ライオンの詩 ~sing's word & diary 2

~永遠に生きるつもりで僕は生きる~by sing 1.26.2012

未来に遺してしまうもの。

2011-03-25 06:33:29 | Weblog
「はなはだ情緒的だけれど、「核」というものには、何かひりつくようなねちっこい酷薄さがあって、それは要するに、化学的な無害化(完全な中和化)ができず、物理的に封じ込めるしかないという、不死の魔物のような面があるからだとずっと感じていた。」twitterへの投稿より。

世界遺産なんてものがあって、僕らは大昔の人が作った建造物や、絵画や壁画を見つけては、かつての文明人が作り上げた文化に感銘し、かつての時代に想いを馳せる。それは、人類が歩んで来た輝かしい歴史を示すものでもあるのだろう。
例えばギリシャ人やローマ人、例えばマヤ人やアステカ人、他にも色々・・・。例えばその時の文明を生きる人々は、まさか自分たちの文明や文化が滅び往く運命などとは露も知らなかったはずだ。滅びなかったとしても、自分たちが作りあげた普通の生活が、二千年後を生きる人間に遺跡として扱われるとは、想いもしなかったはずだ。ましてや、ポンペイ人なんて、火山の噴火一発で地中に沈んでしまったのだから。例えばそんな感じ。


今から何千年かが経ったある時代の話。

それなりの文明を持った僕らの子孫たち。千メートルの地中から何かを掘り出す。それは分厚い鋼鉄の大きな箱。その村か町か国では、偉い人が集まって会議が始まる。これはかつての文明が残した遺物だ。問題は、その鋼鉄の箱を開けるか開けないか。意見は割れる。千メートルもの深さに埋められているのには理由があるはずだ。それは何か悪いものに違いないという意見。何があっても未来を生きる人に届けたいと想いから、地中深くに埋めたのではないかという、タイムカプセル的な意見。議論は平行線だ。結論が出ないまま、鋼鉄の箱はしばらくそのままにされる。
かつての文明が遺した鋼鉄の箱の話しは瞬く間に国中に広がる。誰もが、かつての文明、自分たちの種の祖が作り上げたものに想いを馳せ想像を膨らませる。人の好奇心は不滅である。
再び、偉い人たちが集まり、会議が行われる。
「自分たちの祖先が、自分たちに悪いものを遺すはずがない、祖先たちが遺したメッセージを受け取るべきだ」。そんな意見が大勢を占めた。
かくして、その鋼鉄の箱は開けられることになった。国中の人が、鋼鉄の箱に興味を持って集まった。大々的なオープニングセレモニー。歴史に残る瞬間である。ガガガガガガガ・・・大きな音を立てて鋼鉄が切り裂かれていく。みな、ドキドキしながら鋼鉄の箱が開くのを待っている。大きなクレーンが、箱の上部にある面を持ち上げる。箱の中を見て、みんなガッカリ。そこには古代文字も何もない。おびただしい量の水と棒がたくさん入ってるだけ。「古代人のすることは理解できないな」。そう言って、みんな家路についた。偉い人たちも、古代研究の学者たちもガッカリ。「せっかく、観光名物が見つかったと想ったのに・・・」。

ギリシャ神話のパンドラの箱の物語。「箱の中からは病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなどのあらゆる悪が、人間の世界に飛び散った。箱の底に一つだけ残っていたのは「希望」。この希望が残ったお陰で、人はどんな困難の中でも希望を持って生きられるようになったのです。」

「希望」が入っていないパンドラの箱。今から何千年か経ったある時代のこと。かつて日本があった場所、アメリカがあった場所、フランスがあった場所、ロシアがあった場所、ドイツがあった場所・・・韓国、ウクライナ、カナダ、イギリス、スウェーデン、中国、スペイン、ベルギー、台湾、インド、チェコ、スイス、フィンランド、スロバキア、ブラジル、ブルガリア、ハンガリー、南アフリカ、リトアニア、ルーマニア、メキシコ、アルゼンチン、スロベニア、オランダ、パキスタン、アルメニアがあった場所。その全部の場所で、パンドラの箱が開けられた。
箱の中からは病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなどのあらゆる悪なんかは飛び出ては来なかったけれど、その代わりに、目には見えない何かが・・・この星の全部を覆い尽くすほどの、目には見えない何かが・・・飛び出しましたとさ。おわり。