さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ヒメツルソバ

2012-01-21 10:40:05 | 花草木


南国といえども指宿は屋久島よりだいぶ寒い。それは北方なのだから当然ではあるが、しかしそんなに気温に差が出るほど離れてはいない。それより屋久島の家は島の南南東で中央の巨大な山塊に守られていたのに対し、こちらの薩摩半島の山々は低く丘陵状で、北西の季節風がさえぎられることなく届いてしまうためであるようだ。屋久島では冬といえども庭にはそれなりに花は咲いていたのだが、残念ながらここではほとんど見当たらない。そんな中でヒメツルソバだけは季節などどこ吹く風と言わぬげに一面に花を咲かせている。



薄いピンクの1cmかそこらのコンペイトウのような花の塊。開いてもせいぜい1mmほどの小さな花がぎっしり寄せ集まっている。ぐっと目を寄せれば微細な細工が見えてくる。雌しべは3つに分かれ先は極小のガラス玉のようになっている。雄しべは6本以上数えられる。ほとんど見えないくらいの葯からしっかり花粉を出している。



色が白っぽい塊もある。というより半数くらいはこんな色で、ピンクの絨毯に濃淡の不規則模様を作り出している。さてこれはただ色の薄い花なのだろうか。



試しに手にとってみて驚いた。軽く触っただけなのに塊は壊れてばらばらの米粒みたいになってしまったのだ。米粒から白い花びらが取れると中から黒い種が一つ出てくる。つまりこれはもう花ではなく、とっくに咲き終わって果実になっていたのだった。

タデ科の花は萼と花弁が分化する以前の古い段階にあるのだそうだ。つまり花弁はなく、ピンクの花びらのように見えるものは萼ということだ。通常、花びらは弱々しくすぐ枯れ落ちるが萼はずっと残っている。だから萼を見ていたのでは花の終わりは判らない。しかもこの花では咲き終わった後、萼がさらに肥大成長し果実を包み込んでしまう。それが白い色をしているので種子が出来てもまだ花が咲いているように見えるのだった。ヒメツルソバがいつも花の絨毯のようになっているのはこういう訳だったのだ。



寒い地方では冬は葉が枯れるということだが、このあたりではなかなかきれいに紅葉する。冬でも新芽を伸ばしているが、新しい葉はえんじ色で小さくかわいらしく、夏の頃の雑草然とした感じとだいぶ違う。これなら落葉樹の下のグランドカバーに最適かなと思う。

ヒマラヤ原産で明治の中ごろ園芸用に導入されたのだそうだ。それが野生化したのだが、近年になって急に増えてきたような気がする。寒さにも強いが、もともとは季節に無関係な熱帯系の花なのかもしれない。昔東京で初めてヒメツルソバを見た時にはずいぶん可憐な花だと好ましく思えた。しかし屋久島に行ったらどこにでもあり年中花盛りで食傷気味だった。特に名前の印象が悪かった。ツルソバというのはクズにも負けないくらいのどうしようもない雑草なのだ。指宿に来たら家の庭にたくさんあって手入れに邪魔だったので片付けてしまった。しかし始末し切れなかったものがいつの間にか枝を伸ばして今こうしてきれいに咲いている。冬の数少ない彩として大事にした方がいいなと思い直したところだ。