若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

ノーモアふるさと納税 ~ 歪な補助金行政 ~

2018年05月17日 | 政治
安部政権(1次・2次)の犯した罪は数あれど、その最大のものは「ふるさと納税」かもしれない。

○ふるさと納税のおさらい

○なぜ?ふるさと納税のお礼、市外の品ずらり 静岡・藤枝 阿久沢悦子 2017年12月26日16時16分
======【引用ここから】======
 今では3分の2を市外の物産が占めるまでになった。ふるさと納税を担当する市企画政策課は「返礼品は地元の農水産物というイメージがあるが、藤枝はまず地域経済の活性化を目的とし、地元農産物にはこだわらなかった」と説明する。だが、「スペイン産のイベリコ豚」や、東京・横浜の一流ホテルの「ブッフェ・ランチ券(ペア)」が、地域経済の活性化につながるのかどうか疑問だ。
======【引用ここまで】======

市役所が、市内にある業者に
「おたくの取扱い商品をふるさと納税で出品しませんか」
と誘い、業者側が
「じゃあ、うちが輸入・販売しているイベリコ豚を出品します」
と応じる。
そして、市役所は業者から定価で1万円分のイベリコ豚を購入し、3万円のふるさと納税をした人に贈る。
3万円のふるさと納税をした人は、住所地の市町村から、2千円を除く2万8千円の税控除を受ける。

この時、

・ふるさと納税をした人は、実質、2千円で定価1万円のイベリコ豚を買えたことになるので8千円の得。

・市役所は、3万円-1万円=2万円の歳入増。

・業者は、何ら営業をせずに1万円の売り上げ。

みんな得してハッピーだねっ♪

・・・と、そんな美味い話はない。

○歪んだ官製ダンピング

これは、

「業者が安売りセールをする。市役所が定価と値下げ額の差額を補助金で補填し、そのツケを他の役所に回す。」

という補助金行政、官製ダンピングである。
しかも、他の役所にツケを回すという点、かなり歪んでいる。
「安部政権によって行政が歪められた」
という批判はふるさと納税にこそ相応しい。

ふるさと納税が盛んになるということは、市町村間でのツケ回しが横行するのと同義だ。補助金ダンピングによる損失を自治体間で押し付け合い、すればするほど全体としては自治体の収入が減る構図になっている。
また、全国民から集めた税金を「ふるさと納税で控除を受けられる一部の納税者」へ分配する逆進性も問題だろう。

○補助金依存症を発症する引き金

業者の側から考えてみよう。
ふるさと納税で売り上げが増え、一度美味しい思いをした業者がいたとする。
この業者が、先経営が苦しくなる場面に遭ったら、
「役所が、売れ残ってるこの商品を返礼品として取り扱ってくれないかな?」
と発想してしまっても不思議ではない。
役所と結びつくことで、業者は補助金依存症を発症してしまうのだ。
「何が売れるか」
よりも
「何をしたら補助金が貰えるか」
が気になり、顧客の動向ではなく役所の方針に意識が向くようになってしまうと、それは衰退の始まりだ。


○補助金依存症の蔓延

補助金行政は、補助金を貰った業者だけでなく、他の業者の経営まで歪ませてしまう。
ふるさと納税が今以上に盛んになり、補助金によるダンピング後の価格が消費者に定着してしまうと、今度は、ふるさと納税と提携していない業者が

「最近、1万円のイベリコ豚が定価だと全然売れない・・8千円に値下げしても売れない・・なぜだ?
えっ、隣の業者がふるさと納税でイベリコ豚を出してる?
実質的な販売価格2千円!?」

となり、この業者の売り上げは減少、最悪の場合経営が傾くことも考えられる。
その結果、この業者が

「うちが輸入販売しているイベリコ豚や、他の商品もふるさと納税で取り扱ってくれ」

と役所に頼み込みに行くことも考えられる。

このように、ふるさと納税は他の補助金行政と同様、業者間の健全な競争や市場における価格形成を阻害する。
「みんなハッピー♪」
に見えたふるさと納税は、実は、長期化すればするほど全国民を貧しくしてしまう悪政なのだ。

ただ、自治体からすれば、
「この制度に乗って勝ち組にならないと、ただ税収減に苦しむことになってしまう」
というインセンティブが働くので、自治体による自主的な改善は望めない。

○安部・菅の退陣が唯一の改善方法

「プレミアムフライデー」と同様、ふるさと納税も下火になり、早く消滅してくれればいいといつも願っている。
最近になって、総務省は市町村に対し
「返礼品は地場産品に限定するように」
という自粛要請を出した。
これで、ふるさと納税がもたらす弊害の蔓延が食い止められればなぁ・・・と期待をしているが、あくまでも淡い期待。

なんせ、ふるさと納税の発案者の1人はあの菅官房長官(発案当時は総務大臣)。
総務省がふるさと納税を良く思っていないとしても、総務省は安部・菅体制の下にある。そんな総務省が、ボスの意向に背き、ボスが始めたふるさと納税制度を大幅縮小、あるいは廃止することは組織の論理として難しいだろう。
「地場産品以外は不可」という禁止措置ではなく、今回の自粛要請という形になったのは、これが総務省の採り得る上限だったことを意味しているのだろうか。

もう、安部・菅体制は終わりにして良い頃合いだ。
森友・加計騒動が政権の責任問題とは思わないが、マイナンバーやふるさと納税といった欠陥制度を推し進めた罪は非常に重い。

加計騒動にみる、政官業の癒着と文科省の無謬性

2018年05月16日 | 政治

○まだ加計騒動をやってたの?

先日、柳瀬元首相秘書官の参考人招致が行われてニュースを騒がせた。
野党がこれだけやっても疑惑の域を出ない、首相の関与。
本当に突くべき疑惑はそこなのだろうか。

むしろ、疑惑は、首相を突っついてきた側にあるのではないか。

○鉄のトライアングル

政治家・官僚・業界の三者が手を取り合い、それぞれが欲しいものを入手する。
政治家は業界から献金や票を貰う。
官僚は業界への天下り先を確保する。
業界は規制で新規参入の競争相手を排除し、優先的に補助金交付等を受ける。

政官業の「鉄のトライアングル」は、政治分野の古典的かつポピュラーな課題だったはずだ。

今回の加計騒動では、追及している側にこの「鉄のトライアングル」が成立している。
石破茂や玉木雄一郎といった政治家と、
天下り斡旋・前川喜平を始めとする文科省官僚と、
業界団体である獣医師会。

このトライアングルは余りにも強い。何せ、獣医学部新設という新規参入を50年も阻むことに成功してきた実績を持つ。
そして、最後の最後まで新規参入を拒んできた。
業界側による政治家への生々しい働きかけである。

会長短信「春夏秋冬(24)」H27.7.23
======【引用ここから】======
 この挨拶の中で、公務員獣医師の処遇改善、特区制度を利用した獣医系大学の新設阻止、地方獣医師会と地方医師会との連携推進については、地方会の協力と支援を得て一体となって取組み、成果を挙げることが出来たこと、また狂犬病予防事業、日本医師会との学術連携、女性獣医師就業支援を推進する3つの特別委員会で課題解決の方向性を見出すことが出来たこと、7つの部会における常設委員会等が検討結果をまとめ上げたことを、総会出席の皆様にお伝えしました。
======【引用ここまで】======

会議報告 平成27年度第4回理事会の開催H27.9.10
======【引用ここから】======
 なお,昨日,藏内会長とともに石破茂地方創生大臣と2時間にわたり意見交換をする機会を得た.その際,大臣から今回の成長戦略における大学,学部の新設の条件については,大変苦慮したが,練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした旨お聞きした.
======【引用ここまで】======

会長短信「春夏秋冬(29)」H27.12.18
======【引用ここから】======
獣医学系大学、政連等における獣医学部新設反対の活動は、これからが本格的な山場に入ったとも考えられます。
 そして更に注意を要することは、本件を契機として次々と設置申請が認可されることは、何としても阻止しなければなりません

======【引用ここまで】======

会長短信「春夏秋冬(42)」H29.1.30
======【引用ここから】======
 この間、私や日本獣医師政治連盟の北村委員長を始めとした本会の役職員は、できれば獣医学部新設決定の撤回、これが不可能な場合でもせめて1校のみとするよう、山本幸三地方創生担当大臣、松野博一文部科学大臣、山本有二農林水産大臣、麻生太郎自民党獣医師問題議員連盟会長、森英介同議員連盟幹事長など多くの国会議員の先生方に、本会の考え方にご理解をいただくよう奔走いたしました。
 このような皆様方からの多数の反対意見、大臣及び国会議員の先生方への粘り強い要請活動が実り、関係大臣等のご理解を得て、何とか「1校に限り」と修正された改正告示が、本年1月4日付けで官報に公布・施行されました。

======【引用ここまで】======

加計騒動は、
「なぜ加計学園だけが認可されたのか、なぜ京都産業大は駄目だったのか。首相の関与があったからではないか」
が問われているが、その背景には
「1校に限り」
という文科省の改正告示がある。
そして、1校限定になった根底には、新規参入を阻む獣医師会の暗躍がある。

そう、政官業の「鉄のトライアングル」が依然として機能しているのだ。

獣医師会の暗躍がなければ1校限定は無かっただろうし、そもそも論として、獣医師会の暗躍がなければ、50年間、獣医学部が新設されないという異常事態は生じなかった。「鉄のトライアングル」が機能していなければ、加計学園にしろ京都産業大にしろ、もっと早い段階で学部新設を出来ていたであろうし、そうであれば首相の意向がどうのこうのという余地は生じない。

野党による疑惑追及は「鉄のトライアングル」の立場を代弁し、これを正当化する方向でしか作用していない。疑惑追及は、票や献金といった具体的利益が生じている玉木雄一郎や石破茂らの側に対して行うのが筋じゃなかろうか。
(マスコミが野党を応援し石破茂のコメントをしきりに取り上げるのは、なぜだろう。マスコミ出身の大学教授が多いのは、マスコミも鉄のトライアングルの中の人ということなんでしょうかねぇ。)

○文科省の認知の歪み

前川喜平はこの騒動の中で、
「行政が歪められた」
という発言をしている。

これは、
「補助金・規制といった文科省が行っている各種制度は、現在進行形で文科省が運用しているのだから、当然のことながら妥当性が認められる。文科省が実施する制度に疑義を呈するのであれば、疑義を呈する側が資料や根拠を提示するべきだ」
という発想法が背景にある。
この発想法は前川喜平個人に特有のものというよりも、文科省に共通するものと推測される。

○内閣府 規制改革・民間開放推進会議 - 会議情報
・第14回 教育WG(平成17年7月12日)
(この平成17年の前川議事録は、「笑ってはいけない議事録」として紹介されている。)
○国家戦略特区ワーキンググループ 平成27年度 関係省庁等からのヒアリング
・平成27年6月8日 文部科学省 農林水産省 国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)

この発想法に染まった文科省官僚は、
「獣医学部新設を禁止する文科省告示は、文科省官僚の諸先輩方が運用し続けて50年もの間新規参入を阻んできた。50年という年月が、最大級の妥当性を証明している。この最大級の妥当性を持つ規制を緩和するとは何事だ。不届き千万。文科省がやっていることは正しい、これに異を唱えるのは行政を歪める行為だ」
と考えるようになるのだろう。

○政府信仰・社会主義教

リバタリアンは、
「政府がやることは大概、不公平で非効率。だから、政府のやることやその組織は(ほとんど・全部)要らない」
と考える。

リバタリアンでなくとも、
「政府が規制や補助制度を実施しているが、どういった根拠でその制度を実施しているのか?実施した結果どういった効果が出たかを把握・検証しているのか?次年度は前年踏襲でいくのか、結果を受けて軌道修正・見直し・廃止をするのか?」
といった疑問は出てくるはずだ。
上記リンク先のWG委員達は、まさにここを問うている。ところが、前川喜平を始めとする文科省官僚達は、
「文科省の制度には当然の合理性があるが、その根拠となる事実は把握していない。疑問に感じる側がその疑問の根拠を出せ」
と挙証責任を転換し、相手に押し付ける本末転倒さを発揮している。

文科省の官僚には認知の歪みが生じている・・・と思うのだが、「この議事録は前川が正論を言っているように見えるが。」と、これを擁護できてしまう人も存在するのだから、まあ世の中は面白い。

「官僚は偉い。行政は正しい。役所は間違わない。いつかは社会主義が達成されてみんな豊かで平等になる。政府はその能力を持っている。」
というお役所信仰を持つ人と、分かり合える日は来るのだろうか。