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わりなき恋-その3 「主人公と恋仲になるモデルは,トヨタ元取締役」

2017-12-21 00:01:35 | 岸惠子
わりなき恋 (幻冬舎文庫)

 

国際的なドキュメンタリー作家・伊奈笙子、六十九歳。大企業のトップマネジメント・九鬼兼太、五十八歳。偶然、隣り合わせたパリ行きのファーストクラスで、二人がふと交わした「プラハの春」の思い出話。それが身も心も焼き尽くす恋の始まりだった……。成熟した男女の愛と性を鮮烈に描き、大反響を巻き起こした衝撃の恋愛小説。待望の文庫化!

 

幻冬舎刊 岸惠子著 650円 


◆p85~p86 -わりなき恋とは?
 「わりなき恋とは,理屈や分別を超えて,どうしようもない恋。苦しくも耐えがたい焔のような恋のことだと思う。」

◆p331~p334

 出会いから、六年にちかい月日が流れていた。九鬼は捨て身になって、男の半生を捧げた大会社の社長にもならず、副社長の席まで後進に明け渡し、この年の初夏からいわゆる顧問というようなかたちの繋がりのみを留めて、自分に会社や、社会との区切りを、あえてつけているように笙子は感じた。とはいえ、会社からの要請や、後輩たちに求められれば、ただちに駆けつけた。
 求められないで会社に出向くことはいっさいなかった。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 顧問という肩書とそれなりに課された仕事はあるものの、あまりにも潔くバリバリの第一線から、唐突なほどあっけなく身を退いた九鬼が何を言いたいのか笙子は朧げに分かった。
「顧問というセミリタイヤの身で、用もないのに車両部から車を回してもらって、しょっちゅう会社に入り浸ったり、私的な用事を秘書に頼む連中をぼくは見苦しいと思う。我が社に限らず、笙子のいう『日本株式会社』 で長いこと要職に就いていた者は、いきなり一人になると、当然のことなのに、愕然とする。迎えの車はない、新幹線の切符をとるのも、レストランの予約もすべて秘書がやっていた。長年かえりみなかった家族からは、粗大ゴミ扱い……見苦しいし、哀れと思う」

p334~p335

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「リタイヤなんかしない。これから自分の人生を生きる。笙子といっしょにね」
 笙子はちょっと首を竦め、ちょっとはにかみながら、小声で言った。
「お気づきじやないかもしれないけど、私、この夏の終わりに、栄誉ある後期高齢者という身分になっちゃったのよ。七十五歳という女盛りよ」
「お気づきだったさ。ぼくのいないパリでとった年なんて知らん!」
 九鬼の口調には冗談とはとれない、厳しいさびしさがあった。
「笙子はいくつになっても、ステキな女盛りだよ」
 まことに若々しい七十五歳と六十三歳になろうとする男女は、同時に、いとも優雅に立ち上がった。

◆主人公 笙子と恋仲になるビジネスマンのモデルは,元トヨタ取締役・元デンソー副社長のI氏とのこと。

 主人公 笙子と恋仲になるビジネスマンのモデルは,元トヨタ取締役・元D社副社長のI氏だという。
1945年生まれ。魔應義塾大学経済学部卒。69年,トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)に入社。トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏から直接指導を受け,社内やグループ会社への導入に携わる。99年,同社取締役ヨーロッパ・アフリカ本部長。2001年にはD社の常務取締役に。その後,専務,副社長などの要職を歴任。


◆岸 恵子さん -「パリ在住四十年」

女優・作家。横浜市出身。『我が家は楽し』で映画デビュー。『君の名は』『雪国』『おとうと』『細雪』と名作に出演。いまも映画、テレビ界の第一線で活躍している。40年あまりのパリ暮らしの後,現在はベースを日本に移しながらフランスと日本を往復する。海外での豊富な経験を生かし,作家,ジャーナリストと多方面で活躍。2002年にフランス政府芸術文化勲章オフィシエを受勲。『ベラルーシの林檎』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞),『風が見ていた』『私のパリ私のフランス』ほか著書多数。

 

 

 

 

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時がたち約束の夜、男は待ち合わせ場所へ。しかし、女は無理解な縁談を強いられ、遠く佐渡ヶ島にいたのだった。幾多の障害にあいながらも、互いに想いを絶ちきれず、それから1年後の11月24日、ふたりは再会し名乗り会うことに。

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