違う、お前じゃない。
そんな風に誰かに言われた気がした。
自分の夢を叶えられるのは、ほんの一握りの人たちだけ。
そんな事は分かった上で俺は10年前に上京した。
でも、その一握りの中に自分が含まれていると本気で信じていた。
しかし…
違う、お前じゃない。
そんな風にあの街そのものに言われた気がして、こうして俺は今このバスに乗っている。
カーテンの隙間から朝の光が差し込みはじめ、バスは高速道路を降り、まもなく盛岡駅へと到着した。
時刻は朝の6時55分。
ちょっとだけ予定より遅れたが、そんな事はどうでも良い。
幸いにも、しばらくプー太郎になるであろう俺には彼女と今後の事について話し合う以外の予定が今日は組まれていない。
斜め後ろの席の例の彼女はトランクに荷物を預けているので、荷物の少ない俺は計算してわざとゆっくりとバスから降りる事にした。
彼女がバスから降りた事を確認し、残っていた2杯目のコーラを飲み干し、乗客の中で一番最後にバスから降りた。
すると彼女はトランクに預けている荷物を受け取る列の中にいた。
彼女が乗務員から返却された荷物は、東京と銘打ちながらも実際には千葉県にある某"夢の国"のおみやげがゴッソリ入っている、ネズミやアヒルのキャラクターたちが描かれた大きなビニール袋2つだった。
「え?」
大きなビニール袋2つを重たそうに両手に持った彼女が俺の方へ歩いてきて、
「先ほどはどうも。ご自宅は近いんですか?」と訊いて来た。
「あ、はい、まぁまぁ近いです… あのぉ、その荷物って、まさか…」
「はい、おみやげです♪ って言ってもほとんど自分が使うんですけどねっ!」
「じゃあ、夢の終わりって言ってたのは…」
「はい、東京に住む遠距離恋愛中の彼氏との夢の国での夢の時間が終わっちゃったなぁって♪」
「あ、そうなんだ… 遠距離恋愛か…」
「はい!でも来月には私も東京へ引っ越して同棲する予定なんです♪」
「そ、そうなんだ… それは良かったね…」
「それじゃあ、失礼します♪」
「うん、ありがとう… 気をつけて…」
さて、帰るか。
実家までは決して歩けない距離ではないので、両親に車で迎えに来てはもらわずに、頑張って歩いて帰ることにした。
というより、なんだか歩きたい気分なのだ。
歩いていないと気が狂いそうだった。
10年前から抱いていた夢と、昨夜の23時に抱いた夢がたった今、二つ同時に終了したのだから…
誰か俺を励ましてくれ。
電話でもメールでも同情でも金でも良いから何かくれ。
と、その時、携帯電話に1通のメールが入った。
連絡先の交換すらしていないさっきの彼女が何らかの方法で俺のメールアドレスを入手し、「やっぱりあなたの方が良いです!」なんていうメールを送ってきたのだろうか?
それとも3年前ぐらいに受けたのが最後である何らかの音楽系のオーディションの書類選考に通りましたという連絡が今さら来たのだろうか?
どちらもあるわけがないと思いながらも、微かな期待を胸に抱きながら俺はメールを開いた。
メール文にはこう書いてあった。
「二瓶 一之さんからFacebookの友達リクエストが届いています」と。
違う、お前じゃない。
<完>
そんな風に誰かに言われた気がした。
自分の夢を叶えられるのは、ほんの一握りの人たちだけ。
そんな事は分かった上で俺は10年前に上京した。
でも、その一握りの中に自分が含まれていると本気で信じていた。
しかし…
違う、お前じゃない。
そんな風にあの街そのものに言われた気がして、こうして俺は今このバスに乗っている。
カーテンの隙間から朝の光が差し込みはじめ、バスは高速道路を降り、まもなく盛岡駅へと到着した。
時刻は朝の6時55分。
ちょっとだけ予定より遅れたが、そんな事はどうでも良い。
幸いにも、しばらくプー太郎になるであろう俺には彼女と今後の事について話し合う以外の予定が今日は組まれていない。
斜め後ろの席の例の彼女はトランクに荷物を預けているので、荷物の少ない俺は計算してわざとゆっくりとバスから降りる事にした。
彼女がバスから降りた事を確認し、残っていた2杯目のコーラを飲み干し、乗客の中で一番最後にバスから降りた。
すると彼女はトランクに預けている荷物を受け取る列の中にいた。
彼女が乗務員から返却された荷物は、東京と銘打ちながらも実際には千葉県にある某"夢の国"のおみやげがゴッソリ入っている、ネズミやアヒルのキャラクターたちが描かれた大きなビニール袋2つだった。
「え?」
大きなビニール袋2つを重たそうに両手に持った彼女が俺の方へ歩いてきて、
「先ほどはどうも。ご自宅は近いんですか?」と訊いて来た。
「あ、はい、まぁまぁ近いです… あのぉ、その荷物って、まさか…」
「はい、おみやげです♪ って言ってもほとんど自分が使うんですけどねっ!」
「じゃあ、夢の終わりって言ってたのは…」
「はい、東京に住む遠距離恋愛中の彼氏との夢の国での夢の時間が終わっちゃったなぁって♪」
「あ、そうなんだ… 遠距離恋愛か…」
「はい!でも来月には私も東京へ引っ越して同棲する予定なんです♪」
「そ、そうなんだ… それは良かったね…」
「それじゃあ、失礼します♪」
「うん、ありがとう… 気をつけて…」
さて、帰るか。
実家までは決して歩けない距離ではないので、両親に車で迎えに来てはもらわずに、頑張って歩いて帰ることにした。
というより、なんだか歩きたい気分なのだ。
歩いていないと気が狂いそうだった。
10年前から抱いていた夢と、昨夜の23時に抱いた夢がたった今、二つ同時に終了したのだから…
誰か俺を励ましてくれ。
電話でもメールでも同情でも金でも良いから何かくれ。
と、その時、携帯電話に1通のメールが入った。
連絡先の交換すらしていないさっきの彼女が何らかの方法で俺のメールアドレスを入手し、「やっぱりあなたの方が良いです!」なんていうメールを送ってきたのだろうか?
それとも3年前ぐらいに受けたのが最後である何らかの音楽系のオーディションの書類選考に通りましたという連絡が今さら来たのだろうか?
どちらもあるわけがないと思いながらも、微かな期待を胸に抱きながら俺はメールを開いた。
メール文にはこう書いてあった。
「二瓶 一之さんからFacebookの友達リクエストが届いています」と。
違う、お前じゃない。
<完>
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