内分泌代謝内科 備忘録

プロラクチノーマ 前編

プロラクチノーマ患者へのアプローチ
J Clin Endcrinol Metab 2023; 108: 2400-2423

プロラクチノーマ (prolactinoma) は最も多い下垂体腫瘍の組織型であり、マイクロプロラクチノーマ (microprolactinoma) は女性に、マクロプロラクチノーマ (macroprolactinoma) は男性に多い。

高プロラクチン血症は、男女ともに中枢性腺機能低下症 (hypogonadotropic hypogonadism) の主な原因のひとつであり、男女ともに性腺機能低下症(不妊症、希発-無月経、インポテンス、骨粗しょう症/骨量減少症)、および主に男性では mass effect の徴候および症状(下垂体機能低下症、視力低下、視交叉圧排、脳神経障害、頭痛)に対する評価が必要である。

診断のための検査には、プロラクチンの単回測定および下垂体画像が含まれるが、いくつかの臨床検査値のアーチファクト(すなわち、「フック効果 (hook effect)」およびマクロプロラクチン [macroprolactine])は、診断を複雑にしたり遅らせたりすることがある。

プロラクチノーマに対する治療の選択肢は、ドパミンアゴニスト (dopamine agonist)、主にカベルゴリン (cabergoline) である。これらは疾患をコントロールし、男女とも生殖能を回復させる。また、患者の 3 分の 1 では治癒し、治療を終了することが可能である。妊娠と閉経はプロラクチンの自然減少を促進し、女性ではカベルゴリン服用が中止できることがある。

カベルゴリンに抵抗性があり、薬剤を最大耐用量まで増量しても疾患をコントロールできない場合、あるいは患者が希望する場合には手術や放射線治療が行われる。浸潤性・増殖性腫瘍でカベルゴリン抵抗性が認められた場合、悪性が示唆されるため、テモゾロミド (temozolomide) 単独もしくは放射線療法との併用を主とする治療が必要になる。

コントロール不能な患者に対しては、新しい医学的アプローチ(代替ホルモン療法 [alternative hormonal therapy]、細胞毒性薬 [cytotoxic drugs]、ペプチド受容体放射性核種療法 [peptide receptor radionucleotide therapy]、mTOR/Akt 阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬、または免疫療法)が提供される可能性があるが、これまでに収集された経験はまだ非常に乏しい。本論文ではプロラクチノーマの様々な側面について概説し、より一般的な臨床状況におけるこの疾患へのアプローチについて論じる。

peptide receptor radionucleotide therapy
https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/neuroendocrine-tumours-nets/treatment/radiotherapy/peptide-receptor-radionuclide-therapy-prrt


症例 1
2019 年 2 月、40 歳の男性患者が、繰り返す激しい頭痛のため神経内科を受診した。頭痛の原因を調べるために行われた検査のうち、脳磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging: MRI)検査で、大きさ 8×6×8 mm(腫瘍体積: 1.96 cm3)の鞍内下垂体微小腺腫 (intrasellar pituitary microadenoma) が認められた。

その後、患者は内分泌学的評価のために紹介された。病歴から、患者はそれぞれ 4 歳と 2 歳の 2 児の父親であることが明らかになった。性欲減退 (decreased libido) と勃起不全 (erectile dysfunction) が過去 1 年間に起こった。

内分泌学的評価では、下垂体機能検査により高プロラクチン血症(プロラクチン [prolactin: PRL]、900 μg/L;正常範囲、5-20 μg/L)および低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(FSH 1.1 IU/mL;LH 1.3 IU/mL;テストステロン [testosterone] 175 ng/dL)を認めた。同時に行われた精液検査では軽度の乏精子症 (oligospermia) が認められたが、二重 X 線エネルギー吸収測定スキャン (dual-energy x-ray absorptiometry scan) では骨塩量は正常であった。以上より、高プロラクチン血症を伴う下垂体微小腺腫と診断され、1 mg/週の用量でカベルゴリン療法が開始された。

その後 6 ヵ月間の臨床経過は緩徐であり、カベルゴリンに対する反応性は、頭痛の強さと頻度の減少、性欲と勃起機能の改善とともに、PRL 値の有意な低下(180 μg/L、Δ = -80%)を認めた。PRL 値が徐々に低下していることから、カベルゴリンによる治療は同用量で維持された。

症例 2
2009 年 12 月、26 歳の女性が不妊症 (infertility) のため内分泌科を受診した。病歴から、過去 10 年間の希発-無月経と軽度の多毛症 (hirstuism)(Ferriman-Gallwayスコア = 9)と過去 3 年間の体重増加が明らかになった。数年にわたり行われた婦人科超音波検査では、卵巣は多嚢胞性で、多嚢胞性卵巣症候群 (polycystic ovary syndrome) の明らかな所見は認められなかったが、ホルモン評価では、軽度の高プロラクチン血症(最大 36 μg/L, 正常範囲 5-25 μg/L)を認めた。アンドロゲン濃度は正常だった。患者は、2004 年から 2006 年までの 2 年間、経口避妊薬による治療を受けていたが、経口避妊薬を中止した後、急速に上記の症状が再発した。

内分泌学的評価において、患者は過去 9 ヵ月間の無月経、繰り返す頭痛、および中等度の高プロラクチン血症(PRL 126.7 μg/L)を報告した。下垂体 MRI 検査が実施され、最大径 8 mm の微小腺腫が明らかになった。患者の顔貌の特徴(前頭骨および頬骨の突出、鼻の肥大、および下顎前突症)は、GH 分泌過多の併発を示唆していたが、GH および IGF-I 値は正常範囲内であった(GH 0.3 μg/L;IGF-I 206 μg/L)。以上より、高プロラクチン血症を伴う下垂体微小腺腫と診断され、カベルゴリン療法が 0.5 mg/週の用量で開始された。

臨床経過は長年にわたり緩徐で、カベルゴリンに対する反応性は良好だった。PRL は完全に正常化(PRL 18 μg/L)し、臨床症状は完全に消退した。また、下垂体腫瘍の大きさは 50%縮小した。

2016 年 11 月、下垂体 MRI 検査で腫瘍の最大径が 3 mm から 6 mm へと 50%増大し、腫瘍の再増大が示唆された。PRL 濃度は 28 μg/L にわずかに上昇したため、カベルゴリン投与量を 1 mg/週に増量した。1 年後、PRL は 27 μg/L で安定したままであり、下垂体 MRI 検査で最大腫瘍径が 25%減少していることが明らかになったが、患者は持続的な頭痛と無力症を報告した。

2018 年 9 月、患者は妊娠していることが判明したため、カベルゴリンは速やかに休薬した。患者は妊娠中に定期的な内分泌学的評価を受けたが、視野の障害は記録されなかった。2019 年 3 月に母体および胎児に合併症なく、正期産で出産した。患者は授乳中の 1 年間はプロラクチノーマの治療を中止し、2020 年 3 月に内分泌学的評価を再開した。その際、授乳を中止してから 4 ヵ月が経過していたが、PRL 濃度は 30.7 μg/L と高値であった。

症例 3
2004 年 11 月、35 歳の男性患者が視覚障害、特に視野狭窄のため眼科を受診した。視野検査で耳側半盲を認めた。患者は 6 歳と4 歳の 2 児の父親であり、過去 3 年間に性欲減退と頻繁な頭痛が起こり、過去 5 年間に体重が増加した。

視交叉領域 (optic chiasm region) を評価するために脳 MRI 検査を実施し、30×25 mm の大きさの下垂体腫瘍が鞍内 (intrasellar)、鞍上 (supersellar)、および鞍の右方 (right parasellar) に進展し、部分的に橋槽 (pontine cistern) を閉塞しているのが認められた。

橋槽
https://funatoya.com/funatoka/anatomy/angio/av-04.html

内分泌学的評価では、重度の高プロラクチン血症(PRL 8040 μg/L;正常範囲 5-20 μg/L)および低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(FSH <0.1 IU/mL、LH <0.1 IU/mL、テストステロン 103 ng/dL)が認められた。腫瘍による下垂体の圧迫にもかかわらず、ゴナドトロピン以外の下垂体機能は保たれていた。同時に行われた精液検査により無精子症 (azoospermia) の存在が明らかになり、DEXA により骨量減少症 (osteopenia) の存在が明らかになった。

以上より、PRL 分泌下垂体腫瘍と診断され、2005 年 2 月、視交叉を減圧するための第一選択治療として経蝶形骨手術 (transsphenoidal surgery) が行われた。組織学的検査では、多数の有糸分裂(分裂指数 [mitotic index] = 3-7 M/10HPF)および 10%と高い Ki-67%/MIB-1 増殖指数まばらな肉芽パターンを有する嫌色素性細胞 (chromophobic cell) を特徴とする浸潤性プロラクチノーマ (invasive prolactinoma) であった。

MIB-1 index
https://www.eurofins.co.jp/clinical-testing/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9/geneticlab/%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0/mib-1-index-%E3%83%9F%E3%83%96%E3%83%AF%E3%83%B3-%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%BD%95-%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0-%E7%AC%AC6%E5%9B%9E/

術後 1 ヵ月の評価では、PRL は 386 μg/L であり、下垂体 MRI 検査により、両側の海綿静脈洞 (cavernous sinus) および橋槽のクモ膜下腔 (subarachnoid space) に浸潤している 32×20×28 mm の巨大腺腫(腫瘍体積: 9.318 cm3)が検出された。腫瘍の急速な再成長と組織学的特徴から、世界保健機関(world health organization: WHO)の分類による非定型下垂体腺腫 (atypical pituitary adenoma) の診断が示唆された。以上の所見に基づいて、カベルゴリン療法が 1 mg/週の用量で速やかに開始され、経過観察中に 2 mg/週まで徐々に増量された。テストステロン補充療法も同時に開始された。

下垂体腫瘍の全体の約 40%を占めるプロラクチノーマは、最も多いホルモン分泌性下垂体腺腫である。男女ともにプロラクチノーマに関連した臨床的特徴としては、不妊症、性腺および性的機能障害がある。

プロラクチノーマは PRL 過剰の主な病理学的原因であるが、いくつかの異なる病態が PRL 濃度上昇を誘発することがあり、プロラクチノーマの診断を下す前にこれらを除外する必要がある(表 1)。

表 1. 高プロラクチン血症の原因
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10438891/table/dgad174-T1/

臨床では、マイクロプロラクチノーマ(大きさ 10 mm 未満)はマクロプロラクチノーマ(大きさ 10 mm 以上)よりも頻度が高く、女性でより多く発生する。女性では月経周期の乱れや不妊症を来し得るため、症例 2 のように早期診断が求められる。対照的に男性では症例 3 のような視野欠損および下垂体機能低下を伴うマクロプロラクチノーマの割合が高く、症例 3 のように主な症状は性欲減退や勃起不全であるため診断時の平均年齢が女性に比べて少なくとも 10 歳は高い。

成人では、プロラクチノーマの推定有病率は 60-100 人/100 万人である。多くの症例集積研究を対象にしたレビューでは、下垂体腫瘍の標準化罹患率は 4-7.39 人/10 万人·年であり、プロラクチノーマは下垂体腫瘍全体の 40-66%を占めると報告されている。

患者の年齢は、男女で罹患率に異なる影響を及ぼすことが示されている。実際、20-50 歳の間では、女性と男性の比率は 10:1 と推定されるのに対し、 60 歳以上では、プロラクチノーマの罹患率は男女で同程度である。この違いは、若い女性では性腺機能低下症に起因する臨床症状(不妊症や乏性無月経)があると、特に妊娠を希望する場合には早めに受診するためだと考えられる。逆に、閉経後の女性を含む高齢患者や男性では主に大きな腫瘍による 腫瘍圧排効果 (mass effect) が出現した場合に診断される。小児および青年期では、まれではあるがプロラクチノーマが下垂体腫瘍全体の約 50%を占める。

プロラクチンと不妊の関係
高プロラクチン血症は、男女ともに二次性性腺機能低下症および不妊症の最も多い原因である。不妊症の女性において、PRL 過剰は不妊の原因の 7%から 20%を占め、無月経 (amenorrhea) かつ/または乳汁漏出症 (galactorrhea) の女性で報告された頻度より低いが、一般集団における有病率よりも少なくとも 10 倍高いことが判明している。

PRL 過剰が生殖軸 (reproductive axis) に及ぼす影響は、中枢と末梢の両レベルにおける PRL の特異的な作用を反映している。

中枢レベルでは、PRL はキスペプチン (kisspeptin) の分泌を直接抑制することによって GnRH の活性化とゴナドトロピンの分泌を抑制し、性腺機能低下と不妊 (infertility) を来す。

末梢レベルでは、PRL は性ホルモンの合成と分泌を直接阻害する作用がある。女性では、PRL はエストロゲン (estrogen) とプロゲステロン (progesterone) の合成を阻害する。男性では、ライディッヒ細胞 (Leydig cell)、セルトリ細胞 (Sertoli cell)、精管上皮細胞 (epithelial cell of efferent duct) に PRL 受容体が同定されており、ステロイド合成 (steroidogenesis)、精子形成 (spermatogenesis)、男性生殖器の分泌・吸着 (adsorptive) 機能に PRL が関与している可能性が示唆されている。不妊男性において、不妊の主原因としての高プロラクチン血症の有病率はまだ不明である。しかし、高プロラクチン血症を含む内分泌疾患は、男性不妊症の症例のわずか 2-4%を占めるに過ぎないと報告されている。

診断へのアプローチ
素因
ほとんどの下垂体腺腫は散発性で発生するが、プロラクチノーマは、下垂体腫瘍発生の素因となる生殖細胞系列の遺伝子変異から発生することがある。背景に遺伝子異常がある場合、臨床的に活動性が高く、ドパミンアゴニスト(dopamin agonist: DA)による標準治療に対する反応が低くなる可能性がある。特に、多発内分泌腫瘍症 1 型(multiple endocrine neoplasia type 1: MEN-1)および 4 型(MEN-4)、ならびに家族性孤立性下垂体腺腫 (familial isolated pituitary adenoma) では、プロラクチノーマが最も頻度の高い下垂体腫瘍の組織型である。

MEN-1 内のプロラクチノーマの 51.5%において DA の有効性が報告されているが(表 2)、DA に対する反応性は研究間で一貫して報告されておらず、DA に対する反応が乏しい場合も良好な場合もある。また侵攻性の腫瘍の場合もあるし、時折り無症候のまま増大することがある緩徐に増大する腫瘍の場合もある。

表 2. MEN-1 におけるプロラクチノーマの DA の反応性
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10438891/table/dgad174-T2/

MEN-4 および家族性孤立性下垂体腺腫の場合も、散発性腫瘍と比較してプロラクチノーマはより大きく、浸潤性が高く、DA に対する反応性が低い。カーニー複合 (Carney complex) では、プロラクチノーマはまれであるが、組織学的に成長ホルモン·プロラクチン産生細胞 (somatomammotroph) 過形成が認められ、GH かつ/または PRL 分泌腺腫が発生することがある。

カーニー複合
http://grj.umin.jp/grj/carney.htm

実際、GH および PRL 分泌過剰は、カーニー複合患者の最大 64%にみられることが示されている。カーニー複合では GH 分泌過剰と PRL 分泌過剰は独立して起こると考えられており、プロラクチノーマが知られている患者に先端巨大症が合併することはまれである。

以上を総合すると、親族で既に確認されている遺伝子変異を持つ可能性があるプロラクチノーマ患者に対しては、適切なカウンセリングを行い、早期診断から得られる潜在的な利益について説明した上で、遺伝子スクリーニングを実施すべきであることが示唆される。

診断時の臨床像
プロラクチノーマの臨床的特徴を図 1 にまとめた。

図 1. プロラクチノーマの臨床的特徴
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10438891/figure/dgad174-F1/

下垂体腺腫自体は、腫瘍圧排効果を及ぼすことがあり、頭痛、視野欠損、および下垂体機能低下を来すことがある。プロラクチン過剰は、男女ともに体重増加、思春期発育遅延、性腺機能低下症、不妊症、乳汁漏出症、および骨量減少症または骨粗鬆症を引き起こす。

PRL 濃度の上昇は、女性の不妊症の原因の 7-20%、男性の不妊症の原因の 2-4%を占める。不妊症以外の高プロラクチン血症の徴候·症状は性別に関係し、男性では性欲減退、勃起不全、女性化乳房、女性では希発月経、膣乾燥、神経過敏、抑うつなどがある。特に女性では症例 2 のように古典的な無月経-月経困難症候群を認める場合は速やかな受診につながることが多いが、男性では症例 1 のように勃起不全や性欲減退の弱い症状がしばしば過小評価され、症例 3 のように診断が遅れることがある。

しかし、細胞増殖マーカーが増加した急速に増殖するプロラクチノーマは男性に多く発生することが報告されていることから、男女で異なる病態も仮説として考えられている。以上より、プロラクチノーマは女性よりも男性でより侵攻性が高いかどうかという疑問が提起されているが、まだエビデンスは十分ではない。

男性では、プロラクチノーマは通常大きく、浸潤性であり、頻度の高い臨床的特徴としては、性腺機能低下症と腫瘍圧排効果がある。さらに、最新の WHO 分類によると、男性における乳腺刺激腫瘍(lactotroph tumor) は、1. 有糸分裂数および Ki-67 発現が上昇し、細胞増殖活性が高いこと、または 2. plurihormonal PIT-1 免疫染色が陽性であることから、再発の可能性が高い。PIT-1 免疫染色陽性は、PRL および GH、β-TSH、α-サブユニットなど、複数の下垂体ホルモンに対するさまざまなレベルの免疫反応性を示す低分化細胞の単一型集団からなる腫瘍を同定する。PIT-1 陽性細胞は、好酸性腺腫 (acidophilic lineage) に属する可能性が高い。好酸性腺腫に属する PIT-1 免疫反応性腺腫は、侵攻性の挙動を示し、浸潤性が高く、無病生存率が低く、再発傾向が高い。

性腺機能低下症に関連した徴候や症状のほかに、PRL の過剰は性腺外の全身に影響を及ぼす可能性がある。PRL およびドーパミンは膵 β 細胞および脂肪細胞に直接作用することから、高プロラクチン血症は代謝異常を誘発する可能性もある。プロラクチノーマ患者における食物摂取量の増加および体重増加は、体組成の変化、インスリン抵抗性、耐糖能障害、および脂質異常を促進し、患者の約 3 分の 1 において内臓肥満およびメタボリックシンドロームに至ることが示されている。

しかし、高プロラクチン血症による性腺機能低下症が二次的に体組成や代謝に影響を及ぼす可能性は排除できない。実際、テストステロン濃度とジヒドロテストステロン濃度が四分位値より低い男性は、肥満とメタボリックシンドロームの発症リスクが 2 倍高いことが判明している。同様に、閉経前の高プロラクチン血症女性 40 名においては、FSH、LH、エストロゲン濃度は正常範囲であるが、高プロラクチン血症のために拍動性分泌 (pulsatile secretion) が低下しており、PRL 過剰は、体重やレプチン、アディポネクチン濃度とは無関係に、高インスリン血症やインスリン抵抗性と関連していることが判明している。

プロラクチンの過剰は骨代謝に対して、直接的 (脂肪量増加と徐脂肪量の減少を特徴とする体組成の変化) および間接的(高プロラクチン血症誘発性性腺機能低下症)作用により、1. 骨密度の低下、2. 骨代謝マーカーの早期の変化、3. 海綿骨を中心とした骨量の減少、4. ピーク骨量達成の遅延、および 5. 椎体骨折の高リスク (男女とも) に寄与する。

診断法
高プロラクチン血症の診断手順を図 2 に示す。

図 2. 高プロラクチン血症の診断手順
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10438891/figure/dgad174-F2/

表 1 に示すように、多くの生理学的状態(妊娠、授乳、ストレス、運動、食事、睡眠)および病理学的状態(慢性腎不全および肝不全、原発性甲状腺機能低下症、非 PRL 分泌性下垂体腫瘍または別の傍鞍腫瘤による下垂体茎の圧迫、 および視床下部の肉芽腫性疾患)、ならびにいくつかの薬物(主に抗うつ薬、ドパミン受容体遮断薬、ドパミン合成阻害薬、経口避妊薬、胃腸薬、神経遮断薬、および向精神病薬)は、症候性高プロラクチン血症を誘発しうる。

高プロラクチン血症の正しい診断を下す前に、プロラクチノーマ以外の高プロラクチン血症を来す原因を除外しなければならない。そのために、病歴、併用薬、生化学的所見に注意を払うべきである。このことは、症例 2 のようにプロラクチノーマの存在が分かりにくいことがある、軽度の PRL 上昇の場合に特に当てはまる。PRL 分泌下垂体腫瘍の診断を確認するには、過度の静脈穿刺ストレスを与えずに血清 PRL を 1 回測定することが強く推奨される。乳頭刺激により PRL が上昇する可能性があるため、乳汁漏出を認める患者における乳房の診察は、PRL 評価の直前に行うべきではない。

PRL 濃度が正常上限(女性で 25 μg/L、男性で 20 μg/L)を超える場合は、プロラクチノーマを疑わせる。一方、TRH、L-ドパ、ノミフェンシン (nomifensine)、ドンペリドン (domperidone) の投与による PRL 分泌の刺激検査は、現在のところ臨床応用されていない。高プロラクチン血症の存在が不確実な場合では、PRL の拍動分泌の影響を最小にするため、一晩絶食した後、翌日に 15-20 分間隔で 2-3 検体を採取して評価しても良い。一般に PRL 濃度が 250 μg/L を超えると、プロラクチノーマの診断が確定するが、200 μg/L を超える高 PRL 血症は、非機能性下垂体腫瘍などの非 PRL 分泌性腫瘍の場合にもみられることがある。 血清 PRL 濃度が 500 μg/L を超える場合は、マクロプロラクチノーマが疑われる。

高プロラクチン血症の他の原因が除外された後は、ガドリニウム造影 MRI による下垂体の画像検査が必要である。造影 CT は小さな腫瘍の描出や大きな腫瘍の進展を評価することについては、MRI に劣る。そのため、過去20年間で、下垂体の画像検査においては下垂体 MRI が造影 CT に取って代わりつつある。

現在では、心臓ペースメーカー、植え込み型心臓除細動器、体内ペーシングワイヤー、脳動脈瘤·頸動脈瘤·大動脈瘤のクリップ、人工内耳、磁石で固定されたあらゆるインプラント、スワンガンツカテーテル、妊娠などの患者において、MRI が使用できないか禁忌である場合にのみ、下垂体 CT が推奨されている。妊娠中は、突然の視野障害により腫瘍の増大が臨床的に確認された場合を除き、下垂体 MRI の使用は推奨されず、妊娠中期以降はガドリニウム造影なしで MRI を実施すべきである。

視交叉を侵している巨大腺腫患者では視野検査が推奨されるが、微小腺腫患者では視力検査は必須ではない。

診断における課題
"フック効果 (hook effect)"
プロラクチノーマの診断にはいくつかの課題がある。プロラクチノーマの最大径は、ベースライン時の PRL 濃度と相関すると報告されている。したがって、非常に大きな下垂体腫瘍(大きさ >3 cm)であるのにも関わらず PRL 濃度が軽度高値に留まる場合は、PRL 濃度が偽低値となる検査上のアーチファクト、すなわち「フック効果」の有無を確認するために、血清検体を 1:100 に希釈することが推奨される。この現象は、2 部位モノクローナル "サンドイッチ "アッセイ法 (2-site monoclonal "sandwich" assay などの免疫測定法 (immunoassay) を用いた場合によく起こる。フック効果とは結合曲線の典型的な形状のことであり、検体中の分析物濃度が徐々に上昇するにつれて結合率は上昇するが、ある臨界点でアッセイ成分の能力を超えると下降する。したがって、フック効果によってプロラクチノーマを非機能性下垂体腫瘍と誤診させる可能性がある。

特筆すべき点として、現在の測定法は主に 2 部位免疫測定法に基づいており、従来の競合法 (competitive assay) よりも高感度かつ特異的であるが、高用量フック効果 (high-dose hook effect) のような干渉の影響を受けやすい。サンドウィッチ法は一般に 2 段階で行うか、検体を希釈することでこの干渉を避けることができるため、現在では高用量フック効果が PRL 測定で問題となることはごく稀である。とはいえ、PRL 測定法を推奨する際にはフック効果を考慮する必要がある。

マクロプロラクチン (macroprolactin)
マクロプロラクチンは、分子量が大きく生物学的活性が低下した PRL のアイソフォームである。無症候性高プロラクチン血症の患者において、マクロプロラクチンを評価することは、不適切な治療につながる誤診を防ぎ、適切な治療を必要とする真の高プロラクチン血症を鑑別する上で、内分泌専門医の助けとなる。血中 PRL の 80%以上は単量体(23 kDa)であるが、血清中には共有結合で結合した二量体やより大きな重合体も含まれることがあり、それぞれ「ビッグプロラクチン (big prolactin)」(50 kDa)や「ビッグビッグプロラクチン (big-big prolactin)」(150 kDa)として知られている。ほとんどの場合、マクロプロラクチンは IgG と単量体 PRL が形成する複合体からなる。その結果、腎 PRL クリアランスの低下とドーパミン作用の低下から高プロラクチン血症が生じる。マクロプロラクチンはかなり頻度が高く、約 20%の症例で高プロラクチン血症を引き起こすと報告されている。したがって、無症候性高プロラクチン血症の患者では、まずポリエチレングリコールを用いたマクロプロラクチンのスクリーニングを日常的に行うべきである。

マクロプロラクチン患者における PRL 過剰の徴候および症状の全有病率は、一般に、単量体型高プロラクチン血症患者で観察されるものより低い。実際、希発月経と無月経の両方を含む月経障害、乳汁漏出、月経障害と乳汁漏出の合併が、マクロプロラクチン患者の 24%、13%、2%で報告されている。これらはそれぞれ、多嚢胞性卵巣症候群や下垂体腫瘍などの合併症に起因すると考えられる。一方、単量体高プロラクチン血症の患者ではそれぞれ 26%、29%、34%であった。このことは、主に不妊の特徴という点で、臨床症状が重複している可能性を示唆している。

注目すべきは、マクロプロラクチン患者の 60%以上が、PRL 過剰の特異な徴候や症状を報告しなかったことである。マクロプロラクチンと下垂体偶発腫が同時に存在する場合はプロラクチノーマと誤診する可能性があるが、高プロラクチン血症による特異的な徴候および症状がないことは、正しい診断を下す役に立つ可能性がある。

閉経期の診断
閉経は、PRL 分泌および PRL 産生細胞 (lactotroph cell) 増殖に対するエストロゲンの刺激作用の生理的低下と、血中 PRL レベルの生理的低下と関連している。したがって、妊孕性が重要な関心事でない閉経後女性では、PRL 過剰による無月経-乳汁漏出の症状がないため、プロラクチノーマの正確な有病率が過小評価される可能性がある。これは特にマイクロプロラクチノーマの女性に当てはまるが、閉経年齢で診断された患者の少なくとも 3 分の 1 で過去に続発性無月経があったことを報告しており、妊娠可能な時期にこれらの症状を入念に調べれば早期診断が可能であることを示唆している。

閉経後に診断されたプロラクチノーマ患者のほとんど(92%)に下垂体巨大腺腫 (pituitary macroadenoma)、または巨大下垂体腫瘍 (giant pituitary tumor) が認められ、主に頭痛や視力低下などの腫瘤圧排効果の徴候および症状を来し得る。また、症例の約 5%に下垂体卒中 (pituitary apoplexy) が起こる。

閉経後女性におけるプロラクチノーマの腫瘍サイズが大きく、浸潤性が高いという所見から、これらの腫瘍が、同様に急速な増殖速度および細胞増殖マーカーの増加を特徴とする男性患者のプロラクチノーマと生物学的に同等であるかどうかという疑問が提起されている。しかし、エストロゲン受容体 α の発現低下がエストロゲン産生の低下と相まって、それ自体が PRL 産生細胞の増殖を促進し、閉経後女性における大型の浸潤性下垂体腫瘍の発生を誘発する可能性がある。

悪性プロラクチノーマ
PRL 産生腫瘍 (lactotroph tumor) は、2 番目に頻度高い下垂体悪性腫瘍である。下垂体腫についての 最新の WHO 分類によると、下垂体腺腫は腺腫の代わりに下垂体神経内分泌腫瘍(pituitary neuroendocrine tumors: PitNET)という用語が用いられるようになり、プロラクチノーマを含む悪性の PitNET を同定するために特異的な臨床的、病理学的、および放射線学的特徴が提唱されている。

この観点から、腫瘍の浸潤性 (invasiveness) および増殖性 (proliferation) に注意を払うべきである。浸潤は、海綿静脈または蝶形骨洞への浸潤を示す組織病理かつ/または画像所見に基づいて定義される。一方、増殖は、2/10 HPF を超える有糸分裂数、3%以上の Ki-67、および 10 個を超える p53 強陽性核/10 HPF に基づいて定義される。

20 歳未満の患者、主に男性、かつ/または遺伝的素因を有する患者に発生する PRL 産生細胞腫瘍は、一般に、サイズが大きく、浸潤性が高く、DA に対して明らかな抵抗性を示すため予後不良であり、再発および悪性腫瘍のリスクが高い。PIT-1 陽性 PRL 分泌下垂体腫瘍、成長ホルモン産生細胞-PRL産生細胞混合腫瘍、および pluri-hormonal PIT-1 陽性好酸性幹細胞腫瘍(しばしば高プロラクチン血症を伴う PRL 産生細胞腫瘍となる)は一般に、sparsely granulated variants よりも浸潤性が高く、DA による従来の内科的治療に対する反応性が低く、全体的に治癒率が低下する。

増殖マーカー(Ki-67 発現 ≧3%、有糸分裂数 >2)の発現も、腫瘍の浸潤性および増殖と相関している。エストロゲン受容体 α の低発現、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)および上皮増殖因子の高発現も同様に腫瘍の侵襲性と相関しており、E-カドヘリン、マトリックスメタロプロテアーゼ 9、染色体 1、11、19 の異常などいくつかの接着分子の発現も腫瘍の侵攻性と相関している。

すべての PitNET 亜型と同様に、組織病理かつ/または画像所見により、乳腺腫瘍は以下に示す 5 段階に分類できる。

1.非浸潤性および非増殖性(悪性度 1a)
2. 非浸潤性および増殖性(悪性度 1b)
3. 浸潤性および非増殖性(悪性度 2a)
4. 浸潤性および増殖性(悪性度 2b)
5. 転移性腫瘍(悪性度 3)

この分類に基づくと、悪性度 2b(侵攻性)の PRL 産生細胞腫瘍は、悪性度 1a の腫瘍に比べて進行リスクが 20 倍高い。

悪性プロラクチノーマは ACTH 分泌下垂体がん (ACTH-secreting pituitary carcinoma) に次いで頻度の高い悪性下垂体腫瘍である。PRL 分泌がん (PRL-secreting carcinoma) の正確な罹患率は知られていないが、下垂体がん全体の罹患率は非常にまれ(下垂体腫瘍全体の 0.2%未満)である。最近の欧州学会の調査によると、悪性プロラクチノーマは侵攻性の悪性下垂体腫瘍患者の約 9%を占めると報告されている。悪性プロラクチノーマの定義はすべての下垂体がんの定義と類似しており、遠隔脳脊髄転移、髄膜転移、かつ/または全身転移の確認が必要である。

症例の振り返り
症例 1
カベルゴリンによる治療を 12 ヵ月間行った後の評価では、PRL 濃度は完全に正常化し(PRL 8.6 μg/L)、下垂体 MRI では、下垂体腫瘍体積のわずかな減少が認められた(1.71 cm3, Δ = -13%)。下垂体機能評価では、ゴナドトロピンおよびテストステロン濃度は正常化し、これらは満足のいく性欲および勃起機能と関連していた。そのため、カベルゴリンは同用量で維持され、テストステロン補充治療の追加は必要なかった。

さらに、年単位のフォローアップでは、カベルゴリンによる治療で正常な PRL 濃度を維持できており、これは下垂体腫瘍体積のさらなる減少(1.43 cm3、ベースラインと比較して Δ=-27%)と関連していた。 2022 年 2 月に実施された最後の内分泌学的評価では、PRL 濃度は 10.6 μg/L であり、下垂体 MRI により腫瘍体積のさらなる縮小が明らかになった(1.14 cm3、ベースラインと比較して Δ=-42%)。

現在、患者はカベルゴリンを 1.0 mg/週で投与されており、PRL 濃度は 6.7 μg/L である。時折頭痛が持続するが、性欲減退と勃起不全の臨床症状はカベルゴリン治療開始後は再発しなかった。この患者の臨床経過を図 3 に示す。

図 3. 症例 1 の臨床経過

症例2
2020 年 3 月の内分泌科受診時、巨舌 (macroglossia)、軟部組織の腫脹 (soft-tissue swelling)、関節痛 (arthalgia) をともなう明らかな顔の異形(facial disfigurement) を認め、先端巨大症が疑われた。そのため、直ちにホルモン検査と MRI 検査が行われた。予想された通り、IGF-I は正常上限(the upper limit of normal: ULN)の 3.9 倍であり、下垂体腫瘍は最大腫瘍径が 2 倍に増大した(9 mm v.s. 4.5 mm)一方で、PRL は 30.7 μg/L であり、先端巨大症の診断が確定した。代謝、循環、呼吸器合併症、結腸ポリープは除外された。

COVID-19 のパンデミックのため、当時は日常的な緊急でない臨床処置が制限されたり延期されたりしていた。そのため、患者が頭痛以外に腫瘤圧排効果に起因する特異な症状を訴えなかったことを考慮して経蝶形骨手術は延期され、ソマトスタチンアナログであるランレオチド (lanreotide) 120 mg を 28 日ごとに投与する治療が開始された。IGF-I は 3 ヵ月間の薬物療法で正常化(0.9×ULN)したが、先端巨大症に伴う臨床症状は持続した。イタリアの病院で脳外科手術が再開された 2020 年 9 月まで、ランレオチドは同用量で継続された。

組織学的検査の結果、下垂体性成長ホルモン分泌腫瘍が見つかり、免疫組織化学的には、成長ホルモンがびまん性に、黄体化ホルモンが限局性に陽性で、PRL に免疫反応する細胞は稀で、Ki-67%/MIB-1 増殖指数は 1%未満であった。

術後 1 ヵ月後の評価では、PRL は完全に正常化(23 μg/L)したが、成長ホルモン(12.6 μg/L)および IGF-I(1.2×ULN)の上昇が持続した。2021 年 1 月、先端巨大症の生化学的および放射線学的完全寛解が確認され、ランレオチドは中止された。5 ヵ月後、IGF-I 濃度の正常化(118 μg/L, 0.4×ULN)を確認した。現在、先端巨大症の寛解を維持 (IGF-I 0.4×ULN, 133 μg/L)していることが確認されており、MRIでは二次的な empty sella を認めている。そのため、この患者の疾患コントロールを維持するために内科的治療は必要ない。現在も PRL 濃度は正常範囲内である。この患者の臨床経過を図 4 に示す。

図 4. 症例 2 の臨床経過

症例3
カベルゴリンによる術後治療中に下垂体腫瘍の大きさが有意に縮小したにもかかわらず(7.030 cm3, D = -24.5%)、追跡期間中に PRL の正常化が達成されることはなかった。

2012 年 2 月、患者の PRL 濃度は急速に 3500 μg/L まで上昇し、腫瘍サイズの有意な増大を認めた(腫瘍体積 = 20.827 cm3、Δ = +66%)。腫瘍は依然として海綿静脈洞に位置し、右洞を完全に取り囲み、III、IV、および VI 脳神経の麻痺を来した。

高プロラクチン血症がコントロールできず、神経症状が悪化したため、腫瘍摘出と脳神経の除圧を目的として、患者は 2012 年 3 月に 2 回目の経蝶形骨洞手術を受けた。2 回目の組織病理学的検査では、1. 細胞質内の分泌顆粒がまばらなパターン (sparcely granulated pattern) 、2. Ki-67%/MIB-1 増殖指数 7%、および 3. 免疫組織化学で PRL がドット状に染まる腺腫多形性 (adenoma pleomorphism) を有する非定型プロラクチノーマを認めた。

術後の下垂体機能評価により、高プロラクチン血症(PRL 2523 μg/L)の持続、および二次性低コルチゾール血症が明らかになり、後者に対して補充療法が開始された。高プロラクチン血症に対しては、高用量(3 mg/週)のカベルゴリン療法が再開され、残存腫瘍の増大を抑えるためにソマトスタチンアナログであるランレオチドが 28 日ごとに 120 mg の用量で追加された。これらの治療を行っても PRL は正常化せず(PRL 1225 μg)、カベルゴリンを4.5 mg/週まで増量した。高用量のカベルゴリンを投与しても、非常に高いレベルの高 PRL 血症(PRL 988 μg/L)が持続し、突然の視力低下とともに激しい頭痛が発生したため、腫瘍の再増殖の可能性が示唆された。

2 回目の脳外科手術から 9 ヵ月後の 2012 年 12 月、患者は 3 回目の経蝶形骨洞手術を受け、その直後に 2.638 cm3 の病変に対して分割定位放射線治療 (fractional stereotaxic radiotherapy)(1 回 1.8Gy を 25 回、総線量 45Gy、等線量率 92.8%)が行われた。3 回目の手術後に腫瘍が急速に再増大したことが確認された。放射線治療後も、高用量カベルゴリン (3.5 mg/週) が必要であり、PRL は 376 μg/L であった。

放射線治療後、二次性副腎皮質機能低下症と性腺機能低下症が確認されたが、成長ホルモン分泌と甲状腺刺激ホルモン分泌は維持されていた。高用量のカベルゴリン療法が継続され、PRL 濃度は緩やかに減少した。

放射線治療の 1 年後に続発性甲状腺機能低下症と診断され、レボチロキシン (levothyroxine) 補充が開始された。一方、IGF-I 濃度は正常範囲内であった。PRL が 100 μg/L 以下(84.7 μg/L)になったのは 2016 年 3 月(つまり放射線治療から 3 年後)であり、その後の数年間はカベルゴリン療法下で緩徐かつ継続的な PRL の減少が観察された。正常化することはなかったが、2021 年 6 月に PRL は最低値(38.8 μg/L) となった。

放射線治療後は、腫瘍のサイズも縮小し続け、2022 年 7 月に最小となった(腫瘍体積 0.619 cm3, Δ = -76.5%)。現在、患者はカベルゴリンを 1.5 mg/週投与されており、PRL は 37 μg/L である。

ホルモン補充量は、フォローアップ中のホルモンの値に従って調整された。特に、テストステロン補充療法により、性腺機能低下症の徴候および症状が完全に回復し、綿密なモニタリングと適切な治療による効果が確認された。

臨床症状は明らかに消失し、患者は時々頭痛を訴えるのみであった。高用量のカベルゴリン療法が長期にわたって行われたため、弁膜症を早期に発見するために、心エコー検査が定期的に行われた。高用量カベルゴリンは 10 年間投与されたが、この患者に弁膜症は生じなかった。

放射線治療から 9 年後の 2022 年 7 月の最終フォローアップでは、成長ホルモン欠乏を認めた。この患者の臨床経過を図 5 に示す。

図 5. 症例 3 の臨床経過

患者の管理
DA が内科的治療に利用できるようになる以前は、手術かつ/または放射線療法がプロラクチノーマの治療アプローチとして選択されていた。プロラクチノーマの治療アルゴリズムに DA が導入されると、これらの腫瘍の自然経過は激変し、プロラクチノーマのルーチンの治療においては DA は手術および放射線療法に徐々に取って代わった。DA、主にカベルゴリンは現在、腫瘍の大きさに関係なく、PRL 分泌腫瘍を有する患者に対して PRL 濃度を低下させ、腫瘍サイズを縮小させ、性腺機能を回復させる治療法として推奨されている。しかし、DA に抵抗性の患者や侵攻性のプロラクチノーマ患者では、手術かつ/または放射線療法を含む多剤併用療法が必要となることがある。

高プロラクチン血症患者の治療適応
プロラクチノーマの治療目標は、PRL の正常化、腫瘍サイズの縮小、性腺機能の回復である。プロラクチノーマ患者に対して効果的な治療を行うことにより、腫瘍圧排効果による下垂体機能低下症、視野欠損、頭痛、および脳神経麻痺、さらに PRL 過剰の影響による性腺機能低下症、不妊症、および骨減少症/骨粗鬆症のリスクを回避できる。

注目すべきは、無症候性のマイクロプロラクチノーマ患者は、これらの腫瘍が何年もかけて大きくなることはほとんどないため、一概に治療を必要としないことである。逆に、腫瘍の大きさとは無関係に、PRL 過剰による症状がある場合は、PRL 低下療法を検討すべきである。一方、妊娠希望のない微小腺腫を有する性腺機能低下症の閉経前女性では、ドパミンアゴニストの代わりに経口避妊薬/性ホルモン補充薬が有益であろう。エストロゲン療法後の腫瘍増大の明確な証拠は今のところ示されていないが、経口エストロゲン療法後の PRL 濃度の定期的な評価および微小腺腫の増大の可能性に注意を払うべきである。

マクロアデノーマは増殖傾向があることが知られていることから、それ自体が治療の適応となる。腫瘍が浸潤性であったり、下垂体茎または視交叉などの隣接構造が圧排されている場合はさらに強い適応となる。

プロラクチノーマの内科的治療: ドパミンアゴニスト
PRL 過剰、腫瘍量および性腺状態に対する効果
DAs は治療目標を達成するために推奨される治療法である。DA の使用は、G 共役型受容体タンパク質である2型ドーパミン受容体(D2DR)に結合するドーパミンの本質的な特性に基づいており、その活性化は下垂体乳腺刺激ホルモンにおける PRL 分泌、ならびに PRL 遺伝子の発現および乳腺刺激ホルモンの増殖を抑制することができる。DA 製剤のうち、ブロモクリプチンおよびカベルゴリンは世界的に最もよく臨床で使用されている化合物であるが、ペルゴリド、キナゴリドおよびリスライドは使用頻度が低いか、または現在入手不可能である。カベルゴリンは、PRL の正常化および腫瘍の縮小において、異なる DA よりも高い有効性が証明されていることから、どのような大きさのプロラクチノーマに対しても選択すべき治療薬として強く推奨されているが、異なる DA 製剤間の head-to-head 比較試験はまだ限られている。マイクロプロラクチノーマおよびマクロプロラクチノーマ患者において、カベルゴリンはそれぞれ 95%および 80%の PRL 正常化および腫瘍縮小を誘導すると報告されている。腫瘍の大きさに関係なく、ブロモクリプチンによる治療を受けた患者の 76%、ペルゴリドによる治療を受けた患者の 87%、カベルゴリンによる治療を受けた患者の89%で PRL の正常化が達成されている。カベルゴリン投与中に、他の DA で前治療を受けた患者の 60%で腫瘍の縮小がみられた。カベルゴリンの同様の生化学的、腫瘍学的効果は小児や思春期の患者においても報告されている。

カベルゴリンによる治療後、プロラクチノーマを有する女性の 82%、53%、86%および 67%において、それぞれ無月経、不妊症、乳汁漏出および性機能障害が改善したことが報告されている。女性の生殖能力が急速に改善することから、妊娠希望のない患者には避妊を行うように助言すると良い。

プロラクチノーマを有する女性の少数では、性腺機能低下症が持続し、補充治療が必要な場合がある。症候性高プロラクチン血症性腺機能低下症の女性には、エストロゲン/プロゲステロン療法を慎重に投与してもよいが、エストロゲン/プロゲステロン療法後に腫瘍が増大したという報告はこれまでのところないものの、注意深く定期的に観察することが推奨される 。

カベルゴリン投与を受けている男性では、性腺機能低下症、精液の質 (精子数および精子量)、性欲減退および勃起不全が、それぞれ 60%、100%および 61%の症例で改善したと報告されている。 しかし、テストステロンを正常に戻すだけでは、性機能障害や精液異常を改善するには不十分な場合があり、そのためテストステロン補充療法が必要となる。このような患者では、不適切なテストステロン補充療法による特異的な副作用、たとえば攻撃性、性欲亢進、多血症、前立腺肥大などに注意を払う必要がある。これらの副作用は一般に過剰投与によって引き起こされるため、適切な用量調節が必要となる。テストステロン補充療法中は、テストステロンが芳香化 (aromatization) し、エストロゲンに変換される可能性がある。その結果、下垂体 PRL 産生細胞の増殖と過形成を刺激し、ドパミンアゴニストに対する抵抗性を誘発し得る。ドパミンアゴニストによる治療で PRL が正常化したにもかかわらず性腺機能低下症が持続する場合、クエン酸クロミフェン (clomiphene citrate) が精子の質を改善し、生殖能力を回復させる選択肢となる可能性がある。

代謝への影響
カベルゴリンによる薬物療法には下垂体および性腺に対する作用だけでなく、代謝を改善させる作用もある。カベルゴリン治療を長期間続けると、PRL 過剰および性腺機能低下症による二次的な代謝障害 (内臓肥満やメタボリックシンドロームの引き金となる体組成の変化、インスリン抵抗性、耐糖能障害、脂質異常症) などを改善することが証明されている。カベルゴリンによる長期治療は、体重、肥満度、ウエスト周囲径を有意に減少させ、内臓肥満を改善することが示されている。しかし、体重の減少とは別に、内臓肥満に対する影響は、糖代謝、インスリン抵抗性、脂質分画に対する DA の直接的な有益な効果によると考えられている。

実際、ブロモクリプチン (bromocriptin) およびカベルゴリンの両剤は、プロラクチノーマに対して 6 ヵ月間投与すると、糖代謝およびインスリン抵抗性を有意に改善させることが報告されている。特に、カベルゴリンは、0.5 mg/週を超える用量で使用した場合、プロラクチノーマにおいて空腹時インスリンおよびインスリン抵抗性 (恒常性モデルで評価) を有意に低下させた。インスリン代謝に対する良い影響は、インスリン分泌および末梢感受性の改善も寄与している。インスリン代謝に対する良い作用が体重減少よりもむしろカベルゴリンに直接起因することは、カベルゴリンの用量が空腹時インスリンの減少率の最良の予測因子であるというエビデンスによって確認された。インスリン代謝に悪影響を及ぼすことが知られている性腺機能低下症を合併している男性患者では、カベルゴリンによる長期治療により空腹時インスリンとインスリン抵抗性、分泌、感受性の指標が改善し、テストステロン補充治療によりさらに改善することがわかった。高用量治療プロトコール(用量範囲、2-7 mg/週;中央値、3 mg/週)を必要とするカベルゴリン抵抗性の場合でさえも、PRL の正常化は患者の 2 分の 1 でしか起こらなかったにもかかわらず、空腹時インスリン、インスリン分泌および末梢感受性の指標は、空腹時血糖および肥満度の改善とは無関係に有意に改善した。下垂体手術はインスリン代謝に関してカベルゴリンによる治療と同様の結果を得ることができなかった。

インスリン代謝の改善は脂質分画の改善と平行して起こる。ブロモクリプチンまたはカベルゴリンによる治療後、総コレステロール、低比重リポ蛋白コレステロール、トリグリセリドが減少し、高比重リポ蛋白コレステロールが増加することは、体重の変化とは無関係であることが示されている。高プロラクチン血症で性腺機能低下症を合併している男性患者において、カベルゴリンによる治療は総コレステロール、低比重リポ蛋白コレステロール、トリグリセリドを有意に低下させるが、テストステロン補充療法後の脂質はそれ以上改善しないことが証明されている。逆に、高用量のカベルゴリンを使用しても脂質代謝は顕著に改善しなかったが、下垂体手術では総コレステロールおよびトリグリセリドを有意に減少させることができたことから、脂質分画は DA よりもむしろ PRL 過剰の急速な是正によってより顕著な影響を受ける可能性が示唆される。

DAによって誘導される代謝上の利点の直接的な結果として、メタボリックシンドロームの有病率が 20%減少した。
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