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吉田クリニック 院長のドタバタ日記

日頃の診療にまつわることや、お知らせ、そして世の中の出来事について思うところ書いています

M氏とD45 その16

2012年12月19日 06時48分33秒 | インポート

 自分がすすめた治療法が彼にとって本当に満足できるものであったかどうか考えさせられた。何回か入退院を繰り返したが、今年の8月、たまたま自分の元勤務先である大学病院に入院した。勝手知った元勤務先だったのでお見舞いに行った。彼はかなり呼吸苦もあり疲弊していたが、酸素を吸入しながら自分の来訪を喜んでくれた。顔色はさほど悪くはなかった。しかし彼から、「入院直前までは顔がどす黒く浮腫んでいたんですよ」と聞かされ病状の進行が考えられた。縦隔リンパ節への転移による大静脈の圧迫である。呼吸苦もあったが、彼といろいろと他愛もない話もした。そしてしばらく話をして辞することにしたが、私が病室を出るその時、彼は唐突にいった。「吉田さんに僕のD-45あげますよ」と。一瞬「えっ?」と間があいた。ほんの一瞬だったが自分には猛烈に長い時間が経過したように思われた。そして自分の唇から出た返事は「ダメです。それは重すぎます」であった。そうとしか言いようがなかった。彼がその言葉をどう受け止めたかは知らない。しかし結果的にそれが彼と交わした最後の言葉となった。