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明石の君の憂い―源氏物語第19帖薄雲

2013-06-21 15:45:11 | 源氏物語
(↑写真 大堰の別邸に比定される候補の1つ天龍寺・松風の巻は秋)

明石の君を
六条御息所を引き継ぐ女君、
としましたが、二人の違いもまた明らかです。
身分の差です。それは平安期にあって決定的な違いであります。
方や大臣の娘、東宮妃、娘は前斎宮・今上冷泉帝妃、
方や、母方は皇統を引くとはいえ、受領の娘、
容姿端麗・高貴な立居振舞い・やんごとなき貴婦人に劣らないとしても、
これはいかんともしがたい差異。

明石の君は、このことを十分承知しており、身の程をわきまえる賢い人なのです。
上京を決心したときから、
姫君をこのまま埋もれさせることはできない、
との一族の思いを受け止めてきたわけです。
ですが、源氏と再会してまもなく、
姫君が紫の上の養女として引取られる話を源氏から持ち出される、
そのことを覚悟していたにもかかわらす、
胸潰れる思いにかられてしまうのですね。
あはれ、と源氏に思わせるほどに、思い悩む。
本当に可哀そう、平安の読者女房たちもさぞ共感して読んだのでしょうね。

新築した二条院の東院に、移ってきなさい、と源氏は誘う、
紫の上に養女の話を通しているにもかかわらず、一応言うのです、
明石の君が、紫の上と伍して並び立つことなど決してない、
身の程知らず、と思われる、ようなことはできない、と源氏は踏んでいる。

姫君をとられてしまえば、
心の癒しを奪われる上に、間遠な源氏の訪れさえなくなってしまう、
儚い女心に、親としての心の闇にまどう、
そうした切々とした明石の君の心情が語られます。
といっても、吐露するのはほんの一言、二言、
でもそれは、引き歌が裏打ちしている…
引き歌に心情を託す、という
最も教養の高い貴婦人の表現方法を駆使するのですね。
これが紫式部の編み出したすぐれた表現方法、ということのようです。


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