電験に出題の多い昇圧型チョッパは、バルブデバイスのONの間に直流リアクトルに電流を流して蓄えられる電磁エネルギーをバルブデバイスがOFFの間に放出させて電源電圧に重畳して出力電圧を高くし、負荷に供給する装置である。
・スイッチング電源の昇圧は、スイッチング周波数を変えることでも可能であるが、ON-OFFのデューティ比を変える方法が一般的である。
☟その理由は、2つのグラフを比較すると、理解できる。スイッチング周波数による昇圧変化は17KHzで飽和する。可聴周波数以上で使用の要求に応えられない。従って、オンデューティ制御が勝っている。(省エネ的にはスイッチング周波数が高い方がよい)
・基本動作であるON時の電流の流れる経路と、OFF時の電流の流れる方向を理解することが、問題を解くのに役立つと考えられる。
・問題ではバルブデバイスのオン時間を「通流率」として与える場合と、ON-OFF時間で与えられる場合もあるが冷静に判断すれば間違うことが無い。
・計算問題は波形の理解と電磁エネルギーへの理解が要求される。波形と計算に関連す問題をH28年2種1次「機械」問3を例にする。
問題は下記のPDFファイルで確認できる。
S1(K).PDF (shiken.or.jp)
<動作確認>
- バルブデバイスSがONの時にVin⊕⇒L⇒Vin⊖と電流iinが流れる。
- この電流により直流リアクトルに電磁エネルギーが蓄えられる。
- バルブデバイスSがOFFの時に電磁エネルギーはL⇒D2⇒負荷へとi2として放出される。
- この電磁エネルギーは、貯えられた量と放出する量は等しいと考えることができる。(計算問題で重要な要素)
- D2は、整流作用と逆流防止を兼ねた重要な素子である。(直流リアクトルのエネルギーは交流成分であり、DC分に変換してVinに重畳することで負荷電圧を昇圧できる)
☟動作波形と計算式である。特にVoutの式が重要である。
Q1:降圧か昇圧か、Q2:オフの間のToffのdiin/dtは、Q3:繰り返し周期の条件、Q4:Vout=?、Q5:D2を流れる電流波形?
A1:回路図から昇圧型チョッパ回路である。回路図を見て即断が必要。
A2:、A3:、A4:は、まとめて直流リアクトルL(H)に電流I(A)が流れると、電磁エネルギーW1(J)が蓄えられることから始める。
(1/2)は作用・反作用から派生する定数項である。
- 問題には単位が明記されているので、ヘンリー(H)は、V・s/A、電流はAであるからA2・V・s/A=V・A・s(J)となる。従って、蓄積されるエネルギーW1は、「電圧×電流×時間」であることが確認できる。
- 蓄積されるエネルギーは「電圧×電流×時間」であり、電圧Vin、電流I(iinの平均)、時間TonであるのでW1=Vin・I・Ton(J)となる。
- 放出される電磁エネルギーW2はW1と等しいことを利用して問題を解く例が多い。
- W2=(Vout-Vin)I・Toff(J) 図の面積a、面積bが等しい。
-
Vin・I・Ton=(Vout-Vin)I・Toff
Vin・Ton-(Vout-Vin)Toff=0
Vin・Ton+(Vin-Vout)Toff=0
整理して
Vin(Ton+Toff)-Vout・Toff=0
∴ Vout=Vin(Ton+Toff)/Toff(V)
- 昇圧型の出力電圧は、入力電圧をToffで割ると求まる。
- Ton+Toff=1になる。⇒VinにToffの逆数掛ける。
- 通流率αで与えられるケースが多いのでToff=(1-α)とする。(忘れるとミスになる答えを選択する)
- 通流率α=Ton/(Ton+Toff) (オンデューティ制御である)
- 具体例:電源100(V)、通流率α=0.6の場合の出力電圧(負荷電圧)は、100/1-α=100/0.4=250(V)
<電験3種R1機械.問16にチョッパ回路例がある(参照PDF)>
T1-K.PDF (shiken.or.jp)
<電験3種H28機械.問9のチョッパ回路例(参照PDF)>
昇圧型と降圧型 T1(K).PDF (shiken.or.jp)
※出力電圧の求め方は、通流率αの使い方が異なるので注意すれば解ける。
1. 昇圧型出力電圧は、入力電圧を1-αで割る。
2. 降圧型出力電圧は、入力電圧にαを掛ける。
これを逆にすると、間違えた答えに誘導される。
<電験3種H27機械.問10のチョッパ回路例(参照PDF)>
降圧型のひっかけ問題 T1(K).PDF (shiken.or.jp)
※必要のないリアクトルの値とスイッチング周波数を記してωLの計算へ誘導する引っ掛け問題である。スイッチング周波数で求めるのは周期であり、通流率とは無関係である。
解き方は、H28年の降圧型で出力電圧を計算し、負荷抵抗で割れば電流が求まる。これは曖昧な知識が試される問題である。
<参考文献>
「電子技術」2000年4月号、日刊工業新聞社
「OHM」月刊誌2016.11号付録電験一・二種解答と解説