(有)妄想心霊屋敷

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欲たすご縁は女の子18 座って写しててんてんてん

2006-12-20 22:27:24 | 欲たすご縁は女の子   二日目
岩白と別れ、教室に入る。目指す自分の席は窓際の最後列。
あの席が決まったときはラッキーだと思ったが、
もしかしたら俺の運はそこで尽きたのかもしれないな。
友人からノートを借りて、そんな日に限って雨に降られて、神社に駆け込む羽目になって、
いつもは空の財布に五円玉だけ残ってて、そしたらあいつが入ってて、
望んでもないのに俺は都合よく一人暮らしで……
自分の席に辿り着くまでに昨日一日の出来事が頭をよぎる。
「はぁ」
溜息が出た。

「おはよう」
自分の席に着き、前の席に座っている男に挨拶する。
すると、気持ち悪いぐらいに正しい姿勢なそいつがゆっくりとこちらを向いた。
「…おはよう」
相手を睨んでいるのか目が悪いのか眠いのか、
いつも半目開きなこいつは俺が守ったノートの持ち主、持田寛。
「…疲れた顔だな」
「疲れたんだから仕方ないだろ。
 昨日の帰宅中からついさっきまでずっとばたばたしてたんだよ」
「…そうか。…ノートは写せたか」
「そんな暇なかったよ。残念ながら」
そう言ってカバンからノートを取り出し、返そうとする。
寛は視線だけ動かしてノートを見る。しかしノートは受け取らず、視線を俺の目に戻した。
「…いい」
「いいってお前、授業どうすんだよ」
「…授業までまだ時間はある。…今から写せばいい」
ちなみに俺が借りたのは数学のノート。そして今日の数学は一時間目だ。
「今から~? 俺疲れて「…あと四十分」……解った解った」
何か最近他人の言いなりになりっぱなしな気がするが、
気にしないことにしてノートを写す作業に入った。
二人だけの静かな教室に俺のシャーペンがたてる音だけがする。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリポキ。
カチカチ。カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ。
「…字」
五分ほど経った辺りで寛が唐突に話し掛けてきた。
「…汚いな」
「急いで書いてるからだ」
手を止めずに答える。急いでなくても大して変わらないが。
「字って言ってもさっきから数字しか書いてないがな」
「…そうだな」
「そう言うお前はやけに綺麗な字だよな」
「…そうか」
「そうだ」
寛のノートにはパソコンで打ったような無機質に綺麗な数字がずらっと並ぶ。
おかげでとても写しやすい。なので俺のノートが並ぶと、
「この二つの絵で、違っているのは何処?」
「全部!」
「正解!」
なんて声が聞こえてきそうなぐらい差がはっきりする。
いいさいいさ。どうせ俺は貸す側にはならんからな。自分で読めりゃそれでいい。

暫らく書き続けていると、ようやく俺達二人以外の生徒が教室に集まってきた。
「…あと二十五分」
「あー待て待て。もう終わるから」
最後の一問をさらに汚く仕上げ、ようやく書き終わる。手が痛い。
ちなみに、最初の『おはよう』からここまで、寛が動かしたのは口と目線だけだ。
メカかお前は。……なんて突っ込みしてたのも最初の一週間ぐらいだったが。
「ほら、ノート」
「…お疲れ」
ああ疲れたさ。
この後また同じような数字の羅列を書かなきゃならんと思うと気が滅入る。
「…ところで」
「なんだ?」
「…ばたばたしてたってなんだ」
ばたばた? ……ああ、ノート書き始める前のあれか。
「雨降っただろ? だからお前のノートを守ってたんだよ」
「…ついさっきまでか」
「守ってた場所でまた色々あったんだよ。それが長引いたんだ」
「…色々とは」
「言えないな」
「…そうか」


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