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ヤマザキ、フリーターを撃て!

わらの犬

2006-05-25 02:41:06 | 映画
 映画「わらの犬」

 監督:サム・ペキンパー。ダスティン・ホフマン、スーザン・ジョージ。71年

 10代の頃にこの映画を見て凄まじい衝撃を受けた。どれくらい衝撃かというとこの監督の映画がその後に見れないくらいの恐怖を感じたね。まだインターネットもやってなく、こんなタイトルで暴力があるとは知らず基本的に「マッドマックス」なんかでもちびりそうになってたビビリ屋のおれとしてはトラウマ寸前だった。というわけでおれの中では今でもペキンパー=恐いの図式だ。なんとか久しぶりに見直してみる。愛がすべてなんていう世界には無縁な映画。

 イギリスの田舎に引っ越してきた夫婦。夫はアメリカ人で数学者、妻は美人でこの近辺の出身という幸せな夫婦。この時代のアメリカは人種問題、反戦、冷戦、犯罪、暴動ともめまくっていた。そういうしがらみを抜け出してイギリスの田舎で平和に暮らそうとして夫婦でやってきたのだ。奥さんはノーブラで乳首が服から浮かんじゃってる垢抜け女だ。こういった田舎町のしがらみを抜け出してアメリカに渡った人なんだろう。そんな夫婦は村の注目の的だ。

 パブに行くと足元見られまくり。スニーカーなんて履いてるぜヤンキー野郎めと。労働者階級の人間はわざとグラスを手で割ったりと露骨に煽る。酒、女、喧嘩というブルーカラー三大欲求を常に求めてるのだ。そこに気の弱そうなチビっ子ユダヤ系アメリカ人メガネお坊ちゃん登場。奥さんは若くて美人だしビッチ度も高い。しかも若い労働者の一人は彼女と以前に関係を持ってたことがあるのだ。ターゲットオン。

 奥さんはネコを飼ってて自分も子供のように振る舞ってる。構ってもらえないと黒板に書いてある難解な数式を書き換えてしまうような憎めなさ。お前は「リング」の中谷美紀かという展開だ。地元の労働者の若者たちは車庫の修理を頼まれてて家に出入りしている。夫婦の夜の生活もガキどもが覗いてる。まさに覗くという行為が映画そのものでいわばこの家で物語が展開されていくのだ。ここから本格的に映画になる。

 労働者たちは弱そうなホフマンを舐めまくってる。夫婦の飼ってるネコを殺してクローゼットに吊るのだ。犯人がわかっていながら彼らに証拠がないじゃないかと何も言えない夫。彼には下層階級と田舎のしがらみというノーフューチャー数式を理解できないのだ。しまいにはビールで乾杯なんてやってる。そこで彼らに猟に誘われる。仲良くなろうとノコノコと着いていく夫。銃を持たせて放置させてる間に若者は一人奥さんのいる家に入り込むのだった。。


 以下ネタバレ

 猟で鳥を倒すも、死体を持って我に帰ってそっと戻すホフマン。彼は残酷性と無縁の生活をしてきたのだ。そんな呑気なことをしてる間に奥さんは殴られて襲われてる。しかも徐々に受け入れてしまうっていう展開だ。夫は帰宅するももはやネコであった妻はいない。そこにいるのは呑気なバカ夫に失望した女である。彼女は何をされたか言わない。
 もちろんタイトルに犬という文字があるんでレイプもワンちゃんスタイルというオチ。そんで驚いたのはこの男の一人はおそらく動物か同性とやってるってのを暗示してる。かなり倒錯してるのが衝撃的だ。

 教会のパーティーに行くも奥さんは襲われた光景がフラッシュバックする。子供が遊んでるのとレイプシーンが交互に繰り返されるという異常さ。一方で女の子につい悪戯してしまうという障害者の変態がいて、またビッチな女の子が彼を誘って遊ぶ。そんな彼女を故意じゃなくて殺してしまう。

 殺してしまった彼を家に匿う主人公夫婦。変態野郎を渡せと怒り狂う労働者たちが家を取り囲む。しかしアメリカンなホフマンは渡さない。渡したら私刑で殺されるのは目に見えてる。何で彼を差別するのだ、どんなマイノリティーにも人権はあるはずだ、もはやアメリカンデモクラシー全開モード。家に入ったら訴えるぞと言ってる。金さえあれば誰かがやってくれるという感覚だ。助けにきた村の有力者も故意じゃなくて殺されてしまう。ここで話的には周囲の環境が二つの殺人を起こさせたんだろう。しかし戻れなくなった労働者たちはもはやノーフューチャーモード。投石したり放火してみたりとフーリガン状態。なんとか家に入り込んで三人とも殺そうとしてくるのだ。

 そこでついにホフマンぶち切れですよ。戦うことから逃げることは決してできないのだ。銃もないがマイホームに立てこもって理系脳を駆使して奴らを倒す。あれだけ平和派だった男がついに自己の暴力性に目覚めてしまう。ナードをなめんなよと容赦なくぶち殺していく。スローモーション階段落ち、中世グッズで殺すなど素敵なバトル。終わった時には家の中には死体と殺人者しか存在しない。

 なんとか助けた変態男を車に乗せて運転していくホフマン。車はカメラのこちらの方を向いている。「グッドウィル・ハンティング」の明るいラストと逆だ。イギリスとアメリカの車線は逆であり、彼の運命は夫婦の破滅は既に決められていたのだ。

 見直しても何もかもが異様な雰囲気で恐かったね。何が恐いかって見てる側が暴力にカタルシスを感じるんだ。こんなクズどもはぶち殺せって。時代は変わっても同じような問題、同じような曲が流れるというなんというか大英帝国アイロニーを感じる。そこにニューシネマ調な展開という傑作としか言いようがない。
 この頃のニューシネマ期のアメリカ映画は本当に輝いてると思う。若者は何かと負け組全開で自己破壊していくんだ。
 ★★★★1/2



4 コメント

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どうもはじめまして (so-jaded)
2006-05-26 00:59:31
 これ今見ても衝撃的で面白いですね。



 さすがにそこまで書くのはどうかなーと躊躇してたんだけど、おれもそう思います。ここ以前には気付きませんでした。
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Unknown (もにか)
2006-05-26 01:53:31
むかーしこれをTVの洋画劇場でみたなあ、しかも夜9時くらいの時間帯で。奥さん役のスーザン・ジョージははまり役でしたね。レイプされていながら「oh!hold me!」って叫ぶんですよね。なんかまた見たくなってきました。
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Unknown (so-jaded)
2006-05-26 03:02:10
コメントありがとうございます。洋画劇場ですかw今はこの手の映画は深夜以外あんまりやらないですよね。



 あの奥さんも抑えてた感情があって、それが目覚めてしまうという印象的でした。その直後にもう一人が来てしまってその世界が壊されてしまうって言う。

 以前見た映画を見直すってのは面白いです。作品は変わってないのに印象が変わったりして自分が変わったんだなと気づかされたりしてます。
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すいませんミスしました (so-jaded)
2006-05-26 03:06:12
すいませんwizz525iさん。自分のコメントと間違えてコメント消してしまいました。一番上のコメントはwizz525iさんに対するコメントです。



 コピペしときます





はじめまして。 (wizz525i) 2006-05-25 17:59:29



俺も10代の頃見ましたヨ~~!



レイプのシーンはアナルSEX?ですか??



俺はそう思うんだけどな~~・



http://ameblo.jp/wizz525i/

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