呼ばれた寛が立ち止まり、振り返る……と言うよりは、くるりとこちらを向きなおした。
「…なんだ」
「あ、明日香が来るまで一緒に待たへん?」
「…まあ、特に用事もないし別に構わんが」
「よ、よかった。昼休みあんまり話とかできへんかったし……」
確かに、よくもまあ人の顔を引っ張ってるだけで間が保ったもんだ。
引っ張りながら談笑されたらそれはそれで腹立つが。
というわけで待ち人が一人増え、五人で一人を待つことになった。
まあ掃除なんて十分ちょっとくらいで終わるだろうが。
「ど、土曜にな、明日香と二人で隣駅のデパートに行ったんやけど……」
「…ああ」
今日香と寛の会話が始まった。
俺を含めて他の三人はその様子を眺めていたのだが……
今日香が滞りなく言葉に詰まりつつ、あの日デパートであったことを話す。
猫を飼うのに必要なものを買いに行ったのに、
『名付け親に全部任しとき』
と半ば無理矢理に本屋で待たされたこと。
その後映画ホールに向かう際、
『知り合いに会うた』
と言われ、行ってみると俺とセンだったこと。
映画を観た時、皆して泣いてしまったこと。
等々をとても楽しそうに。
一方それを聞いている寛はというと、
今日香の話の合間合間に
「…ほう」
とか
「…そうか」
とかの相槌を只々繰り返すのみだった。
普通だったら話の細部を詳しく訊いてみるとか、先の話を促してみるとか、
聞く側も多少なりはやってみようとするだろう。
しかし寛の相槌にはそういった意味は含まれてなさそうだ。
ただ単に聞いているだけ、というような感じで。
それでも今日香は楽しそうに話す。話の内容自体はそんなに楽しいことでもないだろう。
以前あったことをそのまま伝えているだけなのだから。
何がそんなに楽しいんだろうか?
寛と今日香の会話……『もどき』とつけるべきだろうか?
とにかくその最中、校門五人組の二人がやって来た。
声がでかい男と、今日香が同じクラスだと言っていた女。
今日香はお話に夢中で気がついていないようだが、岩白は気がついたようだ。
今日香と同じクラスってことはこいつもそうだということになる。
「あの女の子、お前と同じクラスなんだよな?」
なんとなしに訊いてみた。
「え? そうだけど、なんで知ってるの?」
「そうなんですか? あの人確か、映画館と帰りの電車で見かけた人ですよね」
そうか、センは聞いてなかったよな。
「今日香が言ってたんだよ。映画館に入った時に見かけてな」
今日香と寛の方を見ると、
デパートの話は終わって寛との思い出話に華を咲かせているようだった。
もっとも、咲かせているのは一方だけだが。
「そう。まあ親しいわけじゃないんだけどね。
私と席が近いんだけど、あぁ……声掛け辛いって言うか……」
校門の反対側の当人に目をやり、言い難そうに言った。思い当たる節ならある。
「お兄さんのことで……か?」
「お兄さん?」
センは首を傾げる。
「最近亡くなったそうなんだよ。あの人のお兄さん」
あまり良い話題とは言えないので、耳打ちで伝えた。
それを聞いたセンは返すべき言葉が見つからないのか、黙り込んでしまう。
「いやまあ、それもあるんだけど……」
岩白は依然苦い表情のまま。
「ま、まだなんかあるのか?」
予想外の展開だった。軽率だったか、と話を振ったことを後悔する。
「その事故が起きる前から、ね。
話し掛けてみても、なんだか怖がられてるような感じで……」
「今の様子からはとてもそうには見えないが」
一人欠けてはいるが、あの五人組の中ではごく自然だし……
と、その時、前方から声が。
「お待っとさーん。おう寛ぃ。今日香に捕まったんか? 災難やったなー」
「…なんだ」
「あ、明日香が来るまで一緒に待たへん?」
「…まあ、特に用事もないし別に構わんが」
「よ、よかった。昼休みあんまり話とかできへんかったし……」
確かに、よくもまあ人の顔を引っ張ってるだけで間が保ったもんだ。
引っ張りながら談笑されたらそれはそれで腹立つが。
というわけで待ち人が一人増え、五人で一人を待つことになった。
まあ掃除なんて十分ちょっとくらいで終わるだろうが。
「ど、土曜にな、明日香と二人で隣駅のデパートに行ったんやけど……」
「…ああ」
今日香と寛の会話が始まった。
俺を含めて他の三人はその様子を眺めていたのだが……
今日香が滞りなく言葉に詰まりつつ、あの日デパートであったことを話す。
猫を飼うのに必要なものを買いに行ったのに、
『名付け親に全部任しとき』
と半ば無理矢理に本屋で待たされたこと。
その後映画ホールに向かう際、
『知り合いに会うた』
と言われ、行ってみると俺とセンだったこと。
映画を観た時、皆して泣いてしまったこと。
等々をとても楽しそうに。
一方それを聞いている寛はというと、
今日香の話の合間合間に
「…ほう」
とか
「…そうか」
とかの相槌を只々繰り返すのみだった。
普通だったら話の細部を詳しく訊いてみるとか、先の話を促してみるとか、
聞く側も多少なりはやってみようとするだろう。
しかし寛の相槌にはそういった意味は含まれてなさそうだ。
ただ単に聞いているだけ、というような感じで。
それでも今日香は楽しそうに話す。話の内容自体はそんなに楽しいことでもないだろう。
以前あったことをそのまま伝えているだけなのだから。
何がそんなに楽しいんだろうか?
寛と今日香の会話……『もどき』とつけるべきだろうか?
とにかくその最中、校門五人組の二人がやって来た。
声がでかい男と、今日香が同じクラスだと言っていた女。
今日香はお話に夢中で気がついていないようだが、岩白は気がついたようだ。
今日香と同じクラスってことはこいつもそうだということになる。
「あの女の子、お前と同じクラスなんだよな?」
なんとなしに訊いてみた。
「え? そうだけど、なんで知ってるの?」
「そうなんですか? あの人確か、映画館と帰りの電車で見かけた人ですよね」
そうか、センは聞いてなかったよな。
「今日香が言ってたんだよ。映画館に入った時に見かけてな」
今日香と寛の方を見ると、
デパートの話は終わって寛との思い出話に華を咲かせているようだった。
もっとも、咲かせているのは一方だけだが。
「そう。まあ親しいわけじゃないんだけどね。
私と席が近いんだけど、あぁ……声掛け辛いって言うか……」
校門の反対側の当人に目をやり、言い難そうに言った。思い当たる節ならある。
「お兄さんのことで……か?」
「お兄さん?」
センは首を傾げる。
「最近亡くなったそうなんだよ。あの人のお兄さん」
あまり良い話題とは言えないので、耳打ちで伝えた。
それを聞いたセンは返すべき言葉が見つからないのか、黙り込んでしまう。
「いやまあ、それもあるんだけど……」
岩白は依然苦い表情のまま。
「ま、まだなんかあるのか?」
予想外の展開だった。軽率だったか、と話を振ったことを後悔する。
「その事故が起きる前から、ね。
話し掛けてみても、なんだか怖がられてるような感じで……」
「今の様子からはとてもそうには見えないが」
一人欠けてはいるが、あの五人組の中ではごく自然だし……
と、その時、前方から声が。
「お待っとさーん。おう寛ぃ。今日香に捕まったんか? 災難やったなー」
楽しませてもらってるよ!
楽しんで戴けるなら何よりです。
私自身も楽しんでますけどね。
毎日三・四時間は書くのに時間とってますし。
我ながらこんなに続くとは思ってなかったわけで……
この話も、ブログ自体も。
まだ終わりは見えません。話はある程度できてるんですけどね。
よろしければこれからもお付き合い下さいまし。