周平の『コトノハノハコ』

作詞家・周平の作詞作品や歌詞提供作品の告知、オリジナル曲、小説、制作日誌などを公開しております☆

小説第3弾『Extra Dream』~第5章~

2013年01月31日 | 小説
「2」、「0」、「1」、「3」
歩夢はタイムマシンの中にあるタッチパネルで戻りたい過去の年を入力した。
2013年。歩夢が22歳だった年だ。
もう2、3年前にタイムスリップしても良かったのだが、昔の歩夢に東京で2、3年は夢を見させてやっても良いのではないかと思い、キリが良く30年前の2013年に戻る事にした。

「OK」ボタンを押すと、タイムマシンの中は目を開けていられない程の眩しい光に包まれた。

10秒後、歩夢が恐る恐る目を開けると、さっきまでの眩しい光は消えていて、歩夢はとある公園の公衆トイレの個室の便座に座っていた。

「何もトイレの中じゃなくても…」

歩夢が2013年に戻って最初につぶやいた言葉はこれだった。
後で分かった事だが、どうやら東京コスモツリーが経った場所に昔あった公園の公衆トイレらしい。

「本当にここは2013年なのか?」
歩夢は街のあちこちを見渡して確かめた。

街の至る所に貼られた某秋葉原アイドルのポスター、携帯電話に「公園なう。」と今となっては寒気のする言葉を入力している若者、「消費税率8%になる前に買い替えを!」と貼り紙がされている家電量販店の店頭に展示された大型(今となっては小さい方だが)テレビ。
駅の高架下で横たわっている、お家の無い人の体に掛けられている布団代わりの新聞紙には「平成25年(2013年)10月13日(日曜日)」と印刷されている。

「間違いない。ここは2013年の東京だ…」

分かってはいた事なのだが、いざ本当にタイムスリップすると、歩夢は変な恐怖と孤独感に襲われた。
それはそうだ。この世界には52歳の歩夢を知る人間は一人もいないのだ。

「ちょっと待てよ? でもどうせ2043年だって俺の事を知ってる奴なんて、親父とおふくろとバイト先が一緒だった奴らくらいだよな。じゃあ、たいして変わらないじゃないか。」

そう開き直った歩夢は22歳の自分自身を探しに向かった。

(第6章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第4章~

2013年01月24日 | 小説
第3章でまさかの再登場を果たした「二瓶」という人物が何者なのか知らない方や、忘れてしまった方は小説第1弾『草食系貧乏』を参照して欲しい。

その二瓶にも、ついにめでたく新しい家族ができた。

「歩夢」だ。

マンスリーマンションの賃料を浮かせるために歩夢は二瓶のボロアパートに転がり込んだのである。
二瓶はまさか人生で初めてアパートの合鍵を渡す相手が同性、ましてや同い年のオッサンになるとは思っていなかっただろう。

そうして、5畳のボロアパートでお互いに心の傷を舐め合う日々が足早に過ぎて行った。

歩夢は自分の生活費や両親への仕送りの金を稼ぐために毎日必死で働き続けた。
コンビニに人が足りている時間は他のアルバイトもいくつかやった。
高く聳え立つ東京コスモツリーのてっぺん、いや、高さ900メートル地点にある超特別展望台を見上げながら。

そして、歩夢が東京へ出て来て僅か4ヶ月後の2043年10月にまさかの奇跡は起きた。

二瓶のボロアパートのボロポストに、歩夢のタイムマシン搭乗権の獲得を知らせる封書が届いたのである。

二瓶が誤って、それを鍋敷きに使用してしまったため、若干封書の中身も濡れてしまったが、間違いなくそこには歩夢の無謀な賭けの成功を知らせる文章が綴られていた。

「し、信じられない… まさか本当に、しかもこんなに早く叶うとは…」
歩夢は本来の目的を果たす前に感動して泣き出してしまった。

その頃、岐阜の実家では毎月減っていく一方の歩夢からの仕送りに両親が涙していた。

その10日後、ついに歩夢がタイムマシンに乗る日がやってきた。
ちなみに歩夢が過去に戻っていられる1週間の間は、現代でも時が1週間過ぎている。
歩夢はコンビニや他の全てのアルバイト先に退職届を出した。
過去から戻ってきた頃には、もう歩夢が東京に留まる理由は無いからである。

それに歩夢が現代に戻ってきた頃には、きっと歩夢の過去は変えられていて、52歳の歩夢はアルバイトなんかではなく、立派にどこかの会社の社長にでもなっているかもしれないのだから。

(第5章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第3章~

2013年01月15日 | 小説
物語は第3章へ突入し、これからどんどん盛り上がっていく予定ではいるが、
念のためここでもう一度、2043年にタイムマシンが完成している可能性は限りなくゼロに近い事をお伝えしておく。
タイムマシンの実現はおそらく永遠に難しいだろう。
過去には戻れない、過ぎた時間は取り戻せない。それが現実だ。
だから、この物語を読んでいるのは時間の無駄だと感じた読者は、今からでも間に合うので引き返して欲しい。

そうこう言っている間に馬鹿な歩夢は東京に到着してしまったようだ。
年老いた両親に「毎月必ずお金は送るから!」と言って実家を飛び出してきた。
そう、全ては30年前に戻り、昔の自分に会って、夢を諦めさせるために。

歩夢はさっそくマンスリーマンションを借り、アルバイトを探し始めた。
過去の経験を買ってもらえるだろうと、あちこちのコンビ二の面接を受けたが、さすがに52歳のオッサンはそう簡単には雇ってはもらえなかった。

「こうなったらダメ元であそこしかない!」

歩夢は30年前にアルバイトをしていた都内某所にあるコンビ二を探しに向かった。
そこそこ大きい通りにあるコンビ二だったし、潰れてはいないだろうと踏んだ。

辺りの様子はもちろん30年前とは大きく変わっていたが、そのコンビニだけは昔と変わらずにそこにあった。

「あのぉ… すみません。」
歩夢はレジの奥の方にいる同じくらいの歳の店長らしき男性に声をかけた。

「あのぉ、かなり昔にここで働いていた者なんですが、現在アルバイトは募集されていますか?」

すると、店長らしき男性は驚くべき言葉を返した。

「あなた… まさか歩夢君?」

「えっ?」
ビックリした歩夢は、すぐにその男性の左胸にある名札に目をやった。

「ま、まさか、二瓶君?」

「うん。いや~、久しぶりだね~。元気だった?」

「ま、まぁね。二瓶君、まさかここの店長になったの? 
っていうか、ここであれからずっと働いてたの?」

「うん、そうだよ。さすがにこれだけ、この店だけに命を懸けて働いていれば店長ぐらいにはなれるさ。」
二瓶店長は笑いながらそう答えた。

それから何十分の時が流れただろう。
二人は他のお客さんも完全無視で話に花を咲かせた。

お互いまだ未婚である事や、当時もお互いモテなかった事や、二瓶の失恋話や、歩夢が当時頻繁に二瓶にシフトを代わって貰っていた事、

そして、歩夢が今さら東京へ戻ってきた理由を。

その翌日から歩夢は30年ぶりに、このコンビニで働き始めた。

東京都民の中から抽選でタイムマシンに乗れる一人に選ばれる、訪れるかどうかも分からないその日まで。

(第4章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第2章~

2013年01月08日 | 小説
「歩夢」という主人公の名前を聞いて、読者は何歳くらいの人間を想像しただろうか?
10代の若い男性を想像しただろうか?
いや、この名前だと女性でもおかしくはない。
20代前半の可愛らしい女性を想像した読者もいるだろうか?

残念ながらどれも不正解だ。
答えは「52歳の冴えないオッサン」である。

歩夢(52歳独身・男性・アルバイト)は1991年(平成3年)に岐阜県に生まれた。
19歳の頃に俳優になりたいという夢を追いかけて上京した。
しかし10年以上経っても全く芽が出ず、夢をあきらめ、30歳を過ぎてから定職に就こうとしたが、時すでに遅し。
結局、34歳の時に東京を去ることになり、現在は実家で年老いた両親と3人暮らし。
岐阜でも定職に就く事はできず、アルバイトを掛け持ちして自分と両親の生活費を稼いでいた。
昼間は定食屋で、深夜はコンビ二でアルバイトの日々。

ちなみに歩夢が定食屋で働こうと思ったのは"定食"屋で働く事で"定職"に就いた様な気になれるからという安易な理由であるかどうかは定かではない。

「こんなはずじゃなかったのになぁ…」

歩夢は20代前半のうちにさっさと夢をあきらめ、定職に就かなかった事を激しく後悔していた。

「あぁ、あの頃に戻ってやり直せたらなぁ…」

歩夢は休日に実家の居間でそうつぶやくと、特に見たい番組も無いのにテレビをつけて、体を横にした。
テレビでは、俳優としても活躍している若手の男性タレントが「東京コスモツリー」の中にあるレストラン街のリポートをしていた。
まさに歩夢が昔、思い描いていた姿がそこにはあった。

「東京コスモツリーかぁ… すげぇよなぁ… だってタイムマシンまであるんだもんなぁ…

うん!? タイムマシン!? そうだ!その手があった!!」

52歳のオッサンになっても馬鹿なままの歩夢は、
下手したら俳優として成功するよりも可能性の低い賭けに出る事にした。

(第3章へ続く)

5th distribution 『貧乏哀歌』

2013年01月01日 | オリジナル楽曲
皆様、2013年あけましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いいたします!

今年もどこかのタイミングで良いお知らせができたら良いなぁと思ってます。

今年は元旦からいきなり新曲披露です!
ネット配信曲としては早くも第5弾になりますね♪
去年の夏ぐらいから次の曲は新年元旦にアップすると決めていて、
元旦にアップするなら明るく元気の出る曲にしよう!と一瞬は考えたのですが、「それじゃあ俺らしくないだろう。」と思い、あえて真逆を行く事にしました(笑)

今回はネット配信曲では初めて歌詞の主人公が周平本人ではありません。
おかげさまで、さすがにここまで貧しい生活はしておりません(笑)

元旦から暗い気持ちになりたくない方は聴かないでくださいね!(笑)

オリジナルの楽曲をアップしている音楽配信サイトmuzieの周平のページです↓
ここで今回の新曲『貧乏哀歌』も聴けます♪
http://www.muzie.ne.jp/artist/r016691/

#127 『貧乏哀歌』

2013年01月01日 | 作詞作品集
財布の中身も尽きてきた
バイトの給料日前の夕暮れ
四畳の部屋を照らす西日に
余計に虚しさ溢れ出す

あの時 進学や就職を選んだ友は
眩しいスーツに包まれ
夢を選んだ馬鹿な僕だけ
いつも同じ私服を着てる

夢さえあれば幸せだと
本気で思ってた
だけど現実は違う
夢じゃお腹は満たされない

だんだん 友達からの
遊びの誘いが減ってゆく
どうか明日も ずっと変わらず
嗚呼 友達のままでいてくれますか?


カップラーメン 啜る日々
家賃の滞納は当たり前
親からの仕送りに 感謝と共に
違う涙も溢れ出す

でもこんな僕にも彼女がいます
僕の夢を応援してくれる
時々 部屋に来ては作ってくれる
料理が一番の御馳走なのです

そんな優しい彼女に僕は
今まで何一つ
彼氏らしい事できず
甘えるだけの日々流れて

どんどん メールや電話
数が減ってる気がします
お願い 他の人の所へ行かずに
彼女のままでいてくれますか?


水が止まっても
電気が止まっても
ガスが止まっても
夢は止まらず
だけど叶う見込みも無い
いつまでこんな日々続くの?

だんだん 失う物も
増えてゆくけど夢を追います
付き合い悪いけど ずっと変わらず
嗚呼 友達のままでいてくれますか?
きっと何にもしてやれないけど
ずっと 彼女のままでいてくれますか?
嗚呼 このまま夢見てても許されますか?
嗚呼 貧乏のまま生きてても許されますか?

小説第3弾『Extra Dream』~第1章~

2013年01月01日 | 小説
最初に言っておくが、この物語はフィクションである。
しかし、フィクションじゃなくなるかもしれない物語である。
フィクションであるか否かは、読者自身が30年後まで生きて、
その目で確かめていただく他に方法が無い。

時は西暦2043年。

日本の消費税は20%にまで引き上げられ、
生活苦を理由に自殺する者が相変わらず日々絶えない。
国会議事堂の前では、毎日のように減税を訴える大規模なデモが続いている。

それを見下ろすかのように聳え立つ、高さ1000メートルの電波塔「東京コスモツリー」。
これが2043年の東京の新たなシンボルになっている。
その「東京コスモツリー」の高さ900メートルの地点にある超特別展望台には、
過去にだけタイムスリップできるというタイムマシンがあるらしい。
2040年までに日本やアメリカなど6カ国がタイムマシンの製造に成功したのである。
つまり22世紀に誕生するであろう青い猫型ロボットの必要性はほぼ無くなったと言えるのである。
それに竹とんぼくらいの大きさのプロペラで空が飛べるだなんて、
この時代の暗く沈んでいる日本人は誰も信じてはいない。
ピンク色の密入国&不法侵入可能ドアも然りだ。

話は戻るが、日本が消費税を20%にまで引き上げた理由はタイムマシンの製造費なのではないかと、
疑問や反発の声も多い。
しかし、国民にとっても嬉しい話もある。
なんと毎月一人、東京都民に限り、応募者の中から抽選で選ばれた一人が、
タイムマシンで過去の自分の好きな時間に1週間だけタイムスリップできるというのだ。
そんな少ない確率に賭けて東京へ引っ越す馬鹿な人間も少なくはない。

そんな馬鹿な人間の中の一人が、そう、この物語の主人公「歩夢(あゆむ)」である。

(第2章へ続く)