Dark matter, Hawking radiation, black holes,

Approaching the Identity of Dark Matter

ダークマターの 直接探索について

2024-06-26 | 日記

2018年~2019年頃の資料

「ダークマターの 直接探索」: https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/prwps/wp-content/uploads/DM.pdf :

資料1~9ページまでが「観測的に確認されているダークマターの証拠」

10ページ目が「ダークマターと素粒子物理学の関係について」の記述

11ページ目以降は神岡で行われていたXMASS実験の報告。(注1

たXMASS実験は2010年10月から観測開始。

その後、2012年6月から改修のため一時検出器の運転を停止し、改修終了後の2013年11月から観測を再開した。

観測終了は2019年2月20日。この日にXMASS-I検出器から液体キセノンを回収。

この実験の後はイタリアのグランサッソでのXENONnT実験に参加する事になった。

 

XENONnTの前実験はXENON1T。(注2

XENON1Tの初観測は2016年11月から2017年1月にかけて行われた測定の34日。

2016年に観測を開始、2018年末に次世代検出器XENONnT検出器 の建設のために観測を終了。

ここまではXENON1TとXMASS-Iはパラレル観測。

この後でこの2つの組織は合流してXENONnTとなる。

XENONnT検出器は2020に完成・測定を開始した。

 

それでこの話のポイントは「宇宙論的には観測的に確認されているダークマターの証拠」でそれなりにダークマターの研究は実行できるし、今もそうやって研究されている。

で注目すべきは「そこに素粒子物理学がからんでくる」という所にあります。

というのも「インフレーションービッグバン宇宙論の成立」の前にSUSYやらGUTが提唱されていて、それらは「素粒子物理学が抱えていた問題を解くために考え出されたもの」なのでした。

もちろん「ダークマターとSUSYやらGUTが関係を持つ」などという事はそれらが提唱された当時は誰も考えてはいなかった事でしょう。

そもそも「宇宙観測」と「素粒子物理学」の間に緊密な関係がある、などという事は「素粒子物理をやっている当時の物理屋さん達には思いもよらない事であったはず」です。

そうしてその状況を変えたのが前のページで示した2003年の「標準宇宙論の成立」なのでした。

ここで『宇宙の組成は4%が通常の物質、23%が正体不明のダークマター、73%がダークエネルギーである。
このことからいわゆるΛ-CDMモデル(Λ-CDM:宇宙定数+冷たい暗黒物質)と呼ばれる宇宙モデルとの一致が確認された。』が確認されたのです。

他方で、

『"LSPがダークマターだ"という考えが一般的になり始めたのは、1990年代後半から2000年代初頭のころです。これは、超対称性理論がダークマターの候補として注目されるようになった時期と一致しています。』(注3

『この考え方は、超対称性理論を研究する多くのグループや個々の研究者によって提案されました。具体的な個人やグループを挙げることは難しいですが、1980年代から1990年代にかけて、超対称性理論の研究が盛んになり、ダークマターの候補として注目されるようになりました。その後、実験データや理論的な議論が進展するにつれて、この考え方がより具体化され、検証されるようになりました。』

『LSPは「最も軽い超対称性粒子(Lightest Supersymmetric Particle)」の略称です。そうしてSUSYではLSPは安定して存在する、とされている為に一般的にはダークマターの候補として注目されています。』以上、GPT3.5

そうなりますと「通常の物質では説明がつかないダークマターと言うのはLSPだろう」という事になります。

しかもこのSUSY粒子は「存在が確認できると素粒子物理学上で問題になっていた事柄の回答になっている可能性がある」と認識されました。

それらの問題は例えば次のようなものでした。(注4

『・素粒子標準模型に含まれるヒッグス場は強い紫外発散を生ずる。くりこみ理論の処方箋にしたがって発散を消すことはできるが、理論のもつパラメータを微調整することになって気持ち悪い(階層性問題)。超対称性(SUSY)があれば、もっとも強い紫外発散を打ち消してくれるので気持ち悪さが軽減される。

・ここで超対称性をもちこむと、電磁気力、強い力、弱い力の3つの結合定数が高エネルギーでぴったり一致するするところがある。これは大統一理論(GUT)につながっているはずだ。

・既知の素粒子すべてに対応する超対称性粒子があらわれ、そのうちの最も軽い粒子は他の粒子に壊れることができない(LSP)。こうして残ったものは暗黒物質にぴったり。

・階層性問題を解決するには、超対称性粒子はヒッグス粒子の質量よりそんなに重いはずはない。このくらいの質量をもつ粒子が宇宙初期に作られる量は、予想される暗黒物質の量に近い。

・超対称性模型には数多くのパラメータが含まれ、当時問題になっていたいくつかのアノマリー(標準模型と実験のずれ)を説明するのに十分だ。etc』

 

さてこの状況はつまりは「宇宙で見つかったダークマターという『正体不明の穴』にピッタリと合うパズルのピースが素粒子物理にあって、それがLSPだ」という事です。

ただしこのLSP=SUSY粒子は未だ見つかった事はなく、「単なる理論上の存在」なのですが「もしそれが予定していた場所に見つかった」ならば、「宇宙論の問題を解く」だけではなくて「素粒子物理の問題も解いてしまう」という「たいへんなもの」なのです。

そうであればこの「期待の新人の大捜索=ダークマターの直接観測に世界中の関係者が熱中する状況になっている」と言うのが現状と言えます。(注5

 

注1:XMASS実験: https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/xmass/news/index.html :

注2:XENON実験: https://ja.wikipedia.org/wiki/XENON%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%83%BC%E7%9B%B4%E6%8E%A5%E6%8E%A2%E7%B4%A2%E5%AE%9F%E9%A8%93 :

注3:MACHO(Massive Compact Halo Object) 
!- もっとも ナイーブ な候補「暗い星」 
!- MACHOが前を通った時の背景の星の増光を見る
!- 1990年代前半には「天下取り」直前 
!- 現在では主要候補からは除外

「暗黒物質研究の現状」: http://ppwww.phys.sci.kobe-u.ac.jp/~miuchi/education/lecture/miuchi_20110419_darkmatter.pdf :の6ページ記述参照

注4: https://archive.md/UNjfB :

注5:特にアメリカはこの「期待の新人の大捜索にかじを切った」と言えます。

対してセルンは「ダークマターは横目でにらみますが、当面はヒッグスだ」となっている模様です。

 

追記:ダークマターと並んで流行っているコトバは「新しい物理」(注6

「新物理(BSM=Beyond the Standard Model)」とは「標準理論を超えた物理」という事らしい。

と言うのも「標準理論を超えた現象が見つからない=いつまでたっても標準理論の枠組みの中にいる事」への不満がある模様。

で、その標準理論と言うのが「実験結果を計算できる」のはいいのだが「その理由を説明しない理論」=「当面の寄せ集めの理論」であって「最終理論とはとても呼べない形をしている」のだそうな。(注7

そうであれば「標準理論を超えた、もっと基礎的な理論があるはず」ということで、それが物理やさん達の新理論構成のモチベーションになっている。

それでSUSYやらGUTやら超弦理論が考え出された。

しかしながらそれらの理論は「実験での検証がいまだできていない理論」なのです。

さて、とは言いながら「まだよく分かっていないヒッグス粒子をよく調べれば新物理への道が見えるのでは?」という読みがあります。

また「ニュートリノ振動」というこれは明らかに「標準理論を超えた現象が見つかっている」のですから「これをよく調べよう」というのがアメリカの戦略です。

いずれにせよ「ヒッグス粒子の探究」やら「ニュートリノ振動の探究」が「ダークマターの探究」と並んで「新物理への具体的な突破口となる可能性」があるのです。

 

注6:たとえばこんな記事があります。

「なぜ新物理があると考えられるか」: https://indico.cern.ch/event/1029546/contributions/4322819/attachments/2262661/3840927/SUSY_DM2021.pdf :

注7:「超空間」:ミチオ・カク著:

P186『・・・標準理論はこの方法で組み立てられている。つまり、互いに独立している3つの多重項を粘着テープで張り合わせているのだ。見た目は悪いが、少なくとも3つのピースは粘着テープでつながっている事になる。』

p187『標準理論は全く異なる相互作用を大ざっぱにつなぎ合わせたものである為に、全くエレガントでないという事だ。・・・』

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/NwpDO