「そろそろいったん帰ろうかしらね。お昼だし」
どれだけ話し続けただろうか。
話に区切りがついた時、岩白が部屋の時計を見上げながらそう言った。
「え、帰っちゃうんですか?」
それを聞いて、センは引き止めるように眉を八の字にして見せる。
すると岩白も同じような顔になった。
「お昼ご飯食べたらまた来るからさ、そんな顔しないでよ」
と来ればまあ俺が何を言うかは決まったようなもので。
「じゃあここで食うか? 昼飯」
「……いいの?」
岩白の表情がぱっと明るくなる。そりゃあお客様に出す飯くらいあるからな。
って言ってもやっぱりインスタント食品なんだけど。
なんでそんなに嬉しそうにされるとこっちが恥ずかしいような。
野菜はまだ残ってるけど俺一人で料理したらどれだけ時間が掛かるか解ったもんじゃないし。
「そろそろ残ってるもんの賞味期限がやばくなってきたからな。在庫一掃に協力してくれ」
「ありがとう。じゃあご馳走になります」
「賞味期限なんて言ったら食欲なくなっちゃいますよ……」
「安心しろ。岩白が駄目になっても、
俺は食えさえすればそういうことあんまり気にしない男だから」
「そういう問題じゃないですっ」
「そうか? ……じゃ、飯作ってくるな。できたら呼ぶよ」
「うん」
部屋に残る二人に一瞥し、部屋を後にする。食いもんあとどれくらい残ってたっけ。
ここのところ食材の買足しをしてなかったおかげで、
冷蔵庫の中身は野菜を除けば、もう今日中には全部食べきれるぐらいの量だった。
「じゃあ今日でこれ全部食っちゃって……明日からの分は……いいや、明日考えよう」
独り言を溢しながら冷凍ミニコロッケやらミニハンバーグやらをレンジで温め、
皿に盛り付ける。見た目肉ばっかりみたいな感じだけど、
よく考えたらコロッケってそれほど肉料理ってわけじゃないよな。ってことでオッケー。
そして最後に米を温めている間、椅子に腰掛けてできあがりを待つ。
「明日から、か……」
さっき何気なく口から出た言葉を繰り返す。別に明日何か予定があったりするわけじゃない。
ただ、明日もまだセンが居るのかどうかは解らないのだ。
それを思うと、増々明日のことを考えるのが嫌になった。
かといって今更慌てふためいてドタバタするでもなく妙な脱力感に身を委ねていると、
レンジの作業完了を知らせる音が鳴った。
米を取り出しお椀に盛り、俺は多少力を込めた声で、
「できたぞー」
テーブルを挟んで岩白と向かい合い、二人揃って黙々と皿を空けていく。
早く食い終わってセンの所に戻りたいのは山々だが、
「あのさ」
「ん、何?」
センが居ない間にしておきたい話もある。俺は茶碗を左手で持ち上げたまま切り出した。
「次の欲食いが現れるのって、やっぱりあの賽銭箱からなんだよな?」
「ええ。今までずっとそうだったらしいわ」
最早岩白もさらりと答えるようになっていた。
嫌がろうが認めたくなかろうが、もうそれが目前なのは解っているからだろう。
「で、その中の欲を食って人の形になるわけなんだな?」
「ええ」
「じゃあ賽銭箱に金がなかったら? 今ってあの中、空なんだろ?」
「欲が得られるまでずっとそのままなんじゃないかしら。
ずっとそこに留まったままなのかどうかは解らないけど」
「ってことは、あの中が空なら俺たちの金を渡すこともできるんだよな?」
すると俺が何を言いたいのか理解したのか、岩白は眉をひそめて申し訳なさそうな声で、
「……私たちでもう一度『セン』を作り出そうって言いたいのならそれは無理よ。
もし、万が一、外見が『セン』であったとしても……十中八九、中身は別人になるわ」
「それは解ってる。味つきのクリームパフェすら無理だったんだからな」
その話もさっきの思い出話の中に含まれてたし、
さすがにそれを忘れるほど俺も馬鹿じゃない。
「それで一つ、思いついたんだけど…………」
「……………え? そ、それは……でも……」
「何もしないよりはマシだろ? 俺、やっぱりあいつとまだまだ一緒に居たいし」
「……そうね。それは私も同じ」
「もし駄目だったら……お前には、悪い話になっちまうんだけど……」
「大丈夫。やらせてもらうわ。
失敗どころかやる前から駄目でした、なんてそれこそ嫌だし」
「ありがとう。ホントにありがとうな、岩白」
「どういたしまして。じゃあ、早速行かなくちゃね。いつになるか解らないんだし。
……あ、でも最後にちょっとだけ話がしたいな。あいつと」
どれだけ話し続けただろうか。
話に区切りがついた時、岩白が部屋の時計を見上げながらそう言った。
「え、帰っちゃうんですか?」
それを聞いて、センは引き止めるように眉を八の字にして見せる。
すると岩白も同じような顔になった。
「お昼ご飯食べたらまた来るからさ、そんな顔しないでよ」
と来ればまあ俺が何を言うかは決まったようなもので。
「じゃあここで食うか? 昼飯」
「……いいの?」
岩白の表情がぱっと明るくなる。そりゃあお客様に出す飯くらいあるからな。
って言ってもやっぱりインスタント食品なんだけど。
なんでそんなに嬉しそうにされるとこっちが恥ずかしいような。
野菜はまだ残ってるけど俺一人で料理したらどれだけ時間が掛かるか解ったもんじゃないし。
「そろそろ残ってるもんの賞味期限がやばくなってきたからな。在庫一掃に協力してくれ」
「ありがとう。じゃあご馳走になります」
「賞味期限なんて言ったら食欲なくなっちゃいますよ……」
「安心しろ。岩白が駄目になっても、
俺は食えさえすればそういうことあんまり気にしない男だから」
「そういう問題じゃないですっ」
「そうか? ……じゃ、飯作ってくるな。できたら呼ぶよ」
「うん」
部屋に残る二人に一瞥し、部屋を後にする。食いもんあとどれくらい残ってたっけ。
ここのところ食材の買足しをしてなかったおかげで、
冷蔵庫の中身は野菜を除けば、もう今日中には全部食べきれるぐらいの量だった。
「じゃあ今日でこれ全部食っちゃって……明日からの分は……いいや、明日考えよう」
独り言を溢しながら冷凍ミニコロッケやらミニハンバーグやらをレンジで温め、
皿に盛り付ける。見た目肉ばっかりみたいな感じだけど、
よく考えたらコロッケってそれほど肉料理ってわけじゃないよな。ってことでオッケー。
そして最後に米を温めている間、椅子に腰掛けてできあがりを待つ。
「明日から、か……」
さっき何気なく口から出た言葉を繰り返す。別に明日何か予定があったりするわけじゃない。
ただ、明日もまだセンが居るのかどうかは解らないのだ。
それを思うと、増々明日のことを考えるのが嫌になった。
かといって今更慌てふためいてドタバタするでもなく妙な脱力感に身を委ねていると、
レンジの作業完了を知らせる音が鳴った。
米を取り出しお椀に盛り、俺は多少力を込めた声で、
「できたぞー」
テーブルを挟んで岩白と向かい合い、二人揃って黙々と皿を空けていく。
早く食い終わってセンの所に戻りたいのは山々だが、
「あのさ」
「ん、何?」
センが居ない間にしておきたい話もある。俺は茶碗を左手で持ち上げたまま切り出した。
「次の欲食いが現れるのって、やっぱりあの賽銭箱からなんだよな?」
「ええ。今までずっとそうだったらしいわ」
最早岩白もさらりと答えるようになっていた。
嫌がろうが認めたくなかろうが、もうそれが目前なのは解っているからだろう。
「で、その中の欲を食って人の形になるわけなんだな?」
「ええ」
「じゃあ賽銭箱に金がなかったら? 今ってあの中、空なんだろ?」
「欲が得られるまでずっとそのままなんじゃないかしら。
ずっとそこに留まったままなのかどうかは解らないけど」
「ってことは、あの中が空なら俺たちの金を渡すこともできるんだよな?」
すると俺が何を言いたいのか理解したのか、岩白は眉をひそめて申し訳なさそうな声で、
「……私たちでもう一度『セン』を作り出そうって言いたいのならそれは無理よ。
もし、万が一、外見が『セン』であったとしても……十中八九、中身は別人になるわ」
「それは解ってる。味つきのクリームパフェすら無理だったんだからな」
その話もさっきの思い出話の中に含まれてたし、
さすがにそれを忘れるほど俺も馬鹿じゃない。
「それで一つ、思いついたんだけど…………」
「……………え? そ、それは……でも……」
「何もしないよりはマシだろ? 俺、やっぱりあいつとまだまだ一緒に居たいし」
「……そうね。それは私も同じ」
「もし駄目だったら……お前には、悪い話になっちまうんだけど……」
「大丈夫。やらせてもらうわ。
失敗どころかやる前から駄目でした、なんてそれこそ嫌だし」
「ありがとう。ホントにありがとうな、岩白」
「どういたしまして。じゃあ、早速行かなくちゃね。いつになるか解らないんだし。
……あ、でも最後にちょっとだけ話がしたいな。あいつと」
たぶんだな、賽銭に欲w……な、なにをするきさまらー! ふがふが!
はいいとして、さてさて何をするんでしょうね?
それからどうなるんでしょうね?
ガラハドさんの予想は当たってるんでしょうか?
それが判明するまでそんなに時間はかからない……
かな?
お楽しみに~