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泣き言はあるか

2019-03-14 21:16:23 | 短編小説

 お前が富田に出し抜かれたと思ってしまうのは、お前がのらりくらりと遊び暮らしていたからだ。

 中途で入ってきた人間ってのは、それなりに必死だ。見えないところで懸命に努力しているのは当然だ。

 お前はそこんことろを見くびっていた。富田の教育係であるなら、あいつ以上にあらゆる方面において、準備と復習を怠るべきではなかった。

 

 今さら泣きついてきても、俺はどうにもしてやれん。

 

 立場は入れ変わったんだ。明日から、いや来週からでいい。お前は工場に異動しろ。

 そこでゼロから始めるのか、終焉に向かっていくのかはお前次第だ。

 課のリーダーだったなら、部下の、一人一人の性分までもをきちんと把握するべきだった。

 

 それを重視せず、同じような失敗を犯しても、ある者には感情のままにののしり、ある者には一切の過ちをとがめもしなかった。その逆もあった。

 そんな主任に誰がついてこようか。お前は自分のやり方に、ただの一度でも立ちどまって再考したことがあったか? 進歩のない者は自分にすら目を向けない。

 

 中途の富田は過去、子会社に出向していた経歴があり、いわば即戦力だ。

 

 将来的に主任のポジションを担わせようとした社の思惑もあった。言いかえれば、お前が変わるかどうかも見極めようとしていた。  

 

 それを薄々感づいていれば、もっとやりようがあっただろうにな。

 

 お前は何も考えずに生きていただけだ。ちがうか? 昼休み、平気でスロットに興じるような人間だ。返す言葉は見つからんだろう。

 

 気づきを与えてくれる仲間を作ろうともしなかった。お前の自業自得だ。

 

 お前は必然、社内で扱いにくい駒となっていた。部下からも、上層部からもだ。

 

 俺だけがかろうじてお前の愚痴を聞ける相手だったかもしれんが、内心、迷惑に思っていた。お前の発する悪影響は、俺にも飛び火するからな。

 

 組織の風通しを乱す人間と見なされれば、どうなるか分かるだろう。

 

 富田はお前にけなされていた者の一人だったよな? お前は何か知らんが、富田を一方的に煙たがっていた。

 他の人間にもそうしていたように、相手の態度や容姿、一見の印象で敵視していたようだった。ちがうか?

 富田がお前から受けた罵詈雑言は、相当な数にのぼる。日に日に激しくなっていた。誰もが見て聞いて、嫌になるくらいだった。

 

 それでも富田は、自分の受けた傷はさておいても、真っ先にお前の理不尽さに必死に耐え続ける同僚のフォローに回っていた。

 人望ってのは、そういうところからも生まれる。それを根回しだの、機嫌取りだの、うがった見方をした奴が俺の目の前にいる。

 

 一生かかっても得られないとやっかんだのかもしれんが、みっともなかったな。

 

 私生活でもむしゃくしゃしていたのか知らんが、うっぷんを晴らす場所は見定めるべきだった。

 

 どうだ? 堪(こた)えたか? ここまできて何も感じないなどと言うなよ。

 

 まだ憎しみの気持ちの方が強いなら、もうここを去った方がいい。やり直したいという意志があるのなら、すがりついてでも目の前にある任務をまっとうしろ。

 今回のことが人生の中の一部の出来事だとする。会社人生で見れば、さらに短い一瞬の只中(ただなか)にいることになる。

 お前には味気のない通過点なのかもしれんが、それを濃いものにするか、薄いまま放置するのかで、お前の生き方に対する機微は変わってくる。

 

 一度でも、生き方を丁寧に行うことを覚えれば、何事にも肯定的になれる。

 

 人生は五分と五分と言うが、何もしなくて両方に振れるわけじゃない。

 

 悪いことがあっても、その後に良いことも起こるってのは、どちらも自分がそうなるように仕向けているからだ。

 お前は今、自分で悪い方へ仕向けたんだから、どうしたいのかは自分で分かるはずだ。やり方はお前しか知らん。

 

 俺が言えるのはここまでだ。

 

 会社は一つの堅牢な家だ。塀、外壁、そして屋根瓦、庭にいたるまで社員が守っている。

 どんなに立派な建材を用いようとも、それらを守り抜くのは社員の腕にかかっている。

 家の中に住む社員同士で諍(いさか)いあっていては、凋落するのは目に見えている。

 

 社員の和は不可欠だ。

 

 分散して働こうが、最後には一堂に会する。

 

 反目する関係にあっても、つながる手立てはある。

 

 一度や二度なら逃げてもいい。

 

 だが、考えることはやめるな。

 

 

 最後に、もしも仮にだが、お前に心の病があるのなら、まずゆっくり直した方がいい。

 俺の言ったことに向き合うのは、その後でもいいから。


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