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5月国立小劇場ー文楽人形の三番叟

2009-05-23 23:19:32 | 観劇
文楽の舞踊、初めてのような気がします。
「寿式三番叟」
若手人形遣い3人が揃いました。
勘十郎・玉女・清十郎が三番叟二人と千歳(せんざい)。
人形の三番叟、正直歌舞伎の華やかさ迫力の比ではない、と思ってました。
でもこれが驚きなんですね。
まず、幕が開いて、正面に大夫さんたち竹本連中がずらり勢揃い、
お能と同じ舞台が作られています。
わたしたちは、正面の席から観ていることに。
和生さんの重厚な翁、
おきなといっても孔明かしらの武将が、面箱から翁の面をつけて舞うんですね。
儀礼に沿って淡々とすすみ、
鈴の段では、激しく三番叟が舞います。
勘十郎&玉女、身体全体を使いハイテンポで足を踏み鳴らし
ときどき疲れた仕草で間合いをとりながら、二人の息はぴったり、
どうだ!この人形の舞は!と見せつけます。
とくに勘十郎さんの身体能力には圧倒されました!参ったという感じ。
うれしい番狂いでした。
国立文楽劇場25周年の寿、なのですね。

歌舞伎の丸本、はよく知られていますが、
歌舞伎初演のあとで、文楽にも書かれることもあったのですね。
「伊勢音頭」
住大夫の切、鶴澤寛治の三味線、蓑助の万野、文雀のお紺、玉女の貢、
こう揃えば、申し分ないですよねー。
でも、これは歌舞伎のほうがいいと思いました。
セリフには現れない役者の腹、
その微妙なおのおのの思惑、すれ違いの思い、
人物像の機微、とでもいうのでしょうか、
大夫はいろんなことを語るのですが、届かない面もあるのでしょう。
第一に、刀の妖力、をあらわすのは、ちょっと苦しかったかもしれません。
ただ、お紺の愛想づかし、のわけ、膨らませてあるのが面白いですね。
貢の伯母から貢には許嫁がいるから別れてほしいと頼まれる、
貢とは添えない、それなら愛想尽かしをして、折り紙を手に入れ、
自害するつもりだったと、大夫が語ります。
遊女が好いた人に愛想尽かしする、というのは命がけなんですね。
これは説得力が増します。
ただし、お紺と対照的なお鹿のおかしみ、これは文楽はあまり描けていないですね。

道成寺ものの本家本元
「日高川」
逆説的ですが、歌舞伎の人形振りのほうが面白いですね。

さて、第二部は通し狂言「ひらがな盛衰記」
これは長ーいお話なんですね。
大きくいうと、主人公は、義仲の忠臣樋口次郎(序段と3段の有名な逆櫓)と
梶原源太との2系統に分かれるのですが、
今回は珍しい2段3段の半通し、
勘十郎の遣う千鳥=傾城梅ヶ枝、が魅力的でした。
でも、一緒だった長年見続けているひとによると、
やっぱり蓑助さんと比べるとねー、らしいです。
私は蓑助さんのを見てないのですが、
でもわかる気がします。
蓑助さんの女たち、下手の幕の奥からすーと姿をあらわす、その一瞬の表情の妙、
それがたまらないんですね。
なんというか、人形に息が吹き込まれる瞬間、なんですね。
それはともかく、勘十郎さんの人形も生き生きと息づいている、ことは確かです。
傾城梅ヶ枝の艶やかさ、がすばらしい!(写真↑)
傾城のかしらがあるんですね、きりりとした眉の引き方ひとつで表情に変化がでます。
「三婆」の一つ延寿、深い慈愛心をもつ、いい母親役です。
決して義理のため、忠臣のため死ねとはいわない、
生きてこその忠臣ぞ、と勘当し、最後まで見守りタイミングを見計らって手助けする、冷静かつ的確な近代的ともいえる賢母です。
最後の裁きが見事です。
梅ヶ枝の姉お筆(逆櫓で若様を迎えにくるあのお筆)から姉妹の父が敵は源太の父景時と明かされた時、すべてを引き受けて自害しようとします。
その心に打たれた姉妹も敵討ちを終わらせる、自害もせずに済みますね。
菅原伝授、のように、だれもが死を持って忠臣をしめす、わが子まで犠牲にする悲劇とはちょっと違いますね(樋口は捕らえられはしますが若君安泰ですし)
だから人気作品であっても、名作とは言えないのね。
どこか、悲劇性がともなわないと、日本人の美学に響かないのですね。

ところで、源平盛衰、といえば、
先日テレビで萬斎&菊之助の「わが魂は輝く水なり」が再放送されてました。
清水邦夫と蜷川幸雄の青春時代の確執をへて、老年期を迎えた蜷川がいまこの戯曲を舞台化する、ちょっと切ない実盛物語の続篇、
シアターコクーンのこの種の舞台、今度から生で見てみようと思いました。
萬斎さんの実盛、ホントに観客を惹き付けてやまないでしょうねー。
菊ちゃん、適役でした!
弟六郎を演じた亀三郎、いい俳優ぶりですねー、魅力ありました。

2009/05/20観劇 国立小劇場


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