紫苑の部屋      

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5月さよなら歌舞伎座公演ー海老蔵のこころみ

2009-05-24 22:35:45 | 観劇
5月の歌舞伎座は団菊祭のメンバー、
海老&菊&松の三人揃っての舞台が見れたのはうれしい。
夜の部の「おしどり」では、三人だけの舞台、
それぞれの持ち味が最も美しい舞踊劇、でした。
上の巻は長唄で現世の相愛の二人と、下の巻は常磐津で引き裂かれた鴛鴦の精がしっとりと美しく舞います。
とくに常磐津の名調子(大向こうがよく聞き取れなかったのですが、一巴大夫ですよね?)、なんという情感、耳を澄ませると胸があつくなります。
若い海老菊はそれに応えようと、心を込めて舞っているのがよく伝わり、4月の仁玉に次いでほんとにすてきな舞台でした。
上の巻は拍子舞が面白い、相撲を取る、これを粋な舞踊にするって、すごいですね。

昼夜とおしで見て、何といっても海老蔵の暫、立派でした。
あの隈取り、鬢は紅顔の少年をあらわすもの、やっぱり海老さまがいいわ!
團十郎の毛剃もめずらしい演目、
海賊でしこたま儲けたお金を人のため(遊女の身請けですけど)に使い、
恋敵にさっぱりと譲って二人を一緒にしてやる、
仲間に引き入れる狡猾さも含めて、太っ腹の大きいところがいいですね。

加賀鳶の勢揃い、
黙阿弥独特の2幕以降の道玄お兼のゆすりの場面もさることながら、
イナセな火消しのお兄さんたち(おじさん役者もいますが)の
イキのいい七五調がまた黙阿弥らしいのね。
加賀鳶は鳶というのに、大名火消し、
鳶の身のこなしが火消しを兼任することになったのかしらね。

清元の夕立、
風雅な夕立、ではなく、
激しい雷がバックボーンで起こるいわばストーカーの逆転劇
被害者であるはずの奥女中滝川が、花道まで逃れてくるのに、
引っ返すのね、そいで、うさんくさい男に“連れて逃げて”と極端に変転する。
まあ、うぶな深層の姫君(桜姫)ならば、そんなもんか、ですが、
奥女中といういわばキャリアの知的女性、ちょっとグロテスクになるところ、
時蔵さんですので品格は保たれ、可愛い年増、たわいなく…。

最後になりましたが、海老蔵の神田ばやし、
貧乏長屋のその中でも一層貧相でのろまで気が小さい、留吉、
およそ梨園の御曹司とかけ離れた役、ニンではない、
と、最初の登場ではだれしも思う、…でしょうねー。
そこが笑わせられる、このユーモアのセンス、いいかもね、…話がすすむとそう思える。
濡れ衣が晴れて、留吉は告白するのを聞いて、
これなかなか含みのある配役だったかもしれない、と思いました。
聞かせるんですねー、留吉のセリフ、
世間の疑いというものが人ひとりをどう追いつめていくか、
真実というものはいかに遠のいてしまうか、
この命題はとても重いものですが、
そこで、留吉が受け止めたこと、
自分にも落ち度がある、
自分に疑いがかかってしまうほどに、自分は落ちぶれている、
しっかり働いて、人並みの暮らしをしなければならない、
そう思って、その一年後にはこぎれいになった家で、晩酌を楽しみ、
地の付いた暮らしをするようになっている。
昔の日本人って、そういう考え方、したんですよね。
そういう考え方をよしとする、人びとの暮し方、
いつの間に消えてしまったのでしょうね。
宇野信夫の作ですが、
こういう世話物もやれるようになったほうがいいと、
配役を考えた松竹でしょうか、菊五郎劇団でしょうか、
先を考えた親心とでもいうような計らい、かもしれないと思います。
海老蔵はお家の芸だけでなく、
上方の和事を仁左衛門から、
ケレン宙乗りを復活させた猿之助からも教えを乞うてきましたよね。
今回のこの留吉役は、吉右衛門の例えばさぶ、とか、茂兵衛、につながるような役どころですよね、
吉右衛門的な愛嬌も、くわわるといいですよね。
2009/5/22観劇

配役一覧はこちら

ところで、6月のポスターが歌舞伎座では目につきます、5月より。
仁左衛門の一世一代の油地獄、これが最後と言われては…、わたし二度行きます。



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6 コメント

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思わず、仁左様ポスターに♪ (かほる)
2009-05-25 23:54:50
海老様@留吉、私も全く同感でしたのよ。昔の人はあんなふうに思考回路が働いていたのかも。今、浅田次郎の「壬生義士伝」を読んでいるのですが、貧乏はつらいけど、美しく立派な心根も育てるのだと思いました。

しかし、仁左様、カッコいい~。もう倒れそう。
私は、海老様の代役の松竹座(?)公演、もう見れないかもと思い遠征したんです。それでも、また見れるならもちろん行きますとも!ええ!!
返信する
ポスターの前で動けな~い!に… (sion)
2009-05-26 10:52:19
壬生義士伝、映画見ました(テレビで)
中井貴一が好演してましたね。
たぶん、貧すれば鈍する
のが現実、
時流に乗れなかった幕末の武士はつらかったでしょうね。
いまの時代も、戦乱ではないけれど、社会のほころびは若者のプライドをずたずたにしますからねー
過去の日本人のささやかな生き方、今の世に復活してほしいですね。
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追伸 (sion)
2009-05-26 15:05:36
最新情報(都民劇場の公演情報)によれば、
8月の演舞場は花形歌舞伎、
海老蔵、のようですよ。
例年秋にやっていた花形よね、
菊ちゃん、松ちゃんまた揃うといいですね。
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ええっ? (かほる)
2009-05-26 22:37:01
8月演舞場情報、初耳です。
続くなぁ。嬉しいような大変なような(お財布が)。
情報、ありがとうございます!
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お久しぶりです。 (さよ)
2009-05-27 19:35:49

紫苑さま、こんばんは。
ご無沙汰しています。

今月歌舞伎座のご感想、有難うございます。
私は残念ながら行けずに終わってしまい
ました。

ブログのアドレスが少し変わりましたので、
お知らせしておきますね。
是非またいらして下さい。今後ともよろしく
お願いいたします。
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ブログ新しくなさったのですね (sion)
2009-05-27 20:12:55
さよさま、お久しぶりです。
使い勝手のぴったりしたブログ、
案外たどりつくのに試行錯誤しますよね。

時蔵さんがお好きなんですよねー
5月の夕立は、かなりきわどいかったですよー
色っぽさとうぶなところ、品の良さとみだらなところ、
これは時蔵さんにしかできない、と思いました。
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