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『坂の上の雲』至上主義。
この作品に対する批判めいた文章は寸毫も許せない、という方はバックオーライでお願いします。そういう人にこそ読んで欲しいのも事実ですが・・・
読んでから不愉快になったと言われても困るのでここらで五寸釘。
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先日は小笠原がスポットを当てることで敵前大回頭が大きな評価を受ける様になった、というところまで書きました。
これが昭和初期、日露戦争ブームの時期です。
小笠原の見方に対して異論が出なければ、それが海軍としての…いわば"公式"見解となるわけです。
まあ敵前大回頭や丁字戦法なんかが特に大きく取り上げられるようになったのは東郷平八郎の顕彰と軍機の秘匿の為だと思われますが…
封印された秘密戦史。
公刊された普通戦史以上の知識が無い専門家達。
これだけ見ても、部内でも『実際』に行われた日露海戦の戦史や戦訓を批評批判できる立場にあった人間は殆どいなかった。
日本国民で日露海戦に関する実相を知る人間などいなかった。
海軍という組織がある間は、もうこれは変えようの無い事実で有ったでしょう。
しかしながら昭和20年、日本は敗戦を迎えます。
軍関係の文書類はその時に大半が焼却され、またGHQに没収されました。
ところが当時のアメリカの政治情勢、国際情勢、日本の古文書の解読の難解さから、没収された文書の多くは日本の要請により返却され、昭和の33年からは公開されるようになった。
その時になって初めて一般国民でも秘密戦史が読めるようになったのです。
ただ非常に大部なものである為、読み込んで従来の見方を照査するのは難しかったのではないかと。
…繰り返しになりますが、存在を知らない人の方が多ったんですよ。
そしてそれは現在でも同じことが言えるようです。
日露海戦に関する知識は、多数が戦前から引き継がれているもの。
東郷ターンはそれほど重要じゃ無かった、丁字戦法は日本海海戦ではメイン戦術じゃなかったなんて言うだけで、袋叩きの世界です。
日露戦争に関する代表書である『坂の上の雲』だけを読んでいては、こういった事は分からないと思います。
この物語は不朽の名作だと思います。
素晴しい。
私にとっては色あせない、愛して止まない物語のひとつです。
ただ…
この作品が書かれてからもう30年近い年月が流れているのです。
新しい史料が発見され、新事実が解明されてきている。
司馬さんが『坂の上の雲』を書いていた時には分からなかったことも、分かってきているということです。
秘密戦史だって、その存在が広まってきたのは恐らくここ10年程の間です。
これは仕方ないことで、司馬さんを責める筋合いのものではない。
寧ろあそこまで外交、政治、軍事と入り組んだ世界を"小説"として纏め、紹介した事は最大の賛辞をあげての賞賛に値すると思います。
でも。
声を大にして言いたいのは、
『坂の上の雲』の世界が日露戦争の全てではない。
これに尽きます。
これは阿川弘之さんの海軍物に対しても思うのです。
真実だろう。しかしこれが全てではない。
日露戦争ひとつを取っても『坂の上の雲』・司馬さんと違う見方があってもいい。
違う近代史の見方があってしかるべきじゃないか。
日露戦争以前は善でそれ以降は悪なのか。
私は大声を上げてノーといいたいですよ。
来年か再来年か某放送局で『坂の上の雲』が映像化されます。
原作を忠実に、司馬さんの近代史観を忠実に、そのまま映像化するんでしょうか。
物凄く不安です。
もっと書きたいことがありましたが、止め。疲れました…
映像化がイヤだと思うのは私だけなんでしょうか。
みさわちゃんもどちらかと言うと批判的だったな。
他の人はどうなんだろう。
私は考えすぎなんでしょうか。
☆
『坂の上の雲』の世界に関して思うこと 1
☆
『坂の上の雲』の世界に関して思うこと 2
☆
『坂の上の雲』の世界に関して思うこと 3