パワーMOSFETは、優れたスイッチング素子であるが、大電流および高耐圧ではユニポーラ素子の原理的な限界がある。
そこで、電圧駆動の特徴を維持しながら高耐圧でオン抵抗の低い素子としてIGBTが登場する。
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)はMOSFETとBJTを組み合わせた構造である。(BJT:バイポーラ接合型TR⇒普通のTR)
☟IGBTの基本構成模擬図(MOSFETとBJTを組み合わせた構造)
☟片側の方が動作を理解し易いので上図の半分を切り取り示してある。
<IGBTのオン動作>PN接合での考察
ゲートとエミッタ間にスレッショルド電圧を超える電圧を加えた状態でコレクタに拡散電位 0.7V以上の電圧を掛ける。(VCE-IC特性図参照)
- エミッタE⇒Nチャンネル⇒n-ドリフト層⇒へと電子の移動が起こる。
- この電子の移動でコレクタとn-ドリフト層で構成されているPN接合が順方向にバイアスされる。
- 順方向バイアスによりP型のコレクタよりホールの注入が起こる。
- 注入されたホールはn-ドリフト層を通りマイナス電圧の掛かっているエミッタに引き寄せられる。
- 一方、エミッタより移動してきた電子はプラス電圧が加速電圧となりコレクタ電極に引き寄せられる。
- エミッタからの電子とコレクタからのホールによりコレクタ-―エミッタ間に電流が流れるこの電流が主電流のコレクタ電流である。
- コレクタ電圧を徐々に増加させるとコレクタ電流が増加する。
<等価回路でのオン動作考察>
- 等価回路で考察する動作は、ゲートにスレッショルド電圧以上の入力が加わると、MOSFETのNチャンネルで構成されコレクタ⇒ベース⇒MOSFETのNチャンネル抵抗を通して⇒ベース電流が流れTR部分が導通し、コレクタ電流が流れる。
- また、等価回路図内の等価抵抗に流れるコレクタ電流が一定値以上に増加すると、寄生TRおよび基本TRで構成されるSCRがターンオンするラッチアップ現象が生じる。
- ラッチアップ現象が発生すると、外部からの制御がきかないので注意が必要である。
<特徴>
等価回路から分かるようにIGBTは構造的にMOSFETとTR&SCRで構成されていると、考えることができる。
一定以上の電流が流れると、TRからSCRへと変わり、ゲート電圧で制御できないラッチアップ現象が起こる。(ラッチリレーと同様な動作)
ラッチアップを抑制したノンラッチアップ型も開発されているが、あくまでも電流の大きさの問題であり皆無ではないと考えられる。
- PN接合の順方向電圧分のゲート閾値電圧が存在する。4V~6VとMOSFETと比べて高い値になっている。
- 飽和電圧は、伝導度変調により低減されMOSFETより低い。「飽和電圧」はMOSFETの「オン抵抗」に相当する。
- 電圧駆動であり、蓄積時間が無いため負荷電流、電圧波形制御が可能であり、dv/dt、di/dt制御が可能である。
- IGBTは構造上、飽和の動作モードに入らないので蓄積時間は無いが、オフ時にテール(tail)現象が生じターンオフ損失が大きくなる特徴がある。