福岡・行橋市役所に爆破予告 容疑で滋賀・米原の少年書類送検 : 京都新聞
======【引用ここから】======
福岡県行橋市議のホームページに市庁舎の爆破を予告する書き込みを送ったなどとして、同県警行橋署は8日、職務強要と威力業務妨害の疑いで、滋賀県米原市の無職少年(17)を書類送検した。
書類送検容疑は9月8日午前8時ごろ、行橋市の男性市議のホームページに「行橋市役所を爆破する。阻止したければ市議を辞めることだ」とのコメントを送信し、同日午後4時20分ごろには行橋市役所に「爆破する」と電話し、市職員らの業務を妨害した疑い。
行橋署によると、少年の好きなブログ開設者がこの市議に言及しており、少年は「開設者に対してブログの更新を促すためにやった。大ごとになるとは思わなかった」と話しているという。
【 2016年12月08日 23時09分 】
======【引用ここまで】======
爆破予告電話:市役所に 容疑で少年を書類送検 行橋署 /福岡 - 毎日新聞
======【引用ここから】======
同署などによると、少年は9月8日午前8時ごろ、行橋市議会の小坪慎也市議(38)のホームページに「行橋市役所を爆破する。阻止したければ市議を辞めることだな」とのコメントを送信。さらに同午後4時20分ごろ、市役所に「市役所を爆破する。阻止したければ、ヘイト議員、小坪を辞めさせろ」などと電話したとされる。
少年は小坪市議と面識はなく、別人のブログで小坪市議が市民団体から「ネットで差別的言動があった」と抗議されたことなどを知り、小坪市議に関心を持ったという。 〔京築版〕
======【引用ここまで】======
日本では、表現の自由が保障されている。本の出版、テレビの放映、ブログの発信、様々な媒体を利用して自分の意見を表明することができる。一方、この表明された意見に対し、賛意を示す、あるいは批判することも表現の自由の一環である。ある意見を表明した場合に、当然ながら批判、反論は生じる。表現の自由は、批判を受けない自由ではない。私有財産に基づき、自分の持つ手段で主張を交わすのが表現の自由である。
主張Aに対し批判Bが生じ、この批判Bに対し反論Cをする。この自由な言論と言論の戦いを繰り返す中で、主張の正当・不当が浮かび上がってくる。主張Aのある部分が正当で、残りの部分は不当だったというような評価が可能になる。どれだけ不当に見える意見であろうと、これを「不当だ」と評価するためには批判という言論が必要である。
必要なのは、自由な言論と言論を戦わせることである。上記記事のように爆破予告という暴力をちらつかせて言論を封じようとする行為は、まさに論外である。
さて。
上記の爆破予告があった直後、対象となった議員が所属する市議会では奇妙な事が起きた。
行橋市議会 平成28年 9月 定例会(第3回)-09月28日-05号
======【引用ここから】======
決議第1号
小坪慎也議員に対する決議
会議規則第13条により、別紙決議を提出します。
平成28年9月12日
提出者 市議会議員 德 永 克 子
提出者 市議会議員 二 保 茂 則
提出者 市議会議員 大 野 慶 裕
提出者 市議会議員 藤 木 巧 一
行橋市議会議長 諫 山 直 様
小坪慎也議員に対する決議
9月8日に、行橋市役所に脅迫の電話があった。この事により、市民に対し、また、市当局や議会においても多大な迷惑を及ぼした。この「脅迫事件」は決して許されるべきものではない。
これは、小坪慎也議員が、平成28年4月に熊本地震が発生した際、差別的にとらえられるSNSでの意見発表を行った事を発端としている。
公人である市議会議員は、住民を代表する立場にあり、議会外の活動であっても良識ある言動が求められるのは当然である。
市民・国民に迷惑を及ぼすような意見の表明は、行橋市議会の信用が傷つけられたものといわざるを得ない。
行橋市議会は、小坪慎也議員が品位を汚すことの無いよう、公人としての立場をわきまえる事を求めると共に、謝罪及び必要な行動を自ら行うことを求めるものである。
以上、決議する。
平成28年9月12日
行 橋 市 議 会
======【引用ここまで】======
この決議が、賛成多数で可決されたのだ。
この決議については、改めていくつか物申したい。
その1。
「脅迫の電話があった。この事により、市民に対し~多大な迷惑を及ぼした」
という箇所では、「脅迫の電話」という犯罪行為が市民に対し迷惑を及ぼしたことになっているのだが、
「市民・国民に迷惑を及ぼすような意見の表明は、行橋市議会の信用が傷つけられたものと言わざるを得ない」
という箇所では、市民に迷惑を及ぼしたのは「意見の表明」になっている。「脅迫の電話」と「意見の表明」を同列に扱っているのだ。
「意見の表明」に対し反論が生じるのは、通常予測しうることである。この反論が殺到し、市役所の業務が停止する騒ぎ(役所の全電話回線が反論電話でパンク、等)になったのであれば、
「市民・国民に迷惑を及ぼすような意見の表明」
という見方も成り立ちうる。しかし、「意見の表明」に対する「脅迫の電話」は犯罪であり、通常予測しうるものではない。犯罪の結果生じた市民への迷惑を、「意見の表明」に端を発したとすることは妥当でない。
あくまでも、市民に迷惑をかけたのは「脅迫の電話」という犯罪行為であり、17歳無職の幼稚な犯罪者である。
この市議会では、今後、所属議員の政治的発言に対し反感を持つ者からの爆破予告があった場合に、その都度「○○議員に対する謝罪を求める決議」を出すのだろうか。例えば、
○○市議が「自衛隊の訓練反対!」と言う。
↓
頭の悪い右翼が「○○市議が辞めなければ役所を爆破する」と脅迫する。
↓
「○○市議が市民に迷惑をかけた。謝罪せよ」と決議……するのだろうか?
その2。
決議文中には
「差別的にとらえられるSNSでの意見発表」
とあるが、具体的にどこがどう差別的なのかを示していない。ある言論に対しその正当・不当を明らかにするためには主張・批判・反論を積み重ねることが必要だが、この決議文に対し反論することはできない。具体的に何も書いていないからだ。
これでは、「バーカバーカ」と喚く子供の悪罵と大差ない。これが市議会の公式文書というからガッカリである。また、議事録を読んでみても、この決議文がどうしてこの文面なのか、どういう過程でこれが出てきたのかが全く分からない。提案理由もほとんどないし、賛成討論も反対討論もない。
犯罪者に脅されて、意見表明した者に謝罪と「必要な行動を自ら行う事」を求める市議会。しかも、議場でも決議文でも、どこがどう差別的で不当だったのかを一切述べない。市議会の特別委員会で調査したわけでもなく、爆破予告直後の本会議で緊急動議・一発採決では、「テロに屈した」としか言いようがない。
「議会の信用が傷つけられた。」と言うのであれば、密室でなく議場で議論する慣習を根付かせ、議事機関としての信用と実績をつむことが重要なのではないか。
「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る。」
というヴォルテールの言葉が思い出された、今日のニュースでした。