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「マナーとプライド(くるま編) 1」

2015-05-13 20:23:49 | 短編小説
・ウサギに割りこむ


 老舗の酒造工場が両脇に立ち並ぶ、片側一車線、制限速度四十キロの道路。建物群は背が低いものが多く、視界に圧迫感はない。青い空を仰ぎ見て、十字路の交差点で信号待ちとなる。

 手前側の先頭は、女性ユーザーがほとんどを占めるという、ピンク色のとある軽自動車だ。左折のため、左ウインカーを出していた。

 対向側の先頭待ちの車両は、黒いワゴン系の軽自動車。メーカーロゴのないフロントグリルがやや挑発的だ。過積載なのか、車高が少し低いようにも感じられる。おそらく直進するのだろう。他の車がそうするように、静かに待っていた。


 信号が青となった。


 ピンク色の軽自動車は、まるでウサギのように、いや、まるで模範ドライバーのようにゆっくりと左折を開始する。と、その前に。急に右折で割りこんできた対向車があった。車高の低い、例の黒い軽自動車だ。

 黒い軽自動車は直進するそぶりでいたのに、右折のためのウインカーも出さず、ピンク色の軽自動車の前に割って入ったのだ。黒い軽自動車の運転者(若い男)は、右折の間、不敵な笑みを浮かべて、ピンク色の軽自動車の運転者の方を見ていた。

 そんな黒い軽自動車の後姿といえば、なんとも薄っぺらのものだった。メーカー名や車名のロゴのたぐいをいっさい取り外し、ワイパーさえも除去していたのだ(ワイパーが付いていた根元には、なぜか銀色のサイコロがついていた)。

 リアウインドウのスモークの濃さも、ドライバーの後頭部が見えないほどの黒。全体的にワル気に見せているつもりらしい。運転の仕方がワル気なのも、そのなごりか。

 一方のピンク色のウサギの運転者は特に怒る様子もなく、アクセルを徐々に開け、スピードを増していった。ちなみに、ピンク色のウサギの運転者は男性だった。

 一見、どう考えても女性が乗っていそうな車に男性が乗っていたために、黒い軽自動車の運転者は相手を見下したのだろうか。はたまた、ピンクのウサギを筆頭に、対向側から流れてくる全部の車をやり過ごすことが嫌だったのだろうか。割りこんだ理由、その真相は定かではない。

 結局、黒い軽自動車は三十メートルほど先の交差点で再び赤信号につかまり、ピンク色の軽自動車がその背後につけることとなった。


 黒い軽自動車の名はおそらく、スズキ ワゴンR。マツダ AZワゴンの可能性も捨てきれないが、現行モデルより二世代前のモデルだった。


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