「エリア88」（全２３卷） 新谷かおる

「エリア88」（全２３卷） 新谷かおる
お薦め度：☆☆☆☆☆ /
２００７年８月１０日讀了


新谷かおる といへば、私にとつては、 「ファントム無頼」 、 「ふたり鷹」 、「戰場ロマン・シリーズ」であつた。
この「エリア８８」については、時々讀んでゐた程度で、通して讀んだことがなかつた。
いまから思へば、不思議なことだ。

ネットの友人に薦められ、ゐても立つてもゐられず、ヤフオクで落札した。
コミックス初出の全２３卷本で、１９５０圓。
お買ひ得だつた。

主人公の風間眞（シン）は、同じ孤兒院で育つた親友の神崎悟とともにパイロットを目指してゐた。
ところが、いざパイロットになるといふ時に、神崎に騙され、外人部隊への契約書にサインさせられてしまふ。
配屬されたのは、中東にある「アスラン」といふ内戰中の國で、その最前線「エリア８８」。
３億圓の違約金を拂ふか、３年間を生き延びるか。
この２つの道しか日本に歸ることは出來ない・・・

「エリア８８」の指揮官、サキ・ヴァシュタールは「アスラン」の王子で、敵は實の父と弟。
どちらも國を思ひ、國を榮えさせようとする氣持ちに變はりはないのだが、その方法論で對立してしまつた。
その對立に附け込むのが、石油を狙ふ「先進國」たち。
どちらにも武器を供與し、爭はせ、衰弱させるのだ。

さて、神崎は大和航空を乘つ取つたのみならず、「プロジェクト４」といふ世界乘つ取り計畫を遂行し始めた。
この男にどうしてそのやうな力が備はつたのか、といふ點については、とりあへず目をつぶらう。

ラストシーンは、シンと神崎の一騎打。
シンはこの鬪ひで生き殘りはしたものの、重傷を負ひ、「エリア８８」の記憶のすべてを無くしてしまふ。
そして、あらたな人生を、やうやく一緒になつた戀人・津雲涼子とともに歩み始めるのであつた。

愛國心や大義名分ではなく、自分が生き殘るために戰ひ、敵を殺す。
さうした傭兵稼業に嫌氣がさしながらも、ひたすら日本へ歸ること、戀人・涼子に再會することを夢見るシン。
しかし、いつしか、自分の血まみれの手で涼子を抱きしめるわけにはいかないと思ふやうになる。
それでもなほ、戰ひ續けるシン。
シンを衝き動かすのは、「エリア８８」の戰友たちとの氣持ちの繋がりなのであつた。
男には自分の命よりも大切なものがある。
それは、愛國心かもしれないし、家族かもしれない。
しかし、ここでは「友情」がその最大のものとして描かれてゐる。

ひとことで「戰爭マンガ」として片付けたくない、不朽の名作である。



「エリア88」について （Wikipedia）

エリア88 (1) (MFコミックス―フラッパーシリーズ) 新谷 かおる メディアファクトリー このアイテムの詳細を見る