さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ヒゴスミレ

2012-03-20 09:35:19 | 花草木
寒くぐずついた日々の後、急に日差しが戻って暖かくなると、もうじっとしてなどいられない。どこかで何か素晴らしいものがあるような気がしてうずうずしてくる。といっても昔のように、人生を揺るがすほどのことなどもはや期待したりはできない。ただ何事もなく過ぎていく毎日の中に小さな感動を求めたい。



近くの山に行ったら、あたりはすでに春の息吹に満ちていた。とりわけ心を奪われたのはヒゴスミレの花だった。



ほどよい丸みと厚みの真っ白な花弁。そこに赤紫の細い線が入る。こんな野にあることが場違いに思えるほどの何とも言えぬ気品につくづく見入ってしまう。あちこちでよく見る紫色の野生的なスミレと、作りは同じなのに全く違う印象を受ける。そしてふと素晴らしい香りに気付く。甘いとかなまめかしいとか言うのでなく、これまた上品で清らかな香りなのだ。



裏側を見ると驚くほどの赤紫だった。これが真っ白な表側に滲み出るから、あの淡いけれども深みのある色合いになるのだろう。



本来のヒゴスミレはほとんど真っ白なのだそうだ。しかしいろいろ変異があって、九州産は赤みの入るものが多いという。この山では特にそれが強いようだ。



日当たりのよいところでは群生している。まだ花数は少ないが、やがてそれぞれの株が大きくなりたくさんの花を付けることだろう。これくらいでもあたりに芳香が漂っている。もっともっと咲いたらどんなことになるかと思う。



まだ出始めの葉もあった。これでもスミレかと思うほど切れ込んでいて、ニンジンかコスモスとかの葉のようだ。よく見ると付け根から5つに裂けている。これがヒゴスミレの特徴だそうだ。これが3つだと近縁のエイザンスミレになる。どちらも本州から九州にかけて分布するが、エイザンスミレは霧島あたりまでで、ここ薩摩半島南端には届いていないそうだ。そしてヒゴスミレもこの山が分布の南限とのことだ。それほど希少な種類ではないのだが、園芸目的に採取され今では自生地は少ないそうだ。東京近辺ではほとんど見かけなかった。幸いなことにここではあまり人の入らない荒れた山道にいくらでもある。



帰り際に名残惜しく何度も見返す。しかしここまで我が家から車で半時間もかからない。山の上に立てばゆったりと起伏する丘陵の向こうに、静寂に包まれた池田湖、大空に突き立つ開聞岳そして遥かに広がる太平洋などが一望できる。毎週のように通って来なければもったいないほどだ。いや我が家の周辺にはこんな良いところがあちこちとても回りきれないほどある。東京から荒々しく特異な自然の屋久島へ、そして穏やかで何でも揃っているような指宿へ。私の放浪は良い方向へと向かっているような気がする。