周平の『コトノハノハコ』

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小説第5弾『夢の終わりの夜行バス』~第4章~

2015年01月22日 | 小説
栃木県内の佐野サービスエリアで1回目のチャンスタイム… 
ではなく休憩タイムが15分だけ与えられた。

斜め後ろの席の女の子がすぐに席を立ってバスを降りていった。
きっとトイレに行くか、自動販売機か売店で何か飲み物でも買うのであろう。

俺もトイレに行きたかったし、気合注入のために飲み干してしまったコーラの代わりとなる飲み物を買わねばならなかった。

先に女の子がトイレに入って行ったとは言え、おそらく先にトイレを済ますのは男である俺の方だろう。
俺はさっさと用を足し、偶然を装い女の子と話せるチャンスを掴み取るために、男子トイレと女子トイレの入り口の間にある自動販売機の前で何を飲もうか長い時間迷っているふりを始めた。

人生に迷っている俺にとって、迷っているふりをする事など朝飯前である。

ちなみに飲む物はすでにコーラに決まっている。

それでも何を飲むか迷い続けているふりを続けていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。
肩を叩いてきたのはまさかのまさか、バスの中で通路を挟んで真横に座っていた同い年くらいの男だった。

きっと俺が自動販売機の前を長時間塞いでいたから「さっさとしろよ!」的な事を言ってくると思ったので、俺も「すみません、お先にどうぞ」という準備をしていた。

しかし彼の口からは予想外の言葉が…

「ねぇ、君はどこまで帰るの?僕は仙台までなんだけど。」

違う、お前じゃない。

お前とどうでも良い事を話している時間は生憎俺には無い。

しかし無視をするわけにもいかず、
「あ、お、俺は盛岡まで…」

「そうなんだ。なんとなく君も音楽をやってるような雰囲気がしてさ。それで声かけたんだ。ごめんね、急に。」

「あ、いや、大丈夫だけど… っていう事は君も音楽やってるの?」

馬鹿か俺は。話を膨らませてどうする?
あの子がそろそろトイレから出てきてしまうぞ!

「うん、まぁ、あまりうまくはいってないんだけど。結局音楽なんて全然できてなくて、毎日バイトばっかりだよ。」

その後もそいつは話し続けたし、俺も相槌を打ち続けたが内容はほとんど覚えていない。

ただ、その会話の途中で目当ての女の子が俺達の真横を通り過ぎてバスに乗り込んでいくのだけは、横目でしっかりと確認できた。

俺にとって、チャンスが目の前を通り過ぎていくのをただ眺めているという事など朝飯前である。

(第5章へ続く)

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