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ヤマザキ、フリーターを撃て!

シュガーベイビー

2006-05-06 04:08:36 | 映画
 映画「シュガーベイビー」

 監督・脚本:パーシー・アドロン。マリアンネ・ゼーゲブレヒト。84年。ドイツ

「バグダッド・カフェ」と「ロザリー・ゴーズ・ショッピング」の監督と女優さん。あの二人が組んだ最初の映画。この三部作の中でもこれが一番濃いよ濃すぎるよ。

 プールにぷかぷか浮かんでるデブ女。といっても「サンセット大通り」みたいに死んでるわけじゃない。単にやることがないのだ。葬儀屋に勤めてて友達なし、彼氏なし、趣味:食べることという負け犬38歳。そんな彼女はシュガーベイビーという曲がお気に入りらしく、ある日思いたつ。そうだ恋愛をしようと。通勤に使ってる地下鉄の車掌やってる若い男を自分のモノにしてやろうと画策し始める。仕事も休暇を貰ってやる気満々。何その電車女?という展開だ。

 時刻表を買って待ち続けるもドイツの地下鉄は時間通りに動いてない。なめんなよと時刻表など捨てるのだ。そしてピッキングで駅内部に侵入するもモロバレ。デブおばさん段々と活き活きブヒブヒしてきて男を追い始める。男を見つけても話し掛けないで追うのだ。どう見てもストーカーである意味ホラー。双眼鏡を購入し彼の家を向かいのビルから観察。どうやら奥さんがいるらしいがあまり上手くいってなさそうだ。ロスタイムでも諦めないゲルマン魂でダブルベッドやら勝負下着やら購入して燃えている。ここでまだ会話もしていないというまだ始まってもいねーよとの恐ろしさ。そして彼女は男をお菓子でつるのだ!初めて知り合って彼女は言う「私は葬儀屋で働いてて死体を洗ってるのよ」。映画的には空気を読みすぎてる会話内容。いつの間にかさすが電車女ガンバレと見てる側は応援し始めてしまう。

 以下ネタバレ

 なぜか見事につられていく男。勝手にシュガーベイビーという名前を付けて、飯食わせて服を脱がし初めてとデブ女ワールド全開。もはやなすがままの男。彼女にとっては葬儀屋で死体を扱ってるのと同じなんだ。いわば彼女の中にある死体とセックスしたいという屍姦の欲望を違う形で出したわけだ。ドイツってそういう映画があってお前ら歪みすぎだろうって感じだ。この映画でもオッサンがデブ女の前でソフトクリームを舐めてる。普通逆だろとすごいぜニュージャーマンシネマってよくわからないけど。この映画倒錯してるんだ。女がストーカーやって男はなすがままでと。

 彼女は孤独な女だ。若い頃に母親は自分の腕の中で死んでいき、父は離婚してるのでそれも見てない。父を憎んで死体を扱う仕事に就くようになる。母を弔うための仕事が自分の欲望になっていく。男を死体のように思うがままに扱う恋愛をすることは父に復讐してるのだ。これは「マグノリア」でのトム・クルーズに近いと思う。
 看護婦は死体と接するのに嫌がられることはない、でも葬儀屋は嫌がられる。それは自分の死を認めたくないからだと彼女は言う。彼女は死を認めてるんだ。男も地下鉄の車掌なんで人身など死に触れることがある。しかしまだそういう経験はないという。彼にとって死は遠くの存在だ。人類にとっての究極に平等的な死に捕らわれている女、性欲やサッカー(=ここではセックスの象徴)というこれまた民主的なものに捕らわれている男。その二人が結ばれていくのだ。

 しかし奥さんにばれてしまう。殴られて蹴られて男は連れ去られていく。彼女にとっての弔いと復讐は終わったのだ。恋愛は平等でも民主的なものでもなかったのだ。負け犬女は再びプールに浮かんで叫び、地下鉄の駅でお菓子を片手に不気味に笑っている。
 ノリとしては昔のロックとか流れてアキ・カウリスマキに近いと思う。能面な男女が感情の起伏があるのかわからない愛をしている。この独特なパワーたまらないね。
 アドロン鑑賞3本目。★★★1/2