昨年のアカデミー賞で3部門ノミネートをはじめとして,多くの賞を受賞していながらも日本での公開が危ぶまれていた『ホテル・ルワンダ』.本作の公開署名運動をした人々には感謝したい思いである.ってか,そんな騒動なんて知らなかったので,「いつか公開するだろう」くらいにしか思ってなかったのに,まさか公開が危ぶまれていたとは….
最初に言っておくと,1月公開の作品の中では一番のできではないかと思う.おかげで二度と書こうとは思わなかった映画感想の独立記事を書く気にさせてくれたくらいのもの.もしこのブログを観ていて,映画が好きだというなら,ぜひ観てほしい作品だ.
オープニングでは,本作の1994年のアフリカ・ルワンダで起こった大量虐殺の事件を描く作品とは思えない,明るい音楽から始まる.序盤は,不穏な気配を見せつつも,一部のフツ族の民兵によってツチ族の市民に虐待がある程度にしかなく,ドン・チードル演じるポールにはいずれ終わることだという程度の認識でしかなかった.それが一変したのが,フツ族による反乱軍の大統領暗殺の事件.そこから物語が一気に変わっていく.
フツ族の民兵による無差別なツチ族の虐殺.銃で撃たれるもの,ナタによって斬られるものや,女性のツチ族に至っては売女として性的虐待を与えてから殺すなどの行為が行われるようになっていく様は,何一つも命の尊さというものがない.それはフツ族がツチ族に対して「ゴキブリ」と言っているところからも伺え,フツ族はひどい悪だと普通なら思える.…が,オープニング中に「何故ツチ族を嫌うのか?」という問いに対して「歴史を見れば分かる」ということを言っていた.フツ族がツチ族に対してしたことと同様の抑圧を長年フツ族がツチ族から受けてきたのだ.虐殺が許されるわけではない.だが,どちらが悪なのか?ということすら言えないだけの歴史があるのだ.なんとも難しい問題である.
虐殺が始まり,殺される運命にあったツチ族の難民をホテルに匿うことになったポールは,いずれは国連が助けに来てくれると信じて,多少楽観していた.そこに,国連からの救援部隊が来た時,ポールを助けてきた国連のオリバー大佐から出てきた一言から,物語は本当の局面を迎えることになる.
救援部隊は白人だけを助け,ルワンダに住む難民たちを助けることはしなかったのである.ポールが救援部隊が来たときにオリバー大佐に対して「乾杯しましょう」と言った後にオリバー大佐から出てきた言葉は,まさに冷徹そのものであった.「国連は難民を救う価値がないと考え,虐殺を止めもしない」―――その言葉は国連だけが考えていることではない.フツ族の正規軍に所属するものにも言えたことである.民兵が勝手にやっていることだと言いつつも止めることもせず,ポールが助けてほしいと言っても,見返りがない以上は見捨てると言い切っていた.
ここから,ポールはツチ族の難民をなんとしても助けようともがいていくのである.ホテルの支配人であること以外は平凡でしかないポールの姿には,史実である以上は結果が分かっているにも関わらず,どうなってしまうのかという不安を感じさせ,まさに今その場所でこのことが起こっているかのような気分になってくる.それを感じさせるだけの迫力と空気を,見事に感じさせる演技を主演のドン・チードルが演じていたと思う.
国連が一度は来たのにルワンダの難民を見捨てることを決定したことに対して,オリバー大佐がポールに言った言葉も印象的であったが,カメラマンを演じていたフォアキン・フェニックスの台詞にも,印象的なものがあった.
虐殺の映像を見事に撮影したビデオを持ってきて全世界に放映されることを知ったポールが彼に対して「これで助けに来てくれる」と言ったときに,「世界の人々はあの映像を見て―――“怖いね”というだけでディナーを続ける」という言葉.まさにそうだと実感した.どれだけのことが起きようとも,自分の周囲のことでなければその程度の意識しか持たない.そこを適切についた言葉にドキっとさせられた.
ルワンダで起こった大量虐殺を描いた物語ではあるが,これは一人の平凡な男でも何かができるんだということを訴える映画であろう.そこに勇気を持つべきだということ.それと同時に,家族を必死で守ろうとする愛や,難民が一時の平穏の中で見せた,アフリカという地が持つ文化の素晴らしさ.それらを無理なくまとめた傑作であったと思う.
ホテル・ルワンダ 公式サイト:
http://www.hotelrwanda.jp/
最初に言っておくと,1月公開の作品の中では一番のできではないかと思う.おかげで二度と書こうとは思わなかった映画感想の独立記事を書く気にさせてくれたくらいのもの.もしこのブログを観ていて,映画が好きだというなら,ぜひ観てほしい作品だ.
オープニングでは,本作の1994年のアフリカ・ルワンダで起こった大量虐殺の事件を描く作品とは思えない,明るい音楽から始まる.序盤は,不穏な気配を見せつつも,一部のフツ族の民兵によってツチ族の市民に虐待がある程度にしかなく,ドン・チードル演じるポールにはいずれ終わることだという程度の認識でしかなかった.それが一変したのが,フツ族による反乱軍の大統領暗殺の事件.そこから物語が一気に変わっていく.
フツ族の民兵による無差別なツチ族の虐殺.銃で撃たれるもの,ナタによって斬られるものや,女性のツチ族に至っては売女として性的虐待を与えてから殺すなどの行為が行われるようになっていく様は,何一つも命の尊さというものがない.それはフツ族がツチ族に対して「ゴキブリ」と言っているところからも伺え,フツ族はひどい悪だと普通なら思える.…が,オープニング中に「何故ツチ族を嫌うのか?」という問いに対して「歴史を見れば分かる」ということを言っていた.フツ族がツチ族に対してしたことと同様の抑圧を長年フツ族がツチ族から受けてきたのだ.虐殺が許されるわけではない.だが,どちらが悪なのか?ということすら言えないだけの歴史があるのだ.なんとも難しい問題である.
虐殺が始まり,殺される運命にあったツチ族の難民をホテルに匿うことになったポールは,いずれは国連が助けに来てくれると信じて,多少楽観していた.そこに,国連からの救援部隊が来た時,ポールを助けてきた国連のオリバー大佐から出てきた一言から,物語は本当の局面を迎えることになる.
救援部隊は白人だけを助け,ルワンダに住む難民たちを助けることはしなかったのである.ポールが救援部隊が来たときにオリバー大佐に対して「乾杯しましょう」と言った後にオリバー大佐から出てきた言葉は,まさに冷徹そのものであった.「国連は難民を救う価値がないと考え,虐殺を止めもしない」―――その言葉は国連だけが考えていることではない.フツ族の正規軍に所属するものにも言えたことである.民兵が勝手にやっていることだと言いつつも止めることもせず,ポールが助けてほしいと言っても,見返りがない以上は見捨てると言い切っていた.
ここから,ポールはツチ族の難民をなんとしても助けようともがいていくのである.ホテルの支配人であること以外は平凡でしかないポールの姿には,史実である以上は結果が分かっているにも関わらず,どうなってしまうのかという不安を感じさせ,まさに今その場所でこのことが起こっているかのような気分になってくる.それを感じさせるだけの迫力と空気を,見事に感じさせる演技を主演のドン・チードルが演じていたと思う.
国連が一度は来たのにルワンダの難民を見捨てることを決定したことに対して,オリバー大佐がポールに言った言葉も印象的であったが,カメラマンを演じていたフォアキン・フェニックスの台詞にも,印象的なものがあった.
虐殺の映像を見事に撮影したビデオを持ってきて全世界に放映されることを知ったポールが彼に対して「これで助けに来てくれる」と言ったときに,「世界の人々はあの映像を見て―――“怖いね”というだけでディナーを続ける」という言葉.まさにそうだと実感した.どれだけのことが起きようとも,自分の周囲のことでなければその程度の意識しか持たない.そこを適切についた言葉にドキっとさせられた.
ルワンダで起こった大量虐殺を描いた物語ではあるが,これは一人の平凡な男でも何かができるんだということを訴える映画であろう.そこに勇気を持つべきだということ.それと同時に,家族を必死で守ろうとする愛や,難民が一時の平穏の中で見せた,アフリカという地が持つ文化の素晴らしさ.それらを無理なくまとめた傑作であったと思う.
ホテル・ルワンダ 公式サイト:
http://www.hotelrwanda.jp/