若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

資産報告制度の廃止雑感 ~ 「倫理」を条例で規定する ~

2015年12月25日 | 地方議会・地方政治
○飯塚市政治倫理条例

この条例は、議員に対する資産報告書の提出義務や、政治倫理審査会による資産報告書の審査が規定されている。飯塚市議会は、12月定例会でこの資産報告書制度を廃止した。

<福岡・飯塚市議会>資産公開を廃止 議員提案可決 - BIGLOBEニュース

この資産報告制度は、市長や議員が高潔であることを証明させるために、自己の資産、地位や肩書き、年間の収入や贈与について報告することを義務付けるものだ。しかし、条例の規定どおりに報告書を提出しているからといって、提出した市長や議員が高潔かといえばそうではない。

例えば、Aという議員がいたとしよう。
この議員は、Bという業者から50万円を貰い、契約発注の担当課へ「ここの工事とあそこの工事はBにさせてやれ」と圧力をかけ、担当課がBに発注した。

資産報告書を作成する際、当然ながらAはこの50万円を記載しないだろう。飯塚市の条例では、資産額を証明する書類(通帳の写し等)の提出は義務付けられていないが、仮にこの義務付けがあったとしても、議員報酬等の振込口座として市が把握するX銀行の通帳のみを添付資料として提示し、Bから貰った50万円をY銀行の口座に振込んでおけば良い。あるいは、配偶者や子供、愛人、法人の口座に振込んでしまえば良い。提出された資産報告書をいくら読んでも、不正な50万円の動きは分からない。

政治倫理審査会は警察ではないため、捜査権は持っておらず、あくまでも提出された資産報告書に対して書面審査することしかできない。A議員のようにX銀行、Y銀行の口座を持っている場合に「私は、議員報酬の振込先であるX銀行の口座しか持っていない」と言ってX銀行の記載しかしなかったとしても、審査会はこれを受け取って審査する他ない。A議員がY銀行の口座を有しているかどうかは分からない。

条例で設置される政治倫理審査会に、強制的な調査権を持たせることは難しいだろう。一方で、資産報告制度の目的は、公職にある者の高潔性を担保することにあるが、これは贈収賄をはじめとする不正なお金の流れの把握ができなければならず、強制的な調査権を必要とする。資産報告制度に携わる者の努力では、解決は難しい。法律の絡んだ制度的問題である。

さて、この資産報告制度の廃止に対し、上記記事では次のような「識者コメント」を掲載している。

=====【引用ここから】=====
旧飯塚市の政治倫理条例制定にも関わった斎藤文男・九州大名誉教授(83)=行政法=は「言語道断の一言。資産公開は政治倫理条例の柱であり、それを抜くことは条例の無効化を意味する。公職にある者が身ぎれいであることを自ら立証するのが制度の趣旨。抜け道など不備があるなら、対象に配偶者や扶養親族を加えるなど改善すればいい。議員の都合で勝手にやめてしまうのは改悪であり許し難い」と批判した。
=====【引用ここまで】=====

抜け道など不備があるなら、対象に配偶者や扶養親族を加えるなど改善すればいい。

というが、資産報告の対象に配偶者や扶養親族を加えたところで、先に述べたように愛人の口座だったり、法人の口座だったりを作れば回避できる。また、複数の銀行に口座を持っていれば回避できる。こうした抜け道に対処するためには審査会に調査権を持たせる必要があるが、おそらく自治体レベル・条例レベルでは難しいだろう。仮に、市が条例の中に刑訴法第197条を真似て

「審査会は、資産報告書の調査について公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」

といった規定を設けたところで、銀行が応じるかどうか怪しいものだ(実のところ、刑訴法第197条第2項ですら強制的な規定ではない)。
コメントを寄せた斎藤文男は、資産報告・政治倫理審査会の制度的な問題点、欠陥を理解できていない。市長や議員に対する不信が制度の根底にあるのに、その市長や議員が提出する報告書を信用しなければならないという根本的な矛盾は、小手先の改善では覆い隠せない。労組御用達の極左名誉教授の、自分が設計した制度に対する問題意識の甘いこと、甘いこと・・・

資産報告制度よりも、
「市は、市長や議員が役員を務める会社に工事を発注してはならない」
「市は、市長や議員が株式総数の過半数を有する会社に補助金を交付してはならない」
といったお手盛り防止の規定や、不正が発覚した際の説明義務などを盛り込む方が実効性が高い。こうした観点から、上記記事にある

=====【引用ここから】=====
改正案は、議員有志の勉強会などで成案化され、資産・所得・関連会社の報告書の提出義務やその内容、閲覧に関する条文を削除した。一方、首長や議員らの口利きなどの影響を排除する対象に、市関連の公社や出資法人を追加し、贈収賄などの罪に問われた際の市民向け説明会の厳格化も盛り込んだ。
=====【引用ここまで】=====

という改正案の考え方、方向性は正しい。







・・・と、ここまで書いてふと思った。
当選時に、市長や議員が
「保有する口座や株式等の資産情報について、市長や議員に在職する間、市の要求に基づき全て開示します。また、市が調査し、銀行をはじめ関係各所へ照会を行うことに同意します。」
という同意文を個別に提出したとしたら、その効力はどこまで認められるのだろうか?
また、マイナンバー制が完全施行されて、全ての口座情報がマイナンバーにひも付けされるようになったら、資産報告制度の運用はどうなるのだろうか?
自治体独自事業として、資産報告制度を条例で個人番号利用事業にすることはできるのだろうか?

マイナンバーで社会保障制度が便利になり・・・ません!!

2015年12月03日 | 政治
個人番号(いわゆる「マイナンバー」、俗称「奴隷番号」)は、個人番号利用事務実施者と個人番号関係事務実施者のみが取り扱うことができるとされている。そして、番号を持つ本人は、上記2つ以外の他人には教えてはならない、とされている。

一方、介護保険制度は代理人による手続がメインである。申請者本人は介護を必要としている人、すなわち、自力で外出できないとか、身の回りのものの管理ができないとか、認知症が進行しているとか、そういった状態であるため、申請手続は家族やケアマネージャー、地域包括支援センターといった本人以外の者が行うことが圧倒的に多い。

・原則として第三者に提供してはならない個人番号
・原則として第三者の申請により行われる介護保険

さて、二つをどう調整すべきなのか。
これについての現状が、↓こちら

○介護事業 堺市
=====【引用ここから】=====
厚生労働省からの通知 介護保険最新情報vol.496(PDF:346KB) マイナンバー(個人番号)を追加する申請事務の紹介
堺市の対応 vol.496の2ページの「第2 個人番号が追加される申請事務一覧」に記載されている申請書等について、個人番号を記入する欄を追加します。

なお、vol.496内の「第3 留意点 (5)介護保険事務に係る個人番号の利用に関する留意点などをまとめた事務連絡については、10 月中を目途に発出予定である。」となっていますが、11月11日時点でまだ発出されていません。発出され次第、本ページで情報提供します。

=====【引用ここまで】=====

○介護保険事業者へのお知らせ 豊中市
=====【引用ここから】=====
介護保険事業者へのお知らせ 更新日:2015年12月2日
1.介護保険最新情報No.496、497で示された様式は平成28年1月1日以降に適用されるものであり、ただちに利用者の個人番号情報を収集する必要はありません。
2.入所施設等における番号通知カードの取扱い、マイナンバーを知る立場となる居宅介護支援事業者等の対応については、追って厚生労働省からガイドラインが示される予定です。

=====【引用ここまで】=====

○川崎市:個人番号の介護保険業務窓口での取扱いについて 2015年12月1日
=====【引用ここから】=====
平成28年1月以降介護保険制度の各種届出、申請において、被保険者の方のマイナンバーを記載することとなります。
代理・代行申請時の取扱いを始め具体的な取扱いについては、厚生労働省から示される予定の通知を踏まえて改めてお知らせいたしますが、現時点での取扱いは以下のとおりです。

    ---(中略)---
3 個人番号記載欄が設けられた各種届出・申請を本人が行う際、個人番号が記載されている場合は、番号確認、本人確認を行うため、個人番号の分かる書類(通知カード)と本人確認書類(1種類又は2種類)が必要となります。
4 個人番号の記載がない場合でも、その他の記載内容に問題がなければ申請は受理します。
5 今後、厚生労働省から個人番号の取扱いについて通知があり次第、窓口やホームページで周知するとともに、介護保険事業者に対してはメールマガジンにて配信いたしますので確認をお願いします。

=====【引用ここまで】=====

平成28年1月1日から、介護保険に関する申請書には個人番号を記入する欄が追加される。ところが、開始まで残り1ヶ月を切った現時点(私がこの記事を書いている平成27年12月3日)で、まだ個人番号の取扱いについて厚生労働省は通知を出しておらず、見切り発車した自治体もあれば、あくまで厚労省待ちとしている自治体もある。

マイナンバーの不正利用と判断されると、今までの個人情報保護法よりも重い罰則が適用される。そのため、

介護事業者は「個人番号関係事務実施者」なのか?
介護事業者は、どういう形で個人番号を収集、管理し、通知カードのコピーを保管すればセーフとなるのか?どういう形で収集などを行うと処罰されるのか?
介護保険の申請書に必ず個人番号を書かないといけないのか?
利用者の介護認定期限が迫り1月初めの申請を考えている介護事業者は、今から利用者の個人番号を集めておかなければならないのか、集めて大丈夫なのか?

などなど、厚生労働省が早く示さないと現場の混乱は必至である。

政府は「マイナンバーで申請の際の添付書類が減ります。皆さんは便利になり、社会保障制度が円滑に運営できるようになります」なーんて言っていたが、実際のところは申請書に個人番号記載欄が増え、番号確認のために書類が増えて手続が煩雑化。見事に真逆である。

結局のところ、政府の本音は「社会保障なんてどうでもいい。所得を把握し、いずれは預金も把握し、あらゆる場面で税を搾ります。」ということ。

少しくらいヘソクリや内緒の収入ができる方が、世の中は健全なのだ。嘘・隠し事の無い世界ほど生きにくいものはない。

さぁ、マイナンバーを廃止し、ついでに介護保険も廃止しよう!
そうしないと、膨らみ続ける社会保障費で高齢者も現役世代も塗炭の苦しみを味わうことになる。現に、介護保険給付は膨らみ続け、介護保険料は上昇の一途を辿っている・・・。