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『ひなぎく』 (1966) / チェコ

2014-05-14 | 洋画(は行)


原題: Sedmikrasky
監督・原案・脚本: ベラ・ヒティロヴァー
出演: イバナ・カルバノバ 、イトカ・チェルホバ
鑑賞劇場: シアターイメージフォーラム

公式サイトはこちら。


男たちを騙して食事をおごらせた挙句に嘘泣きして逃げ出したりと自由気ままに生きている2人の姉妹。部屋の中でも牛乳風呂に入ったり紙を燃やしたりとやりたい放題。そんな彼女たちが、今度は党のパーティーに忍び込み……。(映画.comより)

数年前にも確かレイト上映があったのですが、その時は行けず。今回もレイト上映でくじけそうになったのですが(!)、頑張って観てきました。
ベラ・ヒティロヴァー監督は、今年3月12日にご逝去とのこと。ご冥福をお祈りします。

「ポップなガーリームービー」らしいということしか前情報は入れてないので、さてどんなふうなのかと観てみたら、冒頭から何か不穏な映像が続く。空中から母艦を攻撃しているそれは、どうやら第二次世界大戦のものらしい。この映画ができた時点で戦後20年経っているのに、表向きは平和なはずなのに、こうして戦争の映像(しかも非常に臨場感があったりする)を見せられると心は重くなる。

本編自体は2人の女の子がビキニだったりワンピースだったり下着だったりとまるで戦闘とは関係ない外見で登場する。2人とも肉感的で露出が非常に高いシーンが多く、また映画内での言動も奔放で一貫性がなく見えるため、製作から約50年経った今観ても「今時の女の子がほわんほわんと生きてるだけ」という図式が成立しているところが凄い。
いわゆる「今時女子」な振る舞いというものは、歳月が経過してもそうそう変化するものではないことがよくわかると同時に、見た目「かわいい~」「女はこれだからしょうがない」で済ますことができてしまうガーリー要素に、別の思惑を混ぜ込んでも違和感なく流していけることがわかる。よく観てみると最初から2人のセリフには伏線があって、「全部ダメ」などが終盤重要な意味を持ってくる。

では何が「全部ダメ」なのか? 「最初と最後に盛大な破壊画像があって、真ん中が脈絡のない女子の行動」だけでは読み解けない。
一見サイケでポップな女子2人組が意味のないワールドを繰り広げるようにしか受け取れないが、あくまで主題は冒頭と最後の破壊に詰められている。この映画の背景にあるものは1960年台当時のチェコ及び東欧諸国を取り巻く政治であり、本作はそれに対しての批判を展開している。プラハの春の少し前に製作されているので、体制批判の空気も次第に強くなっていった時期と思われる。当時の社会主義の常として、ソ連の影響下にあることで映画製作にあたっても体制に沿ったものでないと当然許可されないはずなので、こうして「女子的な訳のわからなさ」をわざとポップに描くことによってカモフラージュしていったのだろう。

恐らくだがセリフやシーンの全てに意味や伏線があるはずで、1回観ただけでは解析はできないが、細かく調べて行けば相当の毒が混ざっているに違いない。この辺りはDVDも出ているので実行している人もいるだろう。
最初は訳の分からない甘えたような場面が続くが、はっきりと転換となるのはディナーのシーンからだろう。豪華なフルコースが並ぶテーブルを回り、彼女たちは味見をしていくが次第にそれは食卓の破壊につながっていく。無邪気に壊して回るのは、体制をぶっ潰したかった当時の人々の心情だろうし、ディナーを破壊してから強いられて修復しても、ひび割れたものは完全には元には戻らないことを、社会主義の失敗や矛盾を見せつけられた人民の心に芽生える静かな怒りに例えているのだろうか。体制に対しての不信感はそれまでの理想を曇らせる。1966年当時のチェコではこれが最大限の社会主義批判だったのだろう。

そして若い女子たちには体制なんてどうでもいいんだという主張は、本作から50年経過しても、そして今から50年経ったとしても不変と予測できる。自由に人生を謳歌する彼女たちのパワーに目くらましを受けるのはいつの時代も同じだけど、大人たちの言いなりになっているように見えて実は最大の反逆を考えているのは、彼女たちのような10代女子なのかもしれない。人々を不幸にしか導かない現実世界の政治オヤジたちには、この真実は見抜けないことを期待している。何故なら見破ってしまったら全く面白くないから。例えフィルムは色褪せてしまったとしても、こうして最高に皮肉なひなぎくたちはいつまでも輝き続ける。


★★★★ 4/5点








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2 Comments

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 (とらねこ)
2014-08-11 13:15:43
冒頭のモンタージュに戦争への思いを見たんですね。
例えばあの、食事の準備だけして人間が誰も居ないところなどは、楽しむ余裕と時間の無い大人たちの“礼儀正しさ”をぶち壊すようで気持ちが良かったですね。
反体制というより非体制かな。
少女の王国の無敵さを感じました。
伸びやかな“No"!
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とらねこさん (rose_chocolat)
2014-08-14 08:05:22
大戦終結から20年だと、まだまだ記憶も生々しかったんじゃないでしょうかね。

>大人たちの“礼儀正しさ”をぶち壊す
これは10代女子だった人なら誰でも覚えがあるはずでしょう(笑)
その、何者をも恐れない天下無敵さこそが10代女子ですから。
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