周平の『コトノハノハコ』

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小説第5弾『夢の終わりの夜行バス』~第1章~

2015年01月01日 | 小説
違う、お前じゃない。

そんな風に誰かに言われた気がした。

自分の夢を叶えられるのは、ほんの一握りの人たちだけ。
そんな事は分かった上で俺は10年前に上京した。

でも、その一握りの中に自分が含まれていると本気で信じていた。

しかし…

違う、お前じゃない。

そんな風にこの街そのものに言われた気がした。



夜の東京。
もうすぐ今日も終わろうとしている23時過ぎ。
都会のド真ん中にある大きな街の大きな駅の近くにあるバスターミナル。

大きな荷物を抱えたり引っ張ったりしてる人達で溢れている。

そんな中、圧倒的に俺の荷物は少ない。
それほど大きくない肩掛けのバッグに、さっきコンビニで買ったばかりのコーラのボトルや、たいした残高じゃない貯金通帳、スマートフォンの充電器などが入っているくらいだ。

一人暮らししていた小さなアパートの小さな部屋に置いてあった僅かばかりの家具や家電製品は廃棄処分したり、先に宅急便で岩手にある実家に送ってしまっていた。

そして上京した時には一番大きな荷物だったはずの『夢』はこの街のどこかに置いてきてしまっていた。

どこかでいつの間にか消えてしまっていたと言った方が正しいのかもしれない。

高校を卒業してすぐに、プロのミュージシャンになるという大雑把な夢を抱いて、俺は岩手から上京した。

あれから10年……

東京で知り合った友達といくつかバンドを組んだりしたのだが、全く芽が出ずに今日を迎えている。

べつに両親から「そろそろあきらめて帰って来い」と言われたわけでもなければ、「そろそろ結婚しなさい」とか言われたわけでもない。
そもそも俺には結婚できるような相手もいない。

自分で決めたのだ。

もうこれ以上、コツコツとアルバイトをしながら、毎月やっとやっとでアパートの家賃を払い続け、今後叶う可能性の低い夢を追いかける必要性というかメリットというか、何よりもモチベーションが自分の心の中に見当たらなくなってしまったのだ。

何台ものバスが止まったり動き出したりするバスターミナルの中に、自分が乗るべきバスをやっと見つける事ができた。

岩手の盛岡駅行きのバス。

あれに乗れば俺の夢は完全に終わるのだ。やっと楽になれるのだ。

(第2章へ続く)

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