without a trace

ヤマザキ、フリーターを撃て!

財前君、白い巨塔が見終わったんだがね

2006-09-18 04:10:58 | Weblog
 白い巨塔見終わって長くなったのでブログに。31話あって丹念に描かれてて面白かった。もうね行間というか上手いんだ。酒やタバコにめしの使い方とか。昔の邦画の匂いがプンプンするんだ。テレビドラマだから執拗に繰り返されて強調される。これは必見ドラマだね。

 田宮二郎の母も体の調子が悪くなっていた。これは彼らの関係が蜜だって事かな。以前にも書いたけど母子家庭の彼らの関係は濃い。母としては息子を一人前にするために切った。この男の悲しさは、かつて自分のアイデンティティーを含めて一度若い頃に苦労して社会のすべてを許してると思うんだ。しかし思い通りにはならなかった。そして自分を守るかのようにプライドが肥大していく。母を求めるかのように女を求める。彼は本質的に無力だった頃の自分のように支配されたいんだね。

 高度成長やらで近代化していく日本。それで山奥の農民文化の人間も都会に移住するようになる。山の文化で生きていた田宮は大阪という大都会に出て違う文化に放り込まれる。農村にいれば同じ顔の人間と暮らせる。あいつらは元彼の元カノの元彼のワールドのようなね。山から出て行くということは他人と出会わないとならない。自分自身が山にとっての”よそ者”となって生きていく。医学界にきた貧しい男としての”よそ者”、孤独を紛らわすことのできる都会でも婿養子となって”よそ者”として生きる。そして”よそ者”五郎ちゃんにとってはこの不安を密な母子関係を”楽園”と錯覚する。その決して見つからない楽園のために母の影としての女性を求める。それを理解してるからこそ情婦の太地喜和子は子供扱いしてる、しかし田宮は離れられない。そして二人でしょっちゅう海を見つめて大阪ベイブルース。海の文化に来てしまったのだなという孤独感と海は父の象徴だと思うんで、守られてるような感覚がするのだろうか。

 なぜやたらと特に父のいない登場人物が出てくるのだろうか。これは考えたけど戦争じゃないかと。彼らは喪失を抱えながら育った。田宮は誤診で中村玉緒の夫を殺す事は自分の父性を殺してるに近い。ここら辺が難しいのは人為的な死かどうかという問題。戦死も病気も人為的ではない死だ。残された人間は喪失を抱え、自分自身もまた喪失していく。田宮の母である中北千枝子も長くない事が描かれてるし、太地もまた堕ちていくのがわかる。これで太地は標準語なんで彼女が既に流れてきたのがわかるけど、乱れていくんだろうなと。

 田宮は婿養子という”よそ者”であってイエがないために戦わないとならない。特に彼は若い頃に父を亡くしてるから余計にそう思う。だからこそ他人を勝ちと負けで判断する。資本家でないのに勝ち負けで判断する人とはここが違う。勝ったと思える勝ち組であって、医局員の親衛隊は彼を常に肯定する。それが権力に従ってるにすぎないとしても。一方で親友だった里見の山本学は否定してくる。肯定と否定で相対的に人間は自己認識する。でも山本を追い出すから自己が肥大する。どこに行っても先生と言われる悲しさというか、謙虚さをなくした、無くさないと自己を保てなかった男の悲しい話。だからこそ母の分身のような太地、待ち組で家事手伝いである東教授の娘が必要だ。田宮にとって山本は負け組。貧しい出身である分身のような柳原医局員こと高橋長英も田宮が生き方を規定しようとする。しかし彼は勝ってなどいなかった。人生の勝敗は相対的なモノじゃない。喪失すれば規定は決定的になり、田宮は彼自身の喪失した父のように忘れ去られていく。彼は常に”よそ者”でしかなく、”よそ者”としか生きられなかったのだ。

 初期で太地が田宮に「あなた苦労した割には脇が甘いのね」、ここに詰まってると思うなと。
 各回の適当すぎる感想は日記の方に。塩素のないプール


2 コメント

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おつかれさまでした (あど)
2006-09-18 08:51:39
お疲れ様でした。

安易に見てくださいよーと話を振った私ですがこんなに濃いぃレビューがいただけるとは。ご苦労様でした。大変だったことと思います。



おっしゃるとおり当時の時代背景として「父親不在」というテーマはありますね。当時40~50才代の方は戦争で両親、片親がいないのが当たり前。うちの両親もそうです。

 だからあの時代の人たちは強く、かつ弱かったのかもしれません。今の格差社会なんてかわいいもんだなww



なんかうまいコメントかけないっす。

ありがとうございました。

次はVフォーヴェンデッタ。暇があったらよろしくお願いします。難解なテーマをひねり伏線ありまくり突っ込みどころ満載。DVD3回見てははぁニヤリ・・・のスルメ映画。ネット検索必須。映画の時代背景を調べながら見直すとまた楽しめます。

 DVD販売がやけに力入ってて謎です。ロードショーでは寂しい扱いだったのに・・・
Vフォー五郎ちゃん (so-jaded)
2006-09-19 02:23:41
最初はいかにも昔のドラマだなと思ってたんですよね。ドラマって特に時代の写し鏡という感じがあって、馴染めるのかなと不安だったけどいつの間にかはまってました。時代はそんなに関係ないんだなと当時と共有できるのが嬉しかったですね。かなり一人よがりな感想丸出しだったけどw



田宮二郎の事さえ彼の死に方以外ろくに知らなかったのに、終わる頃には完全にファンになってました。これから田宮二郎と出会う度に五郎ちゃんと呼ぶんだろうなとw



 VフォーヴェンデッタDVD出てましたね。ウォシャウスキー兄弟のマトリックス系。あれ1作目しか見てないんすよね。これはイギリスが舞台ってのが何か惹かれるなあ。おれ革命とかいう単語に弱いし。というわけでもちろん見ます。

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