傍流点景

余所見と隙間と偏りだらけの見聞禄です
(・・・今年も放置癖は治らないか?)

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『ロード・オブ・ドッグタウン』('05/米国)

2005-12-17 | 映画【劇場公開】
 Wish you were here。映画のエンディングに流れるのは、かのPink Floydの名曲である。(スパークルホースによるカヴァーだが)
 終わらないはずの夏休みは、冷たい風の訪れとともに終わりを告げた。そして、離れ離れになった仲間たち。取り戻せない時間、正せない過ち、そして選択。そんなことはわかっている。わかってるけど。もう一度みんなと、あの頃の俺達の馬鹿騒ぎな日々をやり直そう。そのまんまじゃなくて、希望を込めて。
 映画の向こう側にいる、そんなかつてのZ-boys達の願いは見事に遂げられたのである。この作品の完成によって。そのことを宣言する、なんともベタかつ心憎い選曲じゃないか!(涙)
 今年最後の、そしてこの冬もっとも熱い青春映画の傑作だと思う。

 本作の主人公の1人であるステイシー・ペラルタが監督した傑作ドキュメンタリー『Dogtown & Z-boys』(本ブログ内関連記事)を土台にした作品なので、本物のZ-boys、彼らがどのような存在であったかは、其方に詳しいしこれ以上のものはない。
 本作で描かれるのは、米スケート・ボード界の【恐るべき子供たち】であった彼らが何を抱えて疾走していたのか、そして彼らの間の絆がどのようなものであったか、その背景に迫るドラマである。

 時代は70年代。ジミ・ヘンドリックスの“ヴードゥー・チャイル”が鳴り響き、カラースプレーが吹きつける「Locals only(余所者お断り)」の文字。映画の幕開けから、既に観る者の心をゾクゾクさせてくれる。そして、夜明け前のジェイ・アダムス、トニー・アルヴァ、ステイシーの3人。少年たちは地元の海でサーフィンするために、早朝からスケートボードに乗って道を走り抜ける。ジェイはこのときから既に悪ガキの茶目っ気たっぷり、しかし軽快かつ鋭い身のこなしと曲芸なような技で薄暗い道を飛ばしていく。トニーは根っからの派手好きな向こう見ず。いかにスリルを味わって滑るかが、彼のお楽しみだ。そしてステイシー。ひたすら生真面目で、しかしテクニックの磨かれ方は完璧だ。ジェイやトニーの大胆さはなくとも、彼は洗練されている。
 オープニングから、ろくな台詞もなく彼らの姿や表情を捉えてるだけでキャラクターを余すことなく伝える鮮やかなカメラ! こんな完璧な始まり方をする映画には、そう出会えるものじゃない。私はもう、気がつけばすっかりこの作品が生み出すリズムとスピード感に乗せられていた。あとはもう、流れに身を任せるだけ。潮が満ち、真夏の太陽のように眩しい彼らの姿、最高に高揚して楽しくて。
 しかし、潮はあっというまに引き、夏も終わっていく。「何でも出来る」と思う青春の真っ只中に訪れる名声、そして押し寄せた現実。遊びがビジネスになったことが少年たちを否応なく大人にし、親友たちの道は大きく分かれ、隔たれていく。

 本当の物語は、そこで途切れてしまったのかもしれない。皆ともに育った地元の幼馴染でありつつも技を競い合ったライバルであったがゆえ、一度分かれた道は二度と一つには戻らないし、修復することも難しかったのだろう。

 しかし、映画は彼らに奇跡を見せるのだ。繰り返されるメロディ。Wish you were here。おまえがここにいてくれたら。彼らは恐らく、それぞれの胸の中で、ずっとそう思っていたのだ。だから。エンディング・シーンの素晴らしさと切なさに、幸福感の中に込められた「Wish(劇中ではそれは、シドというキャラクターが象徴する)」に、スクリーンの此方側の私たちは号泣するのだ。

 米本国での本作の評価は賛否両論らしいけど、それは実話を元にしている以上止む無いことであろう。しかし、世相が変わろうと人の感情の在り方に変わりはない。無軌道な青春時代を送ったことがあろうが無かろうが経験する混沌、楽しさや痛みもまた然りなのだから。そうした意味で、私は'05年の青春映画/洋画編の№1は本作だと断言する。

 監督のキャサリン・ハードウィックには、今後とも是非肌感覚でリアルな若者たちの生き様を捉え、カメラに映しとっていく作品をどんどん撮ってもらいたい。彼女の視線、リズム、そして生き生きとした描写に長けた映像センスには絶大なる信頼を寄せたい。
 またキャスティングも文句ナシだった。当初、配役された俳優たちはちょっと育ちすぎ・今風に小奇麗過ぎる気もしたのだが、始まってみれば「映画」としてはこのくらいがちょうどいいのだ、ということがわかった。それぞれ結構本人たちに似てるし(笑)特にステイシー@ジョン・ロビンソンは、美形なのにドン臭い感じがピッタリだった(失礼な>ファンの人、スミマセン)。
 またキャストでは、実は本編の裏主役であるスキップ@ヒース・レジャーを特筆せねばなるまい。(個人的には、ラスト以外では後半のスキップ絡みのエピソードに、いちいち泣き入ってたもので・・・) ヒースと言えば、私は『Rock you!』のイメージしか無かったのだけど、いやはや、この人凄くウマイんだ!と唸ることしきり。だってスキップ・・・LAのヤンキー兄ちゃんだったもの。裸にひっかけたアロハ似合いすぎ。やや汚い金髪長髪も板につき過ぎ! 極めつけは喋り方。LA訛り?のベタベタした発音も含め、チンピラそのものでした。彼はZ-boysの兄貴的存在ではあるんだけど、所詮は器が「ローカル・オンリー」なんだよね。ある程度までは行けても、それ以上は無理というタイプ。そういう、小さい男の哀愁滲みまくりの後半は、現在の30代以降の世代にはグッサリくるはず(苦笑)。そして、鼻歌の“マギー・メイ”も沁みまくるハズ!
【付足:本作でのヒース・レジャーには、ジェフ・ブリッジス~ヴァル・キルマーあたりの「いささか崩れたダメ男の色気」を感じてしまう。『Rock you!』の健康的・王道ヒーローもそれはそれでハマってたんで、正統派路線を行くと思いきや・・・一気に好感度アップであった】

 余談だが、現在破竹の高評価でオスカー取ってしまうんじゃないか、と言われているアン・リー監督/ヒース主演作『ブロークバック・マウンテン』への期待も、更に高まった次第である。(→まあ、私自身は彼よりW主演というか競演のジェイク・ギレンホールのファンなので勿論絶対観るのは決定してるのだが)

映画覚書~霜月・其の弐

2005-12-13 | 映画【劇場公開】
○『ミリオンズ』('04/英国:ダニー・ボイル監督)
 なんだかんだ言って、現代英国の映画監督では私はダニー・ボイルが好きなんですよ。この人と、マイケル・ウィンターボトムの新作は、一応観ておこうって思うし。(ガイ・リッチーも期待はしてるんだけどね・・・) 特にボイルに関しては、『ビーチ』からダメになったなんて言われてるけど、私はその批判が全くわからないって感じで(笑)底意地悪いキッツいユーモアたっぷり、かつ表面的にはモダンでスタイリッシュな、フツーに彼らしい映画なのに何故?と思っているんですけどもね。
 ところが今作は、なんとボイル自ら「子供に見せられる映画を作りたかった」ということで心を入れ替え(?)撮り上げた作品とのこと。表現者としての、その希望は一応理解はできる。ジョニー・デップが海賊映画に出たのも、哀川翔兄ィが縞馬ヒーロー演じたのも同じ理由だし。でもねえ、あのダニー・ボイルがまさかココまで子供目線の、可愛らしいファンタジーな寓話を撮ってくれちゃうとは! いっそ文科省推薦にして欲しいほど!てな内容で、いやあ~ヤラレました。
 もちろん、ボイルならではの黒いジョークとか、不幸を逆手に武装する子供、といったリアルな英国っぽさもあるけども、全体的にはきゅんとするような(・・・)ラブリーなおとぎ話。主役のアンソニー&ダミアンのカニンガム兄弟も、袋詰したいほどめっちゃキュートでしたよ(そばかすだらけの顔も良し)! ああもう! 兄弟萌え(あまり堂々と言わないほうがいいのかしら;;)な私にはこの2人観てるだけで幸せでしたよ~。・・・とはいえ、かなり類型的キャラな兄弟でした。リアリストでお利口さん、12歳なのにビジネスセンスも抜群! しっかり者なつもりのあんちゃんと(幼いから)モノを知らないのでひたすら頑是無く純粋無垢、聖人マニアでドリーマーな弟ちゃん。 そらもー、あんちゃんの後ろをテクテクくっついて歩いてく弟ちゃんは蹴りたくなるほど可愛いわけですが、同時に「何故いつも弟キャラはこのように優遇されるのか?」とも思ってしまいました。…って、長子の僻みでスミマセン(^^;;)。とは言え、カワイイのは子供の頃だけ、だったりすることも弟キャラの特徴ではありますね、おほほほ。
 そんな愛らしい兄弟に、物質主義の洗礼を無理やり浴びせるとどうなるのか? というお話。聖人マニアの弟に合わせてキリスト教色は色濃いものの、甘すぎない程度の落とし方にホッとする。パパが暢気で適度にいい加減な普通のおっさんだったのも良かったなあ。ラストも、あれは子供の考えることだから全然オッケーって思いましたよ。映画にも「子供だからyesなこと/noなこと」が要所に散りばめられてて、そのへんのほろ苦さにボイルらしさを感じてニヤリと出来たのでした。グラフィカルでカラフルな画面設計、サクサクとリズミックに進む展開、子供空間の空想世界や恐怖の描き方なども含め、オトナも楽しめる良質な子供映画に仕上がってます♪

○『乱歩地獄』('05/日本:オムニバス)
 乱歩映画に何を求めるか、でこの映画の評価は違ってくると思うけど、私としては乱歩ものは「変態・インチキ臭い・無駄に華美でナンセンス」というイメージなので(笑)それなりに面白く観れたオムニバス作品。ただし、私は視覚・聴覚からの誘惑に弱いからねえ。そうじゃない人にはお薦め出来ないかも・・・。全編通して浅野忠信が出てるので、ファンの方は必見かな、とは思います。
【火星の運河】 監督:竹内スグル。原作は未読ですが・・・う~~ん自己満系アート映像というか・・・映像で表現されてるものはわかるけど、何も乱歩じゃなくてもいいんでは?という作品でした。ショート・フィルムなので、オープニングにはピッタリですが。
【鏡地獄】 監督:実相寺昭雄。乱歩モノを撮ることでは既に実績のあるベテラン監督による、一番無難というか良く言えば安定感のある、悪く言えば予想範囲内の作品でした。一般的な乱歩イメージではあるんだろうけど・・・ありがち過ぎて心動くものはありませんでした。それでも、主演俳優がタイプな人なら面白く観れるかもです。
【芋虫】 監督:佐藤寿保。この監督が撮るということは、間違っても丸尾末広風エログロにはならないわね、という予想通り、観念性の強いエロティズム&ファンタジーな世界でした。原作に比して、雰囲気が耽美に流れ過ぎかもだけど、乱歩モノの要素をいろいろ散りばめてて、ファン・サービスも欠かさないとこが良し。まあ、私は今まで映画化された乱歩モノでは『盲獣』が一番好きなので、本作には満足です(笑)。音楽の大友良英も合ってました。
【蟲】 監督:カネコアツシ。本職は漫画家なのだそうです、カネコ氏。いやー存じ上げなかったけど、この人映画監督でもイケるのでは? 毒々しくポップで、ブラックに馬鹿馬鹿しくて、笑える作品になってました。浅野忠信で持ってる作品とも言えるかもしれないけど、こういう狂気の描き方は現代アレンジの乱歩モノとしては正しい気にさえなりました。 私が中谷美紀と並んでキライな女優(ファンの人、読み流してね~)緒川たまきが出てるけど、この役なら大納得。

○『同じ月を見ている』('05/日本:深作健太監督) 
 さて、本作は窪塚@鉄也と、エディソン・チャン@ドン、彼らの傷ついた友情と再生についての映画である。幼いときは、お互いの“背景”などまったく問題ではなく、ただ一緒にいると楽しいから、という純粋な理由で“楽園”が成立するのに、成長するに従って“背景”の占めるウェイトが大きくなっていく。そこに異性という存在が加わると尚のことで、“楽園”は彼らの意志に関わらず次第に綻んでいく。たとえ片方がずっと“楽園”を大事に思い、信じていたとしても、もう片方にとってはそれが次第に足枷のように感じていくことがある。彼らの関係はそうやって、壊れかけようとしていた。
 鉄也は社会的には持てる者で恵まれているのだが、それだけにドンへの負い目が深まってしまうのだ。ドンは世間的には底辺にいるのだが、彼はそのぶん世俗とはかけ離れた成長しない“子供”である。そして、鉄也の変節は一時のもので、彼との変わらぬ友情を信じている。何故なら、子供の頃から独りぼっちだったドンに初めて近づいてきたのは、鉄也だったから。そんなドンの真っ直ぐで澄んだ心の強さが、余計に鉄也を追い詰めていくのである。
 こうして、筋を書いてるだけで胸が詰まる思いがする=超私的ツボな“幼馴染モノ”なんだけど、こんなん見飽きたわ!という人には当然ながらまったくお薦めしない。原作は土田世紀の漫画だそうで、これまた未読なので、原作ファンの人がどう思ったのかも知らない。でも主演2人のどちらかのファンの方なら、観て損はない映画だと思う。
 特に鉄也の心の澱み、卑小さと、その裏に隠されたドンへの思いを、復活・窪塚は見事に表現してまして、これほど彼に泣かされるとは思ってなかったです! いやマジで窪塚、甦ったよ・・・やっぱ俳優たる者、一つや二つ躓きがあったほうが、表現の深みや幅が出るし妙な自意識も薄まって良くなるもんだねえ、と実感。(>何様なんだ私^^;; しかし、彼がTVドラマの【池袋ウエストゲートパーク】で路線変更するまでは、割と好きだったことを思い出しましたよ・・・) 鉄也が自己嫌悪と苛立ちを、暴力でドンに向けてしまう長回しのシーンが、沁みる。そして火事のシーン。私は思わず、監督の亡き父上の『蒲田行進曲』クライマックスを連想してしまったし(本人がそのつもりで撮ってたら苦笑モノだけど)ラストでの表情にも、胸衝かれる思いがした。
 もう1人の主役、台詞が少ないだけに、体全体でドンに成りきっていたエディソンも、これまでに無い彼の一面を見せてくれていて出色。正直、彼はそれほど器用な役者ではないし、幅狭いタイプでは・・・なんて思っていたんだけど、失礼しました。特に、高校時代の鉄也と道ですれ違うの回想シーンの彼の佇まい、その表情の微妙な変化の仕方がズンときましたね・・・。エディソンの、甘さよりも凛々しさのある顔立ちが、ドンの役を不必要に無邪気にすることがなく、彼の内に秘めた強さが鉄也との好対照でもあり、そういう意味でこの配役も良かったと思う。・・・ま、本来ならキーパーソンである黒木メイサの扱いは気の毒だったけどね^^;; 彼女以上に存在感をアピールする山本太郎の、先走ってる感がリアルなチンピラ役も印象的でしたよ。
 BRⅡで世間に酷評された二世監督、というレッテルが張り付いている健太監督だけど、やっぱり私はこの作品を観ても次回作に希望を繋ぎたい、と思ってしまう。確かに作品全体として評価するなら、美点より欠点の方が多いとは思う。整合感に欠けるというか、演出のムラが多いし、劇中の音楽の付け方が古臭すぎて興をそがれるシーンも多々あった。せっかく女性を配置しても添え物になっちゃっているところが、深作血脈というか東映社風(苦笑)とか思ってしまうのだけど、そのぶん男優の感情のダイナミズムの撮り方がやはり際立ってるんだよね。“動”の描き方もしっかりしているし。だから・・・いっそ一度東映を離れて(難しいのかもしれないが)、肩の力を抜いて自由に撮りたいものを撮ってみる、というのもアリだと思うんだけどなあ。甘い?^^;;

『春の雪』('05/日本)

2005-12-10 | 映画【劇場公開】
 三島由紀夫と言えば、日本の文学少年少女の間では太宰治と双璧の永遠のカリスマである、と認識するが、実を言うと私はあまりこの人の作品が好きではない。読んだ作品も少ないうえに、本作の原作である【豊饒の海】四部作も当然未読である。そんな私であるが、三島由紀夫というキャラクターは、なかなか興味深いとは思っている。それというのも、大昔に読んだ野坂昭如の三島評伝とも言える【赫やくたる逆光】が非常に面白かったからであり、詰まるところ私の思い描く三島像というのは、野坂氏のフィルターを通したものかもしれないが、それでも「作品はともかくとして、人物としては面白い」と思う数少ない作家の1人である。
 とは言え、これから書く映画『春の雪』の感想は、コアな三島ファンからすれば憤怒の嵐を巻き起こさんばかりのものであるに違いはなく、何卒お許し願いたい。
 そして最初に告白しておくが、当初本作の映画化を聞いても一向に観る気は起こらず、決して嫌いな役者ではないものの、妻夫木聡と竹内結子が華族様を演じるなんてちゃんちゃら可笑しい、などとアリガチ過ぎる偏見を抱いていた1人でもあった。ところが、このメイン主役の次に重要な役どころとして高岡蒼佑が出ているというではないか! 『パッチギ!』のエントリにも書いたが、私は高岡蒼佑のファンなのである。である以上、映画の内容がどうあれ、とりあえず観ておきたいというミーハーな心理が働いてしまったわけである。だから、公開期間がまもなく終了というこの時期まで先延ばしにしていたのだけど・・・。

 意外や意外。これは、三島モノとしては非常に良く出来た映画ではないか!と思ってしまったのである。
 三島ファンでもなく原作も読んでない無礼千万な輩の、どの口がそんなエラソーなことを言わせる!って感じで誠に申し訳ない。でも。私が思う三島文学、というものの核はしっかりと押さえた作品であると感じた。それは何故か?

 三島の作品を語るうえでよく引き合いに出される、彼が15歳で作ったという「凶ごと」という詩。そこに書かれた「椿事・凶変を待つ」といった少年の破滅願望、いくら待ち望んでも来ぬものならば自分が起こしてやる!というような十代に特有の不遜にして傲慢な思い込み、その独りよがりな妄想こそ、彼の作品の重要な要素だと思うのだ。
 だから、本作の主人公であるところの松枝侯爵の令息・清顕@妻夫木聡という、己の革命を恋愛で実現して破綻する少年の物語が、ちゃんと描かれていた映画だと思ったのである。革命などと言うと大袈裟かもしれないが、この作品の中では「高貴な血」であるとか「家」に象徴される権威に対する反逆・挑戦、そして渇望が清顕の行動を決定付けている。
 このことは既に冒頭、幼少の清顕が預けられている元公家の綾倉伯爵邸、その綾倉伯爵の言葉によって予言されている。伯爵は士族からの華族へ成り上がった松枝家の援助なしには立ち行かぬほど没落した一族を嘆く。1人娘である聡子@竹内結子もまた松枝家に嫁がされることになるだろう、という無念と屈辱を晴らすため、愛人であり聡子の侍女である蓼科@大楠道代に「雅の復讐」を託すのだが、結果的にそれは逆側からの復讐となって綾倉家に返ってくる。
 それが、この物語の基幹にある。映画の大枠・体裁としては「清顕と聡子の悲恋」なのだが、それは決して否応なしの運命ではなく、清顕によって仕組まれるものなのだ。彼らは元々幼馴染で、お互い憎からず思っている。聡子のほうはむしろ、少女時代から清顕しか見ていなかった。そして2人が恋仲になり、婚姻が成立することは、清顕の父である松枝侯爵の野望を達成するものだったに違いない。
 しかし、それでは清顕には面白くないのである。いくら聡子を好きであっても、家や父の思惑通りに納まるなど、彼には一向につまらないことであった。彼にとって、恋は己の身を滅ぼすほどの、至高の悲恋でなくてはならなかったのだ。そんな彼の屈折が、やがて「凶変」となって2人を切り裂くに至り、清顕の願望は達成するのである。
 聡子は、そんなエゴイズムの塊である清顕を、そうと知っても尚愛しく思っているのであり、2人の関係は身の破滅と知りつつ、どうしようもなく流されていくのであった。
 それほどまでに強烈な清顕のナルシズム、若さ故の無謀な挑戦こそが、本作(映画)のテーマだと受け取ったが、いかがだろうか。
 
 そのような話を、大正ロマン溢れる耽美映像のコスプレ文芸モノとして撮っているので、予想以上に面白く観ることが出来た。撮影に台湾の李屏賓(侯孝賢作品や王家衛の『花様年華』で有名)を配しているだけあり、あまり日本映画っぽくない雰囲気のある美しい映像である。
 行定監督は元々、情景を撮るのが上手い人だと思うが、これほどハマっている作品は今までになかったのではないか。既に安定感さえ漂う腰の据わった演出ぶりである。私は特に彼のファンという訳ではないが、『ひまわり』や『ロックンロール・ミシン』といった小さな佳作は好きだっただけに、『GO』以来メジャー映画をがんがんと撮って、ついに今作のような手堅い文芸作品を撮り上げたことに、なんだか一抹の寂しさを感じてしまった(苦笑)。

 それはともかく、当初は偏見を持っていた主役2人を始めとして、配役も見事。脇に大楠道代や岸田今日子、若尾文子といった大女優で締め、また田口トモロヲや石橋蓮司といった個性派の使い方も実に旨い!
 メイン・カップルの2人については、華族の子息・おひい様には見えない、などという感想もよく見かけるが、私は本物の華族様になどおめもじ適わぬ平民であるからして、本物など知らない。(現在の日本に“本物”を感じさせることが出来る若手役者などいないと思うし)だからソレっぽい雰囲気を醸す演出があればオッケーだし、だいたいがコスプレもの、とりあえずこの映画の中では彼らは華族様なんだ!という設定として見れば、2人とも充分過ぎるほどそう見える好演ぶり。
 特に竹内結子はそのおっとりした口調と微笑み、衣装の着こなしはそんじょそこらの若手女優には出来ないものだったのでは。そして、情感溢れる表情としっとりとした色気。聡子が艶っぽくなるほどに、彼女の運命が一層辛いものになっていくあたりも見事だった。妻夫木聡は、無邪気な傲慢さや空虚さ・十代の少年の激しさで、 清顕の「純粋な屈折」「無意識の残酷」といったものを的確に表現していて、同年代の役者の中ではやはり抜きん出ていると感じた。そして私の目当てであった高岡蒼佑。清顕の親友・本多役であるが、これまた危なげないお坊ちゃんぶりで良かった。目立ちすぎず、かといって地味過ぎもせず、の絶妙な立ち位置加減が上手かったなあ・・・。恐らく、原作ではこの2人には同性愛的な含みが強いんではないかと思われるけど、映画ではその辺は薄く仄めかされる程度。それでも、ラストのシークエンス~襖越しのシーンから列車中~のシーンにはグッとくるものがあり、やはりソコを押さえないことには三島作品とは言えないね!(?)という私の偏見を満足させてくれたのであった。
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『ザ・コーポレーション』('04/カナダ)

2005-12-09 | 映画【劇場公開】
 いよいよ明日12月10日から公開される『The Corporation』だが、私は配給元のUplinkによる「ブロガー試写」に応募して、一足早く先月末日に鑑賞してきた。「ブロガー試写」の名前の通り、これは本作に関するエントリを公式サイトにTBすることを条件としている。
 2時間25分という長さのドキュメンタリーだが、少なくとも私は全く時間を気にすることはなかった。これは是非とも原作であるジョエル・ベイカンの本も読まねばと思い、映画の復習も兼ねて購入した。こちらは現在まだ途中だが、読了したら再度1人の観客として、劇場で見直したいと思っている。

 本作はまず「企業を1人の人格として精神分析すると、その診断結果は“サイコパス”である」ということを一つの論点として構成される。そして“患者”である企業の誕生と歴史、現在ある姿のいくつもの“症例”を、各界の研究者、知識人、社会運動家、大企業のCEO等への取材を通して何章かに渡って検証していく、という作りになってる。
(注:作中の【企業】とは、欧米の大企業のことであり、中小企業は含まれない)
 ---などと書くと、小難しいお堅い内容かと敬遠する方もいるかもしれないが、多くの人々に観てもらうことを前提としている作品だから、とてもわかり易い内容になっているように思う。(本作にも登場するマイケル・ムーアによるドキュメンタリーのポップな明快さやエンターテインメント性には、確かに適わないが) 
 また、大企業による経済的グローバリゼイション・環境破壊問題・労働力搾取による人権問題・公共事業の民営化の弊害・コマーシャリズムによる心理操作・そのような企業の横暴を告発するジャーナリズムと消費者運動・・・といったことに興味のある方には、是非ともお薦めしたい映画でもある。

 個人的には、本作で挙げられている事例には、特に驚かされるというようなことはなかったけども(単に私の好きな英米のバンド/アーティストは何故だか社会的なテーマを取り上げるタイプが多いため・・・やっぱり多少は感化されてるので、僅かばかりの予備知識はあったから)、ぎっしりと詰まった人々への警鐘の数々は実に見応えの満点であった。
 中でも、私が最も印象に残っているのは、先物取引業者の男性が語る【9.11のときの金融トレーダーたちの反応】である。やや偽悪的な調子で「言っちまおうかな・・・あの光景を見ながら、やつらが何て言ってたか」。そうして語られるエピソードには、心底暗澹とさせられた。マネー・トレーダー達の反応そのものに、というより・・・すべからく“人間”というものは、そうした非情で醜い一面を持っているのだということに。彼らが特別な訳ではないのだ。それに、彼らにはそれが仕事なのだから。そして大企業とは、そのような“人間”の集積でもあるのだ。
 但し児童労働や途上国における労働力搾取の問題については・・・いつも思うのだが、こればかりは企業の悪行を告発すればよい、というものではないだろう。そのような労働条件・環境に従事せざるを得ない人々の貧しさ、国の政治体制こそに真の問題があるわけで、告発したからといって人々の暮らしが豊かになるわけではないと思うのだが・・・。

 だからこそ、本当にこの映画を観て欲しいのは、実は我々消費者ではなく、各国の政治家の方々や大企業の経営陣・要職についている方々、そして株に投資している株主たちだと思った。実際に大企業の利益に関わる人たちが、冷静にここで描かれているようなことを受け取め、何か感じることがあればそのことについて考えて欲しいのだ。・・・なんて、私は政治経済には疎いし無学に等しい、まして消費者としては泡沫な時間給労働者に過ぎないからこそ、こんなことを言えてしまうのかもしれないが・・・。
 勿論、我々消費者による厳しい選択眼、思考・判断力は強く求められる。本作ラストの章でもボリビアの水道民営化に反対した活動家による胸が熱くなるような「民衆の勝利」の実話が挙げられ、マイケル・ムーアが「俺は人々の力を信じる」という、いつも通りだけど力強いメッセージで幕を閉じる。
 人々の力は確かに大きいし、現在の状況を改善していく原動力になるだろう。しかし、最も有効なのは「企業本体の自覚・自制」そして「法による企業活動の規制・監視」しかないと思うのだけど・・・どうなんだろうか。こうしたことを語るには己の勉強不足を痛感するばかりだが、原作読了後にあらためて再考できれば、と思っている。
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師走映画鑑賞希望メモ、とか

2005-12-02 | 戯言・四方山話・メモ
 皆さま、年末進行やらなにやらで多忙な師走に突入ですね。私は幸い、と言っていいのか、年末だろうが何だろうがあまり波の無い仕事なので、通常通りの日々。2年ぶりくらいで秋の映画祭参加&収穫が多かったせいか、私的には既に今年のお楽しみもあまり無いような・・・とはいえ! 今年のオオトリを飾って欲しい作品が3本公開である。この3作は公開日に駆けつけてもいい!って思ってる。
 観たい順からとりあえず6本セレクトしてみたけど、今年中に観れるの何本になることやら。いや、全部観れたとしても年内感想文アップは無理でしょう(苦笑)。〆切りがあっても遅れるタイプの私、今更筆の遅さは治らないかな、と^^;;
 ・・・ちなみに、先月中に観た映画の宿題は5本。『Shane:The Pogues』『ミリオンズ』『同じ月を見ている』『乱歩地獄』『ザ・コーポレーション(試写)』 覚書と単独も交えつつ順次アップしていく予定、にしておこう。

キング・コング … 2005年フィナーレを飾るに相応しい待望のハリウッド大作ですね! ピーター・ジャクソン監督は、私は『乙女の祈り』以外は観ていないって有様だけど、基本的には結構好きなテイストを持っているかな、と思ってる(でも指輪はねえ・・・私ファンタジー苦手なんで今だに未見)。まあそんなことより! ミーハーな気持ちで『ヴィレッジ』以来の日本公開作となるエイドリアン・ブロディの地味そうな主人公ぶりに注目したいじゃない! >絶対ジャック・ブラックに喰われてるんだろーなー。彼も好きだからいいけど~(笑)珍しくも「ブロンド美女」に徹するらしいナオミ・ワッツのヒロインぶりも含め、大注目の1本。

ロード・オブ・ドッグタウン … 『Dogtown & The Z-boys』が劇場映画化されると
どうなるのか? メイン3人(ステイシー・ペラルタ、トニー・アルヴァ、ジェイ・アダムズ)のキャスティングには色々思うこともあれど、これは是非とも目撃しておかねばなるまい。基本は切なくも燃えるタイプの青春映画、じゃないかと思うのでそういう意味でも非常に楽しみにしている。

東京ゾンビ … 哀川翔×浅野忠信W主演!! コレだけで邦画界の快挙でしょう。しかも楳図先生がゲストです!! そして、本作が長編監督デビューであり脚本も手掛けているのは、三池監督の『殺し屋1』『牛頭』の佐藤佐吉氏ですからね~~まあ、だいたい想像は出来ますが(笑)予告の出来もイイ感じで、期待は高まる一方! 今年最後の日本映画・快哉の1本とならんことを!

DEAR WENDY ディア・ウェンディ  … 『リトル・ダンサー』のジェイミーくんが随分と立派に育って~というオバちゃん目線もさることながら。予告がかなりキましたね! プロデュースのラース・フォン・トリアーらしい、と言えばいいのだろうか。ウェスタン・スタイルでキメつつ強烈に米国銃社会を諷刺する、といった作品なんだろうけど、青春映画的側面も持っているように見受けられるので、コレも早いうちに観ておきたい。

ブレイキング・ニュース … 原題:大事件。私的には当たりハズレが大きい監督だけど、ジョニー・トーの話題作である。なにより設定が面白そうだし、予告を観る限りだといつものジョニー・トーとはやや違うトーンが感じられる。東京では渋谷の元ユーロスペースの場所に出来た新しい映画館、シアターN等で公開とのこと。映画館見物も兼ねて観たいかな、と。

SAYURI  … 芸者ファンタジーなトンでも映画ですか?と予告観つつ思ったものの、やはり野次馬的に気になるよねー^^;; まあ日本の話ではなく、米人の想像上の不思議の東洋国、という気持ちで観れば楽しめそうではある。だが予告を観てもう一つ不安を感じたのは、故・五社英雄監督の遊郭モノと比べてしまいそう・・・ってことで。なんとはなしに、陽暉楼&吉原炎上のアメリカン(劣化)アレンジの予感も。でも、コン・リーとミシェール姐さんがとても魅力的に撮られてるみたいだったし! そこに期待です。(えぇーっ?) 

◆追加◆
 先ほど確認し直したら、今月公開で見たかった映画がまだまだあった! 映画業界も年末大売出しというかカキイレドキなんだもんね・・・来年持ち越しが増えそうだけど、とりあえずトニー・ガトリフ監督/ロマン・デュリス主演の『愛より強い旅』、アトム・エゴヤン新作『秘密のかけら』は今年中になんとか観たい!!
 そしてTIFF報告にも書いた『狼少女』もいよいよレイトショーで公開ですよ~。
 更に80年代英国音楽ファン的には外せない2本、『ジョージ・マイケル-素顔の告白- 』(元ワム!だよ)『TABOO』(カルチャー・クラブ!というかボーイ・ジョージものだけど)。くしくも両作とも主役はカミングアウトしているゲイで、しかもジョージ・マイケルは結婚おめでとう記念ですね・・・日本では。
 『ある子供』『僕の恋、彼の秘密』『風の前奏曲』も観ておきたいですね。
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