若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

横暴な東京都知事の杜撰な命令事前通知を読んでみた ~がんばれグローバルダイニング~

2021年03月24日 | 地方議会・地方政治
地方自治体の中では職員数最多。
大学の多い土地柄で、受験生のレベルも高い。
首都公務員というブランド。

そんな、地方自治体の中では一番優秀である(はずの)東京都職員。
良くも悪くも

「さすが東京都、そこまでやってるのか」
「東京都でこのくらいなら、うちはこれだけ出来ていれば大丈夫」

と、参考にしている自治体も多いことでしょう。

さて。

「グローバルダイニング 対 東京都知事」
の時短営業要請・命令を巡って、グローバルダイニング作成の弁明書と、東京都作成の命令事前通知が公開されているのですが、これがなかなかに興味深い。

【グローバルダイニング】東京都知事宛弁明書20210311.pdf

【緊急】グローバルダイニング、小池都知事から「命令」届く。|外食ニュース | FDN フードリンクニュース

上記のように、東京都と言えば、地方自治体としてはトップクラスの人材が集まっているはずなんです。
それなのにこの程度の事しか出来ない。この程度の通知文しか作れない。



この事実は、全国の道府県職員・市町村職員を勇気づけることでしょう(マテ

ひと言で言うと、杜撰なんです。

「へぇ、東京都職員ですらこの程度の通知文しか作ってないんだ。東京都が作る命令通知ですらこの程度なら、うちはもうちょっと雑でもいいかも」

と、他の自治体職員に思わせるほどのレベルの低さです。

【「正当な理由」って何?】

グローバルダイニングは、弁明書の中で

【グローバルダイニング】東京都知事宛弁明書20210311.pdf
COVID-19のような弱毒性のウイルスは完全に封じ込めるのは不可能であると考えております。

ハイリスクの方々を守ることができれば、リスクの低い若い世代の家庭での感染についてはそれほど恐れることはありません(同様に当社の顧客もローリスクの年代の方が大半です)

不要不急の外出を控えるよう言いつつ、(時間や人数が限られているとはいえ)映画やイベント、テーマパークなどの営業が認められるような緊急事態宣言に何の意味があるのでしょうか。
少なくとも外食は、それを必要とする人は、どの時間帯においても少なからず居ります。


等々、東京都の発出した要請に対し、その範囲・程度・対象等々の条件設定がおかしいのではないか、必要性や妥当性の観点から問題があるのではないか、といった観点・考え方を示しています。そして、義務ではない要請の段階であれば従う必要はないはずだと述べています。

これに対し、東京都の通知文では、弁明書の中身に一切触れていません。
東京都は、命令事前通知の中で

【緊急】グローバルダイニング、小池都知事から「命令」届く。|外食ニュース | FDN フードリンクニュース
貴社が提出した令和3年3月11日付「弁明書」において、当該要請に応じないことに正当な理由があると主張する。しかし、当該弁明書に記載された内容からは、法第45条第3項に定める「正当な理由」があるとは認められない。

と述べるのみ。

「正当な理由なんて、無いものは無いんだよバーカバーカ」

という子供の喧嘩レベル。中身がすっからかんです。
そもそも、東京都職員は弁明書を読んだのかな、と疑わせるレベルです。
東京都はグローバルダイニングに対し、何のために弁明書を書かせたのでしょうか。

東京都として、
正当な理由
をどのようなものと解釈したうえで、法第45条の命令規定を運用しているのかが全く示されていません。条文を運用し命令を発するのであれば、「正当な理由」の解釈を取り敢えず自前で行っているはずですが、そこが分からない。

東京都の考える「正当な理由」とは何で、グローバルダイニングの弁明書の内容がどういう観点から「「正当な理由」があるとは認められない」と判断したのか、命令事前通知からは読み取ることができません。漠然としています。

(そもそも、国の緊急事態宣言の発令自体がエビデンスの無い漠然としたものです。飲食業界という政治力の弱い分野を生贄にして、国民向けに「政府はコロナ対策しています」という演出をしているに過ぎませんが、それはさておき。)

おそらく、東京都の小池百合子都知事や都職員は
正当な理由
の有無を判断するための、基準や考え方を持っていないのでしょう。

だから、判断基準に照らして
「〇〇だから正当な理由なしと判断します」
といったことが言えない、書けない。
基準や根拠を持たないまま、

「正当な理由が無いと認められる場合は命令を出せると法律に書いてある。正当な理由がないとあたくしが認めたから命令を出した」

というオウム返しのレベルで命令を発する。
そう、杜撰なんです。

要請を命令に格上げして、行政として民間事業者に対し権利を制限し義務を課す。
これって結構重大なことですよ?
命令ってそんな程度で出して良いものなんですか?違うでしょう?

【逆らう者を狙い撃ち】

続けて、東京都の命令事前通知に書かれた命令を行う理由を読んでいくと、

貴施設は、20時以降も当該施設を使用して飲食店の営業を継続し、客の来店を促すことで、飲食につながる人の流れを増大させ、市中の感染リスクを高めている。加えて、緊急事態宣言に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがある。

と出てきます。

(1)20時以降も営業して感染リスクを高めている。
(2)緊急事態宣言に応じない旨を強く発信し、他の飲食店の営業継続を誘発するおそれ。

東京都は、この2点を命令理由として挙げています。

時短命令は「狙い撃ちだ」 グローバルダイニングが都を提訴…請求額は「104円」(弁護士ドットコムニュース) - Yahoo!ニュース
=====【引用ここから】=====
都による時短営業命令は3月18日、時短要請に応じていない約2000施設のうち、27施設に出されたが、そのうち26施設がグローバルダイニングの店舗だった
=====【引用ここまで】=====

2000施設中27施設に命令を出し、うち26施設がグローバルダイニングの店舗。ほぼグローバルダイニングのみを対象としている、と言ってよいでしょう。

命令理由(1)については2000施設全てに共通しているので、実質的に、東京都は命令理由(2)の「緊急事態宣言に応じない旨を強く発信した」点に基づいて、グローバルダイニング1社をピンポイントで選定したことになります。どのくらいの飲食店が、グローバルダイニングの発信を受けて営業継続路線に変更したのか、といった蓋然性の分析も一切していません。

いつから日本は、表現行為を理由に行政命令の対象を選定するようなことが許される国になったのでしょうか。江戸時代の「お上に楯突くとは不届き千万」精神がそのまま生きています。

今回の東京都の手法は、
「都知事の施策に反対意見を述べると不利益処分を受ける。不満に思っても黙っておこう」
という委縮効果をもたらします。
これはよくない。表現の自由の保障を考えた時、これは非常によくない。

要請を出し、さらに命令を出すのであれば、命令を出す行政側が命令の理由・必要性を明確に示すべきです。
規制行政全般に言えることですが、立証責任・説明責任は規制を行う側が果たすべきです。
表現行為や営業活動は行政が規制・介入・禁止しないのが大前提。
自由であるのが原則であり、例外として規制するなら、規制する側が根拠や規制の必要性をしっかり説明するのが筋です。

東京都の命令事前通知からは、表現の自由や営業の自由に配慮した形跡が一切見られません。なんせ、弁明書の内容に一言も言及していないのですから。
弁明書の内容をスルーした都知事の横暴、都職員の杜撰さに対し、何か一矢報いることはできないのでしょうか。

【がんばれグローバルダイニング】

そんな私の想いをくみ取ってくれたのか、グローバルダイニング側は東京都の命令に反発し提訴。
舞台は訴訟に移っていきました。

時短命令は「狙い撃ちだ」 グローバルダイニングが都を提訴…請求額は「104円」(弁護士ドットコムニュース) - Yahoo!ニュース
=====【引用ここから】=====
同社代理人の倉持麟太郎弁護士によれば、時短命令の違憲性・違法性を問うとともに、法的な根拠や科学的な根拠があいまいなまま飲食店営業を一律に制限することの是非、コロナ禍の名のもとにおこなわれてきた過剰な規制や改正特措法の違憲性について問題提起するという。

訴訟では、(1)時短命令は、時短要請に応じないことを発信していたグローバルダイニングを狙い撃ちしたもので、平等原則に反し、表現の自由及び営業の自由を侵害する、(2)同時短命令は特措法上の要件を満たしていない、(3)飲食店が主要な感染経路であるという明確な根拠もなく営業を一律に制限できる特措法の規定は、営業の自由を侵害しており違憲――などを主張していくという。

倉持弁護士は「自由が制限されている時点で『実害』だと認識している。行政のとったコロナ対策で社会的弱者になってしまった人もいる。今回の訴訟を『声なき声』を集約するプラットフォームにしていきたい」と話した。

「経済的余裕は一切ない」(長谷川社長)という同社の弁護団は、今回の裁判について、提訴と同時に「コロナ禍、日本社会の理不尽を問う」と題したプロジェクトをクラウドファンディングサービス「CALL4」で立ち上げ、支援を募っている。

=====【引用ここまで】=====

今回の東京都の命令がお咎めなしになると、表現の自由、営業の自由、法適用の平等は大きく損なわれます。そして、全国の自治体職員に「この程度で良いんだ」と勘違いさせる悪しき先例を残すことになります。

がんばれグローバルダイニング。
東京都の横暴、杜撰さ、そして政府の規制の恣意性を白日の下に晒すんだ。

私も、クラウドファンディングで一口応援しようかな。

-----(2021年3月25日追記)-----
新型インフルエンザ等対策特別措置法の第45条第3項に、

3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。

とあります。

特に必要があると認めるときに限り

みせしめ・生贄・一罰百戒…これら以外で、何か現状でグローバルダイニングを狙い撃ちする必要あったのかな?
「他の飲食店の時短営業無視を誘発するおそれがあり、感染まん延につながるおそれがある」
つまり、
「おそれがある × おそれがある」
という蓋然性の低い状態で、「特に必要がある」って言い張るのは苦しいんじゃいかなーと私は個人的に思うんですけど、皆さんどう思います?
ねぇ東京都職員さん?

菅総理父子もビックリの縁故主義 ~松本英樹(行橋市前副市長)氏に学ぶ相続税と寄付と縁故の効用~

2021年03月14日 | 地方議会・地方政治

【相続税の計算について】

あなたが、4億4600万円の美術品を一人で相続したとしたら、相続税って幾らになると思いますか?

相続税の税率と速算表 | 相続税申告相談プラザ|ランドマーク税理士法人

こちらのサイトを参考に、相続税を計算してみましょう。

基礎控除額:3000万円+600万円×1人=3600万円

課税価格 :4億4600万円-3600万円=4億1000万円

法定相続人は一人のため、人数按分の計算は除外。

法定相続分に応ずる取得金額の区分が6億円以下に該当するので、速算表によれば税率50%。控除額4200万円。

4億1000万円×50%-4200万円=1億6300万円

納税額が1億6300万円、いやー大変な額ですね。
つくづく、相続税は世紀の悪法だなぁと思わずにはいられません。
(ご自分の相続税を計算する際は、リンク先の資料や国税庁のサイトもよく読んで、自己責任でお願いします)

【相続税対策としての寄付】

このように、相続税は非常に高い。
ですが、遺産が現預金であれば、相続税の計算をして差し引くだけでで済むので、まだましです。不幸中の幸いといったところでしょうか。

ところが、美術品や不動産となるとハードルはさらに上がります。
評価額を算定し、相続税を払うために一部または全部を売却し現金化に迫られるケースもあります。これは容易ではありません。

お金で貰うならともかく、美術品の形で貰っても対応に困る人は多いはずです。
親が趣味で買い集めた美術品。しかし残された遺族には、美術品の知識も興味もない。相続してもどうしたらいいか分からない。相続人にとって無用の長物であっても、しかし、そのまま相続すれば税金が発生します。

じゃあ欲しい人にあげてしまえばいい、所有者が亡くなる前に誰かに寄付してくれたらいいと考える人もいるでしょうが、ちょっとお待ちを。
寄付する相手によって、課税されるかどうかが変わってきます。

公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税の特例のあらまし|国税庁
======【引用ここから】======
 個人が、土地、建物などの資産を法人に寄附した場合には、これらの資産は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税されます(所得税法第59条第1項第1号)。

 ただし、これらの資産を公益法人等に寄附した場合において、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられています(租税特別措置法第40条)。

======【引用ここまで】======

このように、単に他人に寄付、譲渡しただけでは、所得税が課税されるおそれがあります。公益法人に寄付すれば非課税になるようですが、手続きや要件が込み入っていて複雑です。

もっと簡単な方法は無いものでしょうか。


それがあるんです。


No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人に財産を寄附したとき|国税庁
======【引用ここから】======
1 法人に財産を寄附したとき
 個人が法人に財産を寄附したときは、その財産を時価で譲渡したものとみなされて譲渡所得が課税されます。
 しかし、個人が法人に財産を寄附した場合でも譲渡所得が課税されない場合があります。

2 課税されない場合
(1) 国や地方公共団体に対して財産を寄附した場合
 この場合は、特に要件はなく何らの手続きも必要ありません。

======【引用ここまで】======

このように、国や地方公共団体に対して寄付をしてしまえば、税務上の手続きをとることなく所得税も相続税も免れることができます。

【役所は寄付を受け入れてくれるか】

ただ、気を付けなければいけない点があります。
役所がその寄付を受け取ってくれるかどうか、この関門を突破しなければいけません。

相続人から見て
「貰っても管理が厄介だなぁ」
と考える物は、役所にとっても同じように厄介なのです。

土地を自治体へ寄贈する場合は必ず引き取ってもらえる?寄付の方法も解説
======【引用ここから】======
自治体は土地の寄贈を受け入れないことが多い

土地を自治体に寄贈しようと思っても、受け入れてくれないケースがほとんどです。
土地の所有者にとっては、土地を所有しているだけで固定資産税がかかることが、土地を手放したい主な理由でしょう。

しかし、その固定資産税の支払い先は自治体です。自治体にとって、固定資産税は重要な収入源といえます。
また自治体としては、用途がない土地の寄贈を受け入れたところで管理コストがかかるだけです。

======【引用ここまで】======

管理の必要な物を寄付された役所は、予算を組んで管理費用を計上することになります。
管理のために人員を割く必要も出てきます。

消滅自治体が懸念されるこのご時世。
役所は、予算捻出や人員確保に頭を悩ませています。公共施設の整理・削減をして人口減少に対応し、自治体の持続可能性を模索している自治体は多いです。

こうした中、普通、自治体は二つ返事で

「はい、寄付してくれてありがとう」

とは言ってくれません。
むしろ、
維持管理費等が著しく市の財政的な負担となる作品
の寄付はお断りします、と明記している自治体もあるくらいです。

役所にとって、寄付の受け入れは財政負担、つまり住民負担を伴う厄介者なのです。

【役所に寄付を受け入れてもらう方法】

処理に困る所有物を、役所に寄付して管理してもらいたいという声は多くあります。

例えば、老朽空き家を役所が引き取ってくれれば、所有者としては楽ですよね。

空き家を所有しているが、遠方に住んでいて使い道はない。
雑草が伸び建物は老朽化し、外壁も崩れそう。
害虫や悪臭が生じて近隣から苦情が出ている。
草刈りをしたり、建物を崩して更地にすれば近隣住民に迷惑はかかりませんが、それにはお金や手間がかかります。
「役所が寄付で受けてくれたら楽なのに」
と思っている方は多いと思います。

しかし、前述のように、役所は簡単には寄付を引き受けてくれません。
どうすれば、役所に寄付を受け入れてもらうことができるでしょうか。

その有効な手段が、コネです。
役所の有力者とコネ・縁故があれば、寄付を受け入れてもらう可能性が高くなります。
その究極形というか、特異な例が↓こちら。

増田美術館:公設へ 館長が行橋市に土地・建物を寄贈 /福岡 - 毎日新聞
======【引用ここから】======
 行橋市は26日、同市行事5にある増田美術館の館長、増田博さん(93)=同市神田町=が、同美術館の土地・建物を市に寄贈したことを明らかにした。増田さんは約60年間にわたって収集してきた横山大観や東山魁夷ら著名作家による日本画など194点(購入時総額約4億4600万円)を7月に市に寄贈し、22日の定例市議会最終日に同市の名誉市民第1号に決まっている。【荒木俊雄】
 増田さんは30歳ぐらいのころから美術品の収集を始め、建設会社経営の傍ら、2005年に増田美術館を開設。近代日本画では九州有数の展示内容・保管数を誇り、同美術館を管理する公益財団法人「増田美術・武道振興協会」(理事長=増田さん)所有の約150点を除く個人分を7月に市に寄贈していた。
 今回の寄贈は法人所有部分を除く、三つある展示室のうちの一つと事務室を含む鉄筋コンクリート造2階建て(延床面積約360平方メートル)と、駐車場を除く敷地約500平方メートル。関係者によると、同物件の今年の固定資産税評価額は建物が2850万円、土地が1370万円とされる。
 増田さんと親交のある松本英樹副市長によると、土地・建物の寄贈を思い付いたのは美術品を寄贈したころから。「市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい」という気持ちからだという。
 増田美術館の運営は当面現状のままで、松本副市長は「大変ありがたい贈り物。早ければ来年3月議会に公設施設として使用するための条例案を提案したい」と話している。 〔京築版〕

======【引用ここまで】======

この行橋市の事例は、極めて異例です。

【異例づくめの行橋市への寄付】

どう異例なのか。
上記の記事を部分ごとに読んでいきましょう。

======【引用ここから】======
増田さんは約60年間にわたって収集してきた横山大観や東山魁夷ら著名作家による日本画など194点(購入時総額約4億4600万円)を7月に市に寄贈
======【引用ここまで】======

一見、美談のように見えますが、注意が必要です。
美術品寄付の時点で、行橋市は美術館を持っていなかったのです。

美術館の無い市役所が、美術館のオーナーから美術品の寄付を受ける。市役所には美術品を専用に保管するスペースも適切に管理・展示するノウハウも無いわけです。

なので、

「寄付しようというお気持ちはありがたいのですが、いただいても管理できかねるので寄付はお断りします」

となるのが一般的に予想されるところです。

ところが、この行橋市は寄付を受けました。

じゃあ美術品の管理はどうするかというと、結局この美術館を運営する財団法人に対し、運営の委託をしています。美術品を寄付しつつも、結局は元の美術館が実質的には保管・展示する。オーナーとしては、美術品の相続税を免れ、一方で、美術館運営は従来どおり財団法人で行います。加えて、市役所から美術品管理委託料という収入を得ることができる、という不思議なカラクリが成立しています。

さらに異例なのは、土地・建物の一部を寄付した点。

======【引用ここから】======
 今回の寄贈は法人所有部分を除く、三つある展示室のうちの一つと事務室を含む鉄筋コンクリート造2階建て(延床面積約360平方メートル)と、駐車場を除く敷地約500平方メートル。関係者によると、同物件の今年の固定資産税評価額は建物が2850万円、土地が1370万円とされる。
======【引用ここまで】======

美術館という一つの土地・建物のうち、オーナー個人名義の部分だけの寄付を受ける。これによって、オーナーは相続税だけでなく固定資産税も免れるわけですが、この「役所が土地・建物の一部分の寄付を受け入れる」というのもまた通常考えにくいのです。

建物の一部分を寄付された場合、市役所所有部分と法人所有部分との境界で、管理や修繕を巡って混乱やトラブルが生じる可能性があるからです。今は市役所と財団法人の関係性が良いとしても、将来、関係がこじれた際に
「これは市で修理しろ」
「いやここは法人所有部分だからそっちで修理しろ」
「言う事をきかないなら、今後ここの通路を通ることはまかりならん」
などの揉め事が発生するのは、容易に想像ができます。

こうした点を考慮して、寄付を受け入れる条件として

将来に係争又は苦情が発生するおそれがない物件であること。

と明記している自治体もあります。当然のことです。

続けて、寄付者の心中を代弁している松本英樹副市長(当時)のコメントに、理解しがたい箇所があります。

======【引用ここから】======
 増田さんと親交のある松本英樹副市長によると、土地・建物の寄贈を思い付いたのは美術品を寄贈したころから。「市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい」という気持ちからだという。
 増田美術館の運営は当面現状のままで、松本副市長は「大変ありがたい贈り物。早ければ来年3月議会に公設施設として使用するための条例案を提案したい」と話している。

======【引用ここまで】======

私的な鑑賞用として収集していた個人コレクターが、美術館を持つ市役所に美術品を寄付する時に
市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい
と述べるのであれば、まだ一応は納得できます。
今まで個人で楽しんでいたけど、広く市民にも作品に触れてほしい、だから公営美術館に寄付して展示してもらいたい・・・これなら理屈としてはとおります。

しかし、この寄付した人は美術館の開設者、館長でした。多くの市民が美術品に接する機会を既に提供していたわけです。なので、
市民に気軽に美術品に接する機会を増やしてほしい
というのはどうも筋が通りません。
自分の美術館で展示すればいいじゃん、って思いませんか?
個人所有の美術品、そして土地・建物の個人所有部分を、全て財団法人に一本化すれば良かっただけのことです。

私人が収集した美術品を、私人が運営する美術館で多くの人が鑑賞できる状態が
大変ありがたい贈り物
なのであって、これを美術品と美術館の一部を役所名義にして運営費用を市民負担にすることは純粋な意味での贈り物ではありません。松本英樹氏の詭弁です。

このように、市役所に美術品、そして美術館の土地・建物の一部を寄付したことで、このオーナーは相続税と固定資産税を免れました。さらに、美術館の運営費用を市役所持ち(=市民負担)とすることに成功しています。

持つべきものは役所有力者との縁故です。

【行橋市民負担となった美術館費用】

美術品の寄付、そして美術館の土地・建物の部分的な寄付によって、行橋市では具体的にどのくらいの費用負担が生じたのでしょうか。

平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
新たに設置する美術館長の嘱託員報酬費といたしまして、217万2千円、美術館の管理運営委託料といたしまして411万8千円、並びに看板の書き換え料として63万円、合計692万円を計上いたしておりますが、この金額は市の負担経費と考えております。
 また開館に伴いまして、使用料等の収入でございますが、年間55万2千円を見込んで計上させていただいております。

======【引用ここまで】======

平成29年3月第5回行橋市議会 定例会会議録(第2日)
======【引用ここから】======
◎副市長(松本英樹君) 
 お答えいたします。まず、先ほどの説明が少し不十分なところがありましたので、改めて説明いたします。
 個人の方から寄附をいただいたもの、それからいま田中議員が言われるように、公益財団法人が所有する不動産、美術品がございます。市の条例をするに当たって、あの建物全体を市の美術館という位置づけの、今回の条例でありますので、当然そこには先方から借り受けるというものがございます。公益財団法人から見ると、公益財団法人の名義のまま市が美術館として運営する、これは公益財団上の問題も全くない。市としても一定程度の借り受けができるという条件のもとで全体を公の施設として設置することも、これも問題ないというところで、今回条例をあげていることを、まず前段でお話をしておきます。
 これからの費用負担ということでありますが、言いましたように、全体を市の美術館として設置をするわけですので、全体の必要経費としての算定が今回の金額でございます。

======【引用ここまで】======

令和元年9月第15回行橋市議会 定例会会議録(第5日)
======【引用ここから】======
 次に、文化課では、行橋市増田美術館の空調設備の更新にかかる経費219万8千円が増額補正されております。
======【引用ここまで】======

当時、行橋市副市長であった松本英樹氏は、自身と親交のあった美術館オーナーの利益のため、負担付きの寄付を引き受けています。先述のとおり、これは通常なら考えにくいことです。
彼が交渉した寄付引き受けによって生じた費用負担は、市役所の負担、つまり市民の負担です。

一部が市役所名義で一部は財団法人名義の建物を市営美術館にする条例を制定したことで、この条例がある限り、半永久的に市は財団法人名義の部分を借り受けて美術館を運営するようになります。美術館運営の方式を指定管理者とするのか運営委託とするのか分かりませんが、いずれにせよ、美術館建物に財団法人名義の部分がある限り、この財団法人以外に美術館の運営を任せる事は難しいでしょう。

指定管理者制度ではおおよそ5年ごとに施設を管理する企業・団体を公募して見直すのですが、この財団法人は事実上、美術館管理運営という公共事業を恒久的に受注する地位を得た事になります。

行橋市副市長であった松本英樹氏は、一部市役所名義・一部財団法人名義の建物でも法律上は可能であるという説明に終始し、そもそも市民負担で美術館運営を始めることが良いことかどうか、また金額は妥当かどうかがほとんど触れられていません。

公務員は「全体の奉仕者」であると言われますが、この松本英樹前副市長は、まるで増田氏の奉仕者、増田家の番頭のように振舞っています。

その後、実際に増田家の番頭となりました。

【副市長在職中に企業の取締役に就任する松本英樹氏】

松本英樹氏は、副市長在職中に増田氏が代表を務める企業で取締役となったのです。

福岡)行橋市副市長、突然の解職 広がる波紋


行橋市副市長の突然の解職 市長「信頼できず」 松本氏「理解されず」 2019年10月5日 西日本新聞
======【引用ここから】======
 市長が例示した小さな不満の積み重ねとは①市の政策を批判する言動が目立つ②議会で市長の方針に反する答弁や振る舞い③再建中のホテルを支援する企業の取締役に就任したが報告もなく何をしているか不明―など。「意思疎通できず、信頼できなくなった」のが最大の理由という。
======【引用ここまで】======


京都ホテル、7月に営業一部再開 再生計画案を債権者可決 /福岡 毎日新聞2020年5月27日 地方版
======【引用ここから】======
 行橋市の老舗ホテル「京都(みやこ)ホテル」を経営し、民事再生法に基づき経営再建を進めている「京都館」が7月に同ホテルの営業を一部再開することが、関係者への取材で判明した。ホテルは改装と新型コロナウイルス感染拡大の影響で休業中だが、7月1日からビアガーデンの営業を始める予定だ。【松本昌樹】
 地裁小倉支部で22日に債権者集会があり、同社が提出した再生計画案が債権者の賛成多数で可決された。地裁小倉支部は再生計画を認可するとみられる。
 京都館は2019年7月、地裁小倉支部に民事再生法の適用を申請。負債総額は約3億4000万円で、申請前に支援企業への営業譲渡を決めるプレパッケージ型と呼ばれる手法で再建を進めていた。行橋市内を中心に不動産事業などを展開する「増田」がスポンサーとなって土地、建物を買い取り債務返済に充てるとともに、京都館を同社の100%子会社化して新経営陣が経営に当たる計画案を示していた。

======【引用ここまで】======

官報決算データサービス
======【引用ここから】======
株式会社増田
企業情報
会社名 株式会社増田
代表者 代表取締役 増田 博
所在地 福岡県行橋市神田町6番24号

======【引用ここまで】======


総務部長時代から親交のある財団法人のオーナーとの交渉役を務め、便宜を図ってきた松本英樹前副市長ですが、彼は副市長在職中に、オーナーの経営する会社の取締役になりました。そう、副市長であると同時に名実ともに増田家の番頭となったのです。これは、親交や縁故を通り越して癒着のレベルです。

総務部長時代に交渉に当たっていた頃から、便宜の見返りとして将来の地位を約束していたかどうかは分かりません。しかし、長期にわたり寄付の件や旧宴会場跡地の件で財団法人に便宜を図ってきたのは事実であり、その関係企業で取締役に就任したのも事実です。

そして、一連の過程で生じた費用負担は全て市役所の負担です。

【過去を振り返ると】

この件について、私は結構前から追いかけていました。
その中で、2016年12月29日に

これで、副市長が辞任後にこの法人の理事や美術館の館長などに就任したり、副市長の身内がこの法人から利益を得ていたりしようものなら、住民や職員はこの二匹の狐に一杯食わされたということになる

とコメントしていたのですが、まさか副市長辞任後ではなく在職中に役員になるとは思ってもいませんでした。

最近、菅義偉首相の長男正剛氏が、総務省幹部らを繰り返し接待していたニュースが話題になっています。接待を受けた総務省幹部は処分、菅正剛氏が勤めていた東北新社の二宮清隆社長は引責辞任、菅正剛氏は部長職を解職されました。

松本英樹氏におかれましては、癒着がバレて副市長を解職されたのですから、二度と公職に関わることなく余生を過ごしていただければと思います。

※今回記事は、新聞記事や議会会議録等の公表情報をもとに以前作成した

リケンは、つくれる ~ 行橋市前副市長に学ぶ便宜供与と役員就任 ~ - 若年寄の遺言

をベースに、加筆修正したものです。

尾身会長の「気持ち」発言に見るコロナヒステリー

2021年03月09日 | 政治
「安心安全なまちづくり」等のフレーズは頻繁に用いられることの多い、「安心」と「安全」。
しかし、安心と安全、この二つは別物です。

安心・不安は、主観的な気分・気持ちの問題。
安全・危険は、危害・損害が生じる可能性の程度を表した客観的な状態。

この安心と安全が別物である点を踏まえて、次の文章を読んでみましょう。

尾身会長“『通常のインフル同様の認識』となるのは来年以降” | 新型コロナウイルス | NHKニュース 2021年3月5日
======【引用ここから】======
5日の参議院予算委員会で尾身会長は「まもなく高齢者へのワクチン接種が始まると、重症化や発症を予防する効果が期待できる。そうなれば、一般の方たちのこのウイルスに対するイメージはかなり変わってくると思う」と述べ、ワクチンの接種が進むことへの期待感を示しました。

その一方で「仮にことしの12月ごろまでに全人口の6割から7割がワクチンを接種したとしても、時々はクラスター感染が起こりえるし、時には重症者も出るという状況だと思う」と述べ、引き続き新型コロナウイルスへの警戒が必要だという認識を示しました。

そして、今後の見通しについて尾身会長は「ことしの冬からさらに1年ほどがたてば、このウイルスに対する不安感や恐怖心が、だんだんと季節性インフルエンザのような形になっていくと考えている。多くの人がインフルエンザと同じような気持ちを持ったときがいわば終息のような感じになるのではないか」と述べました。

======【引用ここまで】======

仮にことしの12月ごろまでに全人口の6割から7割がワクチンを接種したとしても、時々はクラスター感染が起こりえるし、時には重症者も出るという状況だと思う

この部分は、尾身氏の専門家としての知見。
安全・危険の観点からは、多くの人がワクチンを打ってもゼロコロナにはならない事を尾身氏は述べています。

じゃあ、ワクチン接種で死亡者や重症者の数がどうなるのか、どの程度ワクチンの効き目が出れば季節性インフルエンザと同等の病気と言えるのか、気になるところです。

しかし尾身氏は、全人口の6割~7割がワクチン接種をしたとして、それで感染者数、重症者数、死亡者数がどのくらいになるか、新型コロナの危険性がどのくらい軽減されるかの科学的な知見は述べていません。漠然と「重症化や発症を予防する効果が期待できる」とは述べているものの、具体的に重症化を抑える程度や発症予防できる人数への言及は避けています。

他方、

一般の方たちのこのウイルスに対するイメージはかなり変わってくると思う

ことしの冬からさらに1年ほどがたてば、このウイルスに対する不安感や恐怖心が、だんだんと季節性インフルエンザのような形になっていくと考えている。多くの人がインフルエンザと同じような気持ちを持ったときがいわば終息のような感じになるのではないか

この部分については、尾身氏の科学者・専門家としての客観性を伴った知見ではありません。一般人の安心・不安、いわば「お気持ち」がどうなるかの感想を述べているにすぎません。

尾身氏は、検証可能な客観的数値に基づいて、ワクチン接種によって新型コロナウイルスの危険性が季節性インフルエンザと同等になる、だから安心してもらっても大丈夫・・・と述べているわけではありません。
イメージ
不安感
恐怖心
気持ち
という言葉を連呼していることからも分かるように、ワクチン接種を経て、一般人の新型コロナウイルスに対する印象が季節性インフルエンザのイメージと同等になれば、それで「終息のような感じ」と述べているのです。

ワクチン接種の前後で、ウイルスの危険性自体が劇的に変化するわけではありません。
その中で、イメージが改善すれば終息と述べているのです。

【朝日新聞のミスリード】

尾身氏の同じ発言を、意図的に切り取った悪い例をご紹介。

尾身会長「コロナ、もう2年でインフルのように」見通し(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
 新型コロナウイルスの感染は今冬まで広がり、季節性インフルエンザと同じような病気になるにはさらに1~2年かかる――。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は5日の参院予算委員会で、そのような見方を示した。日本維新の会の浅田均政調会長の質問に答えた。
======【引用ここまで】======

この朝日新聞の記事は、尾身発言の改竄・・・とまではいかないにしろ、ミスリードであることは否めません。

尾身氏は、新型コロナウイルスへの「不安感」や「恐怖心」の程度が季節性インフルエンザと同等になれば「終息のような感じ」と述べているのであって、安全・危険の観点で「季節性インフルエンザと同じような病気になる」という客観性のある知見を述べてはいないのです。

尾身氏は、自分が煽った新型コロナウイルスへの恐怖心が、国民感情と呼べるレベルまで広がった事に怖気づいてしまったようです。今になって、「危険性というよりも気持ちの問題です」と火消しの方向に舵を切りつつあります。

他方、朝日新聞は「まだまだ新型コロナは続くぞ」と煽る。系列のテレ朝も煽る。冒頭のニュースでは発言そのままを紹介しているNHKも、例えば『ニュースウォッチ9』『Nスぺ』なんかでは恐怖心をこれでもかと煽っています。マスコミにとって、不安感を煽れば煽るほど発行部数や視聴率が伸びるのだから仕方ありませんね。

さすがは、戦前に軍国主義を煽ってきた朝日新聞といったところでしょうか。朝日新聞は、戦前にこの手法で売りに売ったんでしょうきっと。あるいは、怖いぞ怖いぞと煽ってきた手前、引っ込みが付かなくなってしまったのでしょうか。

【ワクチンは効果や安全性よりも安心感】

尾身発言からは、ワクチンの安全性と効果うんぬんよりも、「接種したことによる安心感」が終息にとって重要であるという事が分かります。

であるならば、
「輸送の際にマイナス75度の冷凍庫で~」
「いやマイナス20度でも~」
という扱いの難しいワクチンを厳重に管理し全国各地へ配らずとも、極端な話、ビタミン剤や生理食塩水を注射して「はい、あなたはこれで接種済!」としてしまっても良いような気がします。これでヒステリーは緩和されることでしょう。

それ以前に、マスコミが不安感を煽る報道をやめてしまえば、その日に間違いなく終息です。
無症状を含めた陽性者を
「今日は150人の感染が確認されました~」
と毎日報じていれば、不安にならない方がおかしいというもの。

安倍→菅への首相交代を契機として、すぐに新型コロナを5類感染症へと切り替え、
「病院、クリニックで感染確認したら、7日以内の届出をしてください」
程度の扱いにしていたら、もしかしたら今頃は終息宣言となっていたかもしれません。
菅首相ももっと楽な政権運営が出来たことでしょう。

が、それも今となっては後の祭り。

前澤友作氏の心意気と、クレクレ藤田孝典氏のダサさ

2021年03月02日 | 労働組合
ZOZOTOWNの前社長で自称「お金贈りおじさん」(旧「お金配りおじさん」)こと前澤友作氏による、お金贈りについてのnoteがありました。

今後のお金贈りとフォロワー全員お金贈りについて|前澤友作 Yusaku Maezawa|note

純粋に、この人スゴい。真似できます?
彼一代で、年1000億円を超える売上を叩き出す仕組みを作り上げ、1,000人を超える雇用を維持する企業に成長させる。その才覚もさることながら、その過程で得た個人資産を億単位で他人に寄付してしまう肝の太さ。いやもう規模が大きすぎて、スゴいとしか言いようがありません。

上記記事によると、お金贈りの総額は約27億円とのこと。
いやもうスゴい。

【契約自由の原則】

さて。

「お金贈りおじさん」こと前澤氏は、自分だけ儲けたわけではありません。殴ったり脅したりして金品を巻き上げたわけでもありません。取引先企業と契約をし、従業員と契約をし、消費者と契約をし、その契約に基づいて代金を支払ったり賃金を払ったりサービスを提供したのですが、彼ら契約の相手方は、それぞれにメリットがあるからzozoと契約をしたわけです。

取引先企業は、zozoで出品しても売上増に繋がらないと思えば契約を断ることもできますし、zozobaseで働く労働者も、他に高い賃金の提示や楽な業務内容の所があれば辞めて転職することもできます(現に、アパレルメーカーのzozoへの出店取りやめが続いてニュースになったこともありました)。サイトの使い勝手が悪ければ他のプラットフォームを利用することだって可能です。

契約当事者はそれぞれに利益があるから契約をしていたのであって、メリットが無ければ契約をやめてしまえば良いのです。

このように、契約自由の原則が機能している中において、一方的に搾取することはできません。自分が継続的に利益を得るためには、契約相手にそれなりのメリットを提供し続けなければなりません。消費者や契約相手に対する忠実な奉仕者であることが、資本主義における優れた企業家であることの条件です。積み上がった企業家の個人財産は、裏を返せばそれだけ多くの人にメリットを提供した証です。

この企業家の個人資産は、当然ながら私有財産であり企業家が自由に処分して良い性質のものです。なので、

======【引用ここから】======
当時は、前職ZOZO社の初売りセールをさらに盛り上げるために、個人でできる面白いことないかなーという、単純なノリで始めた企画でした。
======【引用ここまで】======

と、軽いノリで自社の初売りセールの宣伝のために個人資産を投じても問題ないし、

======【引用ここから】======
個人間での寄付がもっともっと当たり前に活発になれば、寄付を受け取る人が恥ずかしがったり遠慮することなく助けを求められるようになるでしょうし、何かに挑戦したい人は遠慮なく自分のチャレンジを宣言し支援者を探せるようになると思います。また、寄付する人は堂々と寄付を公表するようになり感謝と尊敬を集めながら、自分の寄付に想いやメッセージを乗せ、支援したい分野や人たちに積極的に寄付するようになるでしょう。
======【引用ここまで】======

と、寄付文化の醸成を目的として個人資産を直接個人に寄付しても良いのです。
これだけの規模の私財を投じる心意気、見事なものだなぁと思います。

既に計27億円を贈ったとのことですが、仮にですよ、この27億円を寄付せず、夜の銀座で連日飲み歩いてシャンパンタワーを並べたとしても、それはそれで良いのです。個人資産、私有財産ですから。

【顔の見える寄付と見えない社会保障】

さて。

そんな稀有な「お金贈りおじさん」ですが、寄付文化の醸成に関して重要なコメントを発しているのでご紹介。

======【引用ここから】======
そんな人たちに対して、個人から個人への感情の伴った富の再分配が「寄付」として行き届くようになり、それが当たり前の世の中になっていくことで、一人でも多くの人が救われ、一人でも多くの人が挑戦に挑むことができ、一人でも多くの人が夢を叶えることができるような社会になると素敵だなと思います。
======【引用ここまで】======

個人から個人へ、感情の伴った寄付が広まることを願う前澤氏。
ここ重要です。

お金を贈る側が、贈る相手を知り、贈ったお金が何に使われるのかをある程度把握することで、その困窮者の生活を救おう、挑戦を応援しよう、自分が贈ったお金が役に立った、という気持ちが生じます。こうした感情が、寄付の自発性を支えます。

他方で、

======【引用ここから】======
今まで寄付やチャリティーには積極的に関与する方でしたが、なんとなくNPOや団体にお金を出すだけでは人任せな気がしていました。
======【引用ここまで】======

このように、間にNPOや団体が介在することでお金を贈る側と受け取る側との距離が開きます。顔も直接的には分からなくなります。贈る側は誰の手元に幾ら贈られて何に使われたのかが分からなくなり、貰う側も誰がそのお金をくれたのかが分からなくなります。

何となくモヤっとしませんか。

規模が大きくなり、お金を払う人とお金を貰う人との間に多くの人が介入し仕組みが複雑になればなるほど、このモヤっと感は強まります。

お金を払う人とお金を貰う人との仕組みが巨大化し複雑化した最たるものが、公営社会保障です。日本全国1億人超を巻き込んで、いろんな個人、法人からお金を集め、それを政府や政府系機関でプールし、複雑な仕組みで保険者へ渡し、細かい基準に沿って対象者を選別し、受給者の手元に現金給付または現物給付がなされる。

この仕組みの中で、納税者が具体的な生活困窮者を思い浮かべながら納税することはほとんどありませんし、受給者が納税者に感謝しながら給付を受けとる事もありません。納税者にしろ、受給者にしろ、お互いの顔は見えません。

じゃあ誰の顔が見えるのかというと、確定申告の際の税務署の職員であったり、生保受給申請の際の福祉事務所の職員であったりするわけです。納税者には、自分が払ったお金の使い道が複雑で見えない、中抜きされていても分からない。そして、受給者は、誰が払ってくれたのか分からない金を受け取り、あるいはそもそも現物給付でどういった費用が生じているかも分からない状態となります。

この分配過程で、福祉事務所の職員が申請窓口で申請者に対し手続きを緩めて融通をきかせたり、あるいはNPO法人職員が申請に同行して受給決定にこぎ着けたりすることがあります。すると、この公務員やNPO職員が受給者から感謝されるという事態が生じます。感謝されるべきだった納税者には意識が向けられず、何も負担していない公務員やNPO職員が感謝されるという捻じれた状態となります。

多くの人にサービスを提供し雇用をもたらした人が感謝されず、ろくな説明も無いままに
「法律で決まってますから」
「納税しないと滞納処分で差し押さえますよ」
と脅されて税金を払わされる。
その一方で、自分では1円も付加価値を生み出していない公務員やNPO職員が感謝される。
どうもおかしい。

【ダサいお金配れおじさん藤田孝典】

さて。

NPO法人ほっとプラスの理事で社会福祉士・社会運動家、自称「お金配れおじさん」
こと藤田孝典氏が、10万円の一律現金給付を求めて毎日のようにツイッターデモを繰り返しています。

その中で、狂気じみたコメントが出現。



======【引用ここから】======
正直、ダサい。わずか26億円。
私は仲間たちと述べにすると、軽く5000人×200万円(概算)で100億円以上(それも毎年)、お金を配ってきた(国が払う…)。前澤氏、もっと頑張れ。

======【引用ここまで】======

何も負担していないし何も価値を生み出していないクレクレ藤田孝典氏が、自腹を切って寄付をしている前澤氏に対し上から目線で物を言い、配った額でマウントを取るという謎が生じています。
他人が私財から投じた寄付を、「わずか26億円」と批判する神経が信じられません。

このクレクレ藤田孝典氏のダサいコメントは、徴収と配布の複雑さを利用し、お金を配るプロセスに介入しているに過ぎない中間者が大きな顔をするという公営社会保障の弊害を、見事に表しています。また、社会福祉士がこうした発言をすることで、
「公務員やNPO法人が自己満足で悦に入るために、納税者は納税を強制されている」
という納税者の社会保障に対する不信感を煽ることにつながります。

国会議員や知事・市長(現職、元職)が
「この高速道路は俺が作ったんだ~ガハハッ」
などと自慢げに語るのを聞いたことがありませんか?
お前の金じゃねーよ、と感じたことありませんか?
(親交のある高齢の美術館オーナーに便宜を図り、美術館・美術品の管理費用を市役所で負担するようにし、副市長在職中にその美術館オーナーの経営する会社で役員に就任した松本英樹行橋市前副市長のように、市民の税金でパトロン気取りをする政治家は後を絶ちません。
リケンは、つくれる ~ 行橋市前副市長に学ぶ便宜供与と役員就任 ~ - 若年寄の遺言
クレクレ藤田孝典氏の発言からは、同じようなダサさ、腐敗臭を感じます。


自分の資産で寄付をする前澤氏の行為が稀有なものであればあるほど、クレクレ藤田孝典氏のダサさが際立ちます。

【底の浅い搾取の理屈】

クレクレ藤田孝典氏は言い訳をするように、



と述べています。
定説です」って・・・。

資本論は、労働価値説に立脚して議論を始めていますが、そのスタートの労働価値説が根本的に間違っている理屈です。いくら長い労働時間をかけて生み出した商品やサービスであっても、それをどこで、どういう形で提供するかによっては、消費者にとって無価値となることもあり得るのが現実の経済です。商品やサービスが利用者の手元に届いた時に初めて効用が生じるのです。

資本家のお金って資本家が稼いだものだと誤解する人が多いけど、多数の労働者が余分に稼いだお金を集めたもの
という「資本論の定説」に従った場合、それなら会社が赤字倒産した場合はどう説明するのでしょうか。会社の利益が労働者のものなら、会社の負債も労働者のもの。赤字倒産すれば所属していた労働者の頭数で割って負債の返済義務を負う事になりますが、果たして、そこまでの覚悟をもって会社に身を置く労働者を想定することができるでしょうか。

労働条件は契約で決まり、契約は強制されたものではなく双方から破棄できる。そうした状態で契約が履行される限り、搾取は存在しません。この契約を繰り返し履行する中で信用は生まれます。

この信用を非常に軽視しているあたり、クレクレ藤田孝典氏のダサいマルクス主義とMMT狂信者とはよく似ています。(MMT批判については後日ネタをアップするかも)


あれこれ述べて来ましたが、私・若年寄は、前澤氏が個人資産を投じて為そうとする、顔の見える寄付文化の醸成に賛同します。そして、クレクレ藤田氏のようなダサい中間搾取者が感謝される複雑怪奇な社会保障制度の整理縮小に向けて、できることをやっていきたいと思います。