またもや、インガルス一家の物語からメアリ・インガルスについて。
失明さえしなければ、妹のローラよりも先
に教員になり、一家の期待に応え続け、自分
の才能をどこまでも伸ばしていけるはずだった
静かで穏やかに暮らしながらも、恨みもあきらめもなく
我が家と暮らしの喜びをやわらかくうたった詩もあった。
とうさんのヴァイオリン
楽しかった子ども時代は はるかかなたへ遠ざかり
わたしの道に悲しみと喜びがやってきた
光と影の日々が訪れた
幸福と不幸が来ては去っていく
バラ色の朝が来て 寒くて暗いたそがれが来る
でも 決して色あせず 決して消えないのは
こうして書いたことば
石板においた紙に点字針で書いたことば
永遠に消えない
メロディーの記憶
わたしの心をふるわせ
神の高みへいざなうメロディー
あのなつかしきやさしいメロディーは
わたしを空のかなたへいざない
ずっといっしょにいてくれる
あの「仰ぎ見る祖国」の甘いメロディーよ
ときには軽やかな足踏みが聞こえ
心は楽しく 胸は高鳴る
弦の上を弓がすべり
「スワニー川」や「ホーム・スウィート・ホーム」を奏でる
どこへ行っても決して忘れない
荒野を歩いていても 大海を漂っていても
聞くだけで 光る涙がこぼれ
鼓動が高まり 心がときめく
一番星のように きらめいて導いてくれる
たとえ遠く世界をさまよっても
きっと我が家に戻れるだろう
とうさんとヴァイオリンが待っているから
わたしの心に何よりやさしく響くのは
どんなに優れた音楽家の歌よりも
とうさんの魔法の弦からこぼれる音
とうさんの弓から舞い上がる音
ああ 1時間でいい もう一度
あのなつかしいヴァーミリオン川のほとりの家に戻りたい
つるのからまるドアを通り
なつかしい部屋に入り
いとしい家族に迎えられたい
またたく間に過ぎてしまった年月よ
おてんばだった小さな頃
花咲くかぐわしい庭や草原を歩きまわり
涙にかすんだ目で
はるかかなたの行く末に思いをはせた
どんな未来が待っているか わからない
喜びの翼はたちまち飛び去り 悲しみの足どりはのろい
今の喜びが悲しみに激しく変わり
嘆きと悩みから喜びが生まれるかもしれない
でも いつも変わらずあるのは 心の中の歌
家族が永遠にいっしょになれるとき
天国でまたみんなに会い
清められ 恵みを受け すべての罪を洗われたときの歌
『ローラからのおくりもの』
ウィリアム・アンダーソン編 谷口由美子訳
1999.11.25初版 岩波書店