その気もないのに男、それも世界で一番嫌いなヤツとキスするなんて、罰ゲーム以外の何物でもない。
実際確かに、それは「罰ゲーム」から始まった。
テレビゲームで負けた側が、勝った側の言う事を何でも聞くという、子供がよくやるようなしょうもない遊びだった。
はずなんだけど──…。
■
初めてオレと海馬が、2人きりで会った日のこと。
そもそもなんでオレが天敵・因縁である海馬なんかと会ったかというと、まずオレにはちょっとだけ、アイツに確かめたい事があったんだ。
ヤツの弟のモクバとは、たまにネットでやり取りする仲だった。だからなるべくならモクバに間に入ってもらって、穏便に解決できれば良かったんだけどな。
なんやかんやと話がこじれてきたなという矢先、どういうつもりか海馬が直接、それも突然オレの前に現れて───、
気付いた時にはヤツのマンションに攫われていた、というわけだ。
「というわけだ」も何も、普通なら大事件なんだろうけど。
それを当たり前にやれてしまうのが、あの海馬っていう男でさ。
そんな劇的な、数年ぶりの事件…いや再会にも関わらず、昔を懐かしむどころかマトモな会話も挨拶すらなく。
オレのほうなら、毎日嫌ってほど海馬の嘘くさい営業スマイルをメディアで見てるから、今何やってんのかなーくらいは大体把握しているものの。
でも…だって、コイツはオレの近況なんて、多分全く知らないんだぜ?
なのにどうしてこんなに、まるで昨日会ったばかりみたいに、しれっと淡白でいられるのか。
(っていうかコイツ… 全然当時と変わってない…)
海馬はオレにまるで興味がなさそうだ。
オレは意外にもそれに対し、不思議と嫌な気持ちは全く起こらなかった。
好感度が底打ちしてるって事なのかもなぁと、一方のオレもオレで、割と落ち着いていたりして…。
「モクバから話は聞いたぞ。貴様、このオレに挑戦状を叩きつけると宣っていたそうだな」
「えっ……(モクバのヤツ、一体どういう伝え方したんだ)?」
「何で勝負をつけるつもりか知らんが、用意が済んだら声をかけろ」
「いや、えーとそのえっと…、どうも相互間の意思疎通に…問題が…」
「さては怖気づいたか?」
「…ンなわけっ… ねーからっ!!」
KC社員がビジネスホテル代わりに使っているという、マンションの一室。
海馬に連れられて上がり込んだオレの目に、真っ先に飛び込んできたのは、新旧ラインナップ豊富なゲームソフトの山だった。
…本当はすぐに、海馬に例の話をしてもよかったんだ。アイツは少なくとも、声をかけろとは言っていたんだし。
でも、その話題ってのが実はちょっとデリケートでさ。
オレはイマイチ…上手く切り出せずに。
だから最初は、とりあえずお近づき()のためーとか内心言い訳しながら、ちゃっかりゲームに手を付けたオレだったんだけど…。
お互いに昔のまま全然変わりないノリだった事もあって、それで昔みたいに、いつの間にか2人でゲーム対戦して遊ぶ流れになって───、
最初にどちらが言い出したんだっけ。互いにエキサイトしていく中で、「罰ゲーム」のルールが追加されていた。
(オレが勝ったらコイツに真相を吐かせる、ってのもアリかも)
ぼんやりそんな考えも浮かんではいたが、所詮そんなものは、覚悟が決まらない己に用意した逃げ道でさ。
おまけに結局、オレはアイツに全戦全敗。
実力の差…いやそれよりも、やっぱり迷いだったり気持ちの面で負けていたのが大きいと、オレ個人的には思ったりもする。
ともかくとして負けは負け。アイツが一方的にオレをイジメ倒す展開になってしまった。
海馬としては、オレの挑戦に対して正々堂々きっちりケリをつけた、ってところなんだろうな。
ヤツが勝ってノリノリではしゃいでいたから、分かる。 …正直ムカつく(笑)
そのノリノリのまま、好き勝手に罰ゲームを命じてきやがったんだ。
「あの時」みたいな、それこそ命の危機みたいなヤバイのこそなかったけれど(あってたまるか)。
でもマンションはルームサービス完備だったから、パシリって言ってもせいぜいそのへんの物を取ってくるとか。片付けるとか。そのレベルで。
あとは難問クイズを出されたり、一発芸をやらされてコケにされたり…。って、考えてみるとせいぜいそのくらいかな。
そのくらいって言えちゃうオレは、ちなみに、多分感覚が相当マヒしていると思う。
まぁ、色々あったからなぁ…。苦手なオカルト系なんかも含めて色々。
ところがだ。その中にただ一つ、どうにも解せない「罰ゲーム」があったんだ。
海馬による数々の理不尽を目の当たりにしてきたオレをもってしても、解せない。
それが、なんとまさかの ・・・キス。
しかも唇同士の。
(なんでだ?)
(マジで意味不明。最悪すぎる…)
本当になんでなんだろう?いくらアイツが根っからの変人でも、変さの方向性が違いすぎだろって。
「……な……ッ!??」
「ふふ、…」
アイツは愉快そうに笑っていやがった。
オレは恥ずかしさと傷ついたプライドと、何より訳が分からなくて頭がおかしくなりそうで、滅茶苦茶ブチギれて。
───で…、
何故かその日の帰りに、同ルールでのリベンジマッチを申し込んでいたオレがいた。
その日はもう夜バイトの時間だったから、後日改めてという約束でだ。
これはもう、とんでもなく壮大なギャグオチかも知れない。
自分でも、自分がどうしてこんな突飛な行動を取ったのか。さっぱりだった。
究極のギャグってやつは、本人の意識を超えた無意識から生まれるって。
テレビでもし大御所芸人あたりがそんな事言ってくれたら、我先にと飛びつく勢いで、オレは全力でそれに納得したかったよ。
(ダメだなぁ。モクバのヤツ、話を見事にこんがらがらせてくれてさ)
(海馬のアドレスなんかを教わって、そこから話を聞き出すのが一番手っ取り早い)
正解なら分かっている。
なのにオレは、海馬にまた2人で会おうって。会って一緒に「罰ゲーム」ありのゲームでまた対戦しようって、何故か自分から頼んでいたんだ。
いや、最初から負けるつもりで勝負なんて挑むもんじゃないけどよ。
次にやるなら、絶対オレが勝つつもりだけど!… けどその「次」ってのがな…。
だって相手はキスしてくるようなヤツなんだぞ? 会いたくないのが普通だろ?
(な~んであんな約束しちゃったかなぁ~)
おかしい。アイツもアイツで意味不明だが、オレも同じくらいに意味不明。
いくら頭に血が上ったからって、ありえなすぎる行動。
ムカつく体験をしたんなら、普通はそれを避けようとするだろ?
それこそ逆に…血が上ってブチギレていればいるほど、本能的に避ける、まである。
大体オレは、現実にアイツを目の前にしちまうと、訊きたい事の1つもロクに訊けやしないっていうのに。
そればかりか、まさかこんな……。
(ヘンなキスされて、コケにされて……)
それでもまだ尻尾振って、アイツにまとわりつこうとしてるっていうのか───!!?
「オレ、一体どうしちまったんだろう…」
■
と。ここまでが、オレと海馬が初めて2人で会った日の出来事だ。
この話に続きがあるのは、それはつまり、海馬のヤローが律儀にオレとの約束を守ってくれやがったって事だ。
実をいうとついさっきまで、このオレの部屋に海馬が来ていたのだ……。
■
(引っ越したばっかなのに、なんで住所知ってんだ?)
(なんでコイツ、オレが今日が休みだって知ってんだ?…)
2人で会うのは2度目。
海馬は今度はオレのアパートの部屋に、夜間いきなり上がり込んできた。
「来てやったぞ」
「ええっ……」
驚いたが、常識の通じないヤツなのは分かっているもんで。仕方なく約束通り、一緒にゲームをしまくった。
…ヤツの中では、オレは前回の全戦全敗という不名誉な結果に納得せず、イチャモンをつけている、という解釈になっているらしい。
「神聖なる決着を疑う、か…。勝利の女神を侮辱するとは、落ちたものよ」
「…神聖?あれが!?(あと、女神!?) 大体お前ハメ技ばっか使ってたじゃねーか!!」
「それも戦略だ。まあ貴様にまだ闘う意志があるというなら、こちらも何度でも受けて立つぞ」
「くっそ~…。今度こそお前をメッタメタのギッタンギッタンにしてやる…!!」
売り言葉に買い言葉。海馬といると、どんどんコイツのペースに巻き込まれていく。
でも実際、前回のコイツのプレイングの鬼畜害悪ぶりにはぶっちゃけ腹が立っていたし、
それに勝負するからには、オレだって勝ちたいってのは、当然あってだな…。
つい目的を忘れて熱が入っちまうってのも、哀しいデュエリスト兼ゲーマーの性なんだろうな。
ところでだ。最近は忙しくてあんまりプレイできていなかったとはいえ、ここはあくまで
オレの部屋。ラインナップはオレお気に入りの愛用ソフトばかり。
圧倒的アドバンテージはオレにあり…。 それで、結果はどうだったと思う?
───1勝23敗。本当にムカつく。
ムカつくけど、でも今度は1回だけ、オレが勝ったんだ!運も実力の内ってやつの、その運で!
あの時の海馬の悔しそうな顔ったらないぜ。このオレに負けた事実が、よほど受け入れられなかったんだろう。
こうして「罰ゲーム」ルールを初めて行使できる立場に立ったオレは……、
海馬にブルーアイズのモノマネをするよう命じてみた。
例のデリケートな話については、うっかり頭の中からぜーんぶ抜け落ちていた。
ホンット、何やってんだろうオレ。
海馬のモノマネについては… とにかく下手だった、とだけはいっておく。
「神聖なる決着」を遵守したい気持ちと本人のプライドがぶつかり合った結果なのか、何とも中途半端で残念で歯がゆい仕上がりになっていた。
「………(うわぁ…)」
どうしよう、この空気。って。
積年の恨みから思いっきり馬鹿にして大笑いしてやろうと思っていたオレですら、ちょっと引きつった微妙な笑いになってしまう。そんなレベルだったのだ。
そんなオレの反応が、かえって海馬の逆鱗に触れたようで。
うっかり本気モードにさせた海馬に、その後オレは全敗。ボッコボコにのめされてしまったのだった……。
「ちょっと待て。お前社長だろ、忙しいんだろ?なんでこんなどマイナーなクソゲーの攻略法まで知ってるわけ?」
「知らん、王者の貫禄というやつだ。というか、どマイナーなクソゲーなどこのオレにプレイさせるな」
「だってこのゲームなら勝てると思ったんだよ。なのにお前上手すぎだし!結局すげー楽しんでんじゃん!」
「…王者の貫禄だ」
休みの夜は家で酒を飲んでいる事が多い。
今日も1人飲みでテレビを見て、リラックスしていた。
そこに突然乱入されたんだ。この海馬のヤローに。
まさに降ってわいた災難であり、…勝負の女神だか運命の女神だかは知らないけど…、
悪口の一つくらい、オレには許されてしかるべきなんじゃないか?
───さっきまではコントローラー片手に美味しく飲んでいた酒が、どんどんまずくなっていく。
ま、所詮コンビニで買った安酒とはいえ、だ。
ゲームでは完膚なきまでに叩き潰され、罰ゲームも徐々にエスカレート。
オレもオレで酔いが回ったせいもあってか、あんなヤツの命令を素直に聞いちゃうってのもダメだったなと思う。
やれ何か軽い夕食を作れだの、新聞を取ってこいだの、肩をもめだの…。そんなの部下か彼女にでも頼めってのな。
っていうかコイツに彼女なんているのかな?っていうか、いた試しあるのかな?
(オレが女だったら絶対こんなヤツ嫌だけどな。いくら金持ちで顔が良くったって…)
一応はオレから頼んだリターンマッチな手前、引くに引けない。渋々全ての罰ゲームをやりきっていくオレだった。
レッドアイズのモノマネに関しては、海馬のブルーアイズより100倍上手かったと自分では思う。
上手すぎて、明日玄関のドアに貼り紙がされてないか心配なくらいだ。
ともかく。
(ヤバイ。なんか… ちょっとハイペース過ぎたかも…)
テーブルに並んだ空のアルミ缶とオレをちらちら交互に見て、海馬が苦々しげに言った。
「明日は仕事なのだろう?ちゃんと考えているのか?」
「おいっ!!夜中に急に押しかけてきてゲームしといて言う事かっ!!」
全く。一体どういう感覚していやがるんだ、コイツは…。
確かにオレ自身、酒癖の悪さが親父に似てきたかなって自覚も、なくはないものの。
1人でチビチビやるより誰かといるほうが、やっぱりペースは進んじゃうよなぁ。
騒がしいヤツと一緒なら、猶更さ。
「どうだ、またオレの勝ちだ!しかも貴様は最下位!」
「しゃーねーだろー…飲酒運転だもんよぉー…」
「では飲酒運転分の罰ゲームも上乗せさせてやる」
「うー…それだけはやめてー…」
そんな調子で。今日もまた罰ゲームをくらいまくったし、…何度かキスもされた。
おかしいだろ!キスだぞ、キス!
それも「何度か」だ。この前は1度だけだったのに!
完全にアイツを調子にのせちまったかも知れない。変なアジをしめさせてしまった。
でもそれにしても気になるのは───、…アイツってホモだったっけ…?
ホモはどうかは別にしても、少なくともオレの事は大嫌いなはずだ。
実際殺意のこもった目をして、死ね死ね言われた。他にも凡骨だとか駄犬だとか、散々。
オレもオレで「そっちこそ死ね!」と凄み返してさ。雰囲気も馴れ合いすらも、欠片もない。
完全バトルモード。
こんな状態で男2人で、なんでキスなんかしてるんだろうなぁーって。
オレも分かっていないけど、もしかしたら海馬自身も分かってないのかも知れない。
純粋にオレを徹底して虐げたい精神で、自爆攻撃をかましているんだとすれば…、
さすがにそこまでくると、ちょっとスゲエな、と(何故か)思わなくもないが。
でもアイツはそんなヤツじゃない。もっとスマートに(だからなんだそれ)オレを虐げられる方法なんて、いくらでもあるだろう?
だから余計に、変で奇妙で、───理不尽なキスだった。
「チックショー…テメ…っ、気持ち悪いんだよ…っっ」
「フン‥そうでなければ罰ゲームにならんからな」
「てかもっと他にやり方ってねーのかよ…。変態!キス魔!セクハラ社長!」
「…失礼な。オレとて貴様相手は気持ち悪くて堪らないぞ。ああ、つくづく最低な気分だ」
やっぱり。やっぱり純粋に嫌がらせなんだろうか?
ならホントどうかしてるよ…いけ好かないクソヤローめ…。
けどそれにしては、どうにもオレには海馬がキスそのものを楽しんでいるように見えて、仕方がないのだった。
(マジで一体何なんだろ、これ……)
アイツもアイツだが、オレもオレ。
結局オレたちは、最低なキスをそうやって何度か繰り返した。
…なめらかな、唇の感触。薄くてキレイな形の唇だとは思う。
近づいてまた離れていく時にちらっと見える肌も、毛穴なんかなさそうだし。
シャープな輪郭。意外と長い睫毛が明るいブラウンだって事に、初めて気が付いた。
化粧のニオイのしないキス。
「……う、……」
「どうした?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる海馬だが、ゆっくり開かれたその目は決して笑っていない。
あくまで攻撃的なその青い瞳の、常にオレを狙い射ぬくような、鋭い視線。
そこだよ、そこがムカつくんだよな。何だってそんなにオレをいたぶるかね?
そこさえなければ── もうちょっと、どうにかなっていたかも知れないのに。
って。オレ、今何を考えてた…?
そう、ずっとムカついてたんだ。久々に会ったその瞬間からずっと。
昔から全然変わってない、オレをとことんバカにしたその目。
いつも自分だけみんな違う、遠いとこを見通してますー、みたいなその目。さ。
そのくせすぐに目先の事で熱くなるし、何やってもいつも誰より本気だし。
それに、いっつもガキみたいに楽しそうなんだぜ。人の事は散々ガキ扱いしといてさ。
…コイツが一番ガキなんだよ。ガキみたいにまっすぐにキラキラした感じでとんでもない事やってるから、だからなんか全部許されちまう。大目に見てあげようってみんなが思う。
おっかしいだろ…。ズルいだろ、そんなの。
この間会った時もそうだった。海馬は本気で楽しそうだった。
今日もそう。どマイナーなクソゲー含め…ゲームしてる間中ずっと本気で楽しそうだったし、
それに「罰ゲーム」で、こんなふざけたキスなんかしてる今だって、お前は───…!
「…楽しんでんだろ、かいば、てめー…」
「…………。本音を言うとな、割と楽しい」
「っざけんな…。何がたのしいんだよ、…こんな…っ」
「楽しいさ。貴様がいちいちマヌケな反応を晒すのを観察するのは、楽しい」
「………死ねっ!」
畜生。ムカつきすぎてどうにかなっちまいそうだ。
ムカつきすぎてるせいでどうにかなっちまうのか、…でも、もしかしてそれ以外なのか。
分からない。
やばい。何も分からなくなってきた…。きっと酒のせいもあるだろう。
どうしよう、本当にどうにかなる。
何なんだこれ。とにかく、 ……最悪だ……!!
「……もう、やめろって……! あ…っ…」
「ん?これがどうかしたか?」
「触んな変態っ…!てかオレ、え、まって、なんか脱がされてっし…」
「貴様が暑い暑いと言って、少し前に自分で脱いだのだろうが」
「うるせえっ! …見んなよ…こっちみんな、 ムカツク……ッ」
「ふっ。城之内…貴様こそオレをそんな目で見ておいて、よく言うわ」
「名前…、呼ぶなっ…! 近…い、から……!」
(えっ何だって…?オレが?海馬を… 何───)
「…なんで… おまえ…、オレ…」
ほとんど無意識に口走った根本的な疑問は、まともなニホンゴの体をなしていなかった。
そのせいか、海馬が小さな声で何か呟いたけれど、何と言ったのか聞こえなかったし、聞き返す事もオレはしなかった。
「城之内。貴様のその瞳を見ていると・・・・・・・が過る」
(ちょっとまってよ……いみ、ぜんぜんわかんね……)
思考力が追い付かない。
それより何より、オレの唇は、いつの間にか海馬のそれでしっかりと塞がれていたから。
「………………!!」
(な、に…が…………)
罰ゲーム、じゃない…。ゲームはもう終わったし、当然オレは負けてもいないのだ。
キスされる理由なんて何もない。完全なる不意打ちであり…、要は「反則」のキスだった。
「……んっ、……ん、ぅ…‥っ!!」
反則のキスは、恐らく一見すると、普通の恋人同士のキスみたいな光景をしているんだろう。
オレたちは実際にはこんなにお互いが大嫌い同士で、今は丁度ケンカのクライマックスで。
内心殺意高めでメチャクチャにブチギレ合ってるっていうのに。
つくづく理不尽な話だよ──とぼんやり思いかけて。でも、それならばキスなんかしているほうがおかしいという当たり前の大正解に、酔いの回った頭でもかろうじていきついた、オレだった。
「ン、ン――…!!」
とはいえ、わずかに試みた抵抗はあえなく封じられる。
(ああ、でもそういえば、こうしてるとさすがに悪口も振ってこない)などなど…
当たり前すぎる事を今更新発見したりしながら、すっかりされるがままになっていた。
まったくもって理不尽の極み。
しかも反則のキスでは、なんと舌まで入ってくるらしい。
オレみたいに一方的にただがっつくんじゃなくて、まるで…会話とか駆け引きするみたいに…?やけに上手くて。 洗練されたキスだった。
その時にはオレはもう、正直、心も身体も完全におかしくなっていて……、
色んな感情が混じり合って訳が分からない。オレはとにかく感じ過ぎてしまい、
とにかく感じ過ぎて、全身が敏感になって、オレがオレじゃないみたいで─── 怖かった。
(このままじゃヤバイ)
(ヤバイ)
(ヤバイ)
「……や 、めろぉ ッ……!!」
力いっぱい突き飛ばそうと咄嗟に伸びた腕が、パシリと乾いた音を立てる。
左手はきっちりとネクタイをしめたシャツの広い肩に、右手は固い掌に受け止められていた事に気付く。
そのままオレより長い腕がゆっくりと下ろされるのを、妙に神妙な感じで、じっと最後まで見守ってしまった。
「はあ…… はあ……」
(なんなんだよ、この感じ……)
相手が男だという事を改めて思い知ったオレがいた。今更ながら、女の子とは違うんだ。
「ヘン…だ…!」
「ん? ヘンになりそうか?」
「ヘンだろこんなの……」
「そうだな、…確かに、そうみたいだぞ」
「……や……っ!!」
カアッと全身が熱くなる。
床にずるずると倒れたオレに乗り上げてくるヤツの身体は薄っぺらくて、随分細身に見える。それでも、押してもビクともしなかった。
ゲームをプレイすれば完全に力負け。現実世界でも、こんな風に力で捻じ込まれてしまうなんて───。
(す、っげえムカつく…)
強い怒りの衝動がぐつぐつと煮えたぎるのを感じた。
と同時に、一層身体の奥では痺れるような熱が…何やら切なさを訴え、オレの肌は敏感になっていったんだ。
「……あ…、ぁ……」
衝動が増すほどに感じてしまう。
(オレって、ホモじゃなくてマゾだったのか…?)
こんなに悔しくて腹が立つのは、一体いつ以来だろう。
大体にして海馬ほどムカつくヤローは他にいないから、もしすると最後に海馬にムカついて以来かも知れない。
多分そうだ、高校卒業前に最後に記念デュエルした時以来、とか……?
(畜生っ、オレまで変態にする気かよ…!!)
(コイツ……絶対許さねえ……!!)
圧倒的な力で支配される感覚。いつもそうだった。
デュエルでも、ゲームでも、──今も、コイツはいつもオレの前に立ちはだかって。
で、滅茶苦茶にやりやがるんだ。清々しいくらいにさ。
「いいザマだな」
「う……………」
こんなに近くで海馬の顔なんて見た事なかったから、見てると余計にくらくらしてくる。
だけど、どうしてだろう…全然目が離せなかった。
相変わらずまっすぐで遠慮のない、青く爛々と燃えるような、ヤツの眼差し。
それに顔や、肩や胸や、腕や…、触れてくる腕の動き。
オレは何故かしっかりとそれらを、少しも逃さず凝視していたのだ。
本当に、なんでなんだろうな。そこまでドMだなんて自覚はさすがにない。
ただ───唯一思い当たる事といえば……、
この期に及んでそれかよって感じになっちゃうかも知れないけれど。やっぱり唯一確かなのは、オレとコイツが、デュエリストでありゲーマーだっていう事、なのだった。
だってオレは、コイツが昔から超絶大嫌いだけど、コイツがデュエルとかゲームしてる姿は、いつだってちゃんと見ていたから。
むしろいつかぶっ倒してやる、吠え面かかしてやるって心に決めていたからこそ、誰よりちゃんと真剣に見ていたかも知れない。
(ただそれが高じてこんなんなっちゃうなんて…、さすがに救えなすぎだよな…)
…まぁあんまり言いたくないけど、シャクだけど、スゴいなあとは思っていたんだ。
正直ちょっとカッコイイとも思った。海馬が繰り広げてきた、熱いデュエル。
いつもムカつくくらい、本気で楽しそうな顔してんなーって。
それにコイツの手。コイツの手や指の動きも、オレはかなり息を飲んで見詰めていたんだっけ。
カードさばきにしろ、コントローラーの操作にしろ、さ…。ホントスゲーなーって…。
コイツの手が動く時、勝負も動くから。なんか奇跡みたいな事ばっか次々起こすんだもんな。
超絶・超超大嫌いだけど、……そりゃあ、見とれた。見惚れた。惹きこまれないわけがなかったよ。
───で、
今は、そういうのが全部オレに向けられてるわけだろ。
それを考え出しちまうと、オレは……… もう………。
不意に視界が暗くなった。下りてきた茶色の髪がオレの頬をさらりと撫でる。
手足の自由は依然奪われたままで、更にぐぐっと、全身にかかる重みが増した。
オレは完全に、アイツに組み敷かれた状態になっていた。
(あ…これ、多分ヤバイやつ…)
「大声を出すなよ」
そう言われて、余計に大声を出したくなった。
ところが次の瞬間─── 海馬は、あっさりとオレから離れたのだった。
玄関ドアに2枚目の貼り紙がされるかという、ギリギリすんでのところで。
「え、っ………?」
肩透かしを食らったオレは、きょとんとしながら、よっぽど必死な様子で海馬を見上げていたんだと思う。
実際確かに、身体の芯が溶けそうなくらい、疼いたままだったから…。
「そら。その目だ」
と。海馬のヤローはいかにも涼しげに目を細めながら、愉快そうだ。
だけどオレに言わせれば、そういうアイツの目こそ、本気剥き出しでギラついていやがるんだ。
海馬の目はいつも以上に本気だし、それに、なんだかすごく楽しそうだ。
だからこそオレだって、迫りくる身の危険を感じたんだからさ。
身の危険と、あとは─── いや、もうやめとこう…。
「どうした? 続きをして欲しいか?」
意地悪く口元を歪める海馬を前にしても、オレは抗議する気力をすっかり失っていた。
「………………」
「だんまりか。…成程、貴様が望む事をすれば『罰ゲーム』にはならないからな」
海馬は何か1人でぶつぶつ言っている。なになに?発動条件?オレが嫌がっていれば「罰ゲーム」の適用範囲になるって?
でもオレが嫌がらないと「罰ゲーム」にはならないから、オレが続きを望む場合はあえてオレの口からは……
って。オレがそんなややこしい計算すると思うか?シラフでも出来ないのに、こんな状態で出来るわけないんだけどなぁ。
「バーカ…。てか、オレたち結構前からゲームしてねーじゃん…」
「!! 城之内の分際で生意気な口を」
なにが城之内の分際で、何が生意気なんだよ。…(笑) もうマジ勘弁してくれ。
こっちはただでさえ……色々抑えるのに、大変なんだからさ……。
(勘違いすんなよ。テメーの事は大嫌いだけど、寸止めがきついって話だからな)
(それだけ寸止めは重罪なんだぞ、重・罪!!)
そう念を込めて睨んだら睨んだで、かえって海馬を煽るだけなのは分かった。
だからオレは一度起こした身体を、へなへなと再び床に横たえて。
心持ち腰あたりをくの字に折り曲げて…、あとはそれきり動くのをやめた。
というか、動けない。
「1人で早く何とかしろ。オレは帰ってやる」
「……余計なお世話……!」
(お前のほうこそ本気だったくせに…)
(っていうか、人を襲っといて何だよ!!)
さっきまで部屋中に満ちていた妙な熱気と空気を、一瞬で払いのけるように。
海馬は素人目にも上等と分かる上着を、バサッと勢いよく羽織った。
…コイツがオレの部屋に誰より似合わない存在だって事を、その瞬間に思い出す。
あっという間に、別世界の人間の出来上がりだ。
しかも、そこからがまた早かった。
みっともなく動けないままのオレにくるりと背を向けた海馬は、本当にそのままスタスタと帰ってしまったのだ。
相変わらずロクに、別れの挨拶の一つもなく!
(あ~あ…)
問題の玄関ドアを閉める音がかすかに響いてきた時、ようやくオレの中では今日1日分の諦めがついた。
結局またしても、肝心な事を訊けず終いだった事。
せっかく引っ越してきて以来そこそこキレイな状態を保っていた部屋が、今日だけで一気に散らかってしまった事(多分オレはこのまま片付けない)。
間違いなく二日酔いになって、明日のバイトは相当しんどそうだって事。
それからとりあえずは…、海馬の言うとおりに「1人で何とか」しなきゃいけないって事もな(最悪だ)。
……。
逆にそれ以外の部分については、全然諦めがついていないとも言える。
諦めどうこう以前に、状況や気持ちの整理自体がついていない事は多々あった。
というか、ありすぎた。
まさかオレが、海馬とあんな事になるなんて……。
(しかもあれじゃあまるで、本気同士だったよな…)
海馬も一応バカじゃないはずだ。ではアイツ自身は、一体どういうつもりなんだろう。
そして何より、オレ自身の中に芽生えた、この奇妙な感覚の正体は────。
────────…。
■
アイツが帰った後の部屋は──なんだかんだで引っ越し前の部屋と比べて少しは片付いているせいもあるのかないのか──、今はやけにぽっかりと広々と、感じられる。
「クッソ…海馬のヤロー…」
凄く、疲れた。
明日のバイトはシフト的にどうしても休めないし、それなら今すぐにでも寝てしまわないと、って。
そう頭では考えているのに、
オレの疲れ知らずの右手ときたら、さっきから行方不明の携帯電話を探して、勝手にベッドの枕元のあたりをもぞもぞまさぐっている。
すぐにでもアイツに、「今度こそ絶対勝つから、もう1回勝負してくれ!」「あ、勿論罰ゲームありで!」とメールしたくて、うずうずしているんだろう。
多分…オレの手が、勝手に。
いや、手だけじゃない。アイツに触れられたところとか、…唇とか…身体中が、未だに甘い熱感を帯びて、勝手にいつまでもそわそわしている。
(1人で何とか…できてねーじゃねーかよ…)
本当にオレは、どうしてしまったのか。
…実はオレがずっとアイツに確かめたかった事というのは、オレの妹の静香の事なんだ。
静香はこの春、KC系列のある企業に就職して、以来なんだか前より明るくなって。毎日生き生きしている。
それについては兄としては当然嬉しく思っていたし、今後も勿論応援していくつもりではいるんだけどさ。
──KC系列って言っても、向こうは今や超巨大企業だから。特にお膝元の童実野やその近辺じゃ、むしろKCに全く関わっていない企業のほうが珍しいくらいだから。だからオレは、特に何も気にしていなかった。
本当に何も気にしてなかったんだよ。第一静香自身も、周りの誰もがそのはずなんだ。
下請けも下請けの一フランチャイズ店に、それも末端の現場に、まさかKC社長が直々に現れるなんて。誰もそんな事、わざわざ想像しないだろ?
静香からその話を聞かされた時は、オレも我が耳を疑った。
海馬が何度か静香のいる店を訪れて、しかもその度に声をかけてきたんだと。
問い詰めたい気持ちを何とか押さえて、静香の話を聞く限りでは、…当然そりゃ「ちょっと昔話をしただけ」「あとは特に何でもない」「どうもしてない」って、なるよな?
いや、アイツはオレよりよっぽどデキた妹だし、疑うわけじゃないけどさ。
兄バカだって思われたくないし、それにアイツももうそういう年頃…大人なんだもんな。お互い信頼して自立しなきゃダメだってのは分かってるんだけど。
だけど……。
モクバからも気になる話があった。それが、どうも静香と海馬が個人的に連絡を取ってるんじゃないか、っていう内容だった。
あとは、オレの知り合いで、同じモールの中で働いてるヤツの目撃情報でも、どうもそれらしいヤツがあったんだ。
それも2人きりになる時間があったとか、どうも親密そうだったっていう情報が……。
…………。
オレは正直戸惑ったし、未だにずっと戸惑っている。
海馬のヤローは大嫌いだけど、…とにかく凄いヤツだし、なんだかんだで根はいいヤツだって事はオレも分かってはいるんだ。
でもなんで、よりによって静香なんだろうって。
みっともない男の嫉妬って言われればそれまでだろうけど──、
でも、ここまでくると限りなく「確定」に近い状況で、静香がいつまでもオレに本当の事を話してくれないっていう点が、オレにはどうも気がかりでならなかった。
…ついでにいうと、あの海馬がモクバや周囲に何も話していないってあたりもな。
あんなムダに何でも大声で言って回るようなヤツが、隠し事ってさ。それってもう、なんか… どうなんだろう?って。
オレだって、こうセコセコ詮索して回るようなマネは好きじゃない。
かといって──情けないけど本音だ──静香にはウザイ兄貴だと思われたくないから、だったら海馬のほうから聞き出してやろうってつもりでいたんだよ。
そうして後はスッキリした気分で、現実をドーンと受け入れるつもりでいた。
ところがだ。
何の冗談かよって感じで、
まさかのまさかで、オレと海馬自身がこうなっちまって……。
一体オレはどんな顔して、海馬や静香に「本当の事」を訊けばいいんだろう?
というか、オレは2人から一体何を聞き出したいんだろう?
どちらかというかオレ自身が懺悔したいくらいだけど、でもそれをやったら、2人の人生を狂わせてしまうかも知れない。
…なら、やはりオレはオレ自身の事は隠し通すしかないのか。
(するともしかして、静香たちも何かが壊れるのを気にして、それで黙ってるのかも…)
(けどその場合の壊れるものって、何だ?あの2人には、別に気にすべきものなんてないと思うけど…)
どんどん分からなくなっていく。
最近ではむしろ、「知りたくない」と思う事のほうが増えてきたと感じる始末だ。
静香と海馬の関係の真相なんて、知りたくない。
知るのが怖い、知ってしまった時のオレ自身が怖い、って……。
(そういえば、海馬が最中に、何かよく分からない事言ってた気がする…)
(あれってどういう意味だったのかな…)
今となっては、それすら知るのを怖いと思ってしまうんだ。
だってもし、万が一、オレと海馬がこうなった事が、単なる「間違い」じゃなかったら…どうする?
それで 『もし静香にも、噂通り本当にアイツが接近しているとしたら』。
アイツはオレをダシにして、静香に近付いたのか?
それとも静香をダシにして、オレに…?
まさか、考えづらい事だけど、…静香の方から?って、まさかな、そんなまさか。
…いずれにせよ、全てがあまりに受け入れがたい。想像すらしたくなかった。
何をどう感じていいのかも分からないし、どうするのが正解かも分からない。
そんな状態で、下手に、無責任に真実を知ってしまったところで、じゃあ一体どうすればいいんだよって。
オレなんかに分かるわけない。要はそういう事なんだ。
「おかしな事になっちまったもんだよなあ…」
頼みの綱のモクバにも、さすがにこんな相談はできないな。
アイツは兄貴の事大好きだし崇拝してるから、とてもじゃないがこんな事話せない。
・・・
ただこれは恐らくなんだけど、海馬とあんな風になる前から、オレは本音では真実を知るのが怖かったんだろう。
だから海馬と久しぶりに会ったあの日も、「事件」が起こる前から、既にアイツに何も聞けなかった。
で、その後「事件」があって、…キスをして。2回目に会って──と、
日を追うごとに、どんどんオレの気持ちはおかしな方向にぶれていった。
もう今のオレでは、純粋に2人を祝福できないかも知れない。
いや、祝福どころか、考えたくはないが……… 下手をするとオレは2人に対し………。
「貴様、いい目をするな」
どのタイミングだっけ。海馬がそういえばオレに言ったんだった。
悔しがるオレをからっているんだと受け取ったオレは、すぐに素直に反発した。
だけど……なんでだろう、あのセリフが頭を離れない。
何度も何度も、頭の中で延々とリピートされている。
「いい目だ。最近は久しくそんな目を見ていなかった」…と。
ほんの一瞬落とした視線に、寂しげな影が過ったようだった海馬が、すぐにまたオレを真っすぐに見るなり、ハッキリとそう言ったから。
オレのほうこそ、あの時の海馬の青い瞳が、脳裏に焼き付いて全然離れないから。
「そうだ、その目だ……」。
強く眩しい、青い光が揺れる。
鼻の奥、遠くのほうで、なんだか懐かしい匂いがした気がした。
………。
■
「やっと出てきた!! ったく手間取らせやがってよー」
布団の奥からついに探り当てた携帯。オレが海馬に「三度目の挑戦状」を叩き付けるのは、もはや時間の問題だった。
とはいえまだヤツが部屋を出ていってから、せいぜい数十分しか経っていないわけなのだが。
それでもはやる気持ちを押さえられないのは、勿論オレが酔っ払ってるせいだけじゃない。
メールの文面をぽちぽちとキーで打っている間は、少しだけ照れ臭い感じもしたけれど。
送信ボタンを押し終えてしまえば、あとは次にアイツと会える日のへ期待と想像が、ただただ膨らむばかりなのだ。
…必ず海馬はオレに会ってくれる。2人きりで絶対に楽しい時間を過ごせる。
それに、嫌だけど!すっげえ嫌だけど!…次はもっと沢山キスされるかも知れないし、場合によってはその先だって───…。
オレは酔いと多幸感に包まれながら、遅れてやってきた泥のような眠気に、吸い込まれるように落ちていった。
半分夢を見ながら、「次に会うときは酒は一滴も飲まない」と胸に誓ったオレだったが。
いかんせん半分夢な以上、朝起きたらその誓いは忘れているかも知れない。
またそれと同じように、「海馬に静香との事を訊ねようと思う事は、もう二度と決してないだろう」という確信にも至っていたけど。
そっちもどうせ朝方にはきれいさっぱり忘れてしまっているんだって。予想はできていた。
それでも一向に問題ないんだ。だってオレには自信があったから。
明日になって二日酔いが治まって、それから何日が経って何がどうなろうと、
アイツに対するオレの気持ちは変わらない。って、今はそうしっかりと理解しちまったからさ。
もっとも…、禁酒の「誓い」に関しては、誓いを立てる気持ちが揺らがないというだけで、
実際に飲むか飲まないかは別、という逃げ道が、ちゃんと用意されてるわけなんだけどな。
…こんなに深刻な悩みを抱えながら頑張ってるんだから、そのくらいはオレも許されてもいいはずだろ?って。
少なくともオレは、そう思うんだ。
―END―