傍流点景

余所見と隙間と偏りだらけの見聞禄です
(・・・今年も放置癖は治らないか?)

どーなのよ?!『フーリガン』

2006-07-20 | 映画【劇場公開】
 鎮静化と書いた筆先(?)も乾かぬうちに再び蹴球ネタで御免なさいよ。しかも、今回はネタにしてる映画についての愚痴りなんで更に御免。えーと、W杯に合わせて日本公開された『フーリガン』('04)----私がこれを観たのはイングランド敗戦のダウンな気持ちを引きずっていた頃なので、その影響もあるかもしれない。実はただでさえこの映画には負のフィルター入ってたのだけど、観たらやっぱり「…」だった。低いテンションが更にドッと落ちてしまった。
 さて、何故に観る前から負のフィルターをかけてしまってたのか。まず ①レクシー・アレクサンダー監督は女性で、ドイツ人。 ②それなのに、撮る対象はイングランドのフーリガン。しかもロンドンの下町(イーストエンド)クラブ、ウエストハム・ユナイテッド付きのフーリガン達  ③俳優選択に関してはセールスのためだと思うが、主人公@イライジャ・ウッドの役が、こともあろうに米人でハーバード大中退でジャーナリスト志望のインテリ ・・・・以上だけど、どうよ。まあ①の監督が女性ってのは、いいのよ。彼女にはそれなりにマッチョ社会・文化に対する憧れ的なもんがあるんでしょう。私も同じだから、それはわかるとして。でも②。監督の故郷ドイツにだってフーリガンはいるでしょう? なんでわざわざ宿敵(^^;;)イングランド? やっぱフーリガン発祥の地だから? ③は、外国人である彼女の視点を人物化したものだとしても、ちょっと出来すぎじゃない? 私的にはちょっと首を傾げちゃったんだけどね。
 観る前からこんなにブツクサ言うなら観なきゃいいんだけど(苦笑)それでも観ちゃったのは、ウエストハム・ユナイテッド付フーリガンをモデルにしてるからという点。だって、ウエストハムといえばイング代表にしてマンチェスターU所属・我がミーハー対象であるリオ・ファーディナンドの出身クラブだからね!(笑>所詮そんな理由よ。ちなみに、ウエストハムはユース育成に力を入れてるクラブらしく、リオのほか、代表選手であるフランク・ランパードやジョー・コールの出身クラブでもあるそうな) それに、意外と観たらグッと来たりするのかな、という期待も少しはあったんだけどねえ…。
 
 主人公マット@イライジャは、同級生の不祥事の身代わりで退学処分になり、傷心のままイギリス人に嫁いだ姉の元に身を寄せることになる。そこで、姉の夫の弟にしてウエストハムのコアなフーリガン団(ファーム)のリーダーであるピート@チャーリー・ハナム(この俳優さんはハンサムだけど、コックニーと身振りがちょっと不自然…って日本人に言われたくはなかろうが)によって“フットボールをダシに喧嘩三昧”の魅力に囚われていく---という導入と展開は何気に『ファイトクラブ』入ってて、それなりに面白い。
 が、肝心のフーリガン達が“なんでそこまでして喧嘩したいのか”“なんでそこまで仲間(ファーム)の絆が大事なのか”といった背景描写が殆どない。フットボール・シーン(ウエストハムの試合含む)も一応あるけど、それだけかい?という程度。説明台詞は多いけど、台詞以外の部分で伝わってくるシーンがない! パブで野郎どもがダベってるシーンを多めに入れれば良いってもんじゃなかろうに。しかも、乱闘シーンの撮り方も型通りというだけで、迫力や凄味に欠けるのは致命的に思える。(前半では生々しさを出そうとして動かし過ぎのカメラが却ってワザとらしいし、クライマックスではスローにドラマチックに見せ過ぎでかえって白けるんだよね)。

 だから結果的に「ステゴロなんてしたこともないインテリのYankeeが、野蛮な“男”世界に陶酔して、でも結局ついていけない(足抜けする)のだが、彼らの世界を通過して少し成長する」というだけの話になっちゃってるんだよね。
 まあ普通に青春モノと言えばその通りで、でもだったらわざわざ“イングランドのフーリガン”じゃなくたっていいじゃん!ってコトなのよ。フーリガンはフットボールをダシの喧嘩が命だけど、映画自体がフーリガンをダシに…って感じ。
 仕舞いにとって付けたように“暴力は暴力を生み、報復合戦にはキリがない”というお説教調まで匂わされると、ホントにねえ・・・なんだかなあ、と私は思ってしまう。実はこの映画では、男同士の“喧嘩コミュニケーション”自体には好意的なのね(それが監督の趣味/嗜好なのだろうし)。なのに、世間向けスタンスとしては暴力否定をしておきましょう、という道徳感を提示しておきたかったらしいのよ。そのせいで、ラストに盛り上がる“悲劇”も無理矢理な展開で作ってるように感じてしまって、観ているほうはもう、気持ち冷めまくり(苦笑)。
 更に、本作中唯一の女性キャラである主人公の姉の行動/考え方にまったく共感出来ないのも辛い。演じるクレア・フォーラニ自体は割と好きなんだけど、このキャラには疑問符だらけ。同性として「なんなんだ、この女?!」としか思えない。(この共感出来ない彼女の行動があればこそ“悲劇”が盛り上がるのはわかるけどさ)それとも、この姉のキャラ設定は意図的なものなのかしら(苦笑)? この辺り、他の女性観客の感想を聞いてみたい気がする。
 あとこれは多分に先入観による疑問だったのだけど、ウエストハムのファームを形成している男たち殆どがミドルクラスってのは、実態としてもそうなのかねえ? フーリガンは何もワーキングクラスだけのものではない、ということは知っているけど…単なるこちらの思い込みだろうか。うーむ。敵対クラブ・ミルウォールのファームの連中はどう見ても労働者系だったので、これは対比の意味もあるんだろうか。ま、コレはちょっと自分で調べてみないと、どーこー言えることじゃないんだけども…。

 以上、なんだかキビシイことばっか書いたけども、別にイングランドのフットボールに格別の思い入れもなく、私のように“英国を撮る映画はこうあって欲しい”という妙な拘りがなければ、普通にそこそこ面白く観れる青春映画、じゃないかな(笑>おいおい)。特に主演俳優が好きな人には、それなりに楽しい作品と思いますよ。実際、良かったと言ってる人も多いみたいだし。
 私だって、観て良かった部分がまるっきり無かった訳じゃないしね。元々はピートの連れだったのに、マットがやって来たせいで“ピートを取られた”ように感じてしまい、結果ファームのユダ的存在となるボヴァー@レオ・グレゴリーの存在感は、本当に素晴らしかった。非常に“英国的”なキャラクターでもあり、演じるレオ・グレゴリーのハマり方も印象的。彼を知ることが出来たのは収穫。今度日本でも公開される初期R.ストーンズ映画『STONED』で、主役のブライアン・ジョーンズを演じるんだよね。楽しみ~!
 それからウエストハムのチャント(イングランド名物のクラブ独自の応援歌)は泣ける詩でねえ。これが聴けたのも嬉しかったな。中学生英語でもわかります。そして、マジでいい唄でした。“俺はずっとしゃぼん玉を吹かしてるぜ!”てな。 ↓

"I'm forever blowing bubbles"

I'm forever blowing bubbles, Pretty bublles in the air,
They fly so high, Nearly reach the sky,
Then like my dreams, They fade and die,
Fortunes always hiding, I've looked everywhere,
But I'm forever blowing bubbles, Pretty bublles in the air


【おまけ】
 まあ、こんなボヤキを言ってる私は『フットボール・ファクトリー』でも観たほうがいいのかもしれない。今度レンタルしてみようっと。
 ついでに現在読んでる『フーリファン~傷だらけの30年間』(マーティン・キング&マーティン・ナイト著/東本貢司訳)がなかなか面白いです。これをネタ本にして、是非ともメイド・イン・イングランドで映画撮って欲しいよなあ(単なる勝手な希望^^;;)。そして今更ながら『フーリガン戦記』(ビル・ビュフォード著/北代美和子訳)を中古で入手。まったくマイ・ブームで全てが動く私はこの2冊のほかにも『サッカーの敵』(サイモン・クーパー著/柳下毅一郎訳)やら、これまた今更過ぎる『悪者見参~ユーゴスラビアサッカー戦記』(木村元彦著)まで買い込んでしまったという始末---他にも未読の本が溜まるばかりなのに、何やってるんだかねえ(苦笑)。 


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