さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

オオバショウマ

2012-10-21 10:43:06 | 花草木


山の林の下陰に白いブラシのような花が咲いていた。薄暗いところでひょろっと立っているから、ちらっと見えた時にはどこかこの世ならぬ妖しさのようなものを感じてしまった。



しかしその足元を見て驚く。美女の大足というとちょっとおかしいが、このあたりでは一番大きな葉が広がっている。弱々しい外見に似合わずしっかり大地に生きているのだった。この花を見た時、最初は東京近辺で馴染みだったイヌショウマだと思ったが、この葉でオオバショウマであることが判った。そもそもイヌショウマは関東から近畿にかけての狭い範囲にしかなく、一方オオバショウマは本州から九州にかけて広く分布しているとのことだ。



両者はとてもよく似ている。葉以外の違いとしては蕾の色が、イヌショウマはピンクだがオオバショウマは緑と記されてあった。しかしこの蕾は白地にとてもきれいな薄紅色が差している。どうも最初は緑がかってくすんでいるのだが、だんだん垢抜けてくるようだ。



この薄紅色のものは萼だった。オオバショウマはキンポウゲ科で、この仲間には萼がきれいで花弁の代わりをしているものが多い。しかしこの花ではせっかくのきれいな萼が、花が咲き始めるとすぐに落ちてしまう。その内側には半透明の花弁もあるがこれもじきに落ちてしまう。しかしたくさんの雄しべがぴんと伸びて、またそんな花が密集しているから花びらなどなくても十分に目立つ。真ん中に雄しべより短く太い棒のようなものが見えるがそれが雌しべだった。



花は下から上に咲き上がっていく。しかし一つ一つの花の寿命は短いようだ。近い仲間のサラシナショウマは花穂全体が咲くからあたかもふさふさの長い尻尾を思わせるが、それに比べるとだいぶ貧弱で毛の抜けてきたブラシのようだ。毛、つまり雄しべが抜け落ちた後は雌しべだけが残って、それらが小さな虫か何かのように並んでいる。



やがて雌しべの根元は膨らんで果実になっていく。最初のうちはかわいらしいペンギンが並んでいるかのようだが、だんだん太目のアザラシの群れのように見えてくる。オオバショウマは指宿周辺の山地の一部で目にするが、残念ながらそんなにあちこちというわけではない。種子はたくさんできるが広く散布する手段は持たないようで、一度生育地が破壊されるとなかなか戻って来れないということではないだろうか。