真実を求めて Go Go

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四元数から八元数へ、そして「超弦理論」

2014年02月11日 | 宇宙

 1835年、30歳の数学者・物理学者ハミルトンが複素数を2つの実数のペアとして扱う方法を発見した。当時の数学者は複素数をアルガンが広めたようにa+biという形で書くのが一般的だったが、ハミルトンはa+biを、例えば(a,b)というように、2個の実数を何か特別な書き方で並べて表してもよいことに気づいた。

 この表記を使うと、複素数の加減算はとても簡単になる。ペアになった実数のそれぞれを足したり引いたりするだけでよい。ハミルトンはまた、アルガンによって発見された幾何学的な意味を保ちつつ複素数の乗除算を行う、少し込み入ったルールも考案した。

 幾何学的意味を備えた代数系を複素数について考案した後、ハミルトンは3次元で同様の幾何学的役割を演じるような3つ組の代数系を構築すべく、何年も費やして試みた。しかし、いくら努力しても挫折するばかりであった。当時の彼には知る由もなかったが、彼が自らに課したこの課題は数学的には不可能なことであった。

 ハミルトンが探し求めたのは、加減乗除の演算が可能な3次元の数体系である。特に、除算が最も難関であった。除算が可能な数体系は「多元体」と呼ばれる(「可除環」ともいう)。実は多元体の次元は、1(つまり実数)か2(複素数),4,そして8 に限られる。何十年も未確定だったこの驚くべき事実が3人の数学者によって証明されたのは1958年のことである。ハミルトンは探索の方針を変える必要があったわけである。

 彼自身、1843年10月16日にひとつの解決策を見いだした。3次元空間の場合、回転と拡大、圧縮を3つの数だけでは記述できない。4つ目の数が必要で、したがって4次元の数となる。「四元数」と呼ばれるもので、a十bi十cj+dkの形を取る。ここでi、j、kはそれぞれに異なる-1の平方根である。

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図:4次元を見る--回転の問題
 通常、掛け算は好きな順序で行って構わない。例えば2x3は3x2と同じである。しかし四元数や八元数など高次元の数体系では、順序が非常に重要になる。3次元内の回転を記述する四元数の場合を考えよう。1冊の本のような物体を手にとって回転すると、その回転操作の順序が最終的な向きに大きく影響する。図の上段のように本を垂直に回して表裏を反転してから水平に回転すると、本の小口(ページを開く側)が現れる。しかし下段のように、先に水平に回してから垂直に反転すると、小口とは反対の背表紙が現れる。


 3次元空間内の変化を記述するのに4次元空間の点が必要になるというのは奇妙に思えるかもしれないが、確かな事実である。4つの数のうち3つは、回転を表すのに必要なもので、4番目の数字は拡大・圧縮を示すのに使われる。

 ハミルトンはその後の人生を四元数に取りつかれたようにして送り、その実用的な使い道を数多く発見した。そうした応用の多くは、現在では四元数の代わりに「ベクトル」という、よりシンプルな形式が使われている。これはai+bj+ckという特別な形の四元数(つまり最初の実数項がゼロ)に相当するベクトルである。
だが四元数がまだ使われている分野もある。コンピューター上で3次元の回転を表現するのに便利であり、宇宙船の姿勢制御システムからビデオゲームのグラフィックエンジン(画面描画システム)まで、いろいろなところに登場する。

このように応用例は確かにあるのだが、-1の平方根としてすでにiを定義ずみなのに、jとkはいったい何なのかと疑問に思えるだろう。これらは本当に実在する数なのだろうか。-1の新たな平方根をいくつでも好きなだけ作り出して構わないのだろうか? こうした疑問を提起したのが、ハミルトン友人でグレイブズという人だった。そもそもハミルトンは、グレイブズがアマチュアの数学愛好家として代数学に抱いた興味に触発されて、複素数や3つ組数について考えるようになったのだった。グレイブズはハミルトンに、新たな8次元の数体系について述べている。彼が「オクターブ」と呼んだこの数体系が、現在でいう「八元数」である。しかし、ハミルトンの関心を得ることはできなかった。

 1845年に若き天才ケイリーが八元数を独自に発見し、発表でグレイブズに先んじた。このため八元数は「ケイリー数」とも呼ばれている。

 ハミルトンはなぜ八元数を好まなかったのだろうか。ひとつには、彼自身が発見した四元数の研究にとらわれていたことがある。また、純粋に数学的な理由もあった。八元数はおなじみの算術法則の一部に従わないのである。四元数からして、すでにやや奇妙である。実数の掛け算は順序によらない。例えば2x3は3x2に等しい。これを、乗算は「可換」であるという。複素数についても同じことが成り立つ。

 しかし四元数は「非可換」である。掛け算の順序が結果に影響する。順序が重要になるのは、四元数が3次元の回転を表し、そうした回転では順序によって結果が異なるからである(上の図参照)。1冊の本を持ち、上下をひっくり返し(すると裏表紙が見える)、次いでこれを上から見て時計回りに1/4回転しよう。さて今度は、この2つの操作を逆の順序で行う。つまり、まず1/4回転してから、上下をひっくり返す。最終結果は異なるものになる。このように結果が順序によるので、回転は非可換である。

 八元数はさらに奇妙になる。非可換であるのみならず、もうひとつのおなじみの算術法則である「結合法則)つまり(xy)z = x(yz)にも従わない。私たちはみな算数の授業で結合法則に従わない演算を習っている。引き算である。例えば(3-2)-1は3-(2-1)とは異なる。だが乗算が結合法則を満たすことには私たちは慣れっこであり、ほとんどの数学者も、非可換演算には慣れているのに、結合法則に関してはやはり満たされるのが普通だと感じている。例えば回転は非可換ではあるが、結合法則は満たす。

 だがおそらく最も重要なポイントは、ハミルトンの時代には八元数がいったい何の役に立つのか明確でなかった。八元数は7次元と8次元の幾何学と密接に関連しており、これらの次元における回転を八元数の掛け算として表現できる。しかし、それは過去100年以上にわたって純粋な知的練習問題にとどまっていた。八元数が実際にいかに有益であるかが認識されるには、現代の素粒子物理学、とりわけ超弦理論の発展を待つ必要があった。

 1970年代と80年代、理論物理学者たちは「超対称性」という素晴らしく美しい概念を生み出した(弦理論が超対称性を必要とすることが後に判明した)。宇宙は最も根源的なレベルにおいて、物質と力の間に一種の対称性を示すという考え方である。物質の粒子(電子など)にはすべて、力を担うパートナー粒子が存在し、力の粒子(電磁気力を担う光子など)にはすべて相対する物質粒子が存在するものと考える。また、物質粒子と力の粒子をそっくり入れ替えても物理法則は変わらないと考える。

 鏡に映った像は左右が入れ替わるが、力の粒子と物質粒子を相互にすべて入れ替えるような奇妙な鏡があって、これに宇宙を映してみたとしよう。超対称性が存在し、それが私たちの宇宙を本当に正しく記述している場合、この鏡のなかの宇宙は私たちの宇宙と同じように機能する。超対称性の実在を裏づける確固たる実験的証拠はまだ何も得られていないが、この理論は魅惑的なまでに美しく、多くの数学者を惹きつけたため、物理学者の多くも超対称性が実在することを望み、そう期待している。


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