「訓練=服従心育成」論とフード・トレーニング
昔から、フードを報酬に用いたトレーニングに異を唱える向きがある。
>命令で動作をさせることは、
>人の意志に従わせることでもあり、
>ものを与えるために従わせるのではありません。
>フードを報酬としてトレーニングしても結果は同じかもしれませんが、
>犬の心の中に刻み込まれた服従心は、
>まったく異なります。
>基本的に人に従う気持ちを持った犬は、
>難しいことを教えていってもよくそれを理解できます。
(「某しつけ本」48~49頁)
このように、「訓練=服従心の育成」という観点に立てば、フードを報酬に用いたトレーニングは「犬の甘えを助長し、服従心を低める安直な方法」となる。犬は<人への服従心を示すために>仕事をしている訳ではない。が、このように力説しているしつけ本は多い。その影響等で、「フードを使ったトレーニングはイヌをダメにするって本当なの?」という疑問を抱いいる飼い主も少なからずいる。
水越美奈女史のアドバイス
『P.E.T.S.行動コンサルテーションズ』の水越美奈女史。日本盲導犬協会神奈川訓練センターで、定期的に「パピーセミナー」と「老齢犬セミナー」を行っていることでも知られている。彼女は、しつけでフードを利用する場合の留意事項を次のように述べている。
>フードを賄賂として用いてはいけません。
>ご褒美として上手に活用しましょう。
「フードを賄賂として用いない」とは、どうやり方なのか?次は、女史監修のしつけ本で紹介されている方法。
【フードを使った歩く練習】
1、右手にフードを持ち、仔犬は左側に立たせる。
2、フードを仔犬の鼻先に近づけ、歩きながら横にくるように誘導する。
3、仔犬が真横に来る瞬間に「ヒール、グッド!グッド!」と褒める。
4、フードをなめさせながら、そのまま歩く。
5、フードを後ろに隠してもうまく歩けたら「グッド!グッド!」と褒める。
6、褒め言葉に反応したらフードを与える。
7、フードを後ろに隠す時間を徐々に延ばしていく。
8、最終的にはフードなしで歩けるようにする。
(「DVDでわかる!犬のしつけ&トレーニング」94~95頁)
DVDの動画でケーナイン・アンリミテッド家庭犬しつけインストラクターである矢崎潤氏の実演を確認すると、確かに、最後にはフードなしで一緒に歩いている。しかし、なぜ、矢崎氏は、「グッド!グッド!」のほめ言葉だけでツイテ歩きを成功させているのか?それは、仔犬が「グッドをいいことである」と学習しているから。
仔犬も動物である。そして、動物には「自分にとって楽しいこと、いいことは自発的に行う」という習性がある。仔犬に「横について歩いたらいいことがある!」が十分にインプットされ、それが習慣として身につくことが肝心とのこと。その延長線上に、「習慣は自然の如し」の域がある。それは、他ならぬ<盲導犬とユーザーとが共に歩く様>である。
盲導犬訓練にみるしつけの極意
http://www.nhk.or.jp/bakumon/prevtime/20130313.html
先日、NHKで放映された「探検バクモン、盲導犬でワンダフル!」に登場した伝説の盲導犬訓練士である多和田悟氏は、
>犬って楽しくなきゃー仕事をしない。
>我慢してやる犬、見たことない。
と語っていた。「実は、盲導犬は人のために仕事をしているのではない。楽しいから仕事をしている」というから驚きだ。登場した盲導犬訓練生に対する高度とも思えるトレーニングも、「そのすべてが、『楽しいと思ったことは繰り返す』という犬の心理を利用したものだ」という。「あの犬なんて、もう姉ちゃんに夢中ですよ」と言って多和田氏は女性訓練士を指さす。
「訓練=服従心の育成」という等式は、盲導犬の訓練には存在していなかった。どうやら、「フードを賄賂として用いない」の極意は、盲導犬候補生X号をフードではなく私に夢中にさせることのようだ。
フード・トレーニングは、本当に犬をダメにするのか?
さて、西川文二著(成美文庫)の第五章「飼い主たちの疑問にもアンサー!」の中では、「フードを使ったトレーニングはイヌをダメにするって本当なの?」という疑問に次のように答えている。
>トレーニングにフードを用いるのは、
>「ある行動の結果、いいことが起きれば、その行動の頻度を高める」って法則を利用している。
>重要なのは、ある行動の結果、
>おいら達イヌにとって「いいこと」が起きるってことさ。
>いっつもほめ言葉をいわれてからフードをもらっていると、
>ほめ言葉自体がいいことになっちまう。
>そう、フードを上手に「いいこと」として使えば、
>声をかけられたり、触れられたりするのだって、
>「いいこと」になるってわけ。
>すなわち、フードを使ったトレーニングは、
>最終的にはフードを抜いていけるってことになるのさ。
(「もしも、うちのワンちゃんが話せたら・・・」205~207頁)
換言すれば、「フード⇒ほめ言葉」という体験の蓄積がある水準に達した時、犬の認識レベルが「ほめ言葉=いいこと」というステージに移行するということ。つまりは、量から質への転化が起こる訳だ。かかる体験の蓄積による相転移を十分に意識すれば、握ったり・見せたり・隠したりできて、与えるタイミングや間隔も自在に変えられるフードは「(訓練に利用できる)条件を満たす最適なプレゼント」(「うまくいくイヌのしつけの科学」サイエンス・アイ新書158頁)と言える。
経験に裏打ちされた訓練士の信念か?それとも、学習心理学や行動学に基づく最新のしつけ理論か?両者は水と油で、決してまじわらないように思える。しかし、私が見聞した限りでは、必ずしも、そうではない。双方ともに「犬を訓練者に夢中にさせる!」という点では軌を一にしており、共に犬を夢中にさせる優れた技能の持ち主であった。素人が着目すべきは、そこなのかも知れない。はっきりしているのは、私がどのしつけ理論の共感者であろうとも、「いかにして盲導犬候補生X号をして我に夢中にさせるのか?」が焦眉の課題。今の私は、「フード云々」、「服従心云々」以前の問題を解決しなければならない。
最後に一句。
リラックスウォーク 遥かに遠し 君と僕
※習慣は自然の如し=(孔子家語)習慣が深く身につき、生来の性格・振る舞いに見える様。
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