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そよかぜノート

読書と詩の記録

弟の戦争

2007年09月17日 | book 児童書 絵本
ロバート・ウェストール  訳/原田勝
徳間書店 1200円
1995年初版 1991年作品

 『弟の戦争』 (Gulf)  2007.9.17

イギリスの普通の家族。ぼくは弟が生まれたとき本当に喜んだ。弟アンディをぼくはフィギスと呼んだ。フィギスは心の優しい子で、飼っていた動物や飢えた難民の子供の写真を見ると、取り憑かれたようにずっと眺めていた。
フィギス12歳、湾岸戦争が始まった夏。突然夜中に起きあがり、外国の言葉を発したり、怯えた表情で奇怪な行動をとるようになった。弟はラティーフと名乗り、まるで別の世界の人物のようにふるまった。心配した両親は、フィギスを精神病院に入院させた。医師のラシード先生は、フィギスが話す言葉がアラビア語であると知り、知り合いの医師に通訳を頼んだ。すると、それはまさに今行われている湾岸戦争のイラク、クエートの様子であった。戦場と化したその場にラティーフはいた。フィギスの心と一体化していた。

 テレビでみた湾岸戦争のニュースは、まるでゲームの世界のように、カッコよくある意味楽しんで見た。現実の戦争というものが、まるで映画の一場面のように遠いスクリーンの映像のように見えた。そして、「正しい側」「正しくない側」とはっきり線引きされた。きっと意図的に、そう見せられたのだろう。私もだれもが、すぐに暗示にかかった。でも、フィギスはちがった。戦争は、どちらの側もひどい悲しみが生まれることを自分の体をもって知らせてくれた。「正しくないとされた側」の人間には悲しみがあるなどと思わなかった。それは見えなくなっていた。アメリカの多国籍軍もイラクの兵士も人々も、だれもが怖い思いをしていた。家族に悲しい思いをさせていた。ただの殺し合いだということが忘れられていた。だれもが愛する家族や愛する人々がいる。フィギスに、相手の立場を思うことを教えられた。殺してもいい人間なんていないんだ、ということも。


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