先日、Amazonの2020年ホリデーシーズン向けグローバルCMが感動的 という記事で、アマゾンのコマーシャルを紹介したのですが、これを制作したロンドンの広告代理店、Lucky Generalsについて調べていたら、Yorkshire Tea (ヨークシャーティー)の"Social Distance"というコマーシャルを発見しました。とても面白かったので、ご紹介します。
コロナのロックダウンが終わってオフィスに戻って問題となるのがソーシャルディスタンス。そしてそれが支障になるのが、オフィスでのお茶の時間。というわけで、ソーシャルディスタンス用に、特別のティーポットを開発したという設定のストーリー。
英国人にとって、オフィスでのお茶の時間は、"Tea Round"と言って、とても大切な時間なのです。上司にお茶を入れたり、お茶汲みスタッフにとって、ソーシャルディタンスを保ちながらお茶を入れるのはとても大変です。この注ぎ口がやたらに長いポットならばソーシャルディスタンスを保ちながらお茶を注げるということで、皆さん苦労しながらお茶を注ぎます。
最初に登場する男性は、向かいの女性(上司なのか先輩なのかわかりませんが)に、"Brew?"と尋ねます。コーヒーを入れることも"Brew"ですが、紅茶を入れるのも"Brew"です。つまり「先輩、紅茶入れますか?」と言っているような感じです。慣れない手つきでおそるおそるマグカップに紅茶を注ぐ若手社員。砂糖を遠距離から投げ入れるところもよいですね。
ドアの外から、紅茶を注いでいるこちらのシーンもいいですね。細かいシーンの描写がじつにユーモラスです。
最後に、「これが(ソーシャルディスタンスの)解決策というわけではないかもしれませんが、仕事に戻ったらちゃんとした (proper) 紅茶を楽しんでください」というメッセージが流れます。
"Proper"(ちゃんとした、適切な)というのは、このブランドがいつも使う言葉。ブランドスローガンは、"Where everything's done proper"(すべてがきちんと行われる場所)になっていて、数多く作られている広告にも必ず"proper"という単語が登場します。
このコマーシャルを制作した広告代理店のクリエーターは、次のように語っています。
「コロナの時期に作られるコマーシャルは感傷的なものばかりです。生活の大変さを訴えるようなトーンのものが多い。結局同じような雰囲気のものばかりになってしまいます。でも人々はそういうものばかりを求めているのではないんじゃないかと思いました。心のゆとりみたいなものを欲しがっているんじゃないだろうか。そんなことをブレインストーミングしているなかで、このコマーシャルが生まれました」
ちょっと意訳していますが、だいたいこんな感じです。
このコマーシャルがとてもいいなと思って、いろいろ調べてみて様々な発見があったので、ご紹介しておきます。
Yorkshire Teaはイギリスのヨークシャー地方に本社のある会社で、1977年創業のようです。ヨークシャーでお茶を栽培しているわけではなく、お茶の葉自体は、アフリカやインドなどの外国ですが、お茶のブレンドをヨークシャーのハロゲート(Harrogate)という町で行い商品化して販売しているようです。
知らなかったのですが、このYorkshire Teaは英国で28%のマーケットシェアを取っていて、英国でレギュラーブラックティー(紅茶)市場でナンバー1ブランドになっているんですね。イギリスの紅茶と言えば、トワイニングとかリプトンかと思っていた私の知識が古すぎました。昨年まで英国でのマーケットリーダーだったのは、PG Tipsというユニリーバのブランドだったんですね。それをYorkshire Teaが昨年抜いて一位になったのだそうです。
2015年には14%のシェアだったこのブランドが英国のトップブランドとなった背景には、広告代理店Lucky Generalsの起用が大きく影響したようです。このソーシャルディスタンスのコマーシャルもそうですが、実に面白いコマーシャルがいっぱいです。長くなるので、別の機会に回しますが、見ているだけで楽しくなります。
インターナショナル・ティー・コミッティー(ITC)によれば、英国では、一日に飲まれるお茶(紅茶、緑茶、ハーブティー等含む)の量は1億カップ。それがロックダウンの間にさらに伸びたそうです。すべての紅茶ブランドが伸びたわけではないようですが、Yorkshire Teaは昨年比16.2%の伸びだったそうです。
このコマーシャルを見てから、これまでコーヒー派だった私は、紅茶派に転身しました。Yorkshire Teaを買おうと思ったら、そのへんには売ってないので、M&SのEmpress Greyという薄紫のパッケージが可愛いお茶にしました。そしてついでに、リッチ・ティー・ビスケットも。これが実に美味しいんです。
実は、リッチ・ティー・ビスケットは、こちらの動画に影響されました。
この動画のシリーズもよいですね。ではまた。