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フェルメール「牛乳を注ぐ女」

2007-10-25 20:35:09 | 展覧会&音楽会
フェルメールの傑作中の傑作といわれる
「牛乳を注ぐ女」
に初めてお会いすることができました。
何年ぶりかに再会できたフェルメール、です。

フェルメール

絵の世界に引き込まれる至福の時、
フェルメールの絵は、なぜ目を離せなくなるのか、
その吸引力はどこからくるのか
とても不思議でした。
実際の絵を見て思いました、
計算された構成と緻密な描写、大胆な崩しかた、
そして何よりも主題の斬新さです。

人を魅了するのは、一瞬のときを切り取った緊張感と
描かれた人物の静謐さ、です。
ただひたすら家事をこなしている使用人に
神々しさを見いだす,それが驚きです。
美しい娘ではない、
がっちりした体躯の
たぶんどこにでもいたであろうメイドです。
日々の糧と
与えられた仕事をこなす日常性、
そこに、人としての尊さを、
生きることの慈しみを、
画家がそこに価値を見いだしている、
それが人の心を打つのです。

技巧的な、計算し尽くされた構成と
消失点からの放射線上の構図をあえて崩す、
よく知られたテーブルの歪さは、
このメードの全身像を邪魔するから、
そう感じました。

衣服を彩る、最高級の絵の具、
ラピスラズリーのウルトラマリンブルーを
惜しみなくつかう、
そして下絵にはあった背景を消し、
明るい光で人物を浮かび上がらせた、
どれをとっても、主題を引き出す表現力だったことがわかります。

同時代の例えば、
ボルフ「農民の衣装を身に着けた女」
もとても丹念に描かれた人物像ですが、
アップした人物に焦点をあてるため
バックは暗くしています。
フェルメールのこの絵では、
バックの壁に光をあて、手前に置かれたものを暗く沈ませる、
この斬新さが生きている。

同じモチーフでも、
他のオランダ風俗画には、家族とか家具とかいっぱい描かれていて
リアリティがあります。
そうして見てきた後に、フェルメールのこの作品に来ると、
絵は見たものを描くのではない、ことがわかります。
表現する画家の胸の内、
それが鮮明に伝わってくるのです。


07/10/24 新国立美術館


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