

安部公房

新潮社文庫 476円

1981年初版 1962年作品
『砂の女』 2007.9.2
男は休暇を利用して昆虫採集に出かけた。砂地に住むハンミョウ属の新種を求めて、砂丘のような砂地を歩いていた。ある村人に会い、帰りのバスはもうないので泊まるところを紹介するという。案内されたところは砂地の穴の中にある一軒家だった。縄ばしごで下におり、その家にやっかいになった。ところが、縄ばしごはあげられ、その家に閉じこめられてしまった。家にいた女は、村を守るために毎夜砂を掻き出す作業に明け暮れた。男は、なんとかそこから抜け出そうとさまざまな方法を考える。村人は、男が逃げ出さないように、穴の上から監視し、逃亡の妨害をする。

悪夢の世界だ。夢の中で思うように体が動かず、歯がゆい思いをしているみたいだ。男に同情する。この村や女は、古いしきたりに縛られ、世間から離れた生活をしているのだろう。ここから出れば、女もきっとすばらしい経験ができるはず。ラジオを買うことが夢だなんて、外に出ればもっと興味をひくものがたくさんある。ラジオが手に入ったら、そんな外の世界にあこがれてしまうかも。いやいや、この村は、この女は、自分の意思でここにおり、たとえ新しい世界を知っても、ここから抜け出そうとはしない。自分から戻ってくるだろう。砂の中の生活の魔力かもしれない。男も、自分が作った装置が気になって戻ってしまった。あり地獄のような砂の底は、体も心も引き寄せて離さない。もし自分だったら・・・毎日同じ風景、毎日同じ事を繰り返すことに、気が狂ってしまうだろう。女とじっくり話し込んで、自分の気持ちを理解させ、自分の側につける努力をする。絶対にこのままじゃあいやだ。しかし、今の生活を変えたいと思いながら結局返られない自分がそこにいるのかもしれない。