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『坂の上の雲』の世界に関して思うこと 2

2006-01-31 | ヒストリ:連載
先日は日露戦争の海戦史には大きく分けて秘密戦史と普通戦史の2種類があるというところまで書きました。

国情や戦争に関する国家機密あり軍事機密あり、戦史が編纂された当時、公表できない事実が多数存在したのは確実ですので、公刊・非公刊戦史があるのは当然です。
ここで問題であるのは、現在"秘密戦史"といわれる『明治三十七八年海戦史』が海軍部内の中でも文字通り「秘密」扱いされ、海軍軍人でさえその存在を知らなかった所です。
存在が知られている上で関係者以外の閲覧を禁じるのと、
存在さえ知らないこと。
関係者でなければ閲覧不可能という点では同じですが、置かれている状況は天と地ほどに違うでしょう。
兵学校や大学校で戦史を教えられた際に機微に触れる事もあったでしょうが、実際には普通戦史以上の情報を多く得る機会は殆ど無かったのではないかと思います。
実際に戦争に参加した世代、特に幹部レベルであった人々がいる時代はとにかくとして、彼等が次第に鬼籍に入っていくと当然ながら、実情を知っていて且つ戦争を語れる人間がいなくなる。
ごく一握りの、一部の人間しか日露戦争における海軍の歴史の実相を知らないわけです。

大正末~昭和初期は20周年、30周年ということで日露戦争ブームが起こります。
日露戦争物ということで、この時期には多くの戦記物も出ている。
因みに水野広徳の『此一戦』がベストセラーとなったのもこの頃の話です。
さらにこのブログでも何度か登場している東郷平八郎が国民的人気を博すようになるのもこの頃。
こうしたブームの中、中心に位置していた一人が小笠原長生という人物です。
東郷平八郎の伝記や日露戦争に関する著作を多く出版し、講演し、教科書にも軍人の忠臣愛国話を執筆していました。
ちょうどこのブームの頃に出た『聖将東郷平八郎』(昭和9年)を持っていますが、その文章を見るとすらすらさくさくと違和感無くリズム良く読み進められるものです。
15・6歳で浄瑠璃や歌舞伎の台本を書いていたというだけあって、文章力も語彙も豊か。美文で国民を酔わせ、マスメディアからひっぱりだこになるだけのことはあります。

そして…
この小笠原こそが日露海戦史編纂の、実質的な責任者でした。


***


冷静に考えて…
ブログで日露戦争の海戦史に関して読みたい人なんているんでしょうか…
つーか、最近富に軍事関係の話が増えてきていますが、読んでいる人がいるんだろうか。

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2 Comments

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読んでますよー (深度測定長)
2006-02-01 19:28:34
 勉強になります。

 秘密のほうの海軍戦史、野村実氏の著作で存在を知って、いちど読みたいと思ってるんですが……(絶対無理)。



 そういえば『秋山真之戦術論集』は読まれましたか?

 面白そうなんでかなり食指が動いてるんですが、買おうとする度に、しかしOLが海軍大学の戦術論を読んで一体何の役に立つのだろうという根本的な疑問が(笑)。

 いまだ買ってないのです。
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Unknown (ヒジハラ)
2006-02-01 23:12:04
ありがとうございますっ

そう言って貰えるだけでもう嬉しいです。

秘密の方は防衛研究所戦史室とアメリカの議会図書館にしかないのですよ~

東京に行かないと見れない…

こういう時ばかりは東京在住の人が羨ましいです。

戦史の話は自分の頭の中を整理する為にももう少し続けますので、宜しくお付き合い下さい M(__)M



あの真っ赤な表紙の『戦術論集』(笑)

私もかなり心惹かれるものがあるのですが…本屋でぱらぱら立ち読みした段階で止まってます。

せっかく買っても本棚の飾りになりそうで恐ろしい(笑)
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