神足勝記を追って

「御料地の地籍を確定した神足勝記」を起点として「戦前の天皇・皇室・宮内省の財政について」のあれこれをとりあげる

コピーの景色

2023-12-18 23:51:05 | 勝記日記
 『御料局測量課長 神足勝記日記 ー林野地籍の礎を築く-』を日本林業調査会(J-FIC)より刊行して3日、今日も励ましのメールを頂戴しました。ありがとうございました。

 ところで、この本を作るのに苦労したところはどこだと思いますか?まあ、いろいろありましたが、そのひとつは文書のコピーです。
 勝記の孫の勝浩様から日記の原本をお借りできることになって、コピーの許可もいただいたのに、いざコピーをする段になったら、落ち着いてコピーできる場所がないのです。ご存じのように、図書館は、大学でも、公立でも、どこでも持ち込みの書籍や文書をコピーさせてくれません。
 ところが、私がお借りした日記は、大半が市販のもので、通常見開き2日分で、1年分で約200ページです。神足日記はこれがざっと60年分あるのですから、1日に1冊ずつコピーしたとして2ヶ月かかります。もう100年以上も前の、膨大な量の日記にもかかわらず、いくら事情を話しても、これをコピーさせてくれるところがないのです。本当に困りました。

 ちょっと話が変わりますが、1昨年から今年にかけて、神足勝文様(勝記のひ孫)から、神足家の文書を段ボール箱10箱ほどお借りできることになりました。そこで、整理して文書目録を作成するために、作業用のコピーを作りたいと考え、図書館に相談したところ、あっちの店でできるとか、こっちの会社でサービスをやっているらしいという回答で、ラチがあきませんでした。「法を盾にして実態を見ない」という非合理な側面、たくさんありますね。

 結局、コピーするにはコンビニに頼るしかありませんでした。そのことは、上記の日記の解題にも少し書きましたから、繰り返さないことにして、コンビニでコピーをしていた時に見た景色を一つ紹介しましょう。

 そのコンビニは入り口近くにコピー機がありました。なにせ1冊200枚ほどもある日記のコピーを、もう何日も続けてきていましたから、コピー機が作動している間に、窓の外みたり、ほかにコピーを取りたい人が行列を作っていないかとキョロキョロとするのが普通になっていました。
 夕方4時頃だったでしょうか。一人の男の人が自転車を押してやってくるのが見えました。ちょっと気になって、コピーの合間合間に見ていると、右足を少し引きずって、自転車に寄りかかっているのがわかりました。年は60くらいに見えました。
 その人は店の前に来ると、私の真ん前のところに自転車を停めました。それから店に入ってきて、私の後ろの方へ行きました。脳卒中を患ったようで、右足だけでなく右半身が不自由らしく、右手は胸のところで抱えるように折れ曲がったままでした。
 しばらくして、その人が出て行きました。見ていると、自転車の脇に立って、あたりをちょっと見わたして、おもむろに左手に持っていたワンカップの酒のリップを口にかけました。器用に蓋を取り外すと、ふっと自転車の籠の中にそれを吐き落とし、くく―と一口飲み、ふーと息をついたのがわかりました。満足そうでした。
 私は「家では、きっと止められているのだな。だから、ここにきて飲むんだな」などと思いながら、1枚コピーを取って、それからまた1枚とって、見ると辺りをじっと見ているようでした。そして、それから何枚かコピーを取ってから目をやると、最後の一口を飲み干すところでした。

 どうですか。
 満足そうに蓋とコップをゴミ箱に入れて、来た時と同じように、右足を引きずりながら、帰って行きました。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする