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『マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン』 (2012) / イギリス

2014-03-09 | 洋画(ま行)


原題: For No Good Reason
監督: チャーリー・ポール
出演: ラルフ・ステッドマン 、ジョニー・デップ 、ウィリアム・バロウズ 、テリー・ギリアム
観賞劇場: シアターイメージフォーラム

映画『マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン』 公式サイトはこちら。

イギリス出身の風刺漫画家ラルフ・ステッドマンに迫ったドキュメンタリー。イギリスで社会や政治情勢を風刺する漫画家として活躍したステッドマンは、カウンターカルチャーが隆盛を極め、風刺漫画が芸術表現のひとつとして確立された60年代後半にアメリカへ渡る。ローリングストーンやザ・ニューヨーカーといった有名誌で次々と作品を発表して注目を集め、型破りなジャーナリストとして知られるハンター・S・トンプソンの著作「ラスベガスをやっつけろ」では挿絵も担当する。トンプソンとの波乱に満ちた友情物語を軸に、ビートニクを代表する作家ウィリアム・バロウズとの交流などを、ステッドマン作品の収集家でもあるテリー・ギリアム監督や俳優ビル・マーレイの協力によって得られた貴重な映像を交えながら紹介し、ステッドマンの創作活動の源に迫る。映画「ラスベガスをやっつけろ」でトンプソン役を演じたジョニー・デップが、ナレーションとインタビュアー役を担当。(映画.comより)


殆ど予備知識はなかったもののタイトルに惹かれて鑑賞。ちなみに『ラスベガスをやっつけろ』は未見。これをあらかじめ観ておくとさらにいいんだろうなあと思いながら観進めて行く。主演俳優だった人が関連作品のナレーションだなんてカッコいいし、いい話じゃないですか。
ジョニーはかなりの場面に登場してきていて、本当にラルフのことが好きで、よき支持者なんだということがよくわかる。彼のファンならこれは必見でしょうね。素のままのジョニーはなかなかスクリーンじゃお目にかかれないし、こんな一面があるのかと思うくらいリラックスした表情が見れる。

Ralph Steadman Official Site(英語)

ラルフについて詳しく知らない方でも、公式サイトを見ると作風や半生などがわかる。そして映画ではラルフの仕事ぶりが詳しく描かれている。最初は一本の線から始まり、割と写実的に描いたり、簡素に枠を決めていくがそこからが彼の手法の見せどころで、考えられないような描写がそこに書き加えられていく。せっかく塗ったキャンバスを真っ黒にしてみたり、さらには削ったり、顔料を口で吹き付けたり、単純に筆やペンでだけ描いたものは1つもない。そこにその線は普通は書かないんじゃないか?とこちらが思うこと、大胆な色使いを彼はしていく。そうして最初のシンプルなものからはかけ離れたような作品が出来上がる。完成品を見ると強烈な上に、どこかグロテスクな雰囲気も感じるし、そうかと思えばアリスシリーズのように細い線が主体のものもある。しかしそこに共通するのは、見たものをそのまま書くのではなくどこかが歪んでいることだ。対称ではなく、人の心を和ませるような柔らかさでもなく「、どこかがおかしいような気がする」と鑑賞側に思わせるようなインパクトが彼の特徴なのだろう。

そうして常に歪んだ風刺画を書く理由が彼の中にもあって、それは「全ての人の心にある歪みを映し出したいから」ということ。目に留まるような印象を与える画を書くことによって、その画に含まれているメッセージを汲み取ってもらうこと。
「アメリカは世界をどんどんダメにしている。ショッキングな絵は権威に対する攻撃だ」と彼は語る。直接の対話や論調でも権威に対しての反論はできる。しかしより多くの共感を得るため、広く早く大衆にアピールするのは何と言っても視覚効果。彼の描く作品は世間を代弁する意味でも評判となり、あくまでも見る側が主観で考える作風は広い支持を得た。

「ラスベガスをやっつけろ」の著者であるハンター・S・トンプソンとの交流も劇中には描かれる。破天荒なトンプソンと大胆なステッドマン、このコンビもまさに運命の引き合わせとでも言えばいいのだろうか。「打てば響く」という言葉があるがまさにそれにふさわしいコラボレーションがそこにはあった。そして、相棒とでも言うくらい知り尽くしたはずの相手を助けられなかった後悔の念も淡々とラルフは語っていく。

彼の長年に渡る良き理解者であるジョニー・デップの、自然体のナビも爽やか。ナレーションまで引き受けるほどに、彼もまたラルフの作品が感性に合っているのだろう。いつもはハリウッド大作でしかお目にかからない印象があるが、演技していない彼が観れる貴重な映像はファン必見。他にも有名どころには支持を得ており、さりげなく劇中に登場する大物たちとの交流の広さも楽しめる。どこに誰が出てくるのか探してみては?

ラルフ自身の過去の映像、現在の映像を取り混ぜた所に作品としての厚みが生まれ、さらに自身の絵の制作過程を取り上げながらアニメ形式で適切に使うことが彼の主張を裏付ける。世の中を正すことに生きがいを感じ、それを実行させる力強い才能の持ち主。魅力的なドキュメンタリーとなった。


★★★★☆ 4.5/5点







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