働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

多様な正社員(ジョブ型など限定正社員)検討会資料公開

2021年11月11日 | ブログ管理者ノート
「多様化する労働契約のルールに関する検討会」多様な正社員(ジョブ型正社員)議論
明日(2021年11月12日)、厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」(第9回)が開催される。議題は「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」だが、資料が本日(11月11日)から厚生労働省のサイトに公開されている。

なお、多様な正社員(ジョブ型正社員)は、濱口桂一郎・労働政策研究研修機構所長(元厚生労働省官僚・岩波新書『ジョブ型雇用社会とは何か』著者)らが呼ぶ「ジョブ型雇用」で採用(経団連は「ジョブ型採用」とも呼ぶ)された、いわゆる「正社員」と非正規雇用社員の中間に位置する「職務限定社員」「地域限定正社員」「勤務時間限定正社員」のこと。

多様化する労働契約のルールに関する検討会(厚労省サイト)

おかしなジョブ型論ばかりが世間にははびこっている(濱口桂一郎)
「おかしなジョブ型論ばかりが世間にははびこっている」と濱口桂一郎氏が著書『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)の中で懸念を示しているが、厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」(第9回)では「ジョブ型正社員(多様な正社員)」ルール明確化について議論された。

公開された資料1「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」には「各企業において正社員層をどのように仕分けて活用していくかは、企業の人事権そのものに関するものであり、法の介入は控えるべき」との使側(使用者側)弁護士意見が記載されているが、また参考資料3「多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」を読むとジョブ型正社員・労使トラブルが多く発生していることも明らかにされている。

このように多くの訴訟にもなっているジョブ型正社員問題を「企業の人事権」だからといっても看過すべきではない。何らかの法規制、または労働契約法においてルール明確化すべき事柄だと思う。なお「使側(使用者側)弁護士」とは経団連が推薦した経営法曹会議・常任幹事の「峰隆之弁護士」(第4回「多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」議事録より)。

第9回「多様化する労働契約のルールに関する検討会」資料
本日(2021年11月11日)、厚生労働省のサイトに公開された資料は次のとおり。

・第9回議事次第
・資料1 多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について
・参考資料1 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況(第5回検討会資料1)
・参考資料2 無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する現状(第1回検討会資料6)
・参考資料3 多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例
・参考資料4 ヒアリング結果まとめ(事例)(第6回検討会参考資料4)


多様化する労働契約のルールに関する検討会 第9回資料(厚労省サイト)

多様な正社員(ジョブ型正社員)論点(総論)
(1)論点

・「いわゆる正社員」と「非正規雇用の労働者」の働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着の実現のため、職務、勤務地又は労働時間を限定した多様な正社員の普及を図ってきたが、労使双方に対する効果や課題をどう考えるか。また、労使双方にとって望ましい形で更なる普及・促進を図るためには、どのような対応が考えられるか。

・多様な正社員の限定の内容の明示に関し、「雇用管理上の留意事項」の策定や導入事例の周知などにより周知を行ってきたが、限定された労働条件が明示的に定められていない場合や、限定されていた労働条件が変更される場合もある中で、紛争の未然防止や予見可能性の向上のために、限定の内容の明示等の雇用ルールの明確化を図ることをどう考えるか。

・多様な正社員か否かにかかわらずいわゆる正社員であっても何らかの限定があると言える場合もありうるところ、いわゆる正社員についても念頭において検討することについてどう考えるか。

(2)検討会における委員からの主な意見等
・いわゆる正社員であっても、何らかの限定があると言える部分もありえる中で、無限定の働き方であることを前提に議論することやそれを肯定するような形で議論することはいいのだろうか。多様な正社員だけを念頭に置くのではなく、いわゆる正社員についても念頭において議論していくべきではないか。

・正社員や多様な正社員は、法制度で定められている概念ではないので、広めに色々視野に入れた上で検討することになるのではないか。

・多様な正社員の制度があるということと、制度が活用されている、運用されているということは、必ずしも一致していないことに留意が必要。

(3)検討会におけるヒアリング先からの主な意見等
・多様な正社員制度の導入によるプラスの影響としては、育児・病気を理由とした制度利用の例が多く多様な雇用形態の実現に資することができた点、非正規雇用であれば退職していたかもしれない人材が社員として会社に定着しているという点、生活に合わせたスタイルで正社員になるステップを導入することができた点等が挙げられた。(企業)

・中小企業では正社員の勤務地や勤務時間の限定という希望は実現できており、特に限定正社員を設定する必要性はうすいとの意見があった。(労働組合)

・ジョブ型人材マネジメントは、そのジョブだけの雇用というものではなく内部の人材活用の活性化や経験者採用等の観点で導入したマネジメントという意味合いである。(労働組合)

・多様な正社員制度については、肯定的な意見が多い一方で、雇用区分が異なる人がいると社内の団結が難しくなるという意見やどのような基準で社内での制度導入の検討をすればいいのかわからないという意見もあった。(企業が行った中小企業アンケート)

・地域限定ということの裏返しの問題として、そもそも全国転勤を可能にするありよう自体を見直す必要があるのではないか。(労働組合)

・多様な働き方の浸透とともに、「正社員」という概念自体が曖昧になりつつあり、「正社員」「非正規雇用」という枠組みから離れる必要があるとの意見があった。(企業が行った中小企業アンケート)

・各企業において正社員層をどのように仕分けて活用していくかは、企業の人事権そのものに関するものであり、法の介入は控えるべき。(使側弁護士)

・労使合意によって、長時間労働や使用者の配転命令権への歯止めがかかる働き方が「ジョブ型正社員」として模索されることに反対はしない。しかし、配偶者の遠隔地配転が実施されたり長時間労働が放置される限り、他方配偶者の離職を事実上強いられる(特に女性労働者が直面)問題は、「ジョブ型正社員」では解決ができない。(労側弁護士)(資料1「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」より)

「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書
はじめに ~労働市場の現状と「多様な正社員」の普及の必要性~

我が国における働き方については、雇用が安定し、勤続に応じた職業能力開発の機会や相対的に高い賃金等の処遇が得られる一方で、職務や勤務地の変更が幅広く行われ、所定外労働を前提とした長時間労働がみられる「いわゆる正社員」と、職務の変更の幅が狭く、勤務地は同一で所定外労働を命じられることは少ない一方で、有期労働契約の反復更新の中で雇止めの不安を抱え、職業能力開発の機会が少なく、相対的に賃金が低く昇給の機会も少ない「非正規雇用の労働者」との二極化をめぐる指摘がなされるようになって久しい。

高度経済成長期以後、大企業を中心に、いわゆる正社員の長期雇用慣行を基軸として、経営環境の変化に対応した労働力や人件費の調整のために非正規雇用の労働者を配置することで、生産性の向上と柔軟性の確保を図る人事労務管理が定着してきた。

しかしながら、その後の経済成長率が趨勢的に低下する中で、いわゆる正社員については、長期雇用慣行を維持しつつ、新規採用の絞り込みや人事評価の厳格化等が進んできた。その一方で、非正規雇用の労働者については、その比率が90年代後半から2000年代前半にかけて増加し、以降現在まで緩やかに増加しており、こうした非正規雇用の労働者の中には、若者を中心として正社員の仕事がないために非正規雇用で働いている者もいる。

同時に、女性の社会進出や、それに伴う共働き世帯の増加等に伴い、仕事と生活の調和を求めるなど労働者の就業意識が多様化し、二極化した働き方の見直しが求められるようになっている。

また、今後、労働力人口が一層減少していく中で、我が国の社会経済が活力を維持するためには、女性や高齢者など、育児や介護あるいは体力的な事情のために希望する働き方に時間や地域的制約を伴うことの多い人々においても、その職業キャリアを継続、発展させる中で、能力を発揮できるようにすることが求められるようになっている。

企業の人事労務管理においても、いわゆる正社員と非正規雇用の労働者に二極化した雇用ポートフォリオを見直し、職務や勤務地の変更の幅を限定した無期契約労働者の区分を設けるとともに、異なる雇用管理区分への転換制度を設ける動きの広がりがみられるようになっている。また、改正後の労働契約法(平成19年法律第128号)に基づき通算5年超の有期契約労働者が無期に転換することにより、職務や勤務地等を限定した無期契約労働者の増加が見込まれる。

同時に、経済のグローバル化が進み企業の競争環境が厳しさを増すとともに、技術革新や消費者のニーズの変化が早くなり、不確実性が増大する経営環境の中で、 市場の求める付加価値を産み出すため、プロジェクトの遂行等に必要とされる専門的知識を持った労働者を中途採用するといった動きも見られるようになっている。

このような状況の中で、働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を同時に可能とするような、労使双方にとって望ましい多元的な働き方の実現が求められている。そして、そうした働き方や雇用の在り方の一つとして、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」の普及を図ることが重要となっている。

多様な正社員の効果的な活用が期待できるケース
(1)勤務地限定正社員

育児、介護等の事情により転勤が困難な者や地元に定着した就業を希望する者について、 就業機会の付与とその継続、能力の発揮を可能とする働き方として、有能な人材の採用や定着の促進に資すると考えられる。特に、人材の確保や定着に課題を抱える企業での活用も考えられる。

また、改正後の労働契約法によるいわゆる無期転換ルールによる転換後の受け皿としての活用が考えられ、特に小売業、サービス業等、非正規雇用の労働者が多く従事していると同時に労働力の安定的な確保が課題になっている分野の企業の人材確保に資すると考えられる。

コース別雇用管理において定型的な事務等を行い、勤務地も限定されている「一般職」が多く従事する分野で、職務の範囲が狭い一般職に、より幅広い職務や高度な職務を担わせ、意欲や能力の発揮につなげるために活用できる働き方である。金融業等、一般職が多い分野での職務の範囲が狭い一般職に替わる人材活用に資すると考えられる。

製造業等グローバル展開が進展している分野において、海外転勤が可能な者と海外転勤が困難な者とを区分し、確保するための活用が考えられる。

競争力の維持のために安定した雇用の下での技能の蓄積、継承が必要な生産現場において、非正規雇用の労働者の転換の受け皿として活用が考えられる。

地域のニーズにあったサービスの提供や顧客の確保が可能となりえる。多店舗展開するサービス業での活用が考えられる。(略)

(2)職務限定正社員
例えば金融業の投資部門において資金調達業務やM&Aアドバイザリー業務などに従事する専門職や証券アナリスト、情報サービス業でビッグデータの分析活用に関する技術開発を行うデータサイエンティスト等、特に高度な専門性を必要とし、新規学卒者を採用して企業で育成するのではなく、外部労働市場からその能力を期待して採用し、職務の内容がジョブ・ディスクリプション等で明確化され、必ずしも長期雇用を前提としておらず、企業横断的にキャリア・アップを行うなど、我が国の典型的な正社員とは異なるプロフェッショナルとして活用されているが、産業構造の高度化が進む中で一層重要性を増していくものと考えられる。

また、医療福祉業、運輸業などで資格が必要とされる職務、同一の企業内で他の職務と明確に区分することができる職務などで活用されているが、高齢化やサービス経済化の進展に伴って一層重要性を増していくものと考えられる。その他、ゼネラリストではなく特定の職務のスペシャリストとしてキャリア・アップさせることも考えられる。

また、一般に職務が限定されている非正規雇用の労働者が、継続的なキャリア形成によって特定の専門的な職業能力を習得し、それを活用して自らの雇用の安定を実現することを可能とする働き方としても考えられる。

他方、工場における技能労働者、店舗における販売員、一般職等については、総合職と比して職務の範囲が狭いが、教育訓練等によって他の職務に転換させることも可能であり、また、必ずしも職務が限定されているとは言えない場合もみられる。

また、大企業のホワイトカラー労働者についても、人事、経理等の特定の職能の職務に従事する場合が多いが、キャリア形成や事業の必要性のために、他の職能を経験させるなど柔軟な人事配置が行われ、必ずしも職務が特定されているとは言えない場合もみられる。

職務限定については、当面の職務を限定する場合と、将来にわたって職務を限定する場合とがある。欧米において、例えばアメリカでは、職務記述書に職務の内容を詳細に記述することが広く行われているが、 近年は、人事管理の柔軟性の確保のため、職務の幅や階層の大括り化(ブロードバンディング)の動きもみられ、大括り化された職務や階層の範囲内での異動が可能となっている。こうした動向にもかんがみれば、高度な専門性を伴わない職務に限定する場合には、職務の範囲に一定の幅を持たせた方が円滑な事業運営やキャリア形成への影響が少ない点にも留意が必要と考えられる 。

(3)勤務時間限定正社員
育児、介護等の事情により長時間労働が困難な者に就職、就業の継続、能力の発揮を可能とする働き方として、有能な人材の採用や定着の促進に資すると考えられる。特に、人材の採用や定着に課題を抱える企業での活用も考えられる。

育児、介護等の他、キャリア・アップに必要な能力を習得するために勤務時間を短縮することが必要な者が活用することが考えられる。

現状において勤務時間限定正社員は活用例が比較的少ないが、勤務時間限定正社員となる労働者に対するキャリア形成の支援、職場内の適切な業務配分、職場の人員体制の整備、長時間労働を前提としない職場づくり等の取組が行われることが必要である。(資料1「多様な正社員の雇用ルール等に関する論点について」より)


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