「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

北アイルランド大学事情

2017-09-16 | 英国大学院博士課程に関して
「君、クイーンズは良い大学だと思うかね?」

今日、唐突にそのように問われて、思わず答えに詰まりました。
英国が誇るトップ大学連合「ラッセルグループ」の一角であり、ヴィクトリア女王陛下が創立した由緒正しい研究大学(それ以前にすでに学術機関としての母体は存在していた)であるからには、まあ、「悪くない大学ですね」というのが正直な感想です。世界大学ランキングは近年は200位前後であり、日本で言えば東大、京大には劣るものの、阪大、東北大には勝っているというような立ち位置です。世界の超一流ではないのかもしれませんが、一流ではあるでしょう。しかし、クイーンズの学部の卒業生であるその方に向かって、何と言っていいものか、すこし困ったのでした。答え方によっては、その英国紳士のプライドを刺激する恐れもあったからです。

実は、英国北アイルランドには総合大学が2つしかありません。Queen's University Belfastクイーンズ大学ベルファスト(通称、クイーンズ)とUniversity of Ulsterアルスター大学です。そもそも北アイルランドがほぼ面積、人口共に日本で言えば福島県と同じくらいであることを鑑みれば、大学が2つしかなくてもあまり違和感はないだろうと思われます。
前者には長い伝統と実績があり、これまで数多のアイルランド共和国大統領、北アイルランド首相などを輩出し、人文科学分野でもノーベル賞受賞者を輩出し、自然科学分野でもとくに医学の分野で名高い王立大学です。
後者は比較的最近出来た公立の教育大学で、アイルランド島全体でNational University of Irelandアイルランド国立大学に次いで2番目に大きい規模を有しています(つまりクイーンズよりも大きい)。北アイルランド全体に幾つものキャンパスを有しています(Belfastだけでなく、Derry、Jordanstown、Coleraineにも)。
日本で言えばクイーンズは旧帝国大学、アルスター大学は規模の大きな公立大学みたいな感じでしょうか。大学としての方向性は異なりますが、いずれも悪くない大学だと思います。

私は、正直言うと、現在の指導教官を知るまで、北アイルランドの大学なんて全く知りませんでした。指導教官は世界的に高名な放射線生物学者ですが、彼の所属がクイーンズであることを初めて知った数年前に、「へえ、クイーンズ大学ベルファストってどこにあるのですか?」と間抜けなことを聞いてしまったほどです。

個人的には自分の所属する大学が「良い大学かどうか」ということに関心はほとんどありません。結局のところ、自分がどれだけ成長できるかが重要だと思うからであり、大学の良し悪しはどうでもいいのです。東大卒業してもダメな奴はダメだし、中卒でも優秀な人は優秀です。今太閤と呼ばれた田中角栄のような人物だっています。
ただ、こと自然科学に関していえば、設備と資金が豊かで、周囲と切磋琢磨できる環境はやはり良いです。だから、理系に関しては「所謂良い大学で学ぶ」のはそれなりに意味があるのかもしれません。しかし、私が見るところ、クイーンズにせよ、アルスター大学にせよ、環境面では欧米の他の大学とあまり大きな差はないように思います。個人的には、やはり欧米の大学院の留学先を選ぶ際には、むしろ「誰を指導教官に仰ぐか」「自分の成長にどう活かせるか」などの観点がよほど大事になるのではないかと思います。

私の場合、幸いにも指導教官に恵まれたので、この北アイルランド大学院留学には満足です。