てもこれは両性花だ。



蕾が並んでいる様子がなにやら面白い。根元の緑色がしだいに薄くなっていく様子もきれいだ。なおこの表面がつるつるなのがジンチョウゲ、細毛が密生しているのがコショウノキというのが識別のポイントだそうで、確かに毛が生えているようだが肉眼ではほとんど判らない。



ここは常緑樹が丈高く茂った林床で、薄暗いため下生えなどあまりない。そんなところでせいぜい1mほどの高さで枝をたくさん出している。それぞれの枝先にすべすべした革質の葉がまとまって付き、その真ん中にいくつもの花を咲かせる。なかなかきれいではあるが、一株だけぽつんと生えていることが多くあまり気付かれない。関東以西の暖地に沖縄まで分布しているそうだが見たことのないという人が多い。



昨年初夏、ここで赤い実を見つけた。こちらの方が花よりずっと目立つ。これでジンチョウゲでないことが明確になった。ジンチョウゲは日本に持ち込まれたのはほとんど雄株ばかりだそうでまず実をつけない。またこれが両性花で自家受粉することも確かだろう。近くには他の株は無いし、それなのにほとんどの花が結実しているのだから。

この木がコショウノキという全く縁もゆかりもない名前をいただくことになったのは、この実がコショウのように辛く刺激性があるからだそうだ。ところが本当に辛いかどうか議論が分かれている。実際に試して辛くなかったと言う人と、いやとんでもなく辛かったと言う人の両方がいるのだ。これはいったいどうしたことだろう。実は私も試すのが好きなのだが、毒であったりとんでもない味であったりするので、たいてい舌先でちょっと味見するくらいで済ませてしまう。この実はそれだとなんとも感じないが、しっかり口に入れるとしだいに辛味が出てきてしびれるほどだそうだ。では試してみようかと思ったが、どうも酷い目に合いそうで、それに図鑑にはっきり有毒と書かれてあるので止めることにした。

またこの実はずいぶん長い間きれいな色を保っているが、同じように見えても熟し度はずいぶん違うはずだ。十分熟したら味も酷くはなくなるのかもしれない。もともと果実は動物に食べられ種子を運んでもらうためのものだ。未熟のものが不味いのは種子が十分成熟するまで食べられないようにするためだという。鳥は丸呑みしてしまうため味には鈍感だそうだが、そんな鳥にも判らせるため徹底的に酷い味にしているのかもしれない。