傍流点景

余所見と隙間と偏りだらけの見聞禄です
(・・・今年も放置癖は治らないか?)

Football映画徒然①

2006-06-04 | 映画【劇場公開】
 間もなく開幕のW杯。恐らく私にとっては、一生サッカーなんて縁がないだろう、と思ってたのは4年前までのこと。偶然のキッカケでアイルランド代表の試合にのめり込み、即席ニワカもいいとこのサッカー・ファンになったのが前回のW杯だった。が。以後、いろいろ素人なりに観た結果、私が好きなのはアイルランド~イングランド・プレミアリーグのフットボールであり、あとはまあ東欧~トルコ系とかアフリカ系はちょっと見入るけど、他は殆ど面白いと思えないことが判明した。なので、今回のW杯はまあ、ゆるーくイングランドを気にしつつ、後はテキトーに観るかな程度なのだが。
 とりあえずとはいえ、前哨戦としてFIFA公認全面協力の『GOAL!』だけは観ておかねば、という訳で観ましたよ。


◆『GOAL! ~step1』('06/監督:ダニー・キャノン)
 やっぱサッカーじゃなくてフットボールなのよ!てな訳で、ファンなどと恐れ多くて言えないけども、敢えてイングランド・フットボール~プレミア好きとして、ベタな英国ワーキングクラス・テイスト映画を期待してたのだけど、かなーり分かりやすくハリウッド・テイストの作品であった。
 ホント、丸ごと少年漫画な世界でご都合主義的に話が進み、主人公のサクセス・ストーリー以外の要素~ガンガン出世していく主人公の傍で零れ落ちていく同期選手や、かつての名選手・今は単なるブルーカラーなおじさんの哀愁、人気選手のタガの外れた遊び人っぷりの裏の孤独や焦り等はサラリと流される程度。このへんを描き込んでくれたら更に私好みになるんだけどな~(苦笑)。まあ、この後step2、3と控えてるのにそんな描写は余計って感じなんだろーね。要するに大味で、連続ドラマのダイジェストっぽい出来。しかも肝心の試合のシーンの迫力がイマイチだったりもしたけど…全体的にはまあ、それなりに楽しめた映画ではあった。
 ただ、主人公のサンティアゴはメキシコから米国への不法移民なので、最終的にW杯に漕ぎ着ける際、何処の国の代表になるのかね?というのが最大の疑問。というか、既にstep2ではレアル・マドリードに移籍とかいう展開になるよーなんで、私的にはあんまり面白くないんだけども。だってレアルの選手なんて、あんまりワーキングクラス・ヒーローって感じじゃないもんなー^^;; という訳で、私がイングランド・プレミアが好きなのは、常に攻撃あるのみ!なスタイルもさることながら、彼ら(選手)の存在がワーキングクラスの夢だからなんだな、とつくづく思ったのであった。ある種、英国のロック・バンドがそうであるように。(単に私個人の趣味としてワーキングクラス系の男が好きだということもある…国とか人種とか関係なしに;;)
 地元クラブのファン達の異常な熱狂、スタジアムを、パブを埋め尽くす彼らの怒涛の歓声。胸にグッと来るのはやはりそういうシーン。そして、ここまでファン(サポーター)が熱いのは英国ならでは、という気がする。贔屓のクラブ選手を親戚のように思い応援し、だから時には厳しい言葉も浴びせる(>ソコは結構笑えるシーンだけど)。
 役者関係では、チャラチャラ遊んでばかりいるようで実はイイ奴なスター選手ガバン役を、スクリーンで観るのはご無沙汰だったアレッサンドロ・ニヴォラがやってたのが嬉しかった~。Mウィンターボトム監督の『アイ・ウォント・ユー』以来、密かに気になってた人だったんだけど…年齢的に、スター選手としてはギリギリのセンという気がするけど、step2も続投らしいのでどーしよーか迷うところである(いや、観るのを、ね)。そして主人公をアメリカからスカウトして、熱意を持ってクラブ(英国北東部の雄ニューカッスル・ユナイテッド)に薦める元名選手役のスティーヴン・ディレイン(『めぐりあう時間たち』でヴァージニアの夫レナードを演じた彼!)が素晴らしかった! あの神経質そうな紳士レナードからは想像できない、気骨に溢れる誇り高きワーキングクラスの男!ちゅー感じで惚れ惚れしたねえ。という具合に、おお~こんなところで再会!な役者が意外と多かった本作のしめくくりは、マルセル・ユーレス。地味ながら隠れた佳作と思う『ジャスティス』にて、黒くもエレガントなドイツ将校役だった彼が、なんとニューカッスルの監督役!ってとこにウケてしまった(またしてもドイツ人役! でも雰囲気的にはアーセナルのベンゲル監督みたいだった…)。
 あーそうそう。本物の現役選手(ベッカム、ラウール、ジダン等)も出てくるけど、結構そこは失笑ポイントだったかも~だって不自然過ぎるんだもん(苦笑)。スポーツ選手でもエンターテイナーはいるけど、これに出てる人たちはどーなんでしょーねー??


★『シーズンチケット』('00/マイク・ハーマン監督)
 ニューカッスルU繋がり、ということで改めて観返したくなったのが、私が大好きな本作。この映画は厳密にはフットボール映画ではなく、ニューカッスルUファンの少年達の話である。これとニック・ホーンビィ【ぼくのプレミアライフ】(新潮社)を読めば、英国のフットボール・ファンがどれだけファナティックであるか、自分がプレイすることよりも応援することにアイデンティティを見出す人々に支えられているのかがわかる(笑)。いや、本作の少年達にとってはアイデンティティというよりも、なけなしの希望、その全てなのだ。贔屓のクラブを応援するというより、スタジアムで本物の試合を観戦するという行為。それさえ出来なかったジェリー&スーエル。そして、この映画は彼ら凸凹コンビ少年達の、ほろ苦いながらも笑える青春友情物語でもある。(ケン・ローチ系でもあるけど、あそこまでシビアではないところが好みを分ける、かもしれない)
 さて『GOAL!』の感想にもサワリとして書いたことを、もう少し詳しく述べてみる。
 英国は今尚厳然たる階級社会であり、労働者階級(ワーキングクラス)しかも北部地方に生まれるということは、殆ど場合ノー・フィーチャーであるという。男性の失業率は高く、仕事に就けないというストレスはどうしても酒やドラッグに向かい、人も街も荒廃していく。そういう環境・親や大人に囲まれる子供は、自然と人生に希望なんて抱かなくなる。辛いからといって泣いたり出来なくなる。子供らしいイノセンスなんて10歳にも満たないうちに無くなる。
 だから、ワーキングクラスの人間がのし上がるに手っ取り早いのは、ロックスターかフットボール選手になることだと言われるのだ。しかし、その2つとも才能がなくてはどうにもならない。ではどうする? 
 彼らのようになれないなら、彼らの世界を作る一部(ファン)になればいいのだ。
 ジェリー&スーエルもまた、15歳ぐらいにしてなかなかハードボイルドな生活を送っている。殊にジェリーは、最早英国ワーキングクラス映画では定番な崩壊家庭の少年だ。つまり、オヤジは呑んだくれのろくでなし、母親は父親の暴力と困窮する生活に疲れきりソーシャル・ワーカーの世話になっている。ジェリーは学校に行っても教師やクラスメイトたちにクズ扱いされるのがイヤで、学校に行かずに連れのスーエルとブラブラしている、といった有様。しかし、そんな彼らにもフットボールだけは、贔屓の地元クラブ(ニューカッスルU)だけは、夢を与えてくれる大切な宝物だ。どうせボロボロな人生、だけど好きなクラブのゲームをこの目で観るという夢のためなら、なんとか頑張れるかもしれない。そして、そのときこそ借り物の思い出話(このエピソードはベタながらも切な過ぎる)を本物に変えるチャンスなのだ。
 という訳で、2人はいろいろと悪さをしつつも(笑)シーズン・チケット(シーズンの全試合を観戦出来るチケット)を買うための金を集めるべく奔走するのだが---どうあがいてもクズはクズ、今度こそ這いあがれるかというときに限って悪いことは重なり、万事休す!と思われた最後。
 遂に、ささやかながら、しかし彼らにとってはとてつもなくサイコーな奇跡が出現するのである。あまりの幸福感に、号泣必至にしてガッポーズを取りたくなる名ラストシーン。
 フットボール・ファンのみならず、何かの強烈なファンになったことがある人ならば、きっと本作に熱い何かを感じ取ってくれるはず。そして英国流の、小さいけどほのかに温かいお伽話がお好きな方には是非ともお薦めの一本である。
 ちなみに、『GOAL!』にもチラッと出てたニューカッスルUきってのベテラン名選手アラン・シアラー、初映画出演作でもあるらしい。この人、きっとスゴくイイ人なんだろうなあ~^^)

 さて、ついでに『ロンゲスト・ヤード('05)』『ミーン・マシーン('01)』の比較(?)感想も書こうと思ってたが、長くなったので場を改めて書こうかと思う。(なるべく早めに…と心掛ける次第…)


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