ブックエンド

活字中毒で乱読の毎日。
記憶から過ぎ去ってしまいそうな本を
記録しておくことにしました。

身辺整理

2011-05-01 19:42:27 | 文学(家族・友人)
「向田邦子の遺言」と、「向田邦子の恋文」を読んだ。
 大人だ。最初の遺言を書いたときは、40位。長女というだけじゃなくて、とてつもなくしっかりしている。

 誰にも寄りかからなかった人が、唯一可愛さを覗かせた男性がいた。
 いい三十代を過ごし、死が視界に入った40代。
 ぐちもいわず、淡々と自分の始末をつけた。
 鮮やかな女性だったんだなあ。
 

ホームスイートホーム

2008-09-13 23:46:45 | 文学(家族・友人)
 またもや、インガルス一家の物語からメアリ・インガルスについて。


 失明さえしなければ、妹のローラよりも先
に教員になり、一家の期待に応え続け、自分
の才能をどこまでも伸ばしていけるはずだった


 静かで穏やかに暮らしながらも、恨みもあきらめもなく
我が家と暮らしの喜びをやわらかくうたった詩もあった。

 とうさんのヴァイオリン

 楽しかった子ども時代は はるかかなたへ遠ざかり
 わたしの道に悲しみと喜びがやってきた
 光と影の日々が訪れた
 幸福と不幸が来ては去っていく
 バラ色の朝が来て 寒くて暗いたそがれが来る
 でも 決して色あせず 決して消えないのは
 こうして書いたことば
 石板においた紙に点字針で書いたことば
 永遠に消えない
 メロディーの記憶
 わたしの心をふるわせ
 神の高みへいざなうメロディー

 あのなつかしきやさしいメロディーは
 わたしを空のかなたへいざない
 ずっといっしょにいてくれる
 あの「仰ぎ見る祖国」の甘いメロディーよ
 ときには軽やかな足踏みが聞こえ
 心は楽しく 胸は高鳴る
 弦の上を弓がすべり
 「スワニー川」や「ホーム・スウィート・ホーム」を奏でる
 どこへ行っても決して忘れない
 荒野を歩いていても 大海を漂っていても
 聞くだけで 光る涙がこぼれ
 鼓動が高まり 心がときめく
 一番星のように きらめいて導いてくれる
 たとえ遠く世界をさまよっても
 きっと我が家に戻れるだろう
 とうさんとヴァイオリンが待っているから
 わたしの心に何よりやさしく響くのは
 どんなに優れた音楽家の歌よりも
 とうさんの魔法の弦からこぼれる音
 とうさんの弓から舞い上がる音
 ああ 1時間でいい もう一度
 あのなつかしいヴァーミリオン川のほとりの家に戻りたい
 つるのからまるドアを通り
 なつかしい部屋に入り
 いとしい家族に迎えられたい

 またたく間に過ぎてしまった年月よ
 おてんばだった小さな頃
 花咲くかぐわしい庭や草原を歩きまわり
 涙にかすんだ目で
 はるかかなたの行く末に思いをはせた
 どんな未来が待っているか わからない

 喜びの翼はたちまち飛び去り 悲しみの足どりはのろい
 今の喜びが悲しみに激しく変わり
 嘆きと悩みから喜びが生まれるかもしれない
 でも いつも変わらずあるのは 心の中の歌
 家族が永遠にいっしょになれるとき
 天国でまたみんなに会い
 清められ 恵みを受け すべての罪を洗われたときの歌

 『ローラからのおくりもの』
 ウィリアム・アンダーソン編 谷口由美子訳

 1999.11.25初版 岩波書店

 
  

 
 

贈られたい詩

2008-09-11 23:48:05 | 文学(家族・友人)
『大草原の小さな家』シリーズの著者・ローラ・インガルス・ワイルダー。
TVドラマも有名になった。

 ローラの姉・長女のメアリは一家の希望の星で非の打ち所がない女の子だったと
書かれている。
 実際そのとおりだったらしく、彼女が失明した後は両親の落胆振りも大きく、
元のようには決してならなかったとローラも書いている。

 それでもメアリは絶望も自棄になることもなく、静かに穏やかに暮らしを大切にしていたようだ。
 アイオワ盲人大学を卒業するときに、彼女が親友に贈ったという詩は言葉のひとつひとつが耀きながら伝わってくる。


「思い出の小箱に押し花を入れて」

わたしのいちばん大事な宝物
そっと隠した小箱の中
押し花の小さな束
花は愛の証と決まっている
純な心のシンボルは白い小菊
愛のシンボルは真紅の花
別れの夜にいっせいに花開き
最後の悲しい夜をはれやかにした

耀く光の中にそろって立ち
別れの言葉をかわしたわたしたち
なつかしい楽しい日々を過ごした大好きな友に
ひそやかな悲しみを込めて
ああ 遠い昔となったあの日々が
もしも再び戻るなら
過ぎ去った楽しい頃の思い出に免じ
別れのつらさに再び耐えよう

胸に飾った花を本にはさみ
心に甘やかな思い出を秘め
花を見てつと涙をこぼす
ああ 別れはどうしてこんなに早いのか
人生行路にいとしい友との別れはつきもの
会いたい望みのはかなさよ
ほんのつかの間の出会いのあとで
永遠に会えなくなるのだもの

きれいな花もいつかは散って
やがて見えなくなる
美しい思い出も薄れて消える

悲しい気持ちもただの夢
ただの愛の夢 いえ いえ そんなはずはない
わたしが大切にしたいのは
いついつまでも燃えて耀く愛
別れの悲しい影は過ぎていく

青空から雨が落ちてきて
きらきら光る粒がまざりあい
虹の七色にわかれ
お互いの色を映してきらめく
だからお互いに遠く離れてしまっても
友は心の奥で求めあい つながっている
永遠の愛はバラ色の耀き
真の友は決して離れはしない

『ローラからのおくりもの』

ウイリアム・アンダーソン編 谷口由美子訳 1999.11.25初版 岩波書店